コトリ専務のエレギオン発掘プロジェクトは大成功に終わりました。クレイエール提供の特番は大反響で、あれだけで発掘プロジェクトにかけた予算は十分にお釣りがくると綾瀬社長は仰られていましたが、ミサキも同感です。もちろん当初の狙い通り、それだけの価値ある文化事業に大金を出したクレイエールの企業イメージは上がり、同時にエレギオンの名が広く周知されたのはもちろんです。コトリ専務は長期出張中に山積みされた仕事をアッと言う間に片付けて行き、次なる大仕事である高級品ブランド事業の責任担当に就任されています。ブランド名は、
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『クール・ド・キュヴェ』
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「ピンポ〜ン」
四人ともコトリ専務に懐いちゃって、懐いちゃって、一時たりともコトリ専務を休ませない感じです。コトリ専務は嫌がるどころか嬉しそうに相手するものですから、まさしくエンドレス。それこそ子どもたちが遊び疲れて眠るまで続きます。コトリ専務は、
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「主女神の子どもの養育係はコトリとユッキーが担当やってたから、懐かしくってさぁ」
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「エレギオンに着いた時の感想はいかがでした」
「とにかく支援拠点まででも四十時間ぐらいかかるから地獄のような旅やった。でも、着いた瞬間に疲れがみんな吹っ飛んだ。もう来ることないと思てたもんね」
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「変わってましたか」
「そりゃね。でも見ようによっては、アラッタからエレギオンの地に辿り着いた時の事まで思い出してもた。だいぶ変わってる部分もあったけど、神殿の丘はそのままやったものね」
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「そやなぁ、キャンプみたいで面白かったよ。でもやっぱりビール持っていくべきやった」
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「向こうではコトリ専務も掘ってたのですか」
「その気もあってんけど、弾みで女神やってた。あそこに立ったら抑えきれへんかった」
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「発掘は計画通り進みましたか」
「問題はどこを掘らせて、何を見つけさすかやってんよ。そりゃ、発掘成果にコトリのクビがかかってるもんね。そやから、まず本神殿の奉納品にして、次に図書館に誘導したんや」
「大神殿は地下室を見つけさせるためですか」
「表向きはそうやねんけど・・・ミサキちゃんとシノブちゃんにお土産持ってきたわ」
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「これは記念プレートなの」
「なんのですか」
「エレギオンのだよ。節目節目ぐらいに献納されたものなの」
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「材質は?」
「オリハルコンだよ」
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「これは調査隊が持ち帰らなかったのですか」
「そうだよ。たしかにあれこれ見つけてもらったけど、全部じゃないんだ。これはね、大神殿の地下室に隠してあったんだ」
「でもあそこも調査したはず」
「調査隊ぐらいに見つけられるものか」
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「デイオタルスなら見破る可能性があると思ってたけど、やっぱり無理だったみたい。武神はそういう小技が苦手やからな」
「というと」
「封印かけてたのよ」
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「地下室にはなにがあるのですか」
「下層は上層の三倍ぐらい広いのよ。そこにはまずエレギオンの歴史が石板に刻まれて置かれてるの」
「誰が書いたのですか」
「ユッキーも書いてる部分もあるけど、担当はコトリだったから、ほとんどコトリ」
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「他には?」
「奉納品」
「それって本神殿に収納されてるんじゃないのですか」
「ちょっとウソついといた。奉納品は金銀で作られた本物と真鍮で作られたレプリカがあったの。大祭中は本神殿に本物が展示されたけど、大祭が終われば本物は大神殿に収納されて、代わりにレプリカが展示されたの。本物なんて公開していたら盗まれるからね。だから本神殿にあるのはレプリカってこと」
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「まだあるのですか」
「あったよ、だからお土産持ってきたやん」
「他にも何かあるのですか」
「あるよ」
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「これなぁ、ユッキーともめたんよ。あるにはあるから支払おうってコトリは言ったんだけど、ユッキーは出そうが出そまいが滅ぼされるって言うのよ」
「だから今でも」
