在宅医療の基礎計算

ようわからん

自分がやっていない事の情報を集めるのがこんなに難しいとは思いませんでした。泥縄式に調べていくと、現在の在宅治療の主流は

リンク先は施設基準ですが、とりあえず確認できなかった情報は、
    在宅支援診療所は週に18時間以上の一般外来が必要
情報提供者の方はこういう情報であれば十分に信用できると判断していますが、週に18時間と言えば月〜土の午前診に相当します。だから午後しか訪問診療は出来ないとの話でしたが、どこにそういう要件があるのか遺憾ながら確認できませんでした。もう一つ似たような要件ですが、
    訪問診療は月2回以上で良いから
これも訪問上限はどこかに書いてありましたが、下限については遺憾ながら確認出来ませんでした。確認できないからヨタとは間違っても考えていませんが、見つけられなかったのはチト気色悪かったと言うところです。まあ、保険診療報酬体系なんて謎々みたいなものですから、日常的に関りのない分野なんて「こんなものだ」と、とりあえずあきらめ「どこかにある」として一応考えてみます。



計算はドライにやります

在宅医療の用語として計画的に行ったものは訪問診療、そうでないものは往診とするそうですが、今日は

    訪問・・・定期
    往診・・・臨時
こうさせて頂きます。門外漢の計算ですのでドライに
    定期・・・担当人数によるbase診療回数
    臨時・・・不定期に発生した診療回数
さらに個々の事情を言い出すとキリが無いので、定期診察回数は2週間に1回とします。それと外来要件情報の存在を尊重するとすれば、在宅に当てられる時間は午後の4時間になります。ここはチョット別条件も考えてます。それと診察日は月〜金の5日間とします。想定しているモデルはとりあえず1人でやっている診療所です。それと在宅診療先は個人宅と想定しています。


時間推測

前にも書きましたが、在宅診療の時間は単純化すると、

  1. 在宅時間・・・患家に到着し診療を行い患家を出るまで
  2. 移動時間・・・患家を出て次の患家に到着するまで
この2つの和になります。この和を「診察回」と今日は定義しておきます。この診察回時間で診療時間を割れば診察回数の上限が出てくるわけです。計算方法自体は単純なんですが、どちらの時間も雲をつかむような話になります。診察時間も患者の容態によって長短様々ですし、移動時間もまた然りです。とりあえず診察時間について手にした情報は、
  1. 1時間で3人など到底無理
  2. 順調なら2時間で5人ぐらいは可能
  3. 週に40人程度が目一杯の話がある(午後のみ想定)
ここから考えると「1時間で2人」が現実的には上限と見ます。担当患者の質によってはもっと頻度が落ちたり、逆に上ったりはあるでしょうが、これ以上は考えても答えが出ないので「1時間に2人」とします。ただこれでは在宅時間は出てきません。移動時間が不明だからです。これも前線の医師の情報として実診療時間は、
  • 1人5分ぐらいで余裕
  • 10〜15分ぐらい
  • 早ければ5分で済む
  • 計算したら8分ぐらいかな
情報としてはこれぐらいから考えないと仕方がありませんが、ここも割り切って10分とします。在宅時間は実診療時間だけではなく家への出入も含まれますから、う〜ん、う〜ん、「15分」とします。そうなれば、
    在宅時間:15分
    移動時間:15分
これで診療回時間は30分程度になり、1時間に2人診察が可能になります。かなり力業ですが標準診療回モデルとして今日は扱います。実情とずれている部分があるかもしれませんが、私が知りえた情報ではこれ以上の推測は無理です。


臨時往診

これもまた集めたデータがバラバラで結論を出し難いのですが、とりあえず全診療回数の5%ぐらいとしてみます。たとえば1週間に40診療回やれば38回が定期で2回が臨時です。5%が高いか低いかも異論は多いでしょうが、後の話のためにあえてこの水準にしています。それと5%は全臨時往診回数の事を指すのではなく、あくまでも定時(13時〜17時)の4時間の間に発生するものです。


採算ラインと梯子問題

現在の採算ラインは40人程度がラインで60人ぐらいで相当余裕になると聞いたことがあります。これも外来診察数との兼ね合いがありますが、在宅専従に近い、つまり外来収入を殆んど期待しなくとも40人で採算ラインと仮定します。まあ経営的には50人ぐらいは欲しいと言ったところでしょうか。おおよそこんなぐらいが現在の採算ラインとします。

これが恒例の梯子外しが始まると、どこまで採算ラインが上るかです。これについては極北で100人説があるのは先日紹介しました。100人と言われても門外漢には想像し難いので、上記で推測したデータでどれぐらいのものになるかのシミュレーションをやってみます。


シミュレーション その1

2時間に1人モデルでは週に40診療回、2週間で80診療回となります。このうち5%の臨時を引くと76人が担当できるとりあえずの上限になります。この辺を表にすると(2週間モデルです)、

