ツーリング日和15(第32話)夜話

 今回は不甲斐ないけどバタバタやったな。

「仕方ないよ。あんなもの快刀乱麻にどうにか出来る話じゃなかったし」

 純粋に対神戦やったらシンプルやったのにな。そやけど神である天白助右ヱ門をようあれだけ丸め込めたな。

「怖いもの知らずだけだったけど・・・」

 助右ヱ門は陰陽師やったそうや。神が陰陽師やっとるんやからその能力はある意味本物やったんやったんやろ。それが兵庫津の生身の観音菩薩の評判を聞きつけて挑戦して来たんか。そやけど、そんなもん一皮剥いたら神と神の決闘やん。

「だ か ら、怖いもの知らずだったのよ」

 天白の神ぐらいやったら赤子の手を捻るようなもんやから良かったようなもんやけど、今から思たらムチャもエエとこやん。

「そういうけど、あの頃は神が何者かも知らなかったし、神なんて会ったことがなかったもの」

 それは助右ヱ門も同じか。ほいでもってユッキーも商売が懸かっとるから勝負を受けたんか。そのシチュエーションやったら決闘やのうて試合になるやろうけど、

「わたしもね、力の入れ具合に不慣れじゃない」

 試合と言いながらフルパワーでやったんか。ようそれで助右ヱ門は生き残れたな。ほいでも、余りの圧倒的過ぎる差に、

「本物の聖観世音菩薩と信じ込んでひれ伏しちゃったの」

 どんだけやったか想像するだけで怖すぎるわ。ユッキーもやる時は徹底的にやるからな。それからユッキーのブレイン言うか右腕みたいな地位になったそうやが、それって、

「そうよ恵みの教えとして明治にブレークしたのも助右ヱ門の協力のお蔭よ」

 能力だけやったら人では話にならんやろうからな。ユッキーがそんな助右ヱ門を重用したから、

「お決まりよ」

 木村一族が助右ヱ門を敵視するやな。その対立と利権争いにウンザリしてユッキーは教団を助右ヱ門に託して去って行ったって事やな。ほいでもやが、助右ヱ門の神は記憶を継承せんへん点に不安はあらへんかったんか。

「後は野となれ山となれよ。未だにわたしの遺言にこだわっていたのにちょっと感心した」

 どれだけ助右ヱ門を洗脳したかと思うたら寒イボ出そうや。ところでどこで気づいたんや。

「東尋坊の時はさすがに無理だった」

 あれは不意打ちやったもんな。コトリも神の糸を使う神が出たからには覚悟したぐらいや。

「そしたら健太郎も愛子をウソを吐いたから、あれっとなって、天白の名前が出て来て糸の感触をようやく思いだしたかな」

 後はユッキーが去ってからの変化の確認か。

「実の兄妹の確認もね。なんだかんだと言っても教団の愛子の地位は重いから、どういうつもりで動いているのかを確認しないと始まらないじゃない」

 ユッキーも気乗りせんと言いながら、恵みの教えも愛子も健太郎もなんとかしてやりたいぐらいは思っていたようや。コトリも反対やあらへんかったけど、

「一番無難で妥当な解決策をあれだけ封じられたら嫌になった」

 一番無難で妥当な解決策とは天白と愛子が結婚して両教団が合流する事や。それで失う些細な利権に木村一族がこだわり倒していたもんな。

「木を見て森を見ずの典型だよ。森が枯れちゃったら利権なんて些細すぎる事なのもわかっていないよ」

 そやな。ほいでもそこにこだわり、執着するのが人なんも嫌ってぐらい見て来たからな。

「でもね、今回で言えば関わる必要はなかったね」

 ユッキーの見るところ天白の計画はほぼ完璧やそうや。愛子と健太郎の関係さえ織り込み済みで動いとったみたいやねん。わずかな誤算の一つが健太郎が出生の秘密を知っても愛子への執着をやめようとせんかったとこぐらいやろ。

「でも糸の業を使ってる」

 あんな技も教えとったんかと感心したわ。あそこまで使えるのに逃げ出されたんはなんでや。

「あれは仕方ないかな。あれが助右ヱ門の神の力の限界だよ」

 やろな。あんだけ弱らせんと人のコントロール術が使えんぐらいやったからな。そやけど二人の関係を阻止しようと使った技はエグい技やねん。あんなもんまで教えとったんか。

「教えたというより応用として身に着けた感じかな」

 どんな教え込み方をしたって想像しただけで寒気がするわ。ユッキーは人を教えるのは上手いけど、やりだしたらホンマにスパルタやからな。ムチャクチャ厳しいし、そこから逃げ出そうと思っても、絶対に出来へん状態にさせられてまうからな。

「ちょっと厳しかったかも」

 よう死なんかったと思うわ。ユッキーが厳しいのはともかく、あの技のエグさは男のアレに糸を掛けるんよ。男が女とやりたいと欲情したら、海綿体に血が流れ込むやんか。そやけど、そういう状態になりかけると糸が締まるんよ。

 そうなると血が流れ込まへんから男がやりたくても出来へん状態になるんやが、あの技のエグさは海綿体の充血を阻止されるだけやのうて、

「あれって辛いと言うより痛いみたいだね」

 みたいや。やろうと欲情した瞬間に苦痛に襲われて、やる気を消失させてまうねん。

「女神の刑の時に使ってたね」

 あそうやった。刑やから痛いのは罰として気にもならんかったが、自分の男に使った事はあらへんわ。

「わたしもよ。でも別の使い方ならコトリもしたでしょ」

 あっちの使い方か。女が楽しむには時間は必要条件やねん。そやけど早いのはおるねん。早い言うても童貞はかまへんねん。

「三擦り半どころか、先っちょが触れただけで暴発するのも多かったけど、誰でも最初はそんなものよ」

 あれも可愛いもんな。そこから教え導くのが女神のエッチの醍醐味でもあるね。そやけど、どんだけ経験を重ねても早いのがおるねん。

「五分どころか三分もたないのもいるのよね」

 こればっかりは生まれつきかもしれん。それでも愛しとるのには変わらへんけど、こっちもネンネやないから不満はどうしたって出るねんよ。とにかく男は出したら醒めて萎えてまうから、そうせんようにする工夫の一つやった。

