ツーリング日和15(第25話)悪謀

 部屋に戻ってんけど、どうも最後のとこがようわからんが、

「コトリもサボりすぎだよ」

 そういうけどシノブちゃんに調査を頼んだんやろが、

「さすがに自力じゃ無理だもの。でもさぁ、なんてことをしてくれたんだと思った」

 なになに、健太郎の兄って、健太郎が生まれた直後に木村連枝家に玉突き養子に出されてるのか。おいおい、これって、まさか、冗談やろ。

「そうよ。木村本家の相続は大聖歓喜天院家の血筋が最優先されるの。教主家に息子が生まれたら相続権どころか本家からも追放されるのがルールなのよ」

 これはさすがに戸籍謄本で追えるから調べさしたのか。どうやって取ったかは聞かんとこ。たしかに健太郎の兄は二歳で養子に出されとるわ。そやけど健太郎も実子やんか。

「ああそれ、大聖歓喜天院家から木村本家への養子は出生直後に行われるから、戸籍上は実子になるんだよ」

 ひょぇぇぇ、そこまでやっとるんか。その辺は何なり出来んこともないけど、男系排除はそこまで徹底してるんや。そうなると健太郎と愛子は実の兄妹になるやんか・・・ちょっと待った、ちょっと待った、愛子と健太郎は同い年やぞ。

「誕生日も違うけど、それもなんとかできるでしょ」

 ぎょぇぇぇ、それって双子ってことか。

「他にないよ。戸籍上は愛子の方が誕生日が早いから姉ね」

 そういう関係って当人にも秘密にされるんか?

「逆だよ。物心が付いて早いうちに教えるよ」

 ほんじゃあ、あの二人はそういう関係であるのを知っているのに愛し合ってるって言うのか。

「そこを調べるのはシノブちゃんでも大変だったみたい」

 なんやて、当人には完全に伏せてたってか。それってあんまり良うないんちゃうか。

「天白の教団合流計画は、昨日今日の話じゃないのよ。恵みの教え側の切り崩し工作は着々と行われていたってこと。その最終計画の一つが愛子との結婚よ」

 天白側の切り崩し工作に木村家側も危機感を募らせるたのまではわかるけど、それと出生の秘密を当人に伏せるのになんの関係があるねん。

「天白との結婚の阻止計画だよ」

 どういうこっちゃ、実の姉弟どころか双子やぞ。

「そんな二人が結ばれて結婚したら、二度と天白は手が出せなくなるぐらいの目論見だったみたいだよ」

 はぁ、結婚ってなんやねん。

「出来るよ。戸籍上は従姉弟だからね。でもそこで生まれた子どもは不義の子になるじゃない。そんな曰く付きの子どもの結婚相手なんか限られてしまうじゃない」

 なんやて、そうしといて大聖歓喜天院家の教主の夫を木村一族で独占しようって計画なんか。

「だったみたいだけど、そうは上手くは進まなかったで良さそう」

 愛子と健太郎は仲の良い従姉弟としては育ったんはホンマらしい。そやけどいくら結婚も出来る言うても、やっぱり従姉弟やんか。恋愛対象とするには無理があったぐらいでエエみたいや。普通はそうなるよな。

 そやから大学時代から恋人として付き合ってたって言うのはウソで、あくまでも従姉弟としても付き合いやったとして良さそうや。

「そこに起こったのが天白と愛子の縁談よ」

 そやけど従姉弟やで、

「そこなんだけど、愛子はあくまでも従姉弟として見ていたようだけど、健太郎は愛子に惚れちゃったんだよ。愛子は愛子であれこれ吹き込まれてるから、天白との縁談には乗り気じゃない。そういう状況で天白より健太郎を選ぶ気持ちが出ちゃったぐらい」

 この辺は愛子の男性関係もあったで良さそうや。さすが旧家の箱入り娘で、

 女子中 → 女子高 → 女子大

 さらに選ばれた御学友が愛子をがっちりガードしとったみたいやねん。なんか皇室も顔負け状態やん。そういう環境やから恋愛対象に出来るんが健太郎しかおらんかったんもあったで良さそうや。

 なんか複雑すぎるんやが、それでも、それでもや。なんであの二人は関係を持つのにあんだけこだわったんや。そりゃ箱入り娘の処女やから、やったら結婚問題なら優位に立つやろうが、今どきやで、

「やれば優位に立てるし、木村本家のバックアップも期待は出来る計算もあったとは思う。だけどね天白も指を咥えて見てたわけじゃない」

 だから神の糸の業を、

「あれもあるけど、天白派の木村一族も多いのよ。それはね、木村連枝家にも及んでる。だから健太郎を引き下がらそうとした」

 なにしたんや、

「出生の秘密を健太郎に告げたのよ」

 当人が知らんだけの公然の秘密やもんな。さすがにそれ聞いたら健太郎かって引き下がるしかあらへんやろ。

「そうならなかったからツーリングで出会ってしまったのよ」

 なにぃ! 実の姉弟、それも双子やのに健太郎は愛子を求めたんかよ。

「そういうこと。健太郎の計算は、実の姉弟で関係を持てば天白は引き下がるだよ」

 げっ、自殺テロみたいなもんやんか。今どきのことやから嫁の処女性が絶対ってことはさすがにあらへんとは思う。そやけど、姉弟で深い関係になってもてる女となるとさすがに色眼鏡で見るわ。それも双子の片割れ相手にやぞ。

「自殺テロなのはコトリの言う通り。そりゃ、戸籍上は従姉弟だから結婚は出来るけど、健太郎は肝心のところを見ようともしていない。出生の秘密は絶対の秘密じゃないの。木村連枝家クラスなら知っているし、なにより天白でさえ知っている」

 いくら従姉弟結婚だと言い張っても、実際はどうかを知ってる人があまりに多すぎるからな。そんな結婚をして出来た子どもが不幸すぎるやんか。

「それより何より、教団の教義としても大問題なのよ。今だって教主は生身の菩薩なのよ。その菩薩が不義の結婚をして、不義の子を産んだりしたら単なるスキャンダルでは済まないよ」

 恋は盲目って言うけど、ここまで暴走されたらウンザリもエエとこや。そりゃ、歴史上は近親結婚は多くはある。日本の民法は血族で三親等以内の結婚は禁じられてるから姪や甥との結婚はできへんねん。この規定はたとえばG7で見ても標準的でエエと思う。

 日本より緩いのはドイツで、三親等でも結婚OKやから甥や姪との結婚は可能やねん。フランスも重大な事由があれば大統領の許可で可能だとか。逆に日本より厳しいのがアメリカで、あそこは州法が優先するけど、四親等でもダメな州は多いらしい。

 この辺は国によって違いは大きいて、スウェーデンやったら異母・異父の兄弟姉妹の政府の許可を得れば結婚できるそうやねん。なんか日本の古代の天皇家の近親結婚を思いだしてまうけど、さすがに血が近い気がするわ。

 それでも実の兄妹婚はアウトやろ。世界は広いさかい、認めとる国もあるかもしれんが、日本やったら父親と娘とか、母親と息子のカップルぐらい気色悪がられる関係としか思えん。そういう恋もあるやろうけど、実ろうものなら世間の爪弾きは確実や。エラいもんに首を突っ込んでもたわ。