ツーリング日和17(第16話)早漏君

 トラウマから廃人みたいになってたのだけど、ふとした事で男友達が出来た。オタクがかって陰キャで、コミュ障気味のところもあったけど、そこが当時のアリスには良かったのかもしれない。

 見た目はともかく優しい人だった。傷ついたアリスの心を懸命になって慰め、癒してくれた。そうだな一緒にいたらホッとするような人と言えば良いのかな。そして告白を受けた。悩んだよ、やっぱり男は怖かったし、友だちならまだしも、恋人関係にするのはさすがにね。でも告白は結局受けた。受けないことで失うのが怖かったんだ。

 付き合ってから純情なところは可愛かったのだけど、少々純情過ぎたところはあった。愛の行為がとにかく不器用だったのよね。愛の行為と言ってもアレじゃなくて、手をつなぐとか、ハグするとか、キスするだよ。

 キスの時なんて歯をガタガタ鳴らしながらプルプル震えて、アリスの唇を噛んじゃったぐらい。別に手慣れているのが必ずしも良いわけじゃないけど、あそこまで不器用なのもさすがにね。

 それでも恋人としてのステップは確実に登って行った。そんな二人が目指すのは当然アレだけどさすがに怖かった。一発目があれだものね。その辺はどうしたって引きずるし、残ってしまうところはある。

 それでもアリスが見るところロープが出てきたり、ムチを揮うようには見えなかった。ここまで来たら求められたらやるのが当然だろうし、それを拒否する方が不自然じゃない。あれこれ思うところもあったけど求められたら応じようと思ってた。

 実際に臨むまでにはあれこれあったけど、アリスの部屋でやることになったんだ。アリスだって悲惨過ぎた初体験以来だから緊張しまくってたけど、そこで衝撃と言うより、やっぱりそうだったのかのカミングアウトを受けたんだ。たいした話じゃない。まだ童貞君だったんだよ。

 外形的には経験者のアリスが童貞君の筆下ろしをするになるかもしれないけど、経験と言っても一発ぶち抜かれただけじゃない。リードするなんて無理だ。処女でこそないけど、処女に近い二発目の女と童貞君の組み合わせに、ちょっとだけ不安はあったのは白状しておく。

 ついに始まったのだけど、あれはあれで衝撃的だった。アリスだってやるからには感じたいし、感じるには経験回数と持続時間が重要なことぐらいは知識としてあった。その持続時間だけど、早すぎる。それも、そんじょそこらの早漏レベルじゃないウルトラ早漏君だったのよ。よく早漏を揶揄する言葉に、

『三擦り半』

 これがあるじゃない。これは挿入してから男が果てるまでの時間が極端に短い意味のはずだけど、ウルトラ早漏君はそんなレベルじゃなかった。笑っちゃうけど早漏以前の問題だったもの。

 アリスがリード出来ないのは仕方ないけど、あれはベテランだって手を焼いたんじゃないかな。だってだよ、入れるどころか、アリスの女に触れる前に暴発するんだもの。これってまさかと聞いたんだけど、

「そ、そうです」

 ハグした時もキスした時も妙だったんだ。童貞君だから緊張するのは理解するにしても、毎回ブルブル震えてたし、その後にトイレに駆け込んでたんだ。あれってハグやキスだけで暴発してたんだよ。

 おいおい、なんだけど、そりゃ、あれに臨んでるからアリスは素っ裸だ。それだけじゃない、入れる前にアリスの愛撫もするじゃない。その段階で我慢の限界を越えるみたいだった。ここだけどハグやキスより裸の方が長持ちしてるのはちょっと不思議だったけど、

「そ、そ、それは・・・」

 童貞君なりに自分が早漏過ぎる自覚はあったそう。だけど男だからやりたいじゃない。そこで素っ裸のアリスを見るだけで暴発してしまうと考えて、暴発を防ぐ工夫を童貞君なりにしてたんだよ。

 男って一度出せば連発が出来ないぐらいは知識として知っていた。ただし連発は出来ないけど、それなりにインターバルを置けば次は可能になるらしい。それと一発出せば、二発目は一発目より長持ちするとか。なるほど、ここに来る前にセルフで一発抜いて来たのかと思ったんだけど、

「あの、えっと、その・・・三発です」

 はぁ、さ、三発だって。どれだけやってるのよ。それだってやり過ぎみたいなものだけど、三発抜いても暴発ってなんなのよ。呆れ返ったけど、なんか不思議な同情心が湧いて来ちゃったのよね。

 素直に見れば気色悪い男だよ。だいたいだよ、セルフでやるってことは、アリスとやる妄想に耽り切ってる事じゃない。それもここに来る前に三発だ。もっともだけど、セルフの時の妄想ってそんなもんだとも言えなくもないけどね。

