混合診療解禁訴訟・判決文

平成18年(行ウ)第124号 健康保険受給権確認請求事件となっており、11/7に判決が下っています。判決文は全20ページです。読んでみたのですが、医療訴訟の範疇には含まれる判決ですが、内容は純粋の法解釈論です。どうにも難解で、私もどれだけ理解しているか怪しいですが、分かる範囲できるだけ頑張ってみます。

争点は単純で、原告が腎臓癌の治療のために受けた2つの治療

この二つを併用した医療が混合医療にあたり全額自己負担であると主張する被告と、混合診療禁止なるものの規定自体が法に定められておらず、保険適用分は保険給付されるべしだとする原告のガチンコ勝負です。裁判で具体的に争点として争われたのは次の3点です。
  • 争点1:複数の医療行為が行われる場合には,それらを不可分一体の1つの医療行為とみて,法63条1項の「療養の給付」に該当するか否かを判断すべきであると解すべきかどうか。
  • 争点2:保険外併用療養費制度について定めた法86条の解釈によって,同制度に該当するもの以外の混合診療については,本来保険診療に該当するものも含めて,すべて法63条1項の「療養の給付」に当たらないと解釈することができるか。
  • 争点3:同じく保険料を支払っているにもかかわらず,混合診療になると,保険診療に該当する部分についても保険給付を受けられなくなることは,憲法14条等に反するといえるか。
これらについて、被告側の主張と裁判所判断を見比べてみたいと思います。まずその前に争点に出てくる健康保険法63条を確認すると、

(療養の給付)
第63条 

被保険者(老人保健法(昭和57年法律第80号)の規定による医療を受けることができる者を除く。以下この条、第85条、第86条、第88条及び第97条において同じ。)の疾病又は負傷に関しては、次に掲げる療養の給付を行う。
  1.診察
  2.薬剤又は治療材料の支給
  3.処置、手術その他の治療
  4.居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
  5.病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護

  1. 次に掲げる療養に係る給付は、前項の給付に含まれないものとする。
    1.食事の提供である療養であって前項第5号に掲げる療養と併せて行うもの(医療法(昭和23年法律第205号)第7条第2項第4号に規定する療養病床(以下「療養病床」という。)への入院及びその療養に伴う世話その他の看護であって、当該療養を受ける際、70歳に達する日の属する月の翌月以後である被保険者(以下「特定長期入院被保険者」という。)に係るものを除く。以下「食事療養」という。)
  2. 次に掲げる療養であって前項第5号に掲げる療養と併せて行うもの(特定長期入院被保険者に係るものに限る。以下「生活療養」という。)

    イ 食事の提供である療養

    ロ 温度、照明及び給水に関する適切な療養環境の形成である療養
  3. 厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、前項の給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養として厚生労働大臣が定めるもの(以下「評価療養」という。)
  4. 被保険者の選定に係る特別の病室の提供その他の厚生労働大臣が定める療養(以下「選定療養」という。)

同じく86条は、

(保険外併用療養費)
第86条

 被保険者が、厚生労働省令で定めるところにより、第63条第3項各号に掲げる病院若しくは診療所又は薬局(以下「保険医療機関等」と総称する。)のうち自己の選定するものから、評価療養又は選定療養を受けたときは、その療養に要した費用について、保険外併用療養費を支給する

