流星セレナーデ:宇宙船情報

 衝突後にユッキー社長から連絡があり、クレイエール本社の無事と仕事の再開の相談があるから明日から出社して欲しいとありました。会社着くと、シノブ専務も来られており、ユッキー社長から、

    「これから山から海に人の大移動が起るのと、機能麻痺している機関の再開が始まるわ。クレイエールもいきなり全開に出来ないから、出社した人で出来るところから再起動してちょうだい」
 社会の再起動への混乱は一週間ぐらい続きましたが、街も落ち着きを取り戻して来ています。店舗もいつも通りに開きだしましたし、行き交う人々も安堵感こそありましたが、いつもの日常が戻ってきたように見えます。クレイエールもまたそうで、いつものクレイエールに見えます。


 彗星衝突の様子も徐々にわかって来ていますが、このニュースが出た時には凄い注目を集めました。

    『どうやら宇宙船であった可能性がある』

 世間の話題はこの謎の宇宙船で沸騰というところです。ところがしばらくすると、

    『誤報であり、やはり彗星であった』
 このニュースが報じられました。この辺の真相がどっちかでテレビもマスコミも喧々諤々やっており、過去のUFO映像の特集があったり、もし宇宙船ならどこから来たかの推測番組が盛んに流されましたが、NASAを始めとする合同調査団がきっぱり否定した時点で謎の宇宙船の話も下火になって行きました。


 そんな頃にまた料亭で密談の呼び出しがありました。彗星騒ぎ後の経営方針の確認や、彗星騒ぎでの無断欠勤者への処分方針などの話もありましたが、最後にシノブ専務が大部のファイルをメンバーに配り、

    「社長、やはり宇宙船で良いようです」
    「やっぱりね。でも、隠したがるのよねぇ、当然かもしれないけど」

 シノブ専務はオーストラリアまで出張し、さらに経営戦略本部の調査部をフル動員し彗星墜落の現場情報を集めていたようです。

    「シノブちゃん、どんな具合だったの」
    「宇宙船は大気圏突入後に分解を始め、グレートサンディ砂漠に墜落した頃にはバラバラだって良さそうです。落下物は相当な広範囲に散らばったようで、大げさではなく砂漠中に撒き散らされた状態との情報もあります」
    「だから爆発には至らなかったかな」
    「一部で爆発もあったようですが、これは分解しながらも最後まで大きく残っていた部分が地表に激突した時に生じたもので良さそうです」

 経営戦略本部の調査部もかつては調査課でしたが、クレイエールが世界展開を始めた時に拡大拡充され、今では調査部の下に幾つもの課を抱えています。能力もシノブ専務が長年手塩にかけて育てたもので社内では、

    『クレイエールのCIA』

 こう呼ぶ者も少なくありません。さすがにCIAには及ばないと思いますが、それでもかなりの情報収集能力を持っているのは間違いありません。

    「シノブちゃん、NASAのファイルは読めたの」
    「それが今回の情報管理はCIAも関与しているみたいで手強いところです」

 現代の情報収集は昔ながらの足を使って集めるものも軽視していませんが、ネット経由のハッキングが盛んに行われます。経営戦略本部の調査部にも腕利きは多数いるのですが、彗星情報の管理はかなり厳しいようです。

    「でも一報は出たよね」
    「そうなのです。ですから現時点でつかんでいるのは、初期時点のものが拡散されたものが中心になります。残念ながらNASAを中心とした合同調査団が入ってからは、ギッチリ情報を抑えられてる感じになります」

 でもそこまでバラバラになったのならたとえ意識であっても生存者がいるとは思えないのですが、

    「シノブちゃん、あれのその後は?」

 あれとは宇宙船のニュースが出た時に報じられた写真入りの記事で、カプセルのようなものを見つけたとして報じられたものです。

    「NASAが来た時に回収されてしまい、なおかつタダのタンクで宇宙船とは無関係とされ、さらに発見者はウソつきの工作まで行われたようです」
    「そこまでやるのね。でも、本人に話は聞けたの」
    「残念ながら発見者本人とその家族は既に行方不明となっています。おそらく・・・」
    「そういうことね」
    「取材を行った記者の話は聞くことが出来ました。

 記者もNASAによるニセモノ情報を信じていたようでしたが、見えたカプセルにとくに大きな損傷はなかったとしています。

    「シノブちゃんご苦労様、引き続き調査をお願いするわ」
    「かしこまりました」

 ユッキー社長は、

    「生き残っている可能性は残るわね」
    「ユッキーもやはりそう思うわよね」

 やはり宇宙船はトラブルが発生していたで良さそうです。しかしここまで来て母星に引き返す選択はなく、強引に地球着陸を試みたぐらいでしょうか。宇宙船は分解しながらも、かなりギリギリまで機能は保持していたのではないかとユッキー社長も、コトリ副社長も見ています。

    「社長、そのカプセルって緊急脱出用とか」
    「そうだと考えてる。このカプセルが宇宙船本体から切り離されたのは、十分に計算されたものだと考えてるわ」
    「どういうことですか」
    「人の手によって回収されてる点よ」

 カプセルに入っているのは意識のはずですが、意識だけでは活動できません。宿主である人が必要ですから、人と接触する必要があります。カプセルはマスコミに報道されたぐらいですから、それなりの人数がいるところに運ばれた事になります。

    「そうなると、取材が行われた街なりにすでに新たな神は拡散している可能性があるのですか」
    「否定は出来ないけど、神が見えるのは現時点ではわたしとコトリとユダぐらいしかいないのよ。それも目に見える範囲だけだから、ちょっと追いきれない感じだねぇ」

 そうだった、ミサキにも見えないんだよね。

    「でも手はあるわ。シノブちゃんにやってもらってる」
    「どうな手ですか」
    「地球の神と似てるのなら、強大であればあるほど地球語は話せないってこと。人格ごと入れ替わるからねぇ」
    「でも弱ければ」
    「その程度は問題にならないの」
    「地球の神と違っていたら」
    「そこまではわからないわよ。でも、心配し過ぎても仕方ないわ。それとね、これでね、もし戦いになっても純神同士の戦いになるわ」
    「どういうことですか」
    「母星の超兵器を運んでいたとしても、そっちの方は確実にオシャカになってるから」

 ここでちょっと話題が変わってしまうのですが、

    「ところで社長、あの泊まり込みの期間中ですが」
    「ちゃんとやってたよ」
    「どれだけ飲まれたのですか」
    「ちょっとだけよ」
 ビールの空き缶だけでも軽トラ一杯分ぐらいあって腰を抜かしました。それ以外にも、空き瓶のヤマ、ヤマ、ヤマ。いつのまにこれだけ買いこんでいたかと思うほどでした。まあ、喧嘩されなかっただけ良かったと思うしかありません。