ツーリング日和8(第1話)ニャンコフェリー

「日の出だね」

 ユッキーと来たのは神戸三宮フェリーターミナル。神戸第三突堤にあって、ジャンボフェリーの発着港や。ここからは高松に行くフェリーと小豆島に行くフェリーが出とって、小豆島に行く方はニャンコフェリーの愛称になってるねん。入場ゲートで係員に、

「どちらですか」
「小豆島や」

 そう言うたらタグをくれて、乗船券をターミナルビルで購入や。そこから指定されたレーンに並んで、係員の指示に従って船内に。六時に出航や。

「姫路まで遠いものね」

小豆島に本州から渡るフェリーは三つある。神戸と姫路と岡山や。姫路からの方が料金も安いし乗船時間も短かなるけど、下道で姫路はチト遠い。

「ここなら家から十分かからないし」

 そういうこっちゃ。その代わり三時間二十分の船旅になる。東京まで新幹線で行くより長いのが珍妙なところや。まあ、フェリーと新幹線、ましてやリニアと較べるのに無理あるけどな。

「そうよバイクが乗らない役立たず」

 用途と目的がちゃうやろ。まあ、ノンビリ行くで。

「そこが良いのじゃない」

 今日は小豆島やねんけど、実はと言う程やないけどコトリもユッキーも小豆島は初めてや。ずっと神戸とその周辺に住んでるようなものやけど行ったことがあらへん。近いからいつでも行けそうなもんやけど、近すぎて何故か行っとらへん。

「フェリー挟むのがね」

 それはある。神戸から三時間二十分やけど。乗船の三十分以上前にターミナルに行かなあかんやんか。そやから片道は実質四時間で往復八時間になるねん。これは姫路回りにしてもあんまり変らへん。そんなとこに日帰りでヒョイと行くのは無理がある。

 そやけど泊りがけで出かけるほど行きたい島かと言われると困るとこもある。これも誤解せんといてや、小豆島はエエとこやねんけど、それやったら他の観光地がどうしても優先されてまう。

「そうなのよね、ついつい後回しになっちゃう」

 このフェリーも利用しにくいとこがある。今日は平日やけど、一日三便や。コトリらが使うてるのが朝便で朝六時出航や。そやけど電車やないから、余裕を見たら朝の五時過ぎぐらいにフェリーターミナルに来たいとこや。

 コトリらはポーアイ住んでるから十分もあれば来れるけど、遠くなればなるほど時間が早くなる。一時間かかるとこやったら、それこそ朝の三時起きや。こんなもん家族旅行に気軽に使えるか。これが昼便になったら夕方着でその日は終わってまう。

「観光なら土日ダイヤね」

 まあな。土日ダイヤやったら土曜の朝の八時半の便で行って、日曜の十五時十五分か十七時四十五分の便で帰れるからな。ファミリーやったら十五時十五分やろ。要は神戸から行くなら週末とか連休の一泊二日限定にになるってことや。

「小豆島って本州からじゃなく高松からの方が行きやすいのよね」

 そうやねん。高松からやったらフェリーで一時間で、一日に十五便もあるねん。人だけやったら高速艇で三十五分や。それやったら高松観光とセットにしたら良さそうなもんやけど、

「高松と小豆島で二泊三日はキツクない?」

 クルマやったら瀬戸大橋から四国に渡り高松から徳島を回って明石大橋から帰ってくるぐらいのルートが思い浮かんでまうやんか。

「それクルマだけじゃなくてバイクもよ」

 そこに高松からの小豆島オプションを入れにくいぐらいや。ゴチャゴチャ言うたけど、小豆島はそこだけ目指しての観光となると後回しにされやすいんよ。言い方悪いけど、小豆島まで行って是非見たい、是非訪れたいとこが思い浮かばんぐらいや。

「淡路は便利だものね」

 それでも今回は小豆島や。ここも歴史の古いとこで神話やったらイザナギ、イザナミが十番目に産み出した島になっとる。日本書紀の応神紀には阿豆枳辞摩の記載があるし、ホンマかウソかわからんけど応神天皇の行幸したともなってるぐらいや。

「古代から人が住み着いていたんだろうね」

 この辺は瀬戸内海やったら淡路に次いで大きな島やし、少ないなりに農作物も取れたんもあるんやと思うわ。それより海路の要衝としての性格もあったんやろ。海路の要衝は今かってフェリーだけやったらそうや。

