ツーリング日和6(第33話)魔性の女

「直樹の本当の意味の女難の相は違った気がする」

 そうや美穂や。美穂は顔もスタイルもエエけど、

「女には好かれないね」

 その代わりに男は群がるやろ。それはエエねんけど、とにかく贅沢が好きや。これかってかまへんねん。贅沢より貧乏が好きな女の方が珍しいからな。

「美穂は贅沢が好きと言うより極度の浪費癖だよ」

 こういうタイプの人間もおる。たいていはどっかで行き詰るけどな。そやけど美穂はちょっとちゃうねん。

「とんでもない手腕だよ」

 とにかく男に貢がせる手腕が卓越しとる。

「元カレも被害者なのよね」

 元カレはフリーターやったから美穂に捨てられた訳やない。美穂に貢ぐために会社のカネに手を出したのがバレて横領で解雇されてるんよ。美穂はカネが無くなった元カレをポイして直樹に乗り換えた訳や。そやのに、そこまでの目に遭わされながら、結婚式で美穂に協力しとる。

「ああいうタイプはいるのは知ってるけど・・・」

 あんなに酷い目に遭うてるのに、美穂にすり寄られたらコロンやねん。さすがに誰にでも通用せんとは思うけど、一度美穂の魅力に嵌ったら逃げられんようになるぐらいで良さそうや。まさに魔性の女や。

「どうして直樹とは結婚式まで行ったのかな」

 はっきりせんとこはあるけど、直樹にはその手が貢がせるには一番と思うたんやろ。それと美穂も男に貢がせる手腕は卓越しとったかもしれんが、頭はあんまりエエことない。直樹が純情一直線で結婚まで驀進してもたから、途中で逃げにくくなってもたんちゃうかな。

「元カレは漁師になったみたいだね」

 そうみたいや。これも先に断っとくで、漁師も立派な職業や。漁師になるのは全然かまわへねんけど、どうも借金問題のもつれらしい。元カレは美穂を結婚式場から連れ出してはいるけど、美穂を維持するにはとにかくゼニがいるからな。

「やっと元カレも美穂から逃れられたかも」

 そうかもしれん。そうそう直樹は鶴の湯でカネに困ってコトリらに泣きついてきたけど、あれも不思議やってん。いくら香凛とリッチ旅行に切り替わったからと言って、貯金まで底を尽くには早すぎるやろ。

「直樹は容貌にコンプレックスが強すぎたからだと思うけど・・・」

 直樹は将来を考えて、かなりの貯金があったんや。それが美穂と付き合って一年ぐらいでスッカラカンになっただけやなく、相当な借金まで作っとるわ。なんとか借金は返したみたいやが、

「マット250買ったから、今回のツーリングは本気の貧乏ツーリングだったのね」

 美穂の結婚式からの逃亡は美穂の実家にも深刻な影響を及ぼしとる。美穂の両親は会社経営者やってんけど、美穂のやらかしたスキャンダルは会社の信用を落としてもて、経営が傾いてもた。

「その前にかなりのブラックだったのもあったけど・・・」

 美穂は元カレをまた捨てて、両親の元に舞い戻ってるねん。全部元カレの責任で逃げようとしたみたいやけど、

「あれでも親なの!」

 こういう時には結婚式費用の美穂に自力で弁済をさせ、家から追い出すぐらいはある。そんだけの事をやらかしとるからな。

「自分の娘を売り飛ばすってなんなのよ」

 傾いた会社を放り投げて、美穂を売り飛ばしたカネを抱えて海外に高飛びしやがったんや。そんな親に育てられたから美穂もああなった部分はあるかもしれん。世の中のあらゆるもの、たとえ自分の娘でもカネヅルにしか見えんのやろ。

 そやそや、売り飛ばす言うても直接の人身売買は出来へんから、闇も闇みたいな闇金から美穂を担保に借りてるねん。美穂はそのまま連れ去られて、

「マグロ漁船だ♪」
「美穂は女や」

 監禁状態にされてヤバすぎる泡風呂で頑張るしかあらへんやろ。美穂の性格はともかく、顔とスタイルは一級品やから、

「それにしてもの金額よ。十年でも無理じゃない」

 らしい。江戸時代の女郎並みに売り飛ばされとるわ。女としてヤバすぎる泡風呂で働かされるのはさすがに同情はするけど、

「美穂が毒牙にかけてるは直樹と元カレだけじゃないよ」

 学生の頃からカネを持ってそうな学生に何股もかけてただけやなく、パパ活もお盛んにやってるんよ。社会人になってもそうや。その手の女は一定比率でおるけど、美穂は付き合った男を文字通り搾り尽くし悉く破滅させとる。それでも、やばすぎる泡風呂で働かされるのは女として同情するけど、

「今までは貢がせるために股を開いて来たのが、これからは借金返済のために股を開くになっただけで、カネのために股を開くのは同じじゃない」

 さすがに違うと言いたいが、美穂のやってきた事を考えるとこれぐらいの報いは必要やと思うわ。美穂のやってきたことは周囲に大迷惑やねんけど、だからと言って警察が介入するほどの事やない。

 男が貢ぐのは男の自由意志やし、それで借金抱えて破綻するのも男の自由意志や。恋愛関係が破綻するのも違法行為やない。さすがに直樹のケースは民事の責任は発生するけど、刑事には遠すぎるからな。

「でもさぁ、こういう女を野放しにすると被害者が量産されるよ」

 こういうタイプの男もそうやけど、取り締まりようがあらへんねん。そやから泣き寝入りするしかあらへんやんか。それでも程度の軽い連中は、それなりに暮らして行ってまうけど、時にこれぐらいの報いもあってもエエと思うわ。

「直樹は危機一髪だったのよね」

 そういうこっちゃ。そりゃ、式の誓いの言葉の段階まで進んどったからな。あのまま結婚していたらどうなったかやけど、

「美穂の浪費癖は止まるどころか拍車がかかるから・・・」

 直樹の借金は雪だるま式に増え続け自己破産や。自己破産になりそうになったら即座に離婚されるのはまだしも、会社もクビになるか、居辛うなって自主退職に追い込まれるのは確実や。そこから人生をやり直すのは、まさに茨の道や。

「ホームレスに一直線だろうね」

 一方で離婚した美穂は、

「次のカモに飛んで行く」

 同じ女として恥しいわ。