東京都異次元監査基準

 注目されていた監査報告書が公開されたので野次馬根性で触れてみます。触れると言っても会計とかの専門家ではないので素人から見た感想レベルですから、幾つか小ネタをイジる程度の代物です。それと引用部分は東京都の監査報告書からですので宜しくお願いします。


食糧費

 まずですが、

管理台帳に記載があり、領収書も存在するものの、宛名が当該団体の職員名となっている領収書が2件29,891円あった。職員名での領収書は、当該事業に係る領収書としては認められないことから、対象経費から除外することとする。

 お役所文ですから砂を噛むような表現ですが、宛名が当該団体の職員名となっているとはどういう事なのかにまず頭を捻りました。ここでなんですが食糧費の支給が経費として認められるのは支援した女性に対してのものだけと明記されています。

 状況的には団体職員と支援した女性との昼食なり夕食を意味していると監査報告を読むとわかるのですが、その時の領収書の宛名の問題と解釈すれば良さそうです。通常ならこの手の宛名は会社関係なら会社名にするはずですが、それを誤って職員個人名にしてしまったぐらいでしょうか。

 だから落とされたのはわからないでもありませんが、それにしても1件当たり1万5千円ぐらいになりますが、何人で会食したのかは監査報告書には残念ながらありませんでした。もう少し詳しい記載がされているのは経費として認められた方で、

① 20,990円 食事代 12名(1人当たり1,749円)
② 29,710円 食事代 6名(1人当たり4,952円)
③ 21,330円 食事代 8名(1人あたり2,666円)
④ 54,340円 食事代 16名(1人当たり3,396円)
⑤ 66,396円 食事代 8名(1人当たり8,300円)
⑥ 41,699円 食事代 6名(1人当たり6,950円)
⑦ 27,587円 食事代 10名(1人当たり2,759円)
⑧ 21,750円 食事代 10名(1人当たり2,175円)

 経費として認めれた会食回数も曖昧なところがあって、

監査で指摘のあった「一回当たりの支出が比較的高額なレストランでの食事代」については、一回あたり2万円を超える領収書を確認したところ

 こうなっていますから2人で会食して1人当たり1万円以下のものは確認されていない可能性はありそうです。食事代にバラツキがあるのは、支援した女性の年齢層で異なるのだと思うのですが、少し表を書き換えてみます。


1人当たり食事代 人数 比率
1000円台 12人 56人 73.7%
2000円台 28人
3000円台 16人
4952円 6人 20人 26.3%
6950円 6人
8300円 8人
 昼食か夕食かで状況は変わるのですが、団体の活動時間から考えると夕食の可能性が高いと推測されます。つうかランチで4952円はかなりどころでないぐらいリッチで、3000円台でもかなりと思うからです。もっとも夕食で1000円台のレストランとなるとチト条件は厳しいかもしれませんから、ランチが入っている可能性は否定できません。

 それとレストランでの会食となると職員の同行が必須です。これは食事代の支払いの役割もありますが、それだけじゃなく支援する女性の話を聞くのも業務のはずです。タダ飯食わせて終わりだと思いたくありません。

 仮に1テーブル4人として、そこに1人は職員が加わり話を聞くぐらいの状況が思い浮かびます。同席して話を聞くぐらいじゃないと支援業務にならない気がします。

 それでも食事代が6952円とか、8300円はやはり高価な気がします。年齢層の兼ね合いはあるとは思いますが、そこまでの金額ならやはりお酒も入る夕食だった可能性が高くなりそうです。若年支援者事業となってはいますが、女性支援者には20歳以上も入っており、さらに0~5歳もいるとなっていますからね。

 だからどうだぐらいのお話ですが、お酒も入ったらそのまま東横インのコースもあるぐらいに思ったぐらいのお話で、そうなると2万円ぐらいになるケースもあるんだろうなって想像です。もちろんそれが悪いと言っている訳じゃなく、そのれだけの成果を挙げて欲しいぐらいのお話です。その点で気になったのが、領収書問題で団体代表がこんな趣旨のツイートをされていました。

    何人で食べたかなんて確認するのが大変だ
 これはおそらく領収書に会食人数が記入されていないものがあったためと思われますが、会食はタダ飯を食わせるものじゃないと仮定すれば基本的な疑問が出て来ます。会食会のレポートは書いてないのだろうかです。

 こういう業務では通常は参加者名とか食事内容だけでなく、どういう支援業務を行ったかの報告記録を残しそうなものです。そういう記録を積み重ねて、支援内容の質の向上の参考にしておくぐらいです。たぶんそういう記録が無いために、