「春の海、ひねもす、のたりのたりかな」

 春つうより初夏やけど穏やかで気持ちがエエ海や。今かって小豆島には一万三千人ぐらいの人口はおる。

「歴史的にも平和そうな島よね」

 もちろん戦乱の記録はあるけど、激しい争奪戦が繰り返された訳やない。江戸時代かっておおよそ天領やった。これは温度差がテンコモリあるけど、天領の方が栄えたとこが多いんや。税金安かったし、統治は緩かったからな。

「石の島でもある」

 秀吉の大坂城にも、徳川の大坂城にも仰山使われてるものな。歴女の血が騒ぐ程やないけど一度は見ておいて損はないとこや。島自体は小さいから一日もあればだいたい回れるはずや。

「ところでさ。バイク乗りはカブに始まってカブに終わるって当たってると思わない」

 あれやな釣り人が、

『鮒に始まって鮒に終わる』

 これのもじりやろうけど、当たってるとこはあると思うわ。これもクルマとちょうとこやけど、最初に乗るバイクがなにやって事になるねん。いきなり大型乗るやつはおらんやろ。中型かって怖すぎる。乗るのやったら小型や。

 昭和の頃やったら小型のバイクでありふれとったんがカブや。それこそ家にあったり、親戚のおっちゃんが乗ってるとかや。自転車乗れたらカブ乗れるからな。

「乗りやすいし、走りやすいし、おもしろいのよ」

 カブはコチコチの実用バイクやから低速トルクがあるもんな。それにとにかく悪路に強い。つうか開発された頃は悪路の走行を念頭に置いとったし、今でもそのメリットから発展途上国で大人気や。

「とにかく頑丈で壊れにくいし、燃費だって化物」

 カブでバイクに初めて触れてバイクに嵌って行ったのは多かったのは間違いあらへん。もっともスクーターが出てきて様相は変わった部分はあるけど、要するにカブも含めた小型バイクがバイク乗りの原点としてエエやろ。

 バイクが好きになったらカブに感じる不満はスピードやろ。若かったら誰でもそうなるわ。スピードを極めようとしてレーサーまで行くのは少ないとしても、スピードを求めたらより大型のバイクに乗り換えていくわ。

「体力と気合は歳には勝てないのよね」

 これもクルマとちゃうとこや。クルマは極端な話、シートに座ってアクセルを踏めば走ってくれる乗り物や。そやけどバイクはそうやない。止まったら足で支えなあかんし、駐車したら人力での取り回しも必要や。

 大型になるほどデカいし重くなる。バックさせるんも、前に押すのも体力仕事や。若い頃はそれが楽しいんやけど、歳と共に体力が落ちてくると辛くなる。辛くなると、自分の家からバイクを乗り出すのさえ億劫になってまうねんよな。

「だからサイズダウンが起こる」

 バイクは身の丈に合ったものが原則や。自分で取り回せる重量とサイズが大事ってことや。見栄張って大型持っとっても乗らんかったら意味ないねん。もちろん乗らへん選択もあるけど、やっぱり乗りたいやん。

「回り回ってカブに戻る」

 カブになるかどうかはわからんけど、小型に戻るのはおる。もうスピードは求めんようになっとるし、長距離ツーリングも無理になっとる。近所の買い物や、日帰りのちょっとしたツーリングだけやったら小型で十分やもんな。

「大型から小型に変えた人の感想はそんな感じね」

 ああそうや。すぐに口にするのはパワー不足とか、振動がとかや。そんなもん大型に較べたら落ちるに決まっとる。そやけど、

「気楽に乗れるようになった点がすべてよね」

 ヒョイと乗れるからな。ヒョイはサイズもそうやけど、装備もあると思うわ。これもそうせいと勧めてる訳やないから誤解せんといてな。大型に乗るとなると、プロテクターも欲しい。重いし、速度も出るからや。そやけど小型やったっら、大型ほどのフル装備は必ずしもいらん。

 いや、した方がエエのんよ。小型かってそれなりにスピードは出るし、事故かって起こる。だからするべきやけど、どこぞのレースに出るんかってのは、かえって似合わんとこがあるぐらいや。

「若き日の最初にバイクに乗った頃に戻る感じだよね」

 同じやない。乗るのは同じカブやけど、中身は別物や。ほいでもそういうバイク・ライフはあると思うわ。まあそうなるのはバイクだけやあらへん。人の一生では他にもようあることやと思うわ。