恋せし乙女の物語(第8話)初合コン

 前期試験が終わると後期だ。後期と言っても講義地獄が続くけど、通学の負担が減ってバイトも出来るようになっている。下宿の近くのコンビニだけどね。サークルも入ってるのだけど、ようやくそれなりに顔を出せるようになってくれた。

 それでもって合コンに誘われた。倉田さんってサークルの先輩で世話好きで良くしてもらってる。前期試験対策の資料もたくさんもらったし、レクチャーまでしてくれた。

「二人が急用で抜けちゃって、悪いけど出てくれない。相手のメンバーは悪くないはずよ」

 穴埋めみたいなところは気になるけど、倉田さんにはあれこれお世話になってるし、どうしてもって頭を下げて頼まれて断るほどの話じゃないから参加する事にした。合コンって実際はどんなものかに興味があったし、

「上手く行けば彼氏も出来るかもよ」

 可能性だけはね。それなりにオシャレして絢美と行ったよ。会場はちょっと上品ぽい居酒屋で、完全な個室じゃないけど個室風の座敷になっていた。メンバーがそろって、まず何をするのかと思ったら自己紹介か。そりゃ、そうか、相手とは初対面だ。最初に名乗ったのが、

「向陽大経済学部の乗田です」

 相手は向陽大のメンバーなのは倉田先輩から聞いていた。続いて他の男性メンバーの自己紹介になるのだけど、相手の幹事でもあるらしい乗田さんがウルサイ。いやウルサイと言うよりウザイ。良く言えば場を仕切って盛り上げようとしてるのだろうけど、他のメンバーに対して、

「こいつは陰キャ」
「こいつは貧乏人」
「こいつはドン臭くてブサイク」

 一緒に来たメンバーをひたすら貶す。貶してまくって取って返した刀で、

「それに比べるとボクは・・・」

 お金持ちで、成績優秀で、イケメンだってね。たしかに持ってる物や着ている服はブランド物だし、顔もそれなりのルックスなのは否定しないけど、あれだけあからさまに自慢されると引くよ。

 とにかく他の男子メンバーが何か言おうとすると貶して黙らせて、ひたすらボクちゃん自慢の独演会みたいなもの。空気が悪くなるってのを実感したもの。明日菜たちが乗田以外の男子メンバーに話しかけても、

「陰キャ野郎と話をするだけ時間の無駄」

 とかなんとか言って割り込んで来るんだよ。だから合コンなのに乗田の声ばっかりが鳴り響くのだよね。割り込んだら、割り込んだでひたすら、

「ボクはね、これからエリートの道を約束されてる男だ。こいつらは大学こそ同じだけけど、底辺企業で働くしか能がない連中だ」

 てめえは何様のつもりだ。家が少しだけ裕福なだけだろうが。

「こんなボクと合コンで会えたのは幸せだろう」

 アホ言うな悲劇じゃ、災難じゃ。この合コンには絢美と倉田先輩と日野先輩の四人だったのだけど、乗田のターゲットは日野先輩なのがミエミエ。誰をターゲットにしても良いのが合コンだろうし、日野先輩はすらっとした美人だし、上品だからモテるのもわかる。

 口説くためにお世辞を言っても良いとは思うけど、乗田は日野先輩へのお世辞も言ったけど、それ以上に日野先輩以外の女性メンバーを貶して回りやがった。明日菜や絢美には、

「田舎のイモ」
「チビガキ」

 出身が神戸にとか西宮に較べれば田舎だし、明日菜がチビなのは認めるけど、そこまで面と向かって言うかだ。倉田先輩にまで、

「デブ」

 そりゃ日野先輩は細身だけど、倉田先輩はデブじゃない。少し肉付きが良いのは認めるけど、まちがってもデブじゃない。あれはグラマーって言うんだよ。スリムタイプが好きなのは勝手だけど、そうじゃないのをそこまで言うかだ。そしたら乗田の野郎は、

「席替えタ~イム」

 涼花にも聞いていた作戦タイムかと思ったら、乗田はいきなり女性側の席に割り込んで来やがったんだ。それもだよ、

「そこのチビガキ、邪魔だ」

 日野先輩の隣が明日菜だったんだけど、追い出されて男性側の席に追いやりやがったんだ。絢美も、

「合コンでいきなりあれはアリなの」

 明日菜もよく知らないけど、対面式だから席替えと言っても前にいる相手を変えるのが多いはず。そうやって、話をする相手を広げようのはずで、隣に座り込むのは二次会なりでより親しくなってからじゃないかな。