  1. 保険外併用療養費の額は、第1号に掲げる額(当該療養に食事療養が含まれるときは当該額及び第2号に掲げる額の合算額、当該療養に生活療養が含まれるときは当該額及び第3号に掲げる額の合算額)とする。
    1. 当該療養(食事療養及び生活療養を除く。)につき第76条第2項の定めを勘案して厚生労働大臣が定めるところにより算定した費用の額(その額が現に当該療養に要した費用の額を超えるときは、当該現に療養に要した費用の額)から、その額に第74条第1項各号に掲げる場合の区分に応じ、同項各号に定める割合を乗じて得た額(療養の給付に係る同項の一部負担金について第75条の2第1項各号の措置が採られるべきときは、当該措置が採られたものとした場合の額)を控除した額
    2. 当該食事療養につき第85条第2項に規定する厚生労働大臣が定める基準により算定した費用の額(その額が現に当該食事療養に要した費用の額を超えるときは、当該現に食事療養に要した費用の額)から食事療養標準負担額を控除した額
    3. 当該生活療養につき前条第2項に規定する厚生労働大臣が定める基準により算定した費用の額(その額が現に当該生活療養に要した費用の額を超えるときは、当該現に生活療養に要した費用の額)から生活療養標準負担額を控除した額
  2. 厚生労働大臣は、前項第1号の定めをしようとするときは、中央社会保険医療協議会に諮問するものとする。
  3. 第63条第4項、第64条、第70条第1項、第72条第1項、第73条、第76条第3項から第6項まで、第77条、第78条、第84条第1項及び第85条第5項から第8項までの規定は、保険医療機関等から受けた評価療養及び選定療養並びにこれらに伴う保険外併用療養費の支給について準用する。第75条の規定は、前項の規定により準用する第85条第5項の場合において第2項の規定により算定した費用の額(その額が現に療養に要した費用の額を超えるときは、当該現に療養に要した費用の額)から当該療養に要した費用について保険外併用療養費として支給される額に相当する額を控除した額の支払について準用する。

争点1:複数の医療行為が行われる場合には,それらを不可分一体の1つの医療行為とみて,法63条1項の「療養の給付」に該当するか否かを判断すべきであると解すべきかどうか。

まず被告の主張です。

 医療行為は,様々な作用を及ぼす侵襲行為であるから,複数の医療行為を行う場合には,複雑な相互作用を生じさせるおそれがあり,これを単純に複数の医療行為が併存しているとみることはできず,複数の医療行為を併せて不可分一体の1つの新たな医療行為がされているとみるべきである。

 そして,法63条1項にいう「療養の給付」は,「傷病の治療等を目的とした一連の医療サービス」をいうと解すべきところ,その「療養の給付」は,安全性,有効性,普及性,効率性等の水準が担保されていると厚生労働大臣が認める医療行為を指すものであり,その具体的な内容については,法76条2項において「療養の給付」に要する費用を定めるにあたり,厚生労働大臣が定めるものとされている。

 この厚生労働大臣の定めとして,「診療報酬の算定方法」(平成18年厚生労働省告示第92号)が定められ,保険医が行うことのできる診療行為の具体的内容が列挙されているところ,個別的には,保険診療に該当するものであっても,これに保険診療に該当しないものが加わって,一体として「療養の給付」に該当しないことになれば,個別的にみれば保険診療であるものについても,「療養の給付」を受けられないと解すべきである。

ここがおそらく報道記事にあった一体論の個所かと考えます。国側の主張のポイントは、

    法63条1項にいう「療養の給付」は,「傷病の治療等を目的とした一連の医療サービス」をいうと解すべき
疾患に対する治療行為は、患者の病気を治すという目的に向かって一体のものであり、個々の治療行為に対して療養の給付を行なっているのではなく、治療全体に対して療養の給付を行っているものとの主張です。全体に対しての療養の給付を行なうわけですから、全体が保険適用であって初めて保険適用となるのであり、
    個別的には,保険診療に該当するものであっても,これに保険診療に該当しないものが加わって,一体として「療養の給付」に該当しないことになれば,個別的にみれば保険診療であるものについても,「療養の給付」を受けられないと解すべきである
実はこの説明は開業指導のときにも懇々と聞かされました。

これに対しての裁判所の判断です。少し長いので分割して見て行きます。

 そこで,まず,法の条項から,被告が主張するような解釈が看取できるかどうかについて検討するに,法63条1項は,保険者が被保険者の疾病又は負傷に関して行う「療養の給付」の内容について,診察(同項1号),薬剤又は治療材料の支給(同項2号),処置,手術その他の治療(同項3号),居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護(同項4号),病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護(同項5号)を掲げ,他方で,同条2項において,食事療養(同項1号),生活療養(同項2号),評価療養(同項3号)及び選定療養(同項4号)に係る給付は,「療養の給付」に含まれないものと定めている。

 しかし,法は,このほかに「療養の給付」の具体的内容について何ら定めていないのであって,これらの法の条項の規定を見る限りにおいては,個別的にみれば「療養の給付」に該当する医療行為であっても,それに保険診療に該当しない医療行為が併せて行われると,それらを一体とみて,前者についても「療養の給付」が受けられないと解釈すべきであるという根拠はおよそ見出し難いと言わざるを得ない。

