国民栄誉賞

今日は敬称を略させて頂きますので御了解下さい。国民栄誉賞表彰規程によると、

1 目的

 この表彰は、広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えることを目的とする

「敬愛」と「明るい希望」による業績に対する表彰となっていますが、どうやって選ぶかについては国民栄誉賞表彰規程実施要領に、

内閣総理大臣が表彰を行おうとするときは、候補者について、民間有識者の意見を聞くものとする。

ただし選考基準が明瞭でないのはwikipediaより、

  • 翌2004年(平成16年)には、当時の内閣官房長官細田博之が、選考について「確たる基準がなく、その時々の判断」
  • 顕彰の事務手続きを行う内閣府官僚も、「結局、時の政権が『国民栄誉賞を出したい』と言えば出さざるを得ない」としている

選考側自身がそう言っていると仄聞します。ぶっちゃけ、時の首相の意向が濃厚に入り込むで良いかと思っています。まあそういう賞があっても別に構わないとは思っていますが、個人的に表彰対象はナンバー・ワンと言うよりオンリー・ワンの性格が強いと思っています。その時々でオンリー・ワンと支持される人間が選ばれる表彰です。


さて松井は偉大な選手です。松井の成績・人気から国民栄誉賞を受けても異存はありません。それに値する選手と思うからです。たとえ野茂を差し置いてもその点も容認します。野茂の成績も偉大ですが、人気と言う点では松井に譲るからです。大リーグの打のパイオニアとしてイチローと並ぶ存在であり、イチローが現役を理由に辞退しているのなら松井が受けても不思議とは思わないです。

長嶋はどうかと言えば、さすがに私の年齢でも現役時代の最晩年の2〜3年を辛うじて知っているだけです。それでも選手としての評価・人気はプロ野球史上で随一として良いかと見ています。現役時代から既に伝説化していた部分があり、引退後は完全に伝説となっています。たぶん歴代オールスターの正三塁手を選ぶとしたらダントツで長嶋だと思いますし、4番もまた長嶋の支持が圧倒的な様な気がします。

長嶋の存在感は今となっては少々分かり難いかもしれませんが、当時のプロ野球のスターの地位は圧倒的に高く、さらに巨人の地位は頭抜けて高く、長嶋の位置付けは単なるプロ野球のスーパースターだけではなく、国民のスターでありアイドルであったと言えば良いでしょうか。こういうタイプのスーパースターの系譜は現在では絶えてしまったので今では実感が難しいと思っています。私とて辛うじて知っているぐらいです。


これまでプロ野球界で国民栄誉賞を受けているのは本塁打世界記録を作った王貞治と、連続試合出場世界記録(当時)を樹立した「鉄人」衣笠祥雄です。どちらも偉大な選手で国民栄誉賞に相応しい選出だと思っています。では長嶋が当時何故に選ばれなかったですが、一つは監督時代の成績でややケチがついたのと、長嶋には突出した記録がなかった点と考えています。トータルで見ると素晴らしい成績なのですが、個々では突出したNo.1はなかったぐらいでしょうか。とくにプロ野球での1号(いや国民栄誉賞1号)が本塁打世界記録の王だったので、なんとなく表彰しそびれたみたいな感じです。

松井もそういう点では類似している面があり、活躍ぶりは誰しも認めるところですが、記憶には強烈であっても記録となると突出していない感じです。こういうタイプは新聞の一面を飾ると言う点の印象は強いですが、具体的に表彰として評価する実績となるとチト困るみたいな感じです。一点突破の成績評価に近い女子サッカーとは対照的なところです。


今回のセット表彰で引っかかるのは松井も長嶋もジャンルがかなり被る点です。プロ野球でも投手と打者とか、同じ打者でもホームラン・バッタータイプの強打者とアベレージ・ヒッタータイプの好打者なら評価の次元は異なります。ところが長嶋も松井も類似の強打者タイプです。もっと言えば強打者タイプの表彰なら王が先に表彰を受けています。

2人のオンリー・ワン評価は強打者としての記録の評価ではなく、時代を飾ったスーパースターの評価と見た方が良いかもしれません。そういう点では長嶋は間違い無く球界どころか日本のスーパースターであり、その点の評価にケチをつける人間はさほど多くないと思います。長嶋を知る世代の人間ならとくにそうだと思います。