 それをアリスに話してしまうのはなんともだけど、それだけ正直とも言えるじゃない。そこの点を評価してしまって、なんとかして童貞を卒業させたくなっってしまったぐらい。我ながらどうかと思わなくもないけど、若かったからと言い訳しておく。


 そこから苦難の日々が始まった。とにかく早すぎる。あれこれ考えたけど、あのウルトラ早漏君の暴発を遅らせる手は、やはり一つしか思い浮かばなかった。童貞君がやった事前に発射させとくこと。

 それも三発じゃ足りないのは経験した。そうなれば取れる方法は回数をひたすら増やすしかない。だけどその効果は遅々たるものだった。八発まで行って、やっと先っぽがアリスの女の入り口に触れるまでだったんだもの。

 これはこの時に学習したのだけど、この方法をやるからには連日でないと効果は落ちるみたいだった。どこかで休養日を作ったりすれば、振り出しに戻るみたいな感じだ。それでも他に効果的な方法もなくひたすら励んでもらった。

 十発は事前の最低ノルマになり、これを二週間続けた日に勝負に出た。この日もアリスの入り口で暴発したのだけど、そこからアリスの目の前でやらせた。この日はなんとしてもと思っていたからね。

 男のセルフなんて見たのはあれが最初で最後だけど、ああいうのを異常心理に陥ると言うのだと思う。懸命になって励ましたもの。思い返せば素っ裸でなにをやってたのかと思うけど、ぞの時は真剣だったんだよ。

 ここもだけど、何発やらせればなんかわからないじゃない。だからキリの良い十発にした。ただ見てると大変そうだし、辛そうだった。でもさぁ、それぐらいさせないと無理だと考えたんだ。

 早漏君はついにアリスの要求する十発目をクリアした。事前に十発させてたから、暴発分を含めれば二十一発だ。これも若さだと思うけど、それでもスタンバイになってくれた。そこから間髪入れずにズドンだ。

 ついに童貞の卒業に成功したんだ。もっともあれも怪しいところがある。童貞を卒業するとはどこまで入れる事なんだって話だ。先っちょは確実に入っていたけど、根元までではない、良くて半分、実際には三分の一ぐらいだと思うけど、そこでドッカンだ。

 それでも童貞を卒業するとは女とやるだし、女とやるとは突っ込む事だし、ついでに言えば女の中で果てる事のはず。深さこそ疑問は残るけど、それ以外は満たしているはずだ。果てたのは間違いなくアリスの女の中だもの。

 なにかコントみたいな経験だけど、これはこれで良かったと思う部分もあるのはある。早漏君が情けなさ過ぎて、アレに対する不安感が払拭された部分はあったと思うんだ。これはこれで他人には言えない経験だけどね。

 それと早漏君の童貞卒業には三か月ぐらいかかったんだ。だけどさぁ、童貞卒業の日以外はすべて暴発じゃない。つまりはやれてないのだけど、アリスにとってもお預け状態になっちゃうじゃない。

 お預けの時は当然だけどやろうとしてる状態なんだよ。二人とも素っ裸になって、さあ来いの格好になってるもの。あそこまで暴発が続くなんて夢にも思わなかったから、毎回ぶち込まれる心の準備をして臨んでるんだ。

 こんなものが延々と続くとおかしくなって行ったと思う。童貞卒業の日は完全に異常心理状態に陥っていたで良いと思うけど、その前からある種のやりたい狂気が高まっって行ってたのは間違いない。

 そうなって行った時に、なんかロスト・ヴァージンのトラウマが頭から吹っ飛んでしまって、なにがなんでも早漏君に入れてもらいたいになった感じかな。ここも上手く言えないけど、色情狂になりかけたと言うより、処女卒業の願望に近いような気がする。

 そりゃ処女じゃないけど、そうだな、悲惨なロスト・ヴァージンをここでなんとか仕切り直しにしたいぐらいに近いかもしれない。どうにも上手く表現できないけど、何が何でも入れてもらうのに熱中してた。

 最後の二週間はアリスも飢えていた。飢え切って狂っていた。そうじゃなかったら、アリスの目の前で、それもお互い素っ裸でセルフなんてやらせるもんか。ここなんだけど、あの最後の十発も無謀だった。さしもの早漏君もギブアップ状態になっていた。

 だからアリスも手を貸した。そうだよ、アリスの手を貸したんだ。アリスの手の効果はてき面だった。あんなに効果があるのかと思うぐらい。アリスが手を貸すと早漏君は不死鳥のように蘇るんだもの。