診療時間 移動時間 診療回数 担当患者数
15 5 120 114
10 96 91
15 80 76
20 69 65
25 60 57
30 53 51

まあこんな感じです。診療時間の短縮は難しいですが、移動時間が30分でも経営的には採算ラインを越える事は机上では可能です。ここで外来18時間要件が無いと仮定し、午前午後に3時間ずつの6時間を在宅診療時間にあてたらどうなるかです。
診療時間 移動時間 診療回数 担当患者数
15 5 180 171
10 144 137
15 120 114
20 103 98
25 90 86
30 80 76

もちろん余裕でクリアします。
シミュレーション その2
ここで注意なんですが、この表の数字はあくまでも計算上の上限です。どこもかしこもいつの時代も上限で回せるものではありません。少しは余裕がないと体制として長期稼動が難しくなります。また基本的に上限を目指すのが経営者の心理ではありますが、医師やスタッフの能力、担当患者の組み合わせによっては上限が難しい時も当然出てきます。そこで簡単な目安表を作っておきます。
4時間モデル
移動時間 上限 90% 80% 70%
5 114 103 91 80
10 91 82 73 64
15 76 68 61 53
20 65 59 52 46
25 57 51 46 40
30 51 46 41 36
6時間モデル
移動時間 上限 90% 80% 70%
5 171 154 137 120
10 137 123 110 96
15 114 103 91 80
20 98 88 78 69
25 86 77 69 60
30 76 68 61 53

さて梯子が外されて採算ラインが上った時です。これもちょっとしたシミュレーションですが、某巨大掲示板由来の用語を使って表現して見ます。表の単位は担当患者数にしています。
採算ライン フツクリ ウハクリ
40 50 60
50 63 75
60 75 90
70 88 105
80 100 120
90 113 135
100 125 150

梯子が外されるとは単価も下がるので、フツクリ・ライン、ウハクリ・ラインの人数も採算ラインの増加以上に増えます。先日100人説を出しましたが、ここまでになると4時間モデルで移動時間5分で90%以上の稼働率が必要になります。こうなるとたぶん経営として成立しなくなると考えられます。6時間モデルでもきつくて、移動時間15分で稼働率90%以上からでやっと成立です。 100人はいくらなんでも極北なので、せめて採算ライン80人で考えても、4時間モデルでは移動時間10分の稼働率90%以上ですから、これも殆んど成立するところは無い気がします。6時間モデルなら
  1. 移動時間15分なら稼動率70%以上で採算ライン
  2. 移動時間が20分なら稼働率80%以上
  3. 移動時間が25分になると稼働率90%%以上
これも標準回モデルなら経営は成立しそうですが、移動時間は医療機関なり医師の努力でどうにかなるものではなく、地理的条件に縛られますから、成立不可能のところは多々生れてきそうな感じがします。


門外漢の感想

あえて私が実感できるものに在宅の診療回を置き換えると、2週間の診療回数は、普通の外来のみの診療所の1日の診療人数の感覚にやや近いかもしれません。小児科診療所ならそんな感じです。立地条件によっても変わりますが、40人ぐらい来れば何とか採算ラインに乗り、50人ぐらいになれば一息つけます。逆に連日100人になってくると体がもたない感じです。

在宅診療がそんな感じなのかどうかは存じませんが、いつの時点でどこまで梯子が外されるかで上記のシミュレーションは変わってくると思っています。甚だ粗っぽいシミュレーションで異論・反論も多い事かと存じますが、標準モデル的にどれほどの受け持ちが可能かの理論武装を在宅に従事される方はこれから必要と思っています。もちろんこんな雑な推測に依るものではなくです。

梯子の外され方の一つの指標と言うか目安になるのは施設医療のコストです。在宅推進の大きな要因の一つに終末期の濃厚治療による医療費の高騰の抑制があります。これが施設医療のままでは抑制の手立てが難しいので在宅にシフトさせているはあると見ています。現在の採算ラインも施設の治療に較べるとこれでも「安い」ぐらいの感覚でしょうか。

この施設のコストもDPCにより抑制傾向が進んでいるの情報もあります。在宅コストは施設より安くなければ医療政策として意味がなくなりますから、施設コストが下がれば相対的に在宅のコストも下げられるだろうです。これが今後どういう速度で展開されるかは・・・私には予想できませんが、いずれそうなるだろうぐらいは予想可能と思っています。


まあ外来だけの診療所の扱いも似たようなものになっていく可能性もまた十分にありますから、他人事ではありません。これから10年後、いや東京五輪が開催される頃にはどうなっているかなんて・・・あんまり先の事は心配しないようにしておきます。したところでどうにもならない訳で、「その時に考える」以上のものはできないですし・・・

てな訳でもありませんが、今週は在宅連載になりましたがこれで一応の打ち止め。明日は休載にさせて頂きます。情報提供に御協力頂いた方々に感謝します。