青春の昭和

 古い町観光をやった時のお話です。そういう町のメインストリートは申し訳ありませんが、かつて商店であった跡がいやでも目につきます。栄えている頃は商店街的な趣だったはずですが、今やってところです。これは故郷の商店街も似たような状態ですから、衰退をヒシヒシと感じてしまいます。

 そういう商店跡に残された看板は昭和のノスタルジーを嫌でも感じてしまいます。ああいう看板を掲げた商店が軒を並べていたからです。そんな中で目に付いたのが、

    月星靴
 もちろん今でも健在のはずですが、小学生の頃の運動靴はこれ一択というか、これしか売っていなかった気がします。つうか、それ以前のお話で、運動靴を買いに行っていたのです。これじゃ、わかりにくいか、靴屋に靴を選びに行くのじゃなくて、靴屋に運動靴を買いに行っていたのです。
    「運動靴下さい」
    「なんセンチ」
 そこにどんな運動靴が欲しいとか、どのブランドにするなんて選択も発想も乏しかったと記憶しています。あったのはヒモ靴かそうでないかぐらいだった気がします。

 これが変わってきたのは中学に入ってから。私が覚えているのならアディダスの三本線の運動靴が登場したのを覚えていますが、旧友になると、

    やっぱりオニツカ

 旧友は運動部所属でしたから私とは感覚が違います。それでも、それ以外のブランドになると二人で首を捻る状態になり、

    「プーマはあったか」
    「覚えてない」
    「ナイキは?」
    「そんなもの影も形もなかった。ミズノが多かった気がするけど」

 プーマはスポーツバッグにあったような気がしますが、これも記憶に自信がありません。高校ぐらいならあった気がしますが、中学となると曖昧模糊の世界です。その代わりにスポーツバッグと言えば、

    マディソン・スクエア・ガーデンのバッグ

 この辺は都市部と地方の流通格差は今とは比べ物になりませんから、地域事情と思って下さい。地域事情と言えば、

    「〇〇の肉屋が閉店した」
    「だったら旧市内に残っているのは?」
    「ない」
 これは旧友と私の差になりますが、旧友の家の行きつけの肉屋はコロッケを売っており、私の家の行きつけの方は売っていなかったので、肉屋への思い入れの温度差があって笑っていました。

 ついでに喫茶店はって話にもなったのですが、いつ閉店してもおかしくないのが一軒だけだそうです。寂れた町巡りをやりながら、それをやるなら故郷を歩くだけで十分みたいなブラック・ジョークが虚しく響いたものです。

 青春の昭和が甦る可能性は、どう考えたってゼロです。記憶の中では良い時代ですが、今を知っているので、セピア色の思い出として昔話をする程度が良さそうです。