微妙なちょっとイイハナシ?

2/26付朝日新聞より、

達成なるか、クラス全員年間無欠席 東海大四高3年5組

 札幌市南区東海大四高校(白川裕久校長)3年5組のクラス全員35人(男子25人、女子10人)が、1年間無欠席で学舎(まなびや)を巣立とうとしている。記録達成は1964年の開校後一度あるだけで、残る登校日は29日の卒業式練習と3月1日の卒業式の2日間。学校側はこれまでの生徒の頑張りと団結の強さに拍手を送っている。

 担任の河上清孝教諭(60)によると、クラスでは昨年4月下旬、「無欠席・無遅刻・無早退」が続いたことから、クラス全体が「記録」を意識し始めた。けがをした運動部員や具合が悪そうな生徒をクラスメート同士で気づかい、携帯メールや電話で励ましあった。

 昨年9月、体調不良で欠席が確実と思われた女子生徒が登校した時は、教室内に「来た〜」と歓声が響きわたり、「クラスが楽しいから来たんだよ」と女子生徒は答えた。河上教諭は「感激しました。生徒全員の心が一つにまとまっていたんでしょう」と振り返る。

 授業は1月31日に終わり、現在は家庭学習期間中。生徒たちは「クラス全員1年間無欠席」の快挙達成を目前にしながら、3月1日の卒業式を待っている。(亀山敏)

基本的にちょっとイイハナシ系だと思うのですが、どうにも細部で引っかかります。高校生ともなると、そうそうは病気欠席しなくなるのは確かですが、クラス全員が1年間無欠席はなかなか難しいところがあります。私も高校3年の時は病気欠席はありませんでしたが、大学受験のための欠席はあります。東海大四高校についてのwikipedia情報ですが、

全日制課程 普通科

以下の3コースがある。

  • 国公立大学、難関私立大進学を目指す「特進コース」
  • 主に東海大学への進学や他大受験、部活動との両立を図る「総合進学コース」(総進コースと言われている)
  • 総合進学コースでの、より一層の進学に対応する「アルファクラス」

これだけの情報で判断するのは危険ですが、ありえるとしたら「総合進学コース」じゃないかと思われます。他のコースではチト難しすぎると言うところです。もっとも後を読めば判る様に無欠席とは皆勤ではなく、遅刻もOK、出席停止もOK、それとこれは「たぶん」ですが、部活のための大会出場や大学入試のための欠席も含まれていなさそうな気もします。ですからどのコースでも基本的に可能性はあるとも言えます。

それはどうでも良い事なんですが、1年間無欠席は自然に達成されたわけではなく、その裏に努力があったとなっています。まず、

    クラスでは昨年4月下旬、「無欠席・無遅刻・無早退」が続いたことから、クラス全体が「記録」を意識し始めた。
サラッと書いてありますが、幾らなんでも意識するのが「早すぎる」です。まるで1回の表が終わった時点で、チーム全体が完全試合とかノーヒットノーランを意識するようなものです。これは校風かもしれませんが、1年間無欠席は過去に1度しかない偉業だそうですから、何らかの誘導が行なわれた可能性を窺わせます。
    昨年9月、体調不良で欠席が確実と思われた女子生徒が登校した時は、教室内に「来た〜」と歓声が響きわたり、「クラスが楽しいから来たんだよ」と女子生徒は答えた。
ここも、そもそも出席できる程度の体調不良であったのか、そうでなかったのかは気になるところです。記事だけではどうも判らないのですが、記事のモトネタらしきものが、この高校のHPに「東海の風 46号 『3年5組出席率100%達成目前』」としてあります。念のために画像保存もしておきます。


記事で「早すぎる」とした無欠席への意識ですが、

 4月6日の始業式から4月25日まで無遅刻無欠席のパーフェクトが続いた。5月26日、男子生徒の親から病院遅刻か欠席と連絡があった。4時間目に登校。5月6日、やはり男子生徒だが顧問から風邪で欠席と連絡があった。病院に行きその結果、インフルエンザで出停となった。その日、誰かから「危ねー!」と。クラスが意識してるなと思った。

