赤平総合病院の医師数

9/20付産経新聞より、

◆北海道から求人活動

 今月14、15日。北海道赤平市立総合病院の東元紀・臨床検査科技師長が、福岡市を訪れた。同病院の医師・看護師確保対策委員長でもある東さんは、医師国家試験予備校や医師専門の民間職業紹介事業所などで、同病院で働いてくれる医師の確保を訴えた。

 赤平市は北海道のほぼ中央にあり、人口約1万3千人。財政難は破綻(はたん)した夕張市に次ぐほど深刻で、厳しい経営状態から次々と医師が病院を去った。平成16年に18人いた医師は、現在は半分の9人。来年1月にはさらに1人辞める予定だ。

 福岡市中央区の紹介会社、医師転職支援センターを訪れた東さんは「北海道には医学部のある国立大学が3つしかない。特に自治体病院は民間病院に比べ給与が低く、医師を集めにくい」と窮状を訴えた。

 同病院では医師用の住宅を改築。北海道外での研修費用負担するなど、乏しい財源から医師確保の資金をひねり出している。

 同センターの平木喜泰社長は「医師の転職件数は増加しているが、若い医師の勤務希望は都会に集中している。宿直や呼び出しのある自治体病院への希望はさらに低い」と指摘する。

とりあえず苦笑したのは医師募集の責任者が、

    北海道赤平市立総合病院の東元紀・臨床検査科技師長が、福岡市を訪れた。同病院の医師・看護師確保対策委員長でもある東さん
この辺の解釈は微妙なんですが、市立病院の医師や看護師の募集対策責任者は誰が役職上の適任者なんでしょうか。あくまでも一般論ですが、人材募集は経営側に責任があります。そりゃそうで、労働者が勝手にドンドコ雇ったら、それはそれで困ります。雇用の最終判断は経営者の判断であり、従業員の権限を離れてしまいます。

もちろん経営者から委任されてはありで、それなりの会社では人事部なりが実務としての人材募集は行います。そういう点から言えば、臨床検査技師長が人材募集に走り回っても差し支えはないのですが、どれぐらいの権限を与えられているかは気になります。多くの応募者から選ぶ業務であれば問題は小さくなりますが、足りない人材をどこかから引っこ抜く業務となれば少々話が変わります。

横文字で言えばヘッドハンティング、日本語で言えば引き抜きですから、最後は条件交渉になります。おそらくは提示した条件に対し「イエスか、ノーか」みたいなシンプルなものではなく、その気が少しでもありそうな医師なり、看護師を是が非でも引き抜こうの交渉事になるはずです。そうなれば当初の条件への上積みの必要が出てくるのは世の習いです。

とは言うものの市立病院ですから、この臨床検査技師長にも、院長にも権限がありません。上積み条件の許諾は、

    臨床検査技師長 → 医師・看護師確保対策委員会 → 院長 → 市の担当部局 → 市長 → 条件によっては議会承認
その上で赤平市の財政状況は、
    財政難は破綻(はたん)した夕張市に次ぐほど深刻で、厳しい経営状態
交渉が大変そうなのが目に見えそうです。さてこの臨床検査技師長は何人の医師と看護師を集める課題があるかです。とりあえず現在の医師数が記事にあります。
    平成16年に18人いた医師は、現在は半分の9人。来年1月にはさらに1人辞める予定だ。
来週には8人になる可能性がある状態である事がわかります。とりあえず赤平総合病院の医師募集には、

!!急募!!

市立赤平総合病院では

    内科医師  2名
    整形外科医師  1名
    麻酔科医師  1名
を募集しています。

これから見ると医師4人なんですが、平成22年度卒後臨床研修医募集要項に気になる事が書いてあります。職員数として、

医師:14名、医療技術者:21名、看護職員:126名
事務職員:27名、その他職員24名 合計:212名

私は臨床研修医の募集要項の裏表は存じませんが、予備知識無しに読めば赤平総合病院には14人の医師がいると解釈します。まあ、あくまでも平成23年4月時点で14人いれば嘘ではないになるかもしれませんが、それまでに6人の医師を集めてくる必要があります。ただし医師数の数え方がなんとも言えません。

