ツーリング日和11(第30話)大阪へ

 北陸道から名神と走るのだけど、早朝だけあって快適だ。どれぐらいで帰れるの、

「そうでんな。休憩なしで順調に行って二時間半ってとこでっかな」

 だったら九時半には大阪だね。だけど思いの外に順調だ。草津JCTでまだ七時半だもの。ここも忘れらないとこになったものね。ここで丈太郎さんと出会ったのは言うまでもないけど、そこからエルの初めてのロングツーリングが上州の草津温泉どころか、佐渡島まで続いたもの。

「京滋バイパスにしますわ」

 これも来た道と同じ。さらに丈太郎さんは名神を避けて第二京阪で大阪に。やっぱり大阪に近づくと混んで来たな。東大阪JCTから、阪神高速の東大阪線に乗り市内へ。森ノ宮で下りてファミレスでモーニング。

 そう言えばエルのことを旅の仲間として認めるって言ってたな。あれって何か意味があるのかな。ツーリング仲間なのは間違いないけど、

「ああそれか。エルも認めてもらえたんか」

 そう言われたけど、

「あのお二人はムチャクチャ愛想がエエやろ」

 愛想も良いけど遠慮も無い。

「そやけどな、普段はちゃうねん。ユッキーさんの氷の女帝の呼び名かってダテやない。仕事中はニコリともせんそうやし、睨まれただけでションベンちびるぐらい怖いそうや」

 コトリさんの方は微笑む女神の別名があるぐらい微笑みを絶やさない人らしいけど、怒ると氷の女帝のユッキーさんより怖いとか。そりゃ、あれだけの大企業の経営者だから怖い面もあるだろうけど、

「わても全部知ってる訳やないけど・・・」

 あの二人は私生活も謎に包まれていて、どこに住んでいるのかもわからないそう。だから普段の交流関係も不明で、誰と親しいとかもまったく不明なんだって。でもそれぐらいパパラッチとかが追いかけてるはずじゃない。

「あのな。誰がエレギオン・グループを敵に回すもんか。誰かって命は惜しいで」

 マスコミ関係では有名らしくて、

『女神は逆らう者を許さない。逆らった者の末路は悲惨』

 こうされてるそう。こうされてるどころか、実例もゴロゴロあるらしい。これはマスコミだけでなくヤクザでも有名だそうで、二人の逆鱗に触れて潰された組はいくつもあるって・・・そんな事がどうして出来るの。

「あのお二人は人やおまへん神でんねん」

 いやいやエレギオンの女神とは呼ばれてるけど、

「エレギオンはエレギオン・グループから来とるとされてまっけど、ホンマは五千年前に出来た古代レギオン王国のことで、あのお二人は王国誕生から存在してまんねん」

 はぁ、そんなものを信じろと。

「信じんでもようおます。信じろと言う方が無理がありまっさかいな。そやけど、あのお二人の記憶は五千年を遡り、あまりに悲しみを背負い続けて、人の短い人生にあまり関わりたくないんやそうや」

 人の短い人生って、

「あの二人にとってわてらなんか、目の前を一瞬に通り過ぎるようなもんやねんて。どんなに深く関わっても、必ず老い、そして死に、二度と巡り会えない存在や」

 神から見ればそうなるのか。

「そやけどな、神言うても元は人や。やっぱり人に関わりたいとこがあるそうや。ああやってツーリングされてるのも、長すぎる時間のヒマ潰しもあるそうやけど、そこで出会った人々を大切にしてやりたいはあるねんて」

 それが旅の仲間。

「エルはあのお二人からなんかされへんかったか」

 いや別に。襲われたりはなかったよ。

「そうやなくて、なんかオマジナイみたいなもん」

 それなら佐渡島のお風呂の時に・・・お~い、お~い、なに黙り込んで考えてるんだ。

「最高の祝福をしてくれたわ。それこそ女神の恵みや」

 なんだそれ。

「根拠はわからんそうやけど、女神の恵みを受けた女は、終生の輝くような美貌と、幸せなラブラブ結婚生活が与えられるそうや」

 はぁ、

「わての見間違いやなかったんや、やっぱりそうやったんか」

 なにがよ。

「エルは眩しいぐらいになってるねん。元が綺麗やからあれやけど、そやな一桁ぐらいは確実に上がっとる。そやから二回目の夜は止まらんようになってもた」

 どうなってるって言うのよ。エルはエルだよ。それにそんな事はどうでもイイ。エルはね、エルはね、丈太郎さんだけが見てくれて、愛してくれたらそれでイイの。そうしてくれるように努力をするのがエルの役目だし、エルの喜び。

「なるほど、これが女神の恵みかもしれん。六花ちゃんがそうやもんな」

 六花さんって杉田さんの奥さんだよね。

「六花ちゃんも美人やねんけど、北海道から帰って会うたら、腰を抜かしそうになったからな。見間違えそうになるとは、まさにあの事やった」

 そんなに。

「それに結婚してから仲睦まじいのは良いとして、度が過ぎる気がするぐらいやねん。未だにベタベタなんてものやないからな。あないに結婚してからヒートアップしかせえへん夫婦初めて見たわ」

 エルもそうなるとか、

「これから経験出来るやろ」

 負けてなるものか。エルはね、もっともっと甘いものにしてやる。ところで親父に紹介すのは夜なんだよね。ホテルのレストランで夕食を食べながらって話になってる。さすがに昼間は抜けられないものね。だから丈太郎さんも今夜は大阪に泊る事になる。

「ビジホでも」

 殺すぞ。どうしてそんな発想が出るのよ。今夜泊るところも、今から行くところも一つしかないでしょうが。

「どっか行きたいとこでもありまっか」

 行きたいところじゃなく、行くところだよ。そんなものエルのマンションしかないだろうが!

「独身の一人暮らしの女性の部屋に行けまっかいな」

 余裕で行けるし、余裕で泊まれる。そのまま同棲したってなんの問題もない。だから引っ張りこんでやった。着替えてからお買い物。あのねぇ、手をつなぐぐらいをそんなに照れてどうするの。昨夜のフェリーだって、エルのすべてを愛してくれたじゃない。近所のスーパーで食材を買い込んで昼はエルの手料理だ。

「こ、こりゃ美味しおまんな」

 えへへへ、料理は自信があるの。

「部屋も綺麗にしてまんな」

 これでも綺麗好きなんだ。だからこそ部屋に丈太郎さんを連れて来れたもの。それからお昼寝。さすがに疲れていたから無し。ホンネはやりたかったけど、これから父親への紹介があるものね。

 起きたら一緒にシャワーだ。今さらそんなに恥ずかしがってどうするの。エルが全部洗ってあげる。背中もそうだけど、頭だって、前だって全部だよ。朝のツーリングの汚れをスッキリさせなきゃ。

 七時にホテルのレストランに行ったら親父が待ってた。丈太郎さんも緊張してたけど、型通りの挨拶を交わし、同棲の許可を求めてた。親父の目に丈太郎さんがどう映っているかは心配だったけど。

「娘は任せた。宜しく頼む」

 愛媛に引っ越すことについては少し寂しそうな顔をしたけど、了解していた。まあ反対したところでエルが従うわけないものね。それからは雑談になったのだけど、

「上手く行けば結婚式に出れるかもしれん」

 やったぁ。でも何があったの。

「まだ詳細を話せる段階ではないが、白馬の騎士が現れたぐらいだ」

 はぁ、白馬の騎士が現れるのはこんな中年親父じゃなくて女の子にだろ。いやあれは白馬の王子様か。なんであれ親父の事業が上手く行くのなら万々歳だ。