恋せし乙女の物語(第6話)大学デビュー

 デビューと言う言葉は世間に溢れてる。大学デビューに近い言葉として高校デビューってのもある。どちらも似たような意味で、高校デビューなら中学時代、大学デビューなら高校時代とイメチェン、キャラ変をするって意味で良いと思う。

「絢美らの高校では難しいかも」

 絢美も西宮学院に合格したんだよ。それはとりあえず置いといて、高校デビューが難しいのは、入学した高校にもよるけど、中学時代を知られてる同級生がそれなりにいるものね。

「高校デビューでイメチェン、キャラ変しても中学時代をバラされるのはある」

 でよいと思う。そもそもデビューをやるって事は、それ以前の生活になんらかの支障とか、不都合があったからのはず。よくあるのは陰キャでイジメられっ子だったのにオサラバするために陽キャになろうとするとかだけど、

「逆もあるって話よね」

 聞いただけだけど、ヤンキーが真面目キャラでデビューもあるらしい。その辺はあれこれあるけど、デビューの目的は新生活をより過ごしやすく、楽しくさせるためとして良いはずだ。やっぱり高校生活と大学生活は違うはず。色々違うはずだけど、とりあえず私服だ。

「制服の大学って聞いたことがないものね」

 どこかにあったような・・・とりあえず西宮学院は私服になるだけでなく、女ならついに化粧も解禁になる。

「明文館の校則は変だったよね」

 そうだった。明文館だって、化粧も、パーマも、染髪も禁止だったはず。だから殆どの人はやってなかったけど、

「堀川君の金髪ピアスとか、花屋敷さんの縦ロールとか・・・」

 そうだった。なぜか認められてた。先生もなにも言わなかったし、風紀委員もそうであるのが当然みたいな扱いだったものね。

「ひょっとして校則にそもそもなかったとか」

 今でも理由はわからないし不思議だったけど、とにかく化粧だ。だから絢美の家に来てる。絢美の家は美容室なんだよ。そう、化粧とか美容のプロみたいなもの。絢美も・・・こりゃなかなか、

「当たり前だよ。エエ加減、彼氏いない歴イコール年齢を卒業しないと」

 絢美は化粧をしなくても綺麗だ。絢美がその気なら高校でも彼氏の一人や二人ゲットできたはずなんだ。

「その気はあったよ」

 あったのは知ってる。でも相手が悪かった。選りもよって西野君に入れあげてた。だけどさぁ、あれだけ競争率が高いとシンドイもの。告ったのかな?

「近づけもしなかった」

 そうなったのはわかる気がする。今日は明日菜の大学デビューの相談なんだけど、

「明日菜はそのままで伸ばすぐらいで十分だよ」

あのね、地味子で大学デビューをしろと言うの!

「ギャルは似合わないよ」

 うぅぅ、ギャルは無理があり過ぎるしやろうとも思わない。ヤンキーは論外だし、

「お嬢様でもやりたいの?」

 あれも無理がある。ブリッ子もしたくないのよね。明日菜は容姿にコンプレックスが多すぎる。まずチビだ。公称は百五十一センチとしてるけど、実は百四十八センチしかない。女だから身長があり過ぎるのもどうかと思うけど、百五十センチを切るのはキツすぎる。

「子ども料金でもいけそうだものね」

 うるさい。悔しいけど年齢不詳のところがありすぎる。チビでもグラマーなら良かったのだけど、胸だってペッタンコ。幼児体形と言われても言い返せないぐらい。だから若いと言うより幼く見えすぎる。大人の女の魅力なんてクスリにしたくてもない。

「でも可愛いよ」

 それはロリ的な可愛さで、大人の可愛げじゃない。ロリの可愛さに惚れる男なんてロリコンの変態じゃないか。

「それじゃ、結城君が可哀想」

 うぅぅぅ、結城君はロリコンじゃなかったはず。だってあくまでもレディとして扱ってくれたと思ってる。もっとも明日菜のどこにレディを感じたのかは置いておく。明日菜だってわからないもの。

「結城君があれだけ惚れこんだのだから、今の路線の延長上で良いはずだよ」

 結城君が例外じゃないのか。まさかあれが明日菜のラストチャンスだったとか。

「冗談は休み休みに言ってよね」

 まあいくら頑張っても花屋敷さんみたいになれるはずもないのも現実だ。

「あれだけはまさに持って生まれたものだよ」

 女でも惚れ惚れするようなナイスバディで、隣には立ちたくないと思ったもの。引き立て役どころの騒ぎじゃないものね。

「でもさぁ、そんな花屋敷さんと結城君を互角以上に競ったのが明日菜じゃない」

 それは事実誤認が大きすぎるぞ。あれは強いて言えば結城君の好みが歪んでたからだと思う。

「あのね、結城君じゃなくても、惚れられて当然でしょうが」

 そんなこと言うけどいなかったじゃないか。そうだな、明日菜だって好きになってくれる相手が存在する教訓になったぐらいだ。もうちょっとイケメンだったら良かったのに。

「だよね。花屋敷さんも結城君のどこが良かったんだろう」

 そうなのよね。モテすぎて趣味が歪んだとか。いずれにしても終わった事だ。それより明日菜の大学デビューだ。絢美はずっと明日菜をイジクリ回していたけど、

「とりあえずこんな感じでどう」

 絢美は明日菜のメイクを考えてくれてたのだけど、悪くない。さすがは絢美だ。自分で言うのもなんだけど、ちょっぴり大人っぽさが強調されててイイ感じじゃない。イメチェンには遠いかもしれないけど、明日菜に似合ってる気がする。メイクのやり方をレクチャーしてもらったのだけど、

「なんでもそうだけど、後は練習あるのみよ」

 たしかに。絢美のアドバイスとして、初心者のうちは化粧が濃くなり過ぎるから注意としてた。どうしても盛ろうとし過ぎて、出来上がると濃い濃いになってしまうんだって。その辺の差をなんとかするには練習と実践の積み重ねしかないよね。

「思いっきり濃くして化けちゃうのもありだけど」

 いるらしい。化粧は自分をより美しく見せるための手段だけど、当たり前だけど生まれ持った容貌に付け加えるもの。そう元の容貌をより美しく見せるための手段のはず。だけど化粧術が上達すると、

「別人になるのがいるのよ」

 それこそ化粧を落とすと誰かわからなくなるレベルらしい。

「そこまでのもいるけど、女は化粧を落とした素顔を見せたがらなくなるのよ」

 らしい。高校まではそれこそスッピンか、やっている連中でも薄化粧もよいところだったはず。でも化粧が日常になると素顔との落差が段々と大きくなるのかも。でもさぁ、でもさぁ、化粧して綺麗になって彼氏を作ったとして、素顔を隠し切れるのかな。デートぐらいまでなら良いけど、

「同棲とかになったらでしょ。どうしてるのだろう?」

 素顔を同棲しても見せないようにしてるのか、はたまた素顔にも納得してもらう関係になるものなのか。

「それを知るには、とにもかくにも彼氏を作らないと」

 そこがスタートよね。