おそらくtypoと思うのですが「5月26日」とは「4月26日」だと考えます。たぶんこのあたりの記述を編集して記事は書かれていたと推測されます。しっかしえらい早い意識です。でもなんですが、こんなに早く意識するだけのキッカケはどこかにあると思われます。この高校の事はわかりませんが、高校3年生が4月に無欠席ぐらいで、いきなり1年間無欠席を意識するのは不自然です。

その鍵になりそうなのものが冒頭にあります。

 この「出席率100%」は、担任を持てば誰でも達成したいと思うはずだ。担任を持つ度に、「今回もダメだった〜。99%だけは死守したい。学年最下位にならないぞ」等々密かに思うものだ。私は3年5組の担任になって、「出席率100%」の思いは最初からあったが、「続くわけがない100%」であった。1、2年を通して全く関ったことのない生徒だったので、進路学年だから休ませない意識で臨む程度であった。

これだけでは担任教師が「出席率100%」とその達成の困難さを生徒に話したかどうかの判別は出来ませんが、私は話したと思います。もちろん「そうしなければならない」ではなく、「そういう記録もあるから、今年は頑張ってみてくれ」ぐらいのニュアンスです。

これもある程度推測になりますが、この「出席率100%」は生徒の記憶に妙に残ったと考えます。私もかつては高校生でしたが、あの頃は大人の価値観からすると「しょ〜もないこと」にしばしば情熱を傾けます。たまたまこの「出席率100%」の話が記憶に残っているうちに、4月25日まで無遅刻無欠席が続き、4月26日、5月6日のエピソードがあり、「達成したい」の感情が盛り上がったと見ます。


ここまでは何の問題も無い微笑ましいエピソードなんですが、

 そして、6月17日に事件が起こった。女子生徒の親からで「体調が悪くて休みます」と。「大会前でもあり無理です」とのこと。私は朝のSHRで「終りました」と報告。皆は「は〜」怒りマーク100%であった。1時間目の体育を終えた生徒が「○○○さん来ました。廊下で吠えています。」担任は走った。「お〜来たんか!偉い!」と。しかし彼女からは「なにさこれ〜!100%なんて、うちには関係ないし!こんなんで無理して学校来て身体壊したら誰が責任取るのさ!明日から大会だよ〜〜〜!」後から分かったことだが、クラスの何人もが「休むなよ!」とメールやら電話をしていたらしい。

まずなんですが、

    私は朝のSHRで「終りました」と報告
ここからほぼ毎日の様に「出席率100%」継続中の話題を担当教師は振っていたことがわかります。毎日言われ続けたら、意識する生徒が増えてきてもおかしくありません。ただ体調不良の生徒をクラスメートが電話やメールで呼び出してしまったと言うのは、チト問題には感じます。「大会」に無事参加できたんでしょうねぇ。それにしても携帯電話の持ち込みは自由な学校のようです。

ここはまあ、結果オーライ的なエピソードであり、私的にはまだセーフです。次はチョットになります。

その後は、40度近く熱があっても点滴を受けての登校や、インフルエンザか否かで高熱の中、病院と学校を行ったり来たりした生徒もいた。結局、其の生徒は風邪であったが、インフルエンザと判断して欠席していたらすべて終っていた。

生徒が「出席率100%」の達成を目的として情熱を燃やし始めた事がよく分かるエピソードですが、少々過熱していると思います。雰囲気はなんとなく想像できるのですが、「欠席は許されない」だけではなく、「どんなに無理をして欠席をしなかった自慢」に生徒の情熱が暴走してしまっていると感じます。

 担任の思いは複雑だった。無理矢理に学校に来させるつもりは毛頭無かった。記録よりも目標への意欲、何か一つでもクラス全体で頑張りきった証(想い出)が欲しかっただけである。無欠席100日目(9月26日)にもなるといつの間にか強制的に来させているような気がした。そんなある日、誰かが「クラス楽しいから来てる・・・」と言った。担任は嬉しかった。

確かに生徒の多くは楽しかったと思います。また担任教師がクラスをまとめるために目標を掲げ、クラスの一体感を作ろうとするのもわかります。ただこれはある意味失敗だったと思います。

担任教師が学年の始めに「出席率100%」の目標を持ち出したのは、いわゆる「探り」だったと思います。良く知らない生徒をどうやってまとめあげるかのための、一投目の釣りみたいなものです。それが見事にヒットして生徒が喰らいついてしまったのが実情として良さそうです。おそらく担任教師としたら、「出席率100%」は早期に挫折するだろうから、その後に第二弾、第三弾の算段であったと思います。

