麻疹の流行みたいなお話

風疹ばかりじゃ食傷気味なので今日は麻疹の流行のお話(あんまり変わらんじゃないかのお叱りは甘んじて受けます)です。なかなかデータが上手く集まらなかったのですが、確実に確認できるところでIASRの麻疹 2006〜2007年より、

乳幼児を中心に、全国で約27.8万人の麻疹患者が発生したと推計される2001年の流行を経験

ひぇぇ、2001年には「約27.8万人」だったようです。さらにIASRの麻疹 2001〜2003年には、

2003年の患者報告数は過去20年間で最も少なく、2001年の4分の1となった

おぉ、減ったと一瞬思いましたが、2001年の1/4と言っても約7万人で、これが過去20年間で最も少ないと言う事は、1884〜2003年まではおおよそ10万人ぐらいは麻疹患者が発生していた事になります。これは実感とも合ってまして、結構外来で麻疹患者をよく診ました。当時のワクチン状況がどうなっていたかですが、IASRの2002年度麻疹血清疫学調査ならびにワクチン接種率調査−2002年度感染症流行予測調査よりに、

予防接種歴は麻疹を対象疾病とする10県中9県で調査されていた。接種歴不明1,048名を除いた1,293名の麻疹ワクチン(MMRワクチンを含む)接種率は86.2%であり、2001年の80.7%、2000年の75.2%、1997年の69.9%

こんなものだったようです。でもって次に有名な2007年の流行なんですがIASRでも感染者数については曖昧な書き方をしていまして、

第1〜31週までの累積で、小児科定点当たり報告数は0.77人(累積報告数2,307人;男1,283、女1,024)、基幹定点当たり報告数は1.69人(同772人;男414、女358)となり、特に成人麻疹患者数が増加している。

とりあえず「1〜31週」の累積データで、小児科定点と基幹定点が重複していないとして3079人です。その後は書いていないぐらいですから終息に向かったとのかもしれませんが、どうもはっきりしません。はっきりしているのは2008年の全数調査からで、国立感染症研究所麻疹発生動向調査に2008年の第3週以降のデータが公開されています。2007年の麻疹騒動は覚えていますが、データ的には2008年も負けず劣らずだったようで、年間の累積患者数は、

    11005人
2007年の方が社会的には話題になった気がしますが、2008年になって沈静化したようにはあんまり見えません。ちなみに2008年で一番多かったのは神奈川で3557例となっています。とは言え2001年には27.8万人とか、7万人ぐらいで「過去20年間で最低」なんて2003年よりよりはマシになっているの評価かもしれません。以後の推移です。

累積患者数 備考
2008 11005 3-51週
2009 741
2010 457
2011 434
2012 293
2013 142 1-23週


データ的には2007年の流行は2009年になってようやく終息したとする方が良さそうです。ワクチン接種率はダイレクトなものが見つからなかったので、2006年までのものをIASRの2006年度麻疹血清疫学調査ならびにワクチン接種率調査−2006年度感染症流行予測調査よりより、

麻疹ワクチン(MRワクチンMMRワクチンを含む)接種率は、接種歴不明3,177名を除いた2,815名でみると87.7%であり、2005年の86.1%、2004年の79.4%、2003年の79.3%

こんなもののようです。2007-2008年の流行が再び起こる可能性ですが、麻疹の有効抗体価保有率で考えてみると

2007-2008年の流行前と較べてもさほどの保有率の上昇があるとは思えません。さほど力むほどの分析ではありませんが、いつでも起こりうる可能性はあると言うところです。これが日本のデータなんですが、CDCのProgress Toward Interrupting Indigenous Measles Transmission ---Region of the Americas, January--November 2001のグラフを引用します。
アメリカも1990年代の前半には多くの麻疹患者の発生があった事が確認できます。これがドンドン減っていき、2001年には輸入例を除いての撲滅宣言が行われています。撲滅宣言と言っても423例もあるじゃないかと言われそうですが、
全例がベネズエラやドミニカ、ハイチなどの海外からの輸入例であり、国内発症がゼロとなり撲滅宣言となっています。同様に風疹は2004年に撲滅宣言が行われているそうです。アメリカにも強固な反ワクチン派がいたはずですが、それでも出来たと言うところです。あんまり「アメリカが〜」を振り回すと顰蹙を買いますが、時には振り回したい誘惑にかられます。