 とにかく出してもたら終わってまうから、アソコがパンパンになった状態で糸で縛るんよ。そうしといたら、いくらやっても出えへんし、萎みせえへんやんか。これで思う存分楽しめるはずやってんけど、

「あれは痛いのじゃないはずだけど・・・」

 男は女に突っ込んで、そこで擦れ合うことで刺激を得るやんか。その刺激が感じるで、感じるが最高潮に達した時に限界が来て出すはずやねん。男をやった事があらへんから、最後のとこがようわからんけど、女のイクと似たような感じのはずや。

「縛って出ないようにしても感じているはずだけど・・・」

 縛られとっても感じて最高潮になるし、限界も突破する。突破したら、出してイクになるんやが、出すが出来へん状態やから、

「あれも男のイクなのかな」

 たぶんな出えへんイクになっとる気がする。そやけど出えへんし萎えもせんから、

「あそこがわかんないのよね。最高潮からさらに刺激が加えられるから、さらに感じられる世界に入ってくれそうなものじゃない」

 女やったら、イッた後に強引に次のイクに昇らされるに近いぐらいを想像しとるんや。あれはあれで慣れんと悶え苦しむけど、経験を重ねるとたとえロープに縛られてでも、そのイッた後の次の世界を感じたいって思うやんか。

「女はそんな感じだけど、男はどうも違うのよね。あれだけ悶え苦しみながら、泣いて出させてくれって懇願されたらあんまり使えなかった」

 どうなんやろ。男は出さんとホンマの意味のイクにならんのやろか。五千年も女やっても、男には謎が多すぎるわ。

「ホントよね。感じられる限界が男にはあるのかなぁ。もしそうだったら、男って可哀想な生き物だと思っちゃう」

 早打ち問題は別に糸を使わんでも他の方法を使えば済むし、そっちの方が男も喜んだから良かったわ。エライ脱線してもたけど、そんな話はともかくで、

「助右ヱ門が糸を使っている限り結ばれないのよ。だから切られて相当焦ったみたい」

 そら焦るやろ。そやけど神の糸は人では切れんのよ。たまたまユッキーやから切れたけど、もしユッキーがおらんかっても、

「そういうこと。いくら逃避行で宿泊を重ねても結ばれないってこと。そのうちおカネがなくなって舞い戻って来ざるを得なくなる」

 つまりはコトリやユッキーがおらんかっても、あの二人は永久に結ばれんことになる。そこで、

「愛子にも出生の秘密を教えたはずよ」

 愛子は健太郎が従姉弟だから恋愛対象にしているはずやんか。知ってしまえば健太郎と別れる計算か。そでもって愛子が頑張る可能性は、

「そればっかりはわからないのが男女の仲だよ。健太郎がそうだもの。だけどさぁ、それって今と同じじゃない」

 そういうこっちゃな。ユッキーがおってもおらんでも、愛子は家に戻って出生の秘密を知らされた上での最終判断を迫られるからな。つまりは居てもいなくてもあの二人の結果は変わらん事になる。

 わざわざ天白の糸を切ってもたから、余計な手出しをする羽目になったと言えんこともない・・・ちょっと待てよ。東尋坊の時はコトリは糸に気が付かへんかったのは白状しておく。それだけやあらへんやんか、あの糸は日向湖の宿であの二人に出会った時も掛かっとったやん。

 そやのにコトリには見えんかった。それぐらいの技やってんけど、ユッキーはいつから見えとってん。ユッキーは東尋坊で初めて見えたみたいに言うとったけど、あん時かって見えたから切ったはず。

 そもそもなんで切ってもたんや。ユッキーがその気やったっら、糸をたどる事かって出来たはずや。そやのにあっさり切ってもてるやんか。

「なに言ってるのよ。あれは心と体を削る糸でもあったからよ」

 それは後付けの理由やろうが。糸が見えとったユッキーは東尋坊までわざと切ってへんはずや。それを東尋坊で切ったんは、切る理由があったはずやんか。ユッキーの案件やから、ユッキーの思う通りにしたらエエんやけど、何を狙うとってんや。

「考え過ぎよ。男が逃げるわよ」

 うるさいわい。ユッキーは日向湖で神の糸が見えたのに、なに食わん顔してマスツーするのに賛成してるんよ。それにやで健太郎が東尋坊で人のコントロール術をかけられるまで知らん顔しとったことにもなる。

 糸を掛け直したんも珠洲やのうて親不知やんか。そりゃ、珠洲の宿でやるのは条件的に厳しかったけど、下手したらやっとったかもしれんやんか。言い出したら根性出したら千里浜かって危ないで。

「結果オーライじゃない。あれはチャンスを逃した健太郎の失敗よ。ひょっとしたら、糸の掛け過ぎでインポになったんじゃない。そういう使い方も出来るでしょ」

 待てい。ユッキーは最初からそれを、

「助右ヱ門もやり過ぎよ。逃げ出したから強く締めすぎたのかもね。だからコトリには健太郎の癒しを担当させなかった。なんとか戻るはずだよ」

 双子の姉に欲情する変態にそこまで、

「健太郎もわたしの末裔なのよ。可愛いのに男も女も関係ないの。さぁ、明日は新潟を楽しもう。何が見れるのかな」

 たまには自分でコースを考えろ。