視察旅行は続きます。ミラノを皮切りに、トリノ、ジェノバ、ボローニャ、フィレンツェ、ローマ、ナポリ。コトリ部長もシノブ部長も疲れを知らないというか、よくあれだけ毎日パワフルでいられるものかと思われるほど精力的に回られます。ただなんですが、観光はほどんどされません。せいぜい、ジュエリーショップを訪ねまわる途中に、
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「見て見てシノブちゃん、あれコロッセウムよ」
「ホントだ、本物のコロッセウムだ。これは感動、イタリアに来て良かった」
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「ワイン」
「イタ飯」
これも不思議なのですが、トラットリアでもいつも大歓迎されます。そのためか毎日二時間ぐらい大盛り上がりになるのですが、ここで時間を使うぐらいなら少しは観光に時間を使っても良いと思うのですが、そうされます。
エレギオンの金銀細工師については、たしかに実在していたらしいのは回っているうちに情報として集まってきています。と言ってもトラットリア情報ですが、まさかエレギオン情報を仕入れるためにトラットリア巡りをされてるとかでしょうか。
ショップ巡りの方は相変わらず即断で却下が殆どなのですが、時々店に入り込んでの調査になる事があります。キチンと来店目的を告げて、商品の紹介を受ける感じです。そういう店は、ミサキの目から見てもレベルが高いのですが、それでもお二人がOKを出すことはありません。
そんなある店で売りものじゃないけどの断りの上で見せてもらったネックレスがありました。かなり年代物の気がしましたが、非常に華やかなのにすこぶる上品なものです。コトリ部長が、
後でコトリ部長に聞いたのですが、 ナポリでの夜です。相も変わらず、-
「ワイン」
「イタ飯」
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「シノブ部長は本物のエレギオンを見抜けるのですか」
「私はそこまでは無理。でもコトリ先輩ならわかるよ」
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「これはホンマは秘密やねんけど・・・」
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「たぶんだけど、内装も他のものもすべてエレギオンだった思うの。そりゃ、見事で美しいものだったよ。ついでにいえば、天使の教会の中で着せられる服は聖堂と違ってて、それ以外にもアクセサリーをいっぱい付けるんだけど、それも全部エレギオンで間違いないと思うの。だってマルコの持っていたのと、まったく同じ雰囲気だったもの」
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「聖ルチア女学院が廃校になって、指定文化財だった聖堂以外はすべて取り壊されてるの。もちろん天使の教会もよ。ただ取り壊しの時に作業員が入ってみると、床板から壁板、天井板まですべて剥がされていたのよ」
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「明日はヴェネツィアね」
「カポディキーノ国際空港からイージー・ジェットで一時間十五分ほどです」
「出発時刻は?」
「八時四五発です」
「そりゃ、早いわね。それじゃ、今晩はこれぐらいにしておかないと」
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「どうやって空港まで行くの」
「ムニチピオ広場から空港行きのシャトル・バスが二十分おきに出ていますから、それを利用します」
「タクシーならどうなの」
「シャトル・バスはタバッキで買えば三ユーロ、三人ですから九ユーロです。タクシーは定額制に出来れば十九ユーロです」
「じゃあ、バスね」
こうやって一緒に旅行しているとわかるのですが、シノブ部長はもちろんですが、コトリ部長の肌がお綺麗なのには本当に驚かされます。あの若々しさは化粧で誤魔化してる部分などないのが本当によく判りました。いつもコトリ部長は、
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「化粧はメンドクサイ」
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「まだか、まだか」
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「あれこそ水の都ベニス」
「ずっと見たかったんだ。こうやって飛行機で上から見れるなんて最高」
空港を出て道路を渡るとそこがバス停。券売機で六ユーロのチケットを買って5番乗り場に。どうも十五分おき程度に出てるみたいで、十分もしないうちにバスが到着、乗りこんでいざヴェネツイアに。バスはリベルタ橋を渡ってローマ広場のバス停に到着します。そこからは一路サンタ・ルチア駅方面に。
ローマ広場からサンタ・ルチア駅に向かうにはコスティツチオーネ橋を渡るのですが、どうもそうは呼ばれていないみたいで、カルバディーニ橋となってるみたいです。この橋はアーチ状になっている上にダラダラと階段が続いていて、スーツケースを引っ張る観光客には辛いのですが、なんとか渡り切るとコトリ部長とシノブ部長のテンションが上がる、上がる。
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「シノブちゃん、これこそ水の都ヴェネツィアよ」
「そうですよコトリ先輩」
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「見て、見て、ゴンドラよ、ゴンドラ」
「あっちにもゴンドラがいるよ」
ミサキが気になるのは、わざわざヴェネツィアを後回しにした理由です。見る限りでは、お楽しみを最後に取っておいたぐらいにしか思えないのですが、肝心のジュエリー・ブランドはまだ見つかっていません。これもエレギオンが目的なのは教えてもらいましたが、ここまで知る限りでは本物のエレギオンの宝飾品さえ見れていません。なにかこのヴェネツィアに手がかりでもあるのでしょうか。