それだけ良い生徒であったのだと思いますが、目標が高過ぎた言うか無謀すぎた一面があります。途中の高熱とかのエピソードにあえて目を瞑っても、それでもの病気で欠席が出たらどうする気であったです。それも三学期の達成寸前の時期にです。ここまで異様に盛り上がってしまった状態での欠席が、欠席した生徒にどんな影響を及ぼすかです。

当然、欠席した生徒には強い批判の目が寄せられますし、何より欠席した生徒がそれを自覚します。そうなるリスクを、この担任教師はコントロール出来ていないと感じて仕方ありません。教師の感じた、

    いつの間にか強制的に来させているような気がした
これを裏返せば、他のエピソードと合わせて、欠席した奴は許さないの空気がクラスを支配してしまった事になります。そういう状況でやむなく欠席となってしまう生徒の出現のリスクを担任教師はどう考えていたかです。下手するとクラス全員の前で謝罪させられるみたいな事さえ起こりかねません。ここまで書いておいて感想をまとめます。


生徒

生徒は素直に頑張ったと思います。メイルや点滴、病院と学校のウロウロなど、やりすぎの面はあるにしろ、そういう無茶が出来るのが若さの特権として眩しく感じます。とにもかくにも不可能に近いと思われていた伝説をついに達成したのですから、それだけで十分に称賛に値しますし、卒業後の人生に何らかの糧になってくれると信じます。

これからも長く校内伝説として残るでしょうし、20年先、30年先の同窓会の話題にも事欠かないと思います。それ以外にも「100%無欠席」のために結集し団結した成果である数々の成績もまた素晴らしい青春の思い出として残っていくと思います。そういうキラキラとした思い出を残せなかった私からすると正直なところ本当に羨ましいと思っています。

人生も青春もまだまだこれからですから、春からそれぞれの新しい進路を胸を張って進んで行って欲しいと思っています。


担任教師

途中から本当に大変だったと思います。「100%無欠席」のための生徒の無茶は、学業だけではなく生徒の健康にも気を配らなければならない立場ですから、対応に神経を磨り減らす面があったと思います。相手は病気ですから、休ませる時には休ませるのも教師の役割です。それでもで欠席が必要な生徒が出た時の対応にさぞ心を悩ましていたと思っています。

なんとなく途中で「こりゃ、拙かった」と感じたとは思っています。それでも生徒の盛り上がってしまった情熱を損ねない様に、リスクを敢えて背負い込んだのだと思っています。それぐらいのリスクを背負い込むに値する素晴らしい生徒だったと思っています。

上で「ある意味失敗だった」は担任教師が一番痛感していると思っています。今回は幸いにも結果オーライに恵まれた事も担任教師が一番知っていると思っています。こういう経験も教師には貴重なものであり、今回の僥倖を今後の教師生活に活かし、より素晴らしい教師になってくれる事を願っています。


朝日新聞・亀山敏記者

記事とそのモトネタを読んで思うのですが、このエピソードを新聞に紹介するほどの価値が果たしてあったのかが、かなり疑問です。記事とモトネタを較べるとほぼ100%モトネタから記事を仕上げたのが確認できます。つまり記者はモトネタを読んだ上で「ちょっとイイハナシ」の記事として発信する価値があると判断したわけです。

たしかに記事では一番危なそうな個所は伏せてはいますが、このネット時代で記事に興味を持てば高校のHPぐらいは探すでしょうし、そこからモトネタを探し出すのは容易です。モトネタまで読めば大人の尺度で少々やり過ぎの感想を抱く者は少なくないと思います。

今回程度のエピソードは関係者のみが知る校内伝説としては、たぶんどこの高校でもありえるレベルのものと思っています。これぐらいの暴走を時にやるのが若さであり高校生です。ただ衰えたりと言っても天下の朝日が取り上げると言う意味を記者がどれほど自覚しているのだろうかです。興味を持っても「そっとしておく」バランス感覚が必要ではなかったかと感じています。

今回のエピソードを本当に心の底から「ちょっとイイハナシ」と判断していたのなら、記者として問題が残るような気がしてなりません。