この医師数とは常勤医が14人なのか、非常勤医も含めて14人なのか、さらに研修医を含めて14人なのかです。研修医は、研修プログラム別マッチング結果(2009/10/29現在)では定員2に対しマッチ数2となっていますから、2名がいる可能性はあります。研修医2名をカウントすれば急募広告の4人でOKになりますが、真相はどちらなんでしょうか。

もう少し情報がないかとググってみると、旭川医大小児科教室に赤平総合病院の紹介がありました。

昭和25年に開設された病床数180床、常勤医師数14名の自治体病院です。

う〜ん、やっぱり臨床検査技師長の目標は医師6名と考えるのが妥当のようです。赤平総合病院の常勤医師数なんですが、赤平総合病院の経営健全化計画の中でも一部触れられています。

 平成16年における初期臨床研修医制度の開始により、大学医局からの医師派遣がままならず、18名いた常勤医師が平成20年度には7名(研修医を除く)まで減少した。

 加えて、慢性的な医師不足の影響により、平成18年10月から平成19年4月までの期間、医師標欠医療機関となり、入院基本料2%の減額及び新規、上位区分への施設基準の届出ができなくなった。

産経記事と併せて考えると平成20年には7名になっていたのを平成22年の初めには9名まで増やしたものの、平成23年の1月にはまた8名になる状態と考えても良さそうです・・・と思っていたら他にも情報がありました。現在は9名なのは記事を信用するとして、おそらく今年の7/30時点の情報としてm3.com carrier

常勤:11人

さらにさらに、医師転職支援センター(2010/8/30掲載)には、

常勤医師数(14人)

おいおいと言いたいような医師数の変動ですが、どうも11人とか14人はやはり水増しがあるようで、2010/7/7付ズームイン super!の放映内容として、

数年前から医師不足が深刻化していて、7年前に18人いた常勤医も今では8人しかいない。

うぇ〜、7/7時点では8人と言う情報にもなっています。どうなっているんだ、どう推移しているのだの根拠のあるソースを探していると、赤平市病院事業の経営に関する監査及び監査結果に関する報告が出てきました。これによると、

* 17.3.31 18.3.31 19.3.31 20.3.31 21.3.31 現在
職員 16 13 12 13 11 8 or 9
嘱託・臨時 5 8 9 9 7 不明
合計 21 21 21 22 18 不明


現在の情報はマスコミ情報からです。8名でも9名でも大きく変わりは無いと言えばそれまでですが、もう少しだけ情報を詰めて見ます。監査報告書には医師の異動状況の記載もあり、

年度 異動状況
平成16年度 産婦人科固定医師退職
平成17年度 泌尿器科固定医師の退職及び外科医師1名、麻酔科医師の年度中途退職
平成18年度 整形外科医師1名の退職及び内科医師1名の年度途中退職
平成19年度 内科常勤医師1名の退職
平成20年度 内科固定医師2名の年度中途退職(1名新たに確保)


どうも常勤医数と計算が合わないのですが、異動状況を計算すると9名退職で1名「確保」ですから、平成20年度末(21.3.31)には7名になっていないとならないはずです。健全化計画にも「平成20年度には7名」となっています。そうなると平成20年度に確保したと記載している1名は平成21年度から勤務医したと考えるのが妥当で、現時点では8名の可能性が高いと考えられます。

もう一つ補足のデータなんですが、2010.3.29付の産経新聞と考えられる記事です。この記事が冒頭に引用した産経記事と較べると微笑ましいのですが、

3月中旬、赤平市立赤平総合病院の医師確保対策担当参事の東元紀さん(50)が上京し、都内の医師向け就職支援会社4社を回って、同病院で働く魅力をPRした。

3月にも福岡と同じような事を東京で行ったようです。ここにも医師数が書かれており、

15年に18人いた常勤医は、今年3月現在で8人まで減少。

この記事では平成21年3月時点では8人となっています。平成20年度末と同じ数なんですが、この臨床検査技師長のコメントに、

これまで4人が視察に来て、2人の医師が定着した。

1名は平成20年度に決まり平成21年度から就職したと考えるのが妥当そうですから、平成21年度中にさらにもう1名常勤医となったと考えられます。そうなると冒頭の産経記事の勘定に誤りがあり、平成21年度には瞬間最大風速として9人まで増えた時期があったが、昨年度中に1人退職し、現時点では8人とやはり考えるのが妥当そうに思います。ほいじゃ来年1月に退職する医師の話はどこからになりますが、