63条は上記していますが、食事療養、生活療養、評価療養及び選定療養に係る給付は,「療養の給付」に含まれないとは書いていますが、その他の治療についてはなんら法は具体的な内容を書いておらず、被告の一体論の根拠はなんら見出せないとしています。確かに素直に読めば療養の給付は一体のものとして考える旨の記述はありません。

続いては施行規則も含めての検討なんですが、長いのでさらに小分割して読んでいきます。

 そこで,さらに,法の規定の委任を受けて定められた規則等も含めて,検討する。

 前記第2の2(2)記載のとおり,「療養の給付」に関しては,まず,

  1. 「療養の給付」に要した費用の算定方法について,法76条2項の委任を受けて前掲の「診療報酬の算定方法」(平成18年厚生労働省告示第92号)が定められている。
  2. 「療養の給付」に用いられる医薬品に関して,保険医等が用いることのできる医薬品の品目及びその価格につき,法72条1項の委任を受けて定められた療担規則19条1項が,保険医は,「厚生労働大臣の定める医薬品」以外の薬物を患者に施用し,又は処方することを原則として禁止し,その「厚生労働大臣の定める医薬品」については,前掲「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」(乙11)の第六が,原則として前掲の「薬価基準」の別表に収載されている医薬品である旨を定めている。
これらの定めから,被告の主張するように,法63条1項にいう「療養の給付」とは「傷病の治療等を, 目的とした一連の医療サービス」をいい,保険診療と,これに当たらない診療とが併用された場合には,これらを一体と見て,全体として「療養の給付」を判断すべきであるという趣旨を読み取ることができるかどうか検討する。

診療報酬の算定方法と医薬品の使用についての規定の2点から、一体論が是か非かを考えるとしています。

まず,上記の「診療報酬の算定方法」は,基本的に,診察,投薬,注射,検査,処置,手術など個々の診療行為に着眼して,各診療行為ごとに予め点数を定め,保険医療機関等が被保険者に提供した医療サービスについて,上記各点数表に記載された点数に1点当たり所定の金額を乗じて算出することによって,診療報酬の額を算定するものであって,ある特定の傷病を基準として,その「傷病の治療等を目的とした一連の医療サービス」を念頭において複数の医療行為を一体として診療報酬が算定される仕組みは採用されていない。

これは実際そうであって、診療報酬の算定は「○○したら▲▲点」の積み上げです。細かい規則はうるさいほどありますし、DPCのような包括化の流れはありますが、原則は診療行為の個々の点数の単純な積み上げです。判決文が指摘する通り、「傷病の治療等を目的とした一連の医療サービス」を想定した診療報酬体系ではありません。

 また,「薬価基準」の別表も,医療用医薬品として承認された医薬品を「内用薬」等に分類し,個々の医薬品名の五十音順に,その規格単位当たりの価格を定めたものであって,ある特定の傷病を基準として,その「治療等を目的とした一連の医療サービス」としての医薬品を体系的に示したものではない。

薬価も診療行為に同様で、投与した薬品の数量に対して価格が決まり積算されるだけのものです。

 すなわち,法の規定を受けて定められた「診療報酬の算定方法」及び「薬価基準」は,個別の診察行為や個別の医薬品を単位として規定されており,たとえば同じ「傷病の治療等を目的とした」複数の種類の診察行為や医薬品の投与が行われたからといって,それを不可分一体の「一連の医療サービス」としてとらえて,それによって診療報酬の算定をしたり,利用できる医薬品に当たるかどうかを判断する仕組みとされていない。

このあたりの法解釈は私の手に余るところがあるのですが、保険適用の問題との解釈がどうなるかなんとも言えません。特定の疾患に対する治療方法、治療薬は保険適用により限定されており、それをもって「一連の」とも考えられるような気もするのですが、裁判官の裁定も十分に理はあります。

