爵位雑談

 構想中の小説のお話です。女性が好きな話の設定に名門とか、富豪の家の息子や娘の設定があります。大昔に読んだ少女コミックでも多かったですし、今でもそういう設定が好まれるのはそれほど変わっていないようです。そこで貴族物を書いてやろうと考えた訳です。

 貴族と言えば爵位、そう公候伯子男の五等爵が出てくるのですが、これが成立したのはフランスとなっています。フランスの場合は、

 大公 → 公爵 → 侯爵 → 伯爵 → 子爵 → 男爵 → ナイト → 平貴族

 こうであったようで、大公は王族の爵位とされています。このフランス流はヨーロッパに広まったようです。爵位は王室の貴族の階級なので国ごとに違っても良いのですが、ヨーロッパの事情が出てきたと考えています。

 フランス革命、いや第一次大戦までは殆どの国が王制でした(帝政も含む)。大臣とかも貴族ですから、外交儀礼がうるさくなったと見るのが妥当です。つまりはそれぞれの国の爵位に応じた儀礼が必要になったぐらいでしょうか。

 この辺は今でもあります。会社にも階級があります。部長とか、課長とか、係長です。これも会社によって呼び名が変わるところもありますが、他社への儀礼として重視されます。簡単には部長相当の者が顔を出せば、部長相当の者が相手をしないと無礼みたいな感覚です。

 もちろん会社の規模や、元請け、下請け関係とか色々ありますが、この階級による釣り合いは儀礼として常に念頭に置いているはずです。ましてや国の外交での儀礼となるとピリピリするぐらいです。

 フランス流はイギリスにも輸入されていますから英仏流として良いと思いますし、ヨーロッパの標準ぐらいに思っていますが、ドイツ流は少し違うところがあります。基本は似ているのですが、リヒテンシュタインが公国なのか、侯国なのかの問題が興味深いものです。

 リヒテンシュタインの爵位はフュルスト。フュルストは神聖ローマ帝国時代の領主、日本流で言えば大名みたいなものでよさそうで、諸侯とも訳されるようです。

 フュルストでも所領の多いもの、大大名はヘルツォーグとなっていますが、ここで問題になるのが侯爵です。その前に伯爵の成立を先に説明しないといけませんが、伯爵はドイツ流でグラーフになり、元は地方の任命制の軍事司令官になります。

 方伯は方面司令官、城伯は城主みたいな感覚で良いと思いますが、これも世襲化し大名つまりフュルストに呼ばれます。ここも世襲大名より世襲化したグラーフは格下にされたようですが、一方で爵位と領地の関連もなくなっていきます。

 領地をもつ大名が貴族だったのですが、宮廷内貴族が出現し、貴族の階級として成立したぐらいでしょうか。そのために貴族階級として、

 ヘルツォーグ → フュルスト → グラーフ

 こんな関係になったぐらいです。このグラーフのうちで辺境伯(マルク・グラーフ)は別格となっています。辺境伯とは国境沿いの最前線に配備されるグラーフで、領土も権限も、軍事力も大きかったからです。

 辺境伯の権威はフュルストに匹敵、さらに凌駕した時期もあったようですが、これもまた宮廷内序列に組み込まれていき、グラーフのさらに上の階級として成立して侯爵、つまりマーキスとなります。

 ヘルツォーグ → フュルスト → マーキス → グラーフ

 マーキスが侯爵ならフュルストが公爵になり、ヘルツォーグが大公ぐらいになりそうですが、大公もドイツ流には存在します。グロース・ヘルツォーグとかグロース・フュルスト、オーストリア流ならエルツェルゾーグです。

 ここら辺はwikipediaを読み込むぐらいでわかってくるのですが、ドイツ流では公爵がヘルツォーグとフュルストの二つに分かれる六等爵になっているぐらいで良さそうです。それは国の事情ですみそうな話ですが、問題はさらにややこしくなり、ヘルツォーグとフュルストに匹敵する訳語が英仏語にはないようです。英仏流を輸入した日本語も同じです。

 英語ではプリンスの称号があり、日本語では王子と訳しそうですが、原義はプリンシパルで第一人者、君主になります。ここも言い換えれば帝国はエンパイア、王国はキングダムですが、帝国や王国内の封建国家はプリンシパルになり君主はピリンスになるのだそうです。

 王国では王に継ぐ第一人者がプリンスになり、英王室でも王太子はプリンス・オブ・ウェールズ、つまりウェールズ公と呼ばれます。リヒテンシュタインは古くは神聖ローマ帝国、近代ではオーストリア帝国の封建領主ですから国はプリンシパルになり君主はプリンスになり、プリンスが治める国ですから公国になるという理屈が成立するのだそうです。

 この辺は興味があればググれば出て来ます。ただですが、リヒテンシュタインにフュルストを叙爵した帝国は第一次大戦後に滅亡しています。ごく単純には完全な独立国ですから、公爵どころか、王でも、皇帝でも自称は自由のはずです。

 それでも外交儀礼でしょうね。ヨーロッパにはイギリスを筆頭に王国は残っています。ヨーロッパ内の貴族の序列は固まっていると見るのが良く、突然王国にしたら笑い者にされて相手にされなくぐらいの感覚でしょうか。あの手の世界は前例と慣習の塊ぐらいは市井の凡人でも想像できます。