「結果的に見てユッキーの方が正しかった気はする。あの時のデイオタルスはエレギオンから絞り尽くそうとしていたから、下手に払うと『まだある、もっと出せ』としたと思うわ。それなら『無い袖は振れん』で交渉しても結果は変わらんやろって」
「でも結果は」
「終わる時はあんなものぐらいしか言いようがあらへんかった。それでもユッキーはいつかエレギオンの地に再建を夢見て隠しとこうって」
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「もし公開されてたら」
「そりゃ、ビッグニュースになるやるけど、あの国の文化財担当者がウンと言わんかったやろ。真鍮細工と文字の書いてある石板の欠片、レリーフの欠片やからガラクタ同然と思てくれたんよ」
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「そりゃ、タダと言うわけにはいかへんよ。とりあえず一万ドルで手を打っといた。あの国で一万ドルは使いでがあるからな」
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「これはマルコへのお土産」
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「コト〜リ、この指輪は・・・」
「そうだよオリジナル。それも最初に作られた一個目。ミサキちゃんに作ってたけど、少し変わってた部分があったから参考にしてね」
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「おお、この部分はこうなるのが正しかったのか。ここについての伝承は途切れてたみたいで、ひい爺さんも自信がないって言ってたんだ。本物のオリジナルをこの目に出来るなんて信じられない」
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「これもあげる」
「わお、回復のブレスレットのオリジナル。これもその一個目なのか」
「そうだよ。マルコの参考になると思って」
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「本物のエレギオンの金銀細工師の仕事が初めてわかった気がする。ボクは非の打ちどころがない完璧を目指していたけど、完璧なんて目標じゃないんだ。完璧は当たり前であって、そこに何を込めるかなんだ。このブレスレットに漂う余裕、伸びやかさは今のボクにはまだ届かない。まだまだ修行が足りない」
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「マルコはね、かつてのエレギオンの名人達人にも比肩する才能を持ってるわ。でもね、ライバルがいないの。かつてのエレギオンにはマルコ・クラスがゴロゴロしていて切磋琢磨していたの。それとね、何度か言ったけど最高級ブランド価値は量じゃなくて質よ。マルコの腕が上がれば、こんな歓迎すべきことはないの」
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「もう今さらかもしれませんが、持ち主の許可はどうだったのですか」
「筋だけ通しといた。エレギオンでは今で言う国有財産はすべて女神の所有物として取り扱われたんよ」
「どの女神ですか」
「もちろん主女神やねんけど、主女神が眠ってからは実質として四女神の所有になったのよ。でもね、四女神と言いながら実質取り仕切ってたのはコトリとユッキー。結果的には今もそうなってるけど、ユッキーの許可は取っといた。こういうところはキッチリしてるというか、ウルサイからね」
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「そういえば相本准教授の雰囲気はかなり変わられましたね」
「しゃ〜ないやろ。別に悪いことしてへんし」
「どういう意味ですか」
「ユッキーもどうしても行きたいって言うから、ついて来たんよ」
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「相本さんに宿っておられたのですか」
「そういうこと。だいたいは引っ込んどいてもらったんやけど、ユッキーもエレギオンの地に着いて興奮したみたい。そりゃ、そうよね」
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「あの日は二人でずっと話してた。一日なんて短くて、短くて仕方がなかったけど話してた。日も傾きかけて現地本部に帰る時刻が迫ってきたら、ユッキーが帰りたくないってダダこねるのよね」
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「コトリはね、ここはエレギオンの地ではあるけど、もう国民もいないし、街だって残っていない。こんな原野みたいなところに残れるわけないやんって宥めたんだけど・・・」
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「コトリだって残りたかったんだよ。あそこで野垂れ死にしてもイイから残りたかった。二人で抱き合ってワンワン泣いちゃった」
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「だから相本さんは」
「そうだよ、たとえ引っ込んでいてもユッキーが宿るだけで女なら変わっちゃうのよ。男が変わらんのはカズ君見てわかったけど、女は必ずね。もちろん、もう少しお礼の意味でプラスアルファしてるけど。でもあの子もイイ子よ。宿ったユッキーがそう言ったたんだから間違いないわ」