 そしたら乗田の野郎はグイグイって感じで日野先輩に体を寄せるんだよ。日野先輩は迫られたら逃げてたけど、横並びで座っているからどこまでも逃げられないじゃない。それより何より日野先輩の嫌そうな顔に気づけよな。そこで言い放ちやがった。

「今日のメンバーで合格点は琴美ぐらいだ。後は大ハズレ」

 日野先輩を名前呼び、それも呼びつけかよ。それだけじゃく、日野先輩の腰に手を回そうとしてるじゃない。そしたら日野先輩はサッと立ち上がり、

「今日の男性メンバーは全員不合格です。とくに乗田さん、あなたは銀河系の果てまで不合格。これで今日の合コンはこれで終了。二千円ね」

 そういうと千円札を二枚テーブルに叩きつけるように置いたから、明日菜たちもそれに倣って叩きつけ、

「不合格組は帰ります」

 出て行ったよ。気分の悪い会だった。あんな胸糞悪い時間に二千円も払わされるなんて最悪だ。次の日にサークルに行ったら倉田先輩が謝ってくれた。

「こっちもメンバーの差し替えがあったけど、向陽大もそうで悪いことした」

 メンバーを差し替えたというより、乗田が乗っ取ったらしい。もともとの幹事だった人は倉田先輩も何度か一緒に合コンをセッティングしてくれてた人で、

「恋が花咲く時もあるけど、それ以前に楽しい合コンになってたの。だから誘ったのに」

 倉田先輩も明日菜たちが初めての合コンだから気を遣ってくれてたみたいなんだ。

「あんなのが合コンと思わないでね」

 倉田先輩の方針として、合コンは楽しさがメインで、そこで恋の花咲く時もあるぐらいにしてるんだって。もうちょっと言えば、恋人ゲットよりも異性の友人の輪を広げたいぐらいかな。それをぶち壊されたからオカンムリなんてものじゃなかった。日野先輩も、

「今までも似たようなのがいたけど、乗田は桁外れの最低男」

 そもそもって話じゃないけど、合コンの一次会はあくまでも知り合う場だって。顔合わせをして、気に入ったのがいたら、連絡先を交換して後日に二人で会うぐらいの段取りが王道みたい。

「早くても、二次会を二人でやるぐらいがせいぜいよ」

 例外を言い出せばキリがないだろうけど初対面ならそれぐらいの気がする。そうやって親しい友だちになって、恋人にしても良いと思ったら交際を申し込んで、後は男女の関係になっていくぐらいかな。

「あの勘違い野郎は、合コンをハント場ぐらいに思ってやがる」

 ああそれあった。自分がモテるのは既定の前提で、指名した女は喜んで尻尾を振るはずだぐらいの態度があからさまだったもの。ホントにあんな野郎がモテるのかな。

「ああそれ。後で聞いたのだけど・・・」

 ボクちゃん自慢が激し過ぎて、向陽大でも浮いてるんだって。あんな男に惚れる女なんか、

「いるはずないじゃない。だから向陽大では誰も相手にされなくなって、詐欺みたいな方法で合コンを乗っ取ったらしいのよ」

 他のメンバーは、

「ああ、あれは・・・」

 あれはそういうメンバーをあえて選んだはずだって。言ったら悪いけど冴えないメンバーだった。服だって小汚かったし、髪だってボサボサ、無精ひげも伸びてたし、鼻毛も見えた。なにより清潔感がないと言うか、ぶっちゃけ小汚なかった、

「あの合コンは女子は二千円だったけど、男子は四千円だったのよ。乗田は合コン代を払ってかき集めたはずだよ」

 合コンは男女同数が原則だから、数合わせとか、穴埋めに動員されることもあるそう。そういう意味では明日菜も絢美もそうだけど、

「明日菜たちは形こそ穴埋めだけど、そうだねピンチヒッターとかリリーフみたいなもの」

 主役の代役以上だって言ってくれた。だったら乗田以外の男子メンバーは、

「引き立て役だよ。残りのメンバーの仕事は乗田の独演会に付き合う代わりにタダ飯を食わせてもらうぐらい」

 そうなると乗田は一万六千円を払ってあの合コンを買っていたのか。買った合コンだからあれだけ態度がデカかったのかも。けどね、乗田はハズレもハズレ、大ハズレだ。たくエライ目に遭ったもんだ。