病院側は苦肉の策として大阪市の整形外科医に週3回、飛行機で診察に通ってもらっているが、その任期も来年1月には切れる。

この医師は非常勤でしょうから、常勤医の数とは別になります。取材したときに混同したかと考えます。



ではあちこちのアピール文書とか研修医の募集要項に書いてある14名はなんであろうかになります。これは病院が集めたい医師の目標数と考えるのが妥当でしょう。それこそ臨床検査技師長が委員長をされている医師・看護師確保対策委員会で決めたと言うより、そこに下った命令と考えられます。

ここでなんですが、14名集めたいのは病院の現状から理解するとして、「集めたい」と「集まる」は別個の問題です。まさか、まさかと思うのですが、委員会を作り、そこに「これだけの医師が必要」と命令を下したから、「集まるもの」としてあちこちに14名を書いているなんて事はないでしょうね。14名と書いていても、たとえば研修医の募集要項提出時点で14名で、これが来年度の初めに少々減っていても「仕方が無い」にはなると思います。

これが、現在8名しかいないのに「14名になる予定」として14名と書き、結局8名であれば少々問題の様な気がします。誇大広告と言われても抗弁しようがないからです。その時には委員長が責任を取ってみたいな展開にならない事を案じておきます。だから委員長を臨床検査技師長にしているみたいなブラックジョークでくれぐれもありませんように。


・・・・・・あっ、そっか、そっか。常勤医8名でも公称14名は可能なのかもしれません。常勤医の数え方は状況により変わります。勤務している者の実感と言うか、実質では実数です。ところが医療機関の届出では非常勤の常勤医換算なんて手法が公式に行われます。これはどちらも正式に常勤医数になり、対外的にどっちを使っても問題にはならないはずです。

もう一つなんですが、監査報告書の医師の「職員」は常勤と考えたいところですが、どう見ても実数の常勤医数とは乖離します。とは言うものの監査報告書ですから、なんらかの根拠があって職員数をカウントしているはずです。ここで異動歴の医師の呼び方が興味を引きます。どうも3種類の職員が存在しているようで。

  1. 固定医
  2. 常勤医
  3. ただの職員としての医師
固定医つうのも凄い表現なんですが、監査報告書ですから何らかの基準によって職員医師を分類しているはずです。ここは推測ですが、もともとと言うか平成15年ぐらいまでは、すべて掛け値無しの常勤医であったと考えます。ところがパラパラと退職が続き常勤医が減っているのは監査報告書の示す通りです。

監査報告書の医師の異動歴は職員医師に関してのものと考えますが、減少数と報告書の医師数が一致しない現象が起こっています。そうなると異動以外の手法で職員医師が増えたと言う事になります。異動以外で増える可能性としては、「臨時・嘱託」から職員医師への内部昇格ぐらいしかあり得ないと考えられます。異動歴は職員以外の医師の事は書かれていないと考えられますし、内部昇格は異動にはならないと推測します。

ここでなんですが、内部昇格と言っても実体は書類上の変更だけで、病院の実戦力としては常勤医にはカウントされていないとも考えられます。つまり求人としてと言うか、経営に必要な常勤医と書類上の常勤医は完全に区別して扱われていると言う事です。臨床検査技師長が求人担当として医師数を語る時は当然ですが実態としての常勤医数であり、研修医の募集要項は非常勤の常勤換算や書類上の常勤医も含んだ公称数になっているのなら話は通るかもしれません。

最後のところはあくまでも推測ですから、その程度でお受け取り下さい。いずれにしても臨床検査技師長の全国行脚が少しでも実りあるものになることを願います。