    職員名での領収書は、当該事業に係る領収書としては認められないことから、対象経費から除外することとする
 こういう決定になった気がしないでもありません。もっとも、

 使途を確認したところ、支援対象者との面談や、支援対象者間の交流を促進し、自立に向けた意識づけを目的としたものであった。


 支援対象者の自立を図るための会食等は、事業実施上必要性が認められることから、本事業の対象経費とする。

 こうともなっていますから、報告書は存在する可能性は残ります。もしかしたら書くのをサボった職員がいたのかもしれません。


宿泊支援費

 ここも興味深いところがあるのですが、まず宿泊支援費とは、

宿泊支援費はホテル等の宿泊代などが計上されている。

 要するに宿泊費のことで、旅費交通費は別に計上されています。その前提でまず気になるのが、

  • 領収書があるものの、支援内容の説明が不十分なものが2件191,653円あった。
  • 受領者に関する一部の情報の提示を団体側が拒否し、領収書の内容全てを確認できなかったため、証憑書類としては認められないものが12件67,500円あった。

 ここも書き直してみると、


内容 件数 金額 1件当たり平均
領収書があるものの、支援内容の説明が不十分なもの 2 19万1653円 9万5827円
受領者に関する一部の情報の提示を団体側が拒否したもの 12 6万7500円 5625円
 団体が情報の提示を拒否したものの旅費は平均ではありますが1件当たり5625円です。ここから考えられるのはビジホ利用の一泊旅行です。平均ですから偏りはあるかもしれませんが、1件で3泊とか4泊もしている者が多数いれば、それ以外の平均宿泊費はさらに下がる事になり、ドヤ宿泊になりかねないからです。

 ですがこの宿泊内容については、情報の提示をなぜか拒否されています。これも不思議と言えば不思議です。百歩譲って支援内容の説明が不十分ならまだわかるのですが、東京都の監査に対しても情報提示を拒むほどの一泊旅行って何をしていたのかの疑問が出て来ます。

 あれかなぁ、職員のリフレッシュ休暇にでも充てていたのかな。でもそれならそれで福利厚生費って項目もあります。何をしていたかの推測はあれこれありますが、少しでも穿ち過ぎる憶測なんて入れると、

    法的措置
 これを喰らったら困ります。それはともかく、支援内容の説明が不十分なものの内容も推測が難しいところがあります。まず情報の提示を団体側が拒否したものは単価から個人での宿泊しか考えにくいところがありますが、こちらの方は単価が平均でも10万円弱あります。

 2件での旅費の偏りも不明ですが、参加人数も不明です。個人旅行でも長期であれば可能ですし、団体旅行の可能性も残ります。ここはこれ以上考えても何も浮かびませんからあきらめます。とにもかくにも25万9153円が経費として認められなかったとなっています。次のところも注意して読まないといけないのですが、

上記を除き、2,778,940円について支出されていることを確認した。


なお、そのうち「都外遠隔地での宿泊」は10件あった。詳細は以下のとおり

 経費として認められた旅費は277万8940円ですが都外遠隔地の分だけが報告されています。どうしてこんな分け方をしたのか良くわかりませんが、算数だけしておきます。


都内宿泊費 215万5915円
都外宿泊費 62万3025円
 東京の地理はお世辞にも詳しくありませんが、都内でも若年支援事業に使える宿泊地はある気がします。たとえば多摩とかです。東京もあの辺になると自然豊かなところと聞いていますが、行かなかったのかな? それとも都内で宿泊費に使ったのは東横インの費用だけだったとか。真相は不明です。とにかく集計されている都外遠隔地ですが、表に組直しますが、

総宿泊費 参加人数 泊数 1人当たり単価
9400円 3名 1泊 3133円
12330円 3名 1泊 4110円
122100円 8名 2泊 7631円
36655円 3名 1泊 12218円
64600円 4名 1泊 16150円
29848円 2名 1泊 14924円
188925円 15名 2泊 6928円
46200円 3名 1泊 15400円
65450円 5名 1泊 13090円
47250円 4名 1泊 11880円
 1人当たりの宿泊費は行き先とか、休日平日、さらにはハイシーズンかオフシーズンで変動がありますから、これぐらいになるのかもしれません。もっとも2021年度報告ですからコロナ禍の影響で高すぎるのじゃないかの指摘もありましたが、とにかく出不精なものでその辺の価格感覚が鈍くなっているとさせて頂きます。

 人数的には15名の団体旅行が1件ありますが、妙に気なったのは少人数のものです。2名のものもありますが、これは支援女性と団体職員の2人旅行以外に考えようがありません。それが悪いと言ってるわけではありませんし、そうする必要があったはずですけど、イメージとして団体旅行と言うか監査報告にあった、

使途を確認したところ、生活習慣立て直しのための合同宿泊訓練を目的としたもの

 これは15名の時と、8名の時、5名の時ぐらいは当てはまりそうですが、4名以下の時もそうなんでしょうか。4名と言っても支援女性は3名ですし、3名なら2名になります。まあ2名で宿泊しても合同宿泊訓練と言えないこともありませんけど・・・そんな事を考えていたら少人数の目的が書いてありました。

地元で同様の支援を受けることが難しい支援対象者との定期的な面談であった

 これも具体的に何をされているのか推測するのが難しいな。まずですがこれって面談に行ったのですよね。だって支援女性は地元にいて東京にはいないはずだからです。だから職員が泊まりがけで会いに行ったと解釈する方が妥当の気がします。

