恋せし乙女の物語(第9話)ハズレ男列伝

 そこからハズレ最低男の話題で盛り上がってしまった。口火を切ったのは倉田先輩で、

「ゲロが出そうな男」

 倉田先輩が一年の時に友だちの紹介で出会ったそうだけど、ルックスは良かったそう。ルックスだけじゃなく、話題も豊富だし、これで彼女がいないのが信じられないぐらいだったみたい。

「掘り出し物と思ったのよ」

 デートになっても紳士的で好感度はドンドン上がって行ったそうだけど、

「ランチで終わった」

 ランチと言ってもファミレスだったそうだけど、

「ヘドが出そうなほどのクチャラーだったのよ」

 クチャラーとは咀嚼音が大きい人の事だそうだけど、

「口を開けて食べるものだから、噛んでるものが見えるのよ」

 それで咀嚼音がガンガン聞こえたら気色悪いよ。それだけじゃなく、

「クチャラーしながら、盛大にしゃべりやがるのよ」

 そんなことをするから、食べてるものが口から飛び出したりするのだけど、そんな事にはまったく無頓着だったそう。想像するだけでおぞましくなってきたけど、

「その時点で好感度はゼロまで下がったよ。さらにだよ・・・」

 クチャラーしておしゃべりもするのに、食べるのもすっごく早いんだって。それも口の周りにソースとかいっぱい付けるし、お皿の回りも食べ物が飛び散るぐらいだったそう。彼女候補と食べてるというのにペースを合わせる気がないどころか、自分の分を食べ終わると、

「わたしのお皿に断りもなくフォークを突っ込みやがった」

 パスタを食べてたそうだけど、フォークでゴッソリってぐらい巻き取って食べてしまったんだって。そして言い放ったセリフが、

『いらなかったんだろ』

 耐えかねた倉田先輩は料金置いて逃げ帰ったそう。彼女にしようとする相手に平然とそんな下品な事をするなんて信じられないよ。

「似たようなのに食べ尽くし男がいるのよね」

 これもそんな男が実在するかと思うぐらいだけど、体験談だから実在するのか。食べ尽くし男はとにかく目の前に食べ物があれば見境がなくなるそう。デートなりで二人で食べていても相手の料理を遠慮会釈なしに手を出すし、

「コンパでもだよ」

 大皿を抱え込んですべて食べてしまうとか。とにかく料理が目の前に出された瞬間に食べ尽くしのゴングが鳴るみたいで、

「それだけ大食いなのだろうけど、それ以前に社会常識が欠如してるよ」

 迷惑なんてものじゃないから注意をしても、

『そうならそうと言わない方が悪い』

 注意された事なんて右から左で、それこそ注意したそばからやらかすのだそう。あそこまで行けばある種の精神疾患じゃないって。続いて日野先輩が、

「謎ルール男」

 なになに、デートを割り勘にするのはアリだと思う。男だからっていつも全部払うのもどうかと思う時があるもの。もちろんケース・バイ・ケースはいくらでもあるし、男に奢られるのを当然とする女もいるのは知っている。

「あんな割り勘がこの世にあるか!」

 これもランチだったそうだけど、日野先輩はサービスランチで千円だったのだけど、相手の男は二千円ぐらいのスペシャルランチだったそう。なにを選んで食べようが勝手だけど、会計になって日野先輩は千円を出したそう。

 ここでだけど、男が奢る気ならそれなりのアクションがあるじゃない。食事前とか食事中に意思表示をするとか、食後に伝票をさっと取るとかね。だから日野先輩も割り勘と思って自分のサービスランチ代を出したぐらい。

 ここだって、友だち同士なら別会計にするのもありだけど、デートみたいなものだから、男に一緒に払ってもらおうぐらいだよ。この辺はサービスランチがポッキリ千円で払いやすかったのもあったんだろうな。

 どうみてもごくありきたりの会計だし、友だち同士なら当たり前よね。それなのに、これで男が怒りだしたって言うから意味不明だ。

「その野郎が言うには、割り勘とは二人が食べた分を頭数で割るものだって怒鳴る怒鳴る」

 物凄い剣幕だったそう。そりゃ、コンパとかで、みんなで大皿料理を取り分けて食べるのなら頭数割りにする。あれだって、ある程度均等にしないとウルサイのもいるけど、原則は頭割りだ。

 だけどだよ、それぞれが別々に違ったものを注文して、それを各々が食べたら、その分だけを払うのが常識だ。それ以外に支払い方法が思いつかないぐらい。この時は日野先輩も怒鳴り返してレジが修羅場になったとか。店員さんも可哀想だと思うよ。日野先輩は、

「大学生って成人だけど、言ってもまだ高校からのポッと出じゃない。躾が出来ていない野良がいるから気を付けた方が良いよ」

 常識って誰もが知っているはずの不文律みたいなところがあるけど、それを知らないどころか、自分が変に覚え込んだ非常識をふんぞり返って押し通すのはいるそう。それでも自分が非常識だと知れば恥じ入ってくれそうなものだけど、

「頑としてそれが正しいと譲らないのはいるのよね」

 謎ルール男の別バージョンみたいなものだけど、そいつは、飲み会にだけあちこちに出没するタイプだったそう。それ自体はさして問題はない。飲み会は人数が多い方が盛り上がるから、飲み会要員だって歓迎のところがある。そいつは遅れて来たそう。これもまあ、時々あるから良いとして、参加してからしこたま飲んで食べてから、

「会費を払わないって大暴れ」

 はあ、飲み会でしょ。そいつが言うには遅れて来たから他の人より飲み食いした量が少ないって根拠らしい。それも理屈だからと幹事が半額ぐらいを提案したら、

『食べたのは残り物だけだ』

 おいおい、残り物でも食べてるし、食べ物以外に飲んでるだろうが、

『遅れてきた人に会費なんて非常識も良いところだ。こんなもの払えと言う方が頭がおかしい』

 そういうお前の方の頭に蛆が湧いてるって思ったそうだけど、とにかく騒ぐ騒ぐで頑として払わないんだって。店でもめると迷惑だから、とりあえず幹事が泣く泣く立て替えたそう。

「常習犯だって後でわかったのだけどね」

 あちこちの飲み会で遅れて来たから会費を取る方がおかしいとやって回って、ついにはブラックリストに載せられて、誰も誘わなくなったとか。そりゃ、そうなるし、友だちもいなくなる。

「ああ、いなくなった。退学したんじゃないかな」

 倉田先輩も日野先輩もサルの浅知恵みたいな謎ルールを振り回すセコ男としてた。大学と言っても限られた世界なのに、そこで詐欺みたいな事を繰り返せば、そのうち誰もがスポイルするのは当たり前だって。

「飲み会はご飯を食べる会でもあるけど、そこで友達の輪を広げるところでもあるのよ。自分で潰したんだから、まさに自業自得だよ」

 世の中には変な奴が多いものだ。