ここはガンバレ厚労省

昨日の混合診療解禁訴訟の判決文の解説は消耗させられたので、今日は休載しようと思ったぐらいです。どうもニュースを追いかけるのが一歩遅れているのですが、この判決に呼応する動きをfollowしてみたいと思います。

11/16付朝日新聞より、

混合診療「全面解禁を」 規制改革会議、重点項目に
2007年11月16日00時56分

 政府の規制改革会議(議長・草刈隆郎日本郵船会長)は15日、保険の利かない自由診療保険診療を組み合わせた「混合診療」の全面解禁を、12月にまとめる第2次答申の重点項目に盛り込む方針を発表した。混合診療は現在一部が例外的に認められているが、厚生労働省は全面解禁には反対しており、年末にかけて議論になりそうだ。

 同会議の松井道夫主査(松井証券社長)はこの日の記者会見で、厚労省混合診療を原則として禁止していることについて「患者の選択権の話に官が介入するのはおかしい」と批判した。

 松井氏はまた、東京地裁で今月7日に「混合診療の禁止に法的根拠はない」との判決が出たことをあげ、「国が控訴した場合、最重要課題として全面解禁に向けて論争する」とも述べた。

 同会議は15日、地裁で勝訴した原告男性らから聞き取りをした。今後は厚労省との公開討論会や医師らへのヒアリングを予定している。

 混合診療の解禁をめぐっては、規制改革会議の前身の規制改革・民間開放推進会議厚労省が04年に対立。全面解禁は見送られ、例外的に混合診療を認める医療機関と医療技術を拡大することになった。その後、薬事法の認可要件が新たに加わり、同会議側は「規制改革の効果が限定的になっている」と主張する。

 一方、厚労省は「安全性が確保できていない医療の誘いに患者が乗りやすくなる危険性がある。必要な医療は保険制度の下でしっかり提供していく」(医療課)として、全面解禁には反対する姿勢を崩していない。

記事のポイントは

出てくるだろうと予想された動きです。ここでさらにポイントなのは、規制改革会議の方針が全面解禁である事は極めて重要な主張かと考えます。医師の意見も様々で混合診療解禁派の方も決して少なくありません。しかし医師の賛成派も全面解禁まで賛成しているのはごく少数派と考えています。医師が賛成している混合診療部分は、真に患者の治療に必要な保険未承認治療を指します。日本で認められていない有効な抗がん剤とか、新技術による手術法などです。これが使えないばっかりに、助けられるかもしれない患者を指をくわえてみるしかない事が治療の最前線では起こっているからです。

本当に有益な治療法であり、他の先進諸国でも効果が実証されているものなら、日本でも速やかに承認されればこういう問題は起こらないのですが、日本の場合はかなりユックリであることは医師の間では常識です。ユックリを慎重と見ることも不可能ではありませんが、患者は目の前で日一日と病状が進行しているわけであり、「2〜3年後には」と言われても、そういう患者には無限に等しい時間となります。承認スピードが上らないのであれば、せめてそれまでの間は混合治療でなんとかならないのかという心情です。

この理屈は前々首相が混合診療解禁を打ち出したときにも話され、これへの賛同者は少なくないと考えています。医師も同様で、そういう考えの者も確実に存在しています。しかし医師の賛成派と規制改革会議の推進派とはかなりスタンスが違います。つまり、

限定緩和には特定療養制度がありますが、これすら現場の先端には追いついていないので、患者の治療に必要不可欠な物に限って思い切って緩和しようという考えです。また混合診療として行なうにしても、これはあくまでも保険適用承認までの「つなぎ」であり、本来的にはすべて保険適用に移行すべしという考えです。保険適用への速度が遅すぎるから、患者の治療のために混合診療を行うべきだという考えです。

規制改革会議の全面解禁はかなりニュアンスが違います。規制改革会議だけではなく、この手の御用会議ならびに財務省が目の仇にしているのは医療費です。しかし彼らが目の仇にしているのは医療費全体ではありません。医療費の中の公費負担、すなわち保険料や国庫支出が惜しくてしようがないのです。財務省が国庫支出が惜しいのは目に見えてわかり安いですが、保険料は個人で納めているので関係無さそうですが、社会保険では企業負担があり、これが財界人にはリストラの対象にしか見えないのです。

具体的にどうしたいかがNATROM様も引用された規制改革会議の資料の3ページにあります。




これが規制改革会議の全面解禁の未来図です。ある程度のイメージなので、正確な金額や負担を表しているわけではないでしょうが、医療費全体は2倍弱に膨れ上がります。現在特定療養制度として限定的に認められている自由診療部分が5倍程度に増大します。一方で保険適用部分は、8割程度に減少します。

とくに注目して欲しいのは保険診療部分の縮小です。ここについての規制改革会議の見解は、

  • 医療のムダの排除、透明化により、保険財政を効率化
役所用語の「効率化」についての説明は省略しますが、ごく簡単に縮小は即保険適用治療の縮小につながります。縮小するのであって、新たな有効な治療の保険適用はほとんど望めなくなるといって良いかと考えます。

続いて自由診療が5倍以上となり、保険診療の2倍以上になる事を、

  • 先進医療の普及、医療技術水準の向上
  • 医療サービスに対する国民の膨大なニーズの顕在化
  • 経済の活性化、GDPの拡大、雇用の創出
順番に評価すると、

先進医療の普及、医療技術水準の向上

先進医療の開発は自由診療で利益を確保されれば行われるかと考えます。しかし自由診療下で高額の費用を要する治療を受けられる患者は極めて限定され、あまねく国民に「普及しない」事は、アメリカの例を見ると間違いありません。

医療サービスに対する国民の膨大なニーズの顕在化

そりゃ顕在化するでしょう。あれだけ自費診療分が増えれば、そこを補ってくれる民間保険の誕生は必至です。金が無いとロクな治療は受けられませんし、金の切れ目が命の切れ目の世の中になります。そのニーズの膨大さは、先日報道されたアメリカのスノー報道官が、報道官の給与では民間保険料を支払えないから辞任を余儀なくされるほどですから、文字通り「膨大」かと考えられます。

経済の活性化、GDPの拡大、雇用の創出

これも規制改革会議の図表を見ればよくわかります。医療費が現在の2倍になればそれだけの周辺産業が誕生します。その財源は国民が負担するわけですから、財界は払った給与の回収手段が誕生しますし、お金が循環すればそれだけで経済が活性化します。

それにしても年収400万でホワイトカラーとされてしまう国民で、規制改革会議の混合診療全面解禁のメリットをどれだけの人数が享受できるか甚だ疑問です。私はどう考えても規制改革会議の主導の下で行なわれる全面解禁には賛成できません。ここは反対の立場を建前上明確にしている厚労省に「ガンバレ」としておきます。