 仮に,被告が主張するように,特定の傷病の治療等を目的として,医療行為Aと別の医療行為Bが行われた場合には,これを個別に見るのではなく不可分一体の医療行為Cが行われたと見るのであれば,医療行為A又はBが「診療報酬の算定方法」のリストに掲載されていても,不可分一体の医療行為であるCが「診療報酬の算定方法」に掲載されていない限り,「療養の給付」に要した費用として計上できないことになり,また,同様に医薬品A及びBが「薬価基準」に掲載されていても,不可分一体で考えるべき医薬品Cが「薬価基準」に掲載されていない限り,それを用いることはできないことになる。 しかしながら,「診療報酬の算定方法」及び「薬価基準」はそのような定め方をしていない。

判決文はさらに一歩踏み込んだ解釈をしています。診療報酬に記載されている医療行為Aと医療行為Bを行なった時、これが一体のもであると主張するには、AとBを行なえば一体の診療行為Cになる規定を記載していなければならないとしています。医薬品についても同様だとの指摘です。

 このように,法の委任を受けて設けられた「診療報酬の算定方法」及び「薬価基準」を検討しても,法63条1項の「療養の給付」が「傷病の治療等を目的とした一連の医療サービス」をいい,個別的に見れば「療養の給付」に該当する医療行為であっても,それに保険診療として承認されていない医療行為が併せて行われると,それらを一体とみて,前者についても「療養の給付」に該当しないと解釈すべき手がかりは,何ら見出すことができないばかりか,これらによれば,法は,個別の診療行為ごとに法63条1項の「療養の給付」に該当するかどうかを判断する仕組みを採用していると言うべきである。

被告の主張の一体論は、法に照らして根拠が見つけられないとしています。


争点2:保険外併用療養費制度について定めた法86条の解釈によって,同制度に該当するもの以外の混合診療については,本来保険診療に該当するものも含めて,すべて法63条1項の「療養の給付」に当たらないと解釈することができるか。

これに対する被告側の主張です。

 昭和59年の法改正前には,保険診療を超えた療養については,差額徴収することが運用として認められていたが,その弊害が社会問題化したことなどから,昭和59年の法改正によって,特定療養費制度(旧法86条)が設けられ,被保険者が,旧法によって本来予定された「療養の給付」と併用して,「療養の給付」の対象外である高度先進医療又は選定療養を受けた場合に,保険診療相当部分については,金銭(特定療養費)を支給することとされた。

 すなわち,特定療養費支給の対象となる療養は,保険診療自由診療が混在する混合診療であるところ,特定療養費制度は,およそ混合診療の中で,給付の対象とするものを限定的に掲げたものであるから,これに該当しない混合診療については,これに対する保険給付を認めず,仮にかかる診療が行われた場合には,個別的には保険診療に該当するものが含まれていたとしても,当該療養全体について保険が適用されず,全額,自由診療として患者が負担することを予定していたと解すべきである。

特定療養制度に関する主張です。特定療養制度とは、本来自費診療でなければ混合診療のうち、特別に認めたもののみを混合診療として認める制度であると事です。これについても医師の常識です。

 そして,平成18年の法改正により,特定療養費制度(旧法86条)を見直して保険外併用療養費制度(法86条)が設けられたが,法は,旧法と同様,保険診療自由診療の混在形態(混合診療)のうち,保険外併用療養費が支給されないものについては,一般的にこれに対する保険給付認めず,仮にかかる診療が行われた場合には,当該療養全体について保険が適用されず,自由診療として患者が全額負担することになると解すべきである。

 仮に,被保険者が混合診療を受けた場合であっても,当該診療のうち保険診療相当部分がなお法63条1項の「療養の給付」に該当するという解釈をした場合には,法が,わざわざ昭和59年及び平成18年の法改正によって,特定療養費制度や保険外併用療養費制度を設け,混合診療のうちこれらに該当する場合についてのみ療養費を支払うものとした趣旨が全く失われてしまうことになり,このような解釈は,立法者の意思に反した解釈というほかないから,失当である。

特定療養制度の法の趣旨の主張で、わざわざこういう制度を作って混合診療の例外規定を明示しているのに、これを踏みにじる行為は

    立法者の意思に反した解釈というほかないから,失当である
つまり例外規定を作るぐらいだから、混合診療は認められないとの事です。

裁判所の判断は、

 旧法86条に基づく特定療養費制度は,「療養の給付」と截然と区別をされた制度の下で,高度先進医療告示に個別的,具体的に列記された高度先進医療等についてそれに要した費用を支給する制度であると解され,およそ,保険診療自由診療の組み合わせを全体的,網羅的に対象として,その中から保険給付に値する組み合わせを拾い上げて保険給付の対象とした制度であることは窺えない。