松井も時代のスターですが、長嶋と活躍年代が違うので同等かと言われると、申し訳ありませんが違和感が少々残ります。そりゃ伝説と化している長嶋と較べるのは歳月の差があるにしても、長嶋は現役時代から伝説化が始まっていたほどの大選手だからです。またそういう時代でもあったと言うところです。

松井のオンリー・ワン評価はスーパースター評価で長嶋と較べるべきではないと思っています。松井が一番受けるべき評価はメジャーでの活躍でしょう。松井はイチローや野茂と共にメジャーへの門戸を大きく開いた偉大なパイオニアだからです。また野茂、松井、イチローの後もメジャーデビューを果たした日本人選手は数多くいますが、曲がりなりにも強打者として成功したのは松井だけと記憶しています。その点を評価しオンリーワンとして表彰するのなら異論はまだ少なそうな気がしています。


プロ野球ファンとして思うのは、長嶋も、松井も表彰に値する選手であるのは認めても抱き合わせは堪忍して欲しいと言うところでしょうか。長嶋に関しては年齢も病気もあり今年に表彰する意味はあると思いますが、松井は長嶋と時期をずらして表彰してもエエんじゃないかです。それぐらい待つ時間は松井には十分にあると思います。

それと巷間囁かれている嫌な話があります。松井は人間的にも謙虚さをわきまえた人間と聞きます。まともに松井に国民栄誉賞の打診を行っても断られる公算が高いの見方です。メジャーのパイオニア評価にしても、投手なら野茂がいますし、打者ならイチローがいます。この2人を差し置いて表彰を受けるのには遠慮があるとの考え方です。そこで松井の恩師でもある長嶋を抱き合わせにしたの噂です。

あくまでも噂ですが、そういう噂が広まるだけでも松井にとって極めて不本意だと思います。そういう評価のされ方は松井にとっても一番嫌では無いかと思っています。さらにそういう評価のされ方は長嶋にとっても大いなる侮辱です。長嶋は長嶋であり、長嶋と言うだけで表彰資格を十二分に満たしているからです。間違っても松井の「ついで」みたいな存在ではないからです。


ぶつぶつ考えるより素直に称えるべきとは思うのですが、異例の2人同時受賞になぜかモヤモヤしたものを感じてしまいます。これはwikipediaにあった国民栄誉賞辞退者の3人のうちの1人である福本豊のエピソードです。

福本豊 - 1983年(昭和58年)6月に当時の世界記録となる通算939盗塁を達成。中曽根康弘首相から授与を打診されたが、「そんなんもろたら立ちションもでけへんようになる」(本人談)と固辞。

誤解して欲しくないのですが、松井に辞退を勧めているわけではありません。表彰を受ける受けないは個人の考え方です。松井はキャラからして福本みたいな角を立てずに、ファンが喜んでくれるのなら素直に受けたいタイプと思っています。私が思ったのは表彰するのであれば、喜んで表彰を受けたい状況作りも大事なんじゃないかと思ったぐらいです。

もちろん松井自身が長嶋とセットである事を心から名誉と思われているのなら、それはそれで他人がとやかく言う事でないのは言うまでもないことです。まあ、こういう状況で松井が辞退すると長嶋の名誉にも傷が付きかねませんし、発表段階に至っているので受諾はOKされたと思っています。


出来た時から国民栄誉賞の選考は色々言われていました。とくに最近は「ほいじゃ、○○はどうなんだ?」的な異論が表彰のたびに多くなっている気がします。表彰された人物にとって全く無関係なものであるだけに複雑です。表彰された人物は、少なくともその分野で偉大な功績を残しているのは間違いありませんから非常に気の毒です。もっと素直に称える環境を作るべきと思っています。

個人的に国民栄誉賞を少し変えて、殿堂方式にすればどうだろうと思っています。殿堂方式とは表彰の最低ラインが基準としてあり、それをクリアすれば殿堂入りの栄誉が与えられる方式です。基準ラインさえクリアすればその上の評価は青天井ですから、表彰された人物の評価に差があっても問題ではありません。記録や成績によって評価されるスポーツ選手であってさえナンバー・ワンどころかオンリー・ワンの評価は割れるのですから、殿堂入りの栄誉にしてしまう方が無難な気がします。

もっとも殿堂方式にしても、そこからさらにピックアップしての表彰をやりたがるのが人間ですから、あんまり解決にならないかもしれません。