ツーリング日和15(第28話)神との対決

 あっちも気づきよった。ギョッとした顔になっとるわ。ユッキーも絶対に呼びつける気マンマンで、エレギオンHD副社長の肩書まで持ち出しよったからな。それもあれだけ高圧的な態度でやらかしたら飛んで来るやろ。

「エレギオンHDの如月副社長とお見受けしました。初めてお目にかかります。極楽教で奉公衆筆頭を務めさせて頂いている天白啓斗と申します。以後お見知りおき頂ければ幸いです」

 あいつが天白啓斗か。へぇ、なかなかの好青年風に見えるやんか。見た目だけやったら本性わからんけどな。

「わざわざ御苦労。だが今日はエレギオンHD副社長の如月としてではない。そちにはわかるであろう」

 わかるやろか。記憶は継承せえへんタイプやろ。

「我が家には幾つもの伝承がございます。伝承の内容は正直なところ信じがたいものもありますが・・・」
「助右ヱ門が書き残したものであろう。あいつは筆まめであったからな。夢疑うな。助右ヱ門は正直者であったぞ」

 天白の顔が青ざめてるわ。ユッキーを見た時からそうやけど、あの反応は初めて神を見たからやでエエと思うけど、

「どう見えるか申してみい」
「その者、光り輝き、まさに金色の野に立ちたるが如し。
気高き御姿は菩薩の真の姿であり、
これを目に出来る幸せ筆舌に尽くし難し」
「それが助右ヱ門が書き残したわらわの姿か。啓斗、お前にもそう見えるか」

 天白はさっとひさまづきよった。今日のユッキーも気合入っとるからそうなるやろ。

「教祖様に生きてお会いできるとは・・・」
「菩薩は受け継がれ復活するのは知っておろう。恵みの教えから去ろうとも、あの世で薬師如来などにはなってはおらぬ」

 さてどうするんやろ、

「天白、いつまで立ち話をさせるつもりじゃ」
「これは失礼しました。ええい、皆の者、なにをしておる」

 他の連中は訳わからんやろ。そやけど話は少々長引きそうや。天白はコトリにも気づいたか。

「月夜野社長とお見受けいたします。ホテルで食事をしながらで宜しいでしょうか」

 天白にはコトリの神は見えへんようやな。まあ、そうしとるんやが、ホテルに行くのは嬉しない。ここまで来てるんやで、春日山城に行かんでどうするんや。

「コトリ、許せ」

 しゃ~ないか。そこから高田駅近くのホテルや。あ~あ、ちゅうとこやけど、天白の部下みたいなんも木偶の坊やな。行くなら行くで手配せんかい。いきなり行ってどうするつもりや。ロビーで話をさせるつもりか。

 コトリがやらんとしゃ~ないか。これぐらいのホテルやったら会議室ぐらいあるやろが。予約があらへんかったら使えへんてか。そんなもん使えるようにしたらしまいやろが、

「エレギオンHDの、つ、つ、月夜野社長ですか・・・」

 ほら簡単や。メシぐらいルームサービス使うたら終わりやろが。それぐらい、さっさと動かんかい。お前らな、天白の付き人みたいなもんやろ。まだ早いさかい、コーヒーとサンドイッチにしとこ。ユッキーは、

「ここからの話はそちどもでは同席は叶わぬ。控えておれ」

 会議室に入ったんは、コトリとユッキー、天白と愛子と健太郎や。

「啓斗、助右ヱ門の遺訓を読んだのか」
「もちろんです。これは我が家の悲願でもあります」

 ホンマかいな。

「東尋坊の糸は」
「これを許してはならぬため」

 そういうことか。いや、そうのはずや。

「飛び込ませるつもりだったのか」
「いえ、あくまでも警告でございます」
「無暗にほっつき歩かせるな。やり方が拙すぎるぞ」
「申し訳ございません」

 やっぱり警告やったんか。そこまで出来るんやったら、そもそも逃避行もどきなんかさせるなはユッキーの言う通りや。飼い犬の躾ぐらいちゃんとせんかい。

「お切りになられた後は」
「わらわも同行者のうちに見たくないのでな」

 親不知の宿で暴走されたらかなわんから、ユッキーがきっちり掛けとるわ。

「わたしも月夜野もこんな戯言にいつまでも付き合えない。だからそちに任せたいが、考えを聞こう」

 天白は少し悩んどるが、

「教祖様の真の御心はいずこにあらせますか」
「わらわの意思は助右ヱ門に余すことなく伝えておる。時こそ隔ててはおるが、愛子は我が娘の末裔。あの時の宿願を果たせばそれで良い」

 恵みの教えと極楽教の合流か。

「恵みの教えの命脈は尽きておる。そちが救うてくれるならそれで良しじゃ。見捨てて消え去ればそれも良しじゃ」

 ユッキーの目がまたマジになってきたわ。

「愛子、わらわがいた時代と今は違う。教主の娘であっても教主になる必要さえない」
「そんな事をすれば恵みの教えが・・・」
「教団より個人が上なのが今の世じゃ。好きな道に進み、好きな男を選べ。それで教団が滅びようともこれまた運命じゃ」

 そんなことをしたら、

「自由ではあるが、自由は自分で勝ち取り守るものじゃ。それにどんな自由でも許される事ではない。愛子が健太郎を選ぶことは教団の滅びにしかならぬ。それだけではない、愛子も愛子の子どもも負わなくても良いものを抱え続けて生きていかねばならぬ。それも知って判断せよ」
「わたしは、わたしは・・・」

 よう決めんのか。そやけど、迷いは出とるな。

「天白、いくつか確認しておきたい事がある」
「なんなりとお聞きください」

 あの二人ってあんな話し方が自然にできるんか。それにしても言葉の省略が多すぎて何を話し取るのかコトリにもわかり辛いな。

「・・・変わらぬな。改めてそちに申し渡す。任せたぞ」
「それはどういう意味でござりますか」
「わからぬか。わらわが声に出して決めた事じゃ。これで終わりとしよう。以降はわらわの手を煩わせることが無いようにせよ」

 ユッキーそれでエエんか。

「コトリ待たせた」