この解釈は難しいところです。意見が分かれると言っても良いと思います。裁判所の判断としては、特定療養制度はすべての混合診療の中で、特に認められた治療法に対する、混合診療の許可制度ではないとしています。ある意味、決定的な解釈で特定療養制度の存在を否定していると言えます。

 すなわち,高度先進医療には,被告の主張するように,その医療行為の内容によっては,性質上,いわゆる基礎的部分として保険診療に該当する診察や麻酔等の部分が存在することがあり得ると考えられるが,それだからといって,被告の主張するように,特定療養費制度が,およそ保険診療自由診療とを組み合わせた場合を全体的,網羅的に検討して,その中で保険給付に適するものだけを拾い上げたものであるということはできず,かえって,高度先進医療告示に掲げられている高度先進医療を見ても,いずれも当該具体的医療行為に着目して特定療養費制度の対象とする旨が明らかにされたにとどまり,これらの高度先進医療の中に,たとえば,個別的にみれば保険診療行為と自由診療行為であるが,ある特定の組み合わせであれば高度先進医療に該当するとか,あるいは逆に,個別的にみれば高度先進医療に該当する自由診療行為であるが,他の特定の保険診療行為と組み合わせると高度先進医療に該当しなくなるというように,保険診療自由診療の組み合わせに着目して定めたものは何ら見受けられない。

ここも分かり難いところなんですが、特定医療制度の規定について言及しているようです。特定医療制度に掲げられている医療行為も、その医療行為自体が制度の対象となっているに過ぎないとしています。特定医療制度がそんなものだと言えばそれまでなんですが、裁判所の特定療養制度の判断は、、

まだ分かり難いと思いますが、特定療養制度が混合診療禁止の例外と認められるためには、特定の自由診療Aと特定の保険診療Bを組み合わせた、特定療養Cを設定しないとダメだとしています。現在の特定医療制度では認めれた自由診療保険診療を自由に組み合わせることが出来るため、これを混合診療禁止の根拠とは出来ないと解釈すれば良いかと思います。

解釈は間違っていないと思うのですが、私も頭が混乱しそうです。

 そして,被告は,特定療養費制度に関し,単に,保険診療自由診療の組み合わせが列記されているというにとどまらず,これに該当しない場合は,保険診療としても給付をしない趣旨が,旧法86条から看取できるはずであると主張するが,特定療養費制度に関する定めを鳥瞰しても,特定の保険診療については,およそ全ての保険給付の対象から排除するという趣旨を窺い知ることができる規定はない。

 すなわち,本件においては,個別的にみれば旧法63条1項の「療養の給付」に該当し,保険診療の対象となるとされることに争いのないインターフェロン療法が,旧法86条あるいは関連する法規範の条項によって,保険給付の対象から排除されることを示すものは一切見あたらないと言わざるを得ない。

キモは

    特定の保険診療については,およそ全ての保険給付の対象から排除するという趣旨を窺い知ることができる規定はない。
被告の肩をもつわけではありませんが、論法が少しばかり強引な印象があります。もちろんこの辺は法解釈論ですから、法律関係者なら初歩的な解釈の仕方、読み取り方かもしれませんが、そこまで言えるのかは個人的に疑問は残ります。

 また,前示のとおり,旧法63条2項において,法が明示的に「療養の給付」に含まれないとしていた食事療法についてみると,同条項は,一定の要件を満たした食事療養については,入院時食事療養費を支給する旨を定めているところ,この規定は,保険診療とこれに該当しない食事療養が併用された混合診療の場合において,保険診療たる「療養の給付」についてはなお給付の対象となることを法が予定していることを暗黙裏に当然の前提として,食事療法についての費用の支給について規定されているもの
と解されるのであって,このような法の態度は,被告が主張する,混合診療の場合には,旧法86条に該当しない限り,保険診療部分を含めて給付の対象としないという主張とは相容れないものであるといわざるを得ない。