 だからこそ早漏君も課題のセルフ十発に達したし、最後の一発も出来るようになったぐらい。あれだって入った瞬間に終わってしまったけど、あれはあれでアリスも満足したもの。ついに目的を果たした達成感として良いと思う。


 そこまで頑張ってもらった早漏君だけど、やったのはこれ一回きりだけだった。ホントはもっと欲しかった。あれだけ苦労して、やっとスタート地点に立てたんじゃない。だけど童貞卒業のための試練が苛酷過ぎたで良いと思う。

 今ならわかるけど、いくら若いと言っても、あれだけセルフで出来るものじゃない。男ってね、どうも出さなきゃ良くないみたいなんだ。それどころか逆に苦痛になるみたい。いわゆる空撃ちってやつで良いと思う。

 童貞卒業の日はアリスの前のセルフ段階で既にそうなっていたはず。だって果ててるはずなのに何にも出なかったもの。もっともあの時は空撃ちなんて知らなかったから、出なくてもセルフ一回ってカウントしてた。

 空撃ち状態になるってのは男の限界を越えているサインだったのかもしれない。ウルトラマンならカラータイマーが点滅する状態みたいなもの。そんな状態なのにアリスの手まで動員して強引に回数を重ねちゃったじゃない。

 それでもなんとか童貞卒業まで漕ぎつけたけど、あれも十中八九空撃ちだ。あの状態で出てたとは思えないもの。そこまでやっても、あのウルトラ早漏だったのはとりあえず置いとかせておいてもらう。

 早漏君は男の限界の試練を乗り越えて童貞こそ卒業できたものの、試練のあまりの苛酷さは、早漏君に深刻なトラウマを残してしまったみたいなんだ。あの日から女とやりたいと思うと、空撃ち地獄の悪夢がフラッシュバックし、スタンバイ不能になってしまったんだよ。

 簡単に言えばインポになったってこと。この辺はやるには空撃ち地獄が必須になり、もっと長持ちさせたいなんて考えれば、さらなる空撃ち地獄の延長も必要と考えてしまったのもありそうな気がした。

 でも若いし、あれだけ出来たのだから、インポなんて時間が経てば治るって励ましたんだよ。そうやって励ましたのも結果的に良くなかったかもしれない。励ますってアリスが望んでるって意味にもなるじゃない。

 恋人に望まれたら応えないといけないのプレッシャーになってしまったぐらいかな。だけどやると思うだけで空撃ち地獄がフラッシュバックしてインポになってしまうぐらいだ。おそらくそんな葛藤で苦しんでいたで良いはずだ。

 早漏君はやがて学校にも姿を現さなくなり、アリスの前から姿を消した。風の噂では、大学をやめて田舎で引きこもりになったとか、気に病むあまり精神病院に入院になったとかもあったけど、どうなったかはアリスも本当の事は知らない。


 これはこれで心が今でも傷むところはある。とはいえ、他にどうしてあげたら良かったかもアリスにはわからない。早漏君ならぬ暴発君のままで別れた方が良かったのだろうか。でもさぁ、暴発君のままでは彼女が出来てもアレが出来ないし、交際自体が続くとは思えない。

 誰かが暴発君から本当の意味の早漏君、さらにはかなり早目ぐらいにリードしてあげないといけないと思うの。良いように言えばアリスは暴発君から、なんとかウルトラ早漏君に持ち込んで、童貞卒業までさせたぐらいは言っても良いはず。

 反省すべきは手法だ。こればっかりはアリスでは他の手段が思いつかなかった。もっとベテラン女だったら違う結果になったかもしれないけど、あの時のアリスにそれを求めるのは酷だよ。今だって思い付かないぐらいだもの。

 早漏君はアリスのロスト・ヴァージンのトラウマを癒してくれたと思う。それは感謝してる。そのお礼に童貞卒業にあれだけの協力もしてあげた。だけどそれでインポになってしまったのはどうしたって心が傷む。

 あれからもう何年だろう。早漏君も童貞卒業時のトラウマを癒して復活してくれていると信じてる。だって早漏君は強い人よ。あれだけの苦難を乗り越えて、セルフの課題を忠実に実行し、最後の空撃ち地獄まで耐え抜いたぐらいだもの。あれほどの不屈の根性があったのだから、インポも克服してると思ってる。

 さすがにもう一度お相手をしたいとは思ってないけど、あれはあれで良い男だったよ。アリスを愛してくれていたし、アリスだって愛してた。愛してなきゃ、あそこまで出来るものか。

 早漏君ではあったけど、早漏君がいたからこそ悲惨な初体験のショックから立ち直れたもの。だからアリスにとって救世主だと思ってるし、感謝もしてる。もし、早漏君が早漏君でなかったら、あのままずっと交際して結婚だってあったと思うぐらい。