初代の主女神の死に際してユッキーも、コトリも永遠の記憶を受け継ぐ女神になったんやけど、二代目以降の主女神には本当に手を焼いた。とにかく不安定だったんだ。エレギオンの地はもともと不毛の地で、これが主女神の恵みの力でなんとか農地になってるんやけど、その恵みが安定しないと不作どころか飢饉になるんよね。
コトリはこんな不安定な主女神の恵み頼りじゃ飢え死にしそうだから、もうちょっと豊かなキボン川流域に国を移そうと何回も提案したんやけど、ユッキーは、
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「主女神の選び給うた地を疑うなかれ」
主女神は眠ってくれると災厄をもたらさへんねんけど、恵みの力も落ちるのよね。だいたい四分の一程度かな。そうなると食い物減るやんか。それがあるから千年もの間、主女神を二人で宥めすかしとってんけど、
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「落ちた分はわたしとコトリでカバーすれば良い」
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「初代主女神がどうしてもの時に使いなさいって」
ただ食糧事情は安定せんかった。この辺はイタチごっこが確実にあって、食糧生産が増えると人口が増えるのよね。自然増加だけじゃなくて、移住者も来るわけ。人が増えれば食糧がもっと必要になるんやけど、コトリとユッキーがいくら頑張っても、ビソン川流域の開墾だけじゃ限界があったのよ。それぐらい土地の条件が悪かったのがエレギオンってところ。
さてやねんけど、エレギオンに移住した当初も周囲に人は住んどったけど、まだまだ遅れてた。というかシュメールやエラムが飛び抜けて先進地帯やったと言うてもエエと思う。ただ千年もすると進んで来たのよね。エレギオンを見習って農業が始まり、やがて村落から都市に発展していったわ。そりゃ千年もすればそうなるわ。
エレギオンのお隣に成立した都市国家がキボン川流域のズオン王国。ここも最初は随分助けてあげたのよ。農業技術も伝えたし、文字も教えた。エレギオンの食糧事情が苦しかったから、ここが発展して食糧供給基地になって欲しかったのもあったのよ。でも甘かった。
ズオン王国は発展するにつれて、助けてもらった恩を忘れてエレギオン併呑を目指すようになっちゃったの。あっちの方が食糧いっぱい作れるから人口も多いのよね。とくに激しくなったのがエレギオンに銅が見つかってから。青銅器で交易してたんだけど、交易で手に入れるより、大元を取っちゃおうってところ。
エレギオン軍は弱かったけど、都市を守る城壁はしっかりしてたし、武器だって青銅製フル装備だったから、ズオン王国軍が攻め寄せてきても撃退は可能だった。ただエレギオンの青銅はズオン王国だけでなく、さらに上流に成立していたベラテ、リューオン、ハマなどの都市国家からも狙われて攻め込まれた。
もちろんこの四国同士も争うから、ずっと攻められ通しじゃなかったけど、防衛戦はとにかく持ち出しばっかりでウンザリやってんよ。そこでユッキーと相談してズオン王国を併呑する事にしたの。この辺で一段大きいのはズオン王国やから、これとエレギオンが合わされば手出しする国が減るだろうって算段。ここはコトリが提案したんやけど、
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「コトリに恵みの力があるんやったら、災厄の力もあるはず」
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「女神って・・・こわ~」
エレギオンが大きくなったのでハマ、リューオン、ベラテも攻めて来んようになったんよ。それどころか友好条約みたいなものを結ぼうって言ってきた。こういう時の友好条約って婚姻政策やねんけど、エレギオンの実権は王じゃなくて女神なの。コトリも、ユッキーもそんな人身御供みたいな王子はいらんかったから、ちょっともめた。
そこで出来たのが通商同盟。自由貿易協定みたいなもので、同盟国の商人はどの国でも自由に商売ができるってぐらいの条約。なんかどの国も、
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「そんなもんでエエんか」
最初にやったハマ、リューオン、ベラテは物の見事に嵌ってくれて、短期間のうちにエレギオン無しでは暮らせんようになってくれた。それも、どうしてそうなったかさえ気づかなかったみたい。いつしかこの三国の政治はエレギオンからいかに援助を引き出すかがすべてになり、強固な同盟者になってくれた。