アングマール戦記:高原進出(3)

 マウサルム・レッサウ戦はマウサルムの苦戦が続いていた。マウサルムはキボン川とペラト川の挟まれた国。ハムノン高原の中央部に位置する大国。この国は放置していたら遠の昔に高原の覇者になっていたはずだけど、コトリとユッキーが散々足を引っ張ってそうさせなかった国。

 今回のレッサウ戦の苦戦の原因は仲間割れ。これはマウサルムの持病みたいなもので、後継者争いが激しすぎるの。今回の仲間割れは王が病気になるところから始まってるの。まあ、コトリがやったんだけど。そこにレッサウの侵攻が始まったのだけど、この国の慣習として王たるものは軍陣に立つべしがあるのよね。

 でも病気で立てないんだけど、立てないから退位しろと迫られたんだ。これを王は拒否したんだけど、弟に殺されちゃったの。弟にすれば軍陣に立てないのに王であるのは許されないだけど、なんの事は無い自分が王になりたかっただけ。そしたら、王の三男が復讐として叔父を殺しちゃったのよね。

 話が煩雑になるけどマウサルムでは軍陣に立てないのに王であるのは犯罪行為なのよ。だから殺してまで排除した王の弟には実は正統性があるの。問題は王の長男を押しのけて王位に就こうとしたこと。だから三男が叔父を殺したんだけど、ここの長男の出来がイマイチというか拍子の悪い状態になってたんだ。

 叔父が王を殺した時に身の危険を感じて逃げたんだ。この判断は間違いとは言えないんだけど、戻ってきたのは三男が叔父を殺した後だったんだ。なんと言っても軍陣に立てなくなった王は退位すべしみたいな武勇を尊び過ぎる国だもんで、長男より三男に人気が集まったんだけど、長男も譲るわけもなく内戦突入。

 三男も長男を早く叩き潰したかたんだろうけど、レッサウとの戦争もあり、両面作戦を強いられて苦戦ってところ。なんとかゼロンを手中に収めたコトリはザラスに移動してまたも待ってた。そしたらザラス王にマウサルムの長男からの使者が来た。

    「援軍乞う」
 コトリは待ってたけど、何もしてなかった訳じゃなくて、エレギオン同盟のさらなら援軍を待ってた。とにかくシャウスさえ押さえておけばエレギオン同盟は安全だからかなりの大量動員をかけさせたんだ、マウサルムの長男の使者もエレギオン同盟軍の数に目を剥いてた。こんだけ動員をかけたのも理由があって、ゼロン戦のエレギオン軍の弱さにゲンナリしたのがあったの。弱いんなら数で勝負が一つと張り子の虎作戦ってところ。

 長男からは何度も援軍の要請があったけど、最後はマウサルムの安定を掲げて介入の姿勢でキボン川を渡ったの。川こそ渡ったものの陣を構えて動かなかったの。そう、長男にも味方せず、三男にも味方せず、もちろんレッサウにも味方しなかった。下手に戦うと張り子のトラの化けの皮が剥がれちゃうからだけど、見た目だけなら圧倒的な大軍だから、長男も三男もレッサウも動揺してた。

 そしたらコトリが期待していたものが来たの。マウサルムには骨のある家来が多いのよね。それも知ってたから絶対に動くと思ってた。マウサルムは南のレッサウの攻勢に苦戦し、内では長男と三男が王位争いで兵を構え、さらにエレギオン軍が介入している状況なのね。

 この苦境を脱するにはマウサルムが一丸にならないといけないんだけど、三男は個人の武勇に走るのみで戦争指揮については見限られてた。つまり乱暴なだけで王の器に無理があるなの。長男は既に卑怯者のレッテルが貼られてしまっているから、残っている次男を立てる動きが出ていたの。これがまずまずの器。

 打ち合わせが行われ、遂に決行。三男は家臣たちに殺され、長男はまたもや逃亡。次男の後ろ盾になったエレギオン軍はマウサルムに無血入城。エレギオン軍とマウサルム軍が合流したのを見たレッサウ軍は撤退。

 こうしてザラスだけではなくマウサルムも同盟者に加えたエレギオン同盟軍は、レッサウ、パライア、ラウレリア、イートス、さらにはクラナリスを次々と攻略し、高原地帯の制圧事業に成功。さらに山岳部に進出しカレム、モスラン、ウノスも同盟に加える大成果を挙げたの。三年ぐらいかかったけど、マウサルムがエレギオン同盟に加担したのは大きかったってところ。

 エレギオンの神殿で同盟の誓約が行われたけど盛会だった。十六か国の代表が一堂にそろって平和の到来を祝したものよ。戦争も血腥い面はあったけど、それでも最小限に留めたと思ってる。それとこの時にエレギオン軍は一度も負けなかった・・・ガチで戦ったのはゼロン戦だけなんだけど、

    『無敵』
 なんて言われて、笑ってもた。それでも凱旋将軍としてエレギオンに帰ったらユッキーが迎えてくれた。二人でビールをどれだけ飲んだことか。こんな時代にビールがあったかって? あったわよ、ワインだってあったんだから。シュメールもエラムも先進地帯だったの。

 ただエレギオンは長いこと慢性的に食糧不足だったから、ビールなんて作る余裕がなかった時代が長かっただけ。キボン川の下流地域を支配下に置けるようになったから、再び作り出していたぐらい。でもワインはあんまり作ってなかった。理由はようわからへんけど、エルグ平原にしろハムノン高原にしろブドウがあんまりなかったのと、当時のワインは甘ったるすぎる上に、アルコール度も低すぎて好まれなかったぐらいかな。

    「ユッキー、もう終りよね」
    「そうよ、もういないよ。この通商同盟の平和は絶対に守って見せるわ」
そう終りだと思っていた。でも悪夢はこれからだった。