ツーリング日和14(第22話)観光

 今日のツーリングはやっぱり異様だ。だってだよ、敦賀の丹後街道の始まりの石碑で一休み、関峠で大休止、椿峠の手前の坂尻でまたまた大休止、佐柿に至っては城跡登山と郷土史研究家との話で二時間も座り込み。

 お昼の時も話し込み、九里半街道のところも大休止で、熊川宿もベッタリ動く気配もなくなっている。並べるだけならあちこち行っている様にも見えるけど、距離にしたらたったの五十キロぐらいしか走ってないんだよ。

「十二里か、頑張ったら歩ける距離やな」
「そんな険しいところはなかったから余裕よ」

 あのね、昔の旅人と較べてどうするの。

「これはやな、昔の人の移動時間とか、移動感覚を体験してもらおうと思てや」
「今の人の距離感と違うでしょ」

 そんなものバイクで走ってわかるか! ところで気になっているのが今日の宿。亜美さんのフィールドワークのお手伝いだから今日一日で終わらせるかと思ってたのだけど、この調子なら京都まで行きそうだ。そうなるとどこかに泊りになるのだけど、

「熊川宿を見とかなあかんから・・・まずは宿場館が定番やな」
「近いからでしょ」

 まだまだ熊川宿から神輿があがりそうな気配がないのよね。コトリさんはツーリングとなると綿密な計画を立てる人のはずだから、そういう点では心配はしていないのだけど、欠点は今日の予定を言わないこと。

「旅はサプライズよ」

 あのねぇ、ユッキーさんもユッキーさんで、どこに行くのかも聞いてないのが平気なのが不思議すぎるのよね。

「だいたいわかるじゃない」

 それはそうだけど、本当に聞いてないみたいで、宿の前でいつも、

「へぇ、ここなんだ」

 こんな感じのリアクションを平気でするんだもの。とにかく付いて行くしかないけど、

「亜美さん、熊川宿は」
「初めてです」

 ちょっと遠いと言うか、高校生にはこういうところは面白くないかも。よく不満も言わずに我慢してるよ。

「そんなことないです。全然違った世界が見えてきて楽しいです」

 なら良かった。宿場館はオヤツを食べたところの向かいぐらいだけど、大昔の小学校の木造校舎みたいだな。真剣にそうかと思っていたら、ここはまだ熊川が自治体として独立していた頃の村役場だそう。

「どうでも良いけど若狭町ってなんなのよ」
「広すぎやで」

 福井県の嶺南地方って、東から敦賀市、美浜町、若狭町、小浜市、おおい町、高浜町で全部なのよね。若狭町なんか北は三方五湖で南は熊川宿まであるんだもの。

「歴史だけ言うたら・・・」

 丹後街道から九里半街道に入った交差点があったけど、あそこの少し北側の谷間に堤ってとこがあるんだって。ほとんど田んぼばっかりの田舎だけど、鎌倉時代に若狭守護が館を置いていて若狭の中心だった時期があったそう。

 だからなんだって話なんだけど、いつもことながら良く知ってるよね。どれだけ下調べしてツーリングに来てるのか思うもの。それはともかく宿場館の中は妙に面白い。村役場時代の雰囲気が残されていて、村長室とか、収入役室みたいなレトロな部屋札がかかってるもの。

 建物自体も古びてはいうけど、これはなんと個人が寄付したもので、村から立身出世して都会の商社の社長になった人が建てたとか。だから妙に立派と言うか、チープさが無い感じ。だから残ったんだろうな。

 展示物は、そうだね、あちこちにある民俗資料館みたいなものだね。雑多なものがこれでもかと展示してあった。

「白石神社も見とこ」

 宿場館のすぐ近くに鳥居があるけど、そこからの参道が長かった。鄙びた神社だけど、

「宿場館に写真があったやろ。あんな山車が出る祭りをするそうや」

 京都の祇園祭のミニチュア版みたいな感じだった。やっぱり京都の影響が大きいみたい。

「得法寺も外せんな」

 これも白石神社の鳥居から近いところ。それなりに立派な寺ではあるけど、

「あったあった」
「コトリ、これなの」
「そうそうや」

 なにやら大きな枯れ木があるけど、

「徳川家康公、腰掛けの松や」

 ありゃ、そんなものがあったのか。なんたらが腰掛けたととか、馬を繋いだとか、そうそうだ弁慶の足跡ってのも多いはず。いつもホンマかいなと思っちゃう。

「まだ時間あるな。熊川番所も回っとくで」

 これはちょっと遠くて十分ぐらいかかったかな。ここまで来ると中ノ町じゃなく上ノ町になるみたいだけど、復元がちゃんとされているのが嬉しいかな。この番所の前身が熊川奉行所で、さらに前身が熊川陣屋らしいけど、それを聞くと格下げのなれの果てみたいで可哀想になっちゃった。

「まだ時間あるな。あれおもしろそうやんか」
「コトリも好きだねぇ」

 連れていかれたのはなんと忍者道場。忍者と言えば伊賀と甲賀だけど若狭なんかに有名な忍者でもいたのかな。

「亜美さんが退屈そうやん」
「忍者体験はレポートに出せるはず」

 出せるか! 尻啖え孫市に忍者なんか、

「出とったやんか」

 そうだった。それもくノ一だった。でもってユリも一緒にやらされた。それも忍者のコスプレまでしてだよ。そこまでやるかと思ったけど、大乗り気も良いところだもの。着替えも終わって、

「よろしくお願いします」

 この体験コースだけど真面目なものだった。呼吸法から始まって、忍者屋敷の仕掛けの解説もあって、抜刀体験まであった。刀ってあんなに抜きにくいもんだと思ったもの。最後は手裏剣体験があって、

「投げにくいもんやな」
「こんなの当たらないよ」

 とか言いながらノリノリでやってたよ。さてどうするんだと思っていたら、再び中ノ町に戻り、見るからに歴史がありそうな立派な家の前に立ち、

「ここや」
「おもしろうそうじゃない」

 ここに泊るの!

「江戸時代の宿泊体験もどきや」
「亜美さんの良い勉強になるよ」

 あのねぇ、亜美さんにかこつけて、自分たちの趣味やってるだけじゃない。

「失礼な。歴史オタクはコトリでわたしじゃない」

 どうだか、

「ユッキーーは温泉趣味やからな」

 そうだった。こんなところなんだと思いながらお風呂を頂いたら夕食だ。

「じゃじゃ~ん、特別に頼んどいた」
「やったぁ、鯖寿司と焼鯖寿司じゃないの」

 それも二本ずつ。そう言えばあれだけ鯖寿司の話をしながらまだだったものね。

「これって小浜酒造だから、わかさを作っているところね」
「これも一升瓶にしてもうてる」

 やると思った。