 でもないか。そう狭く考えるのじゃなくて、面談に支援女性の地元まで赴き、そこからホテルとか旅館に招いて宿泊をさせて相談に乗ったぐらいと考えるのが良い気がします。とにかく「定期的」と監査報告書にありますから、1泊の8件は人数的にもそっちかもしれません。


オマケの2題

 団体が正式報告書として提出し、東京都が経費と認定したもの、監査委員会が監査決定時に集計した表3、さらに監査報告時のものを較べてみます。金額は千円表示となっています。


支出内訳 正式報告書 監査決定時
(表3)
監査報告時
人件費 9978 9080 9005
事務所・居場所運営費 2227 1974 2227
給食費 2515 2500 2464
通信運搬費 471 215 471
医療費 1339 650 1339
備品購入費 335 150 336
消耗品費 2145 2132 2137
旅費交通費 1341 1300 1093
宿泊支援費 3038 3000 2778
車両関連費 1093 1028 1083
各種保険 3601 3530 3212
会議費 204 200 204
ソフトウエア 775 240 775
合計 29057 26000 27131
 経費算定の内容については各所であれこれ行われていますのでパスします。上記の表で団体が経費として申請し、監査委員会もそれを認めたものが緑色の背景の5か所です。残りの8か所のうち7か所は申請されたものより減額されており、経費として認められないものがあり金額にして192万5千円になります。

 宿泊費のところでもありましたが、監査委員会が領収書の提示を求めても事業者側が拒否した事例は他にもあり、

給食費 受領者に関する一部の情報の提示を団体側が拒否し、領収書の内容全てを確認できなかったため、証憑書類としては認められないものが1件800円あった。
旅費交通費 受領者に関する一部の情報の提示を団体側が拒否し、全てを確認できなかったため、証憑書類としては認められないものが59件183,863円あった。
宿泊支援費 受領者に関する一部の情報の提示を団体側が拒否し、領収書の内容全てを確認できなかったため、証憑書類としては認められないものが12件67,500円あった。
 たぶんこの3か所のはずです。見落としがあったらゴメンナサイ。


東京都監査委員会が確認したかったこと

 事業者にとってお役所の監査は恐怖の大王みたいな存在です。定期監査みたいなものでも対応に神経をすり減らすものになります。ましてや都道府県レベルの監査委員会が乗り出して来るとなると、想像するだけで震えが止まらなくなりそうです。

 ましてや東京都監査委員会が監査を行うのは6年ぶりの異例の事だったはずです。そりゃ、もうどんな厳しい監査が行われるのか注目の的でした。ですが監査報告を見ると意外な感じがします。監査委員会が監査するのは経費として申請された金額の証憑での確認作業だと誰かが言っていました。

 たしかにそういう作業は行われていますが、監査委員会が重視して確認したかった点は少し違うようです。上記した表3で認めた経費の総額を見て欲しいのですが、

    2600万円
 これは事業委託費になります。若年女性保護事業を請け負った団体は委託事業と自主事業を並立させて行っています。このうち委託事業分の委託費が2600万円になります。この委託費の使用分が経費になりますが、もしこれが委託分より少なければ返還することになります。

 監査決定時の表3の真の意味は、この時点で委託費に相当する経費は認められているだったで良さそうです。ですからこの時点で委託費の利用は適正であるとの仮判断が下されたと解釈しても良い気がします。監査報告書はその再確認みたいなものでしょうか。

 再確認で表3より多くの経費認定がされていますが、素人なら疑問に思うところとなる申請時の経費で認められなかった部分はどう考えられているのかです。これは結果から明白で、

    経費として認められた金額が委託費を上回っているから問題はない
 認められなかった経費がいくらあっても、認めた経費が委託費以上であれば、
  • 経費申請時の内容に齟齬が少々あろうと些細な問題
  • 監査委員会に情報の提示を拒否しても御愛嬌
 こうであると見れそうです。これを裏付けるものとして、

その結果、本件契約に係る本事業の実施に必要な経費の実績額は、27,131千円と特定した。このうち、委託料の上限額の範囲内である26,000千円を委託料として確定した。

 これでオシマイです。それより大事なのは、

団体により支援対象者や支援方法が様々であることなどから、民間団体がそれぞれのノウハウを活用し、支援対象者の状況に応じたより柔軟な対応が可能となるよう、令和5年度より補助事業化し、団体の活動を一定の基準に基づき助成する仕組みとする。

 なんか重箱の隅を執拗に穿り返そうとするのがいたので監査までやらされる羽目になったけど、ちゃんと東京都監査基準を明示したから、こんな監査にあったことなど気にず、この事業を充実して下さいとまとめられています。


蛇足の感想

 ショートショートの名手とされた星新一の数少ない長編の一つである「人民は弱し、官吏は強し」を思い起こしています。この作品は自伝と言うか、星新一の父親の話なのですが、気になる人は読んでみてください。