特定療養制度と違い、ここは分かり安い指摘です。本来保険診療に含まれないと明記してある食事療法が、保険診療とともに行われているのは混合診療であり、特定療養制度しか混合診療禁止の例外を認めているとする、被告の主張は矛盾しているとの指摘です。これはその通りかと考えます。

 さらに,被告は,特定療養費制度は,混合診療の中で特定のものについて,その基礎的部分すなわち保険診療部分についての給付をするものであると主張するが,旧法86条の文言を検討してみると,そもそも,旧法86条1項は,高度先進医療等及び選定療養を掲げた上で,被保険者がこれらの療養を受けたときは「その療養に要した費用」について特定療養費を支給する旨を定めており,ここにいう「その療養に要した費用」とは,高度先進医療等又は選定療養に要した費用を指すと解されるところ,前示のとおり,高度先進医療等や選定療養が,「療養の給付」とは全く別の概念として規定していることを考え合わせれば,この「その療養に要した費用」が,保険診療に該当する費用を指すと解することは,困難であると言わざるを得ない。

 そして,特定療養費の額について定めた同条2項の文言をみても,同項は,同項1号の「当該療養」すなわち高度先進医療等及び選定療養を基礎として算出された額を支給する旨を定めているところ,これらが「療養の給付」とは異なるものであることは前示のとおりであるから,同項により特定療養費支給の対象となるものが,高度先進医療等に係る療養又は選定療養に関する費用ではなく,これらと併用して行われた保険診療である「療養の給付」に関する費用であると解することは,明文に反する解釈である
さえ言えよう。

ここもまた砂を噛むような文章ですが、特定療養制度で払われる費用は、保険医療と全く別の会計で支払われているとの指摘のようです。だから何が悪いかですが、被告の主張では混合診療では自由診療部分と保険診療分は一体化しており、分けられないはずなのに、特定療養制度では堂々と分けられているとしています。

次の平成18年に改正されたた保険外併用療養費制度(法86条)も同様の論法で否定されていますが、これは省略します。

 しかしながら,そもそも,一般的にいえば,保険診療自由診療が併用された混合診療については,一方で,併用される自由診療の内,何をどのような方式で保険給付の対象とすべきか,また,それに伴う弊害にどのように対処すべきかという問題があり,他方で,自由診療が併用された場合にもともとの保険診療相当部分についてどのような取扱いがされるかという問題があるところ,これらは別個の問題であって,両者が不即不離,論理必然の関係にあると解することはできない。

 そして,本件の問題の核心は,まさに後者の問題,すなわち,原告が,個別的にみれば,法及びその委任を受けた告示等によって,法63条1項の「療養の給付」を受けることができる権利を有すると解されるにもかかわらず,他の自由診療行為が併用されることにより,いかなる法律上の根拠によって,当該「療養の給付」を受ける権利を有しないことになると解釈することができるのかという点であるところ,法律上,上記のような解釈を採ることができないことは,縷々述べてきたとおりである。また,このような法解釈の問題と,差額徴収制度による弊害への対応や混合診療全体の在り方等の問題とは,次元の異なる問題であることは言うまでもない。

ここは裁判所が混合診療の解禁の是非を示したものでない立場を明確にしています。この裁判ではあくまでも、原告が行なった混合診療に対し、現行の法解釈では保険診療部分の給付を拒否する法的根拠が無いと判断しただけであるとしています。それ以上の混合診療解禁の是非等については全く別次元の問題であるとも書かれています。

    このような法解釈の問題と,差額徴収制度による弊害への対応や混合診療全体の在り方等の問題とは,次元の異なる問題であることは言うまでもない。

つまり裁判所の判断は、現行法の規定では混合診療を禁止するとするには根拠は乏しいから、原告の訴えは認めるが、混合診療自体の解禁は別次元の問題、すなわち行政、立法の問題となり、明確に禁止をしたいのなら法改正が必要と指摘していると解釈できると考えます。

争点3:同じく保険料を支払っているにもかかわらず,混合診療になると,保険診療に該当する部分についても保険給付を受けられなくなることは,憲法14条等に反するといえるか。

これについては

争点3について判断するまでもなく

となっております。長くなるので原告の主張は省略しましたが、こんな複雑な法解釈論争に、素人が国側のプロ相手に圧勝した事に改めて感嘆します。