コトリ部長は、
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「時差ボケが・・・」
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「コトリ先輩、違いますね」
「そうだね、次行こう」
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「シノブちゃん、流れは汲んでる気がしない?」
「でも真似てるだけと思う」
「コトリもそう思う」
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「ミサキちゃん、イタ飯、イタ飯」
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「予約は入れてる?」
「いえ、入れてませんが」
「じゃあ、予定変更でこの店にする」
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「コトリ先輩も、やっぱりこの店がイイと思うんだ」
店に入るとお客さんの視線が痛い。そりゃ、そうで、こういう下町のトラットリアは地元の人のための店ですし、いくら日本人観光客が多いといっても、下手すれば店が出来てから初めて迎える日本人かもしれないのです。いわゆる『よそ者』扱いです。ミサキが、どうしようと思っていたら、カウンターで料理を作っていたマスターが出てきて、
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「これは、これは、お美しいお嬢様方。当店にようこそ」
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「イタリア語はどこで勉強されたのですか?」
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「マルコって言うんだけど、イタリア語を教えてくれるのはイイんだけど、ついでにコトリもシノブちゃんも口説こうとして大変だったの。シノブちゃんは既婚者だからって逃げちゃったから、コトリだけがターゲットにされて、参った、参った」
「その時にね、いろいろイタリアのことも教えてもらってたの」
「コトリはイタリア男の口説かれ方を教えてもらったようなものだけど」
午後も午前と同じで、次々に店こそ回るものの、どこも却下でホテルに帰ります。まあ、パワフルというか、精力的というか、付いて回ったミサキのほうが疲れてしまいました。夜はホテルでディナー。二人は相変わらず、
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「ワイン」
「イタ飯」
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「ところでエレギオンってなんですか?」
「あ、それ。それはね・・・」
遥か紀元前というか、ギリシャ文明の頃からエレギオンと呼ばれる地に非常に高度な技術をもった金銀細工師集団が住んでいたそうです。その技術はエルフから伝えられたものとされ、王侯貴族が争って買い求めたとされます。
エレギオンでは金銀細工だけではなく、優れた武器も作られており、それによる武力も兼ね備え、非常に富栄えていたとされます。エレギオンは古代共和政ローマの時代にも栄えていたのですが、ポンペイウスのクリエンティスになっていたのだそうです。
ポンペイウスは海賊退治で目覚ましい活躍を残しますが、とくにキリキア沿岸の海賊退治の時にエレギオンが大きく力を貸したのが縁とされています。ポンペイウスは偉大な武将でしたが、政治力に欠けるというか、政治力があり余りすぎるライバルが出現します。ユリウス・カエサルです。
ポンペイウスとカエサルは提携した時期もありましたが、最終的には帝政を目指すカエサルと、共和政派に推されたポンペイウスの間で決戦がおこります。勝ったのはカエサルで、この時にポンペイウスを強く支持したエレギオンもカエサルによって滅ぼされてしまいます。
カエサルに滅ぼされたエレギオンの地は荒廃し、今はどこにあったのかさえ不明となっているそうです。金銀細工師集団も殺されたり、逃げ散ったりしたそうですが、その技術は細々ですが伝えられていったそうです。
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「でも、高度、高度と言われても大昔の話なので、現代技術と較べてどうなんですか」
「コトリもそう思ってたけど、マルコはエレギオンの金銀細工師が作ったとされるものを見せてくれたの。これがびっくりするほど素晴らしいのよ」
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「今はいなくなったって事ですか」
「いなくなったというか、正統の継承者の行方が不明になったぐらいかな」
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「マルコがいうには、エレギオンの金銀細工師は今でも実在するそうなのよ」
「ホントですか」
「ムソリーニが失脚したときに金銀細工師の一部を法王庁が密かに保護していたらしいの」
「それでは、コトリ部長やシノブ部長が探されてるのはエレギオンの金銀細工師の作品なのですか」
「そうよ」
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「でも、そんな伝説みたいな人が見つかるのですか。それと、見つかっても我が社のジュエリー部門に協力してくれるのですか」
「うん、とりあえず今やってるのは、ショップを出しているエレギオンの金銀細工師がいないかどうか探してるの。ここで見つかったら話は簡単じゃない」
「それはそうですが、見つからなかったら」
「その時はサンタ・ルチアなのよ」
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「これは・・・」