被災地の経験談

経験談と言っても極めて軽傷の経験談ですから御理解お願いします。

被災直後はとにかく落ち着かないものです。被災地の中の情報は特殊で、目に見えたり、直接聞いた生々しい情報がある一方で、全体状況が一向に見えない焦燥感にさい悩まされます。目に見える状況があまりに悲惨で絶望的なので、このまま見捨てられるのではないかの不安が嫌でも募ります。

それと被災直後はアドレナリン全開みたいな不思議な神経の昂ぶりがあり、被災が軽かった分を頑張らないといけないと走り回れますが、人間の体力には自ずと限界があり、そろそろドッと疲れが押し寄せる頃になると思います。疲れを癒すために休もうとしても、神経が昂ぶって休めないのも大きいと思っています。余震も断続的にありますし、被災時に残っていた物資の底が見えてくるのも今ぐらいかと思います。

目に見える状況が一向に改善しない苛立ちがドンドン高まる時期かと思います。私の被害は軽く、自宅で自活は可能でしたが、自活のためには物資の調達が必要です。必要なのは水と食糧です。昼間は医療に専念せざるを得ませんでしたが、夜遅くに帰宅すると物資の調達に動かないと生きていけないという事です。

深夜に動くのは昼間が大渋滞でとても動けないというのも理由でした。これも幸いな事に当時の実家はクルマで1時間足らずのところに健在であり、深夜に訪れての物資の補給です。水不足が被災地では深刻なので、そこで可能な限り水を使おうというわけです。風呂、洗濯はもちろんの事、米も洗って持って帰りました。バタバタとやっているとすぐに3時、4時になりそこから自宅に物資を抱えて運搬です。

翌日は当然仕事ですから、週に何回かこれをやると、どんよりと体に疲労がたまる感じが抜けなくなりました。水とガスが復活するまで3ヶ月ぐらいは続きましたからね。奥様はちょうど妊娠中(だいぶ後に気がつきました)だったのですが、弱音一つ出さずによく耐えたと今でも思っています。延々と続くような状況に気持ちが沈んでいったのは間違いありません。


人間は疲れて苛立つと何かに怒りをぶつけたくなります。政府や市町村の対応に文句を付けたくなる気持ちもわかります。かくいう私も「なんとかしろ」とボヤいていたのは白状しておきます。自活できるレベルの軽傷でもこの有様ですから、もっと重い被害を受けていた者はどれほどだろうの憤懣がどうやっても出てきます。

ただ過ぎ去ってから思ったのは、まさに「どうしようもなかった」のだろうと言う事です。物資が被害の重い者に優先的に回るのは当然の事ですし、自活できるような被害の軽いところは、何につけても後回しにされて当然です。さらに必要な物資の供給はタイムラグが絶対的に生じます。

○○が足りないの情報が出れば、この日本ですから瞬く間に集める事は可能です。しかし問題は被災地外から被災地にどうやって運ぶかになります。さらに被災地に運び込めても、今度はこれをどうやって被災者に配るかの問題が立ち塞がります。現地の対策本部のスタッフもまた被災者であり、災害発生からの疲労困憊が続いているからです。被災地情報の収集もかなり時間が経っても十分では無いからです。


政府の対応にも批判が出ているようですが、批判はキチンと分けて行なうべきと思っています。阪神やそれ以後の経験を活かしていない部分、つまり二の舞、三の舞をやらかしている部分への批判は当然あって然るべしです。一方で、新たな事態に満点回答を強要するような批判は慎むべきかと思います。今必要なのは批判ではなく、実行です。

新たな事態への対応は手探りであり、なおかつ決断に要する時間も、検討のための情報も不足しています。そういう中での決断の粗探しに奔走するのではなく、実行して不具合が生じたら、それをいかに補うべきかの知恵を絞り、それに協力する姿勢が大事かと思っています。被災地ではとにかく何かを行わないと前に進まないからです。結果的に間違った決断による実行があったとしても、肝心なのはそれを手早く補うための実行と協力じゃないかと思います。


関東では計画停電による混乱が懸念されているようです。たぶん一部の混乱は起こるでしょうが、これも耐えなければならないところは耐えないと致しかたありません。混乱の無い計画停電などありえないからです。重要なのは計画停電で混乱する事ではなく、計画停電で起こった混乱を次の計画停電までに防ぐ事だと思っています。言ったら悪いですが、どんな批判を行おうとも現在の状況では停電は避けられないのが大前提だからです。

食糧や水や、その他の生活物資の不足に本当に困っている方はたくさんおられると思います。その一方でそれらを届けようと、懸命の復旧作業を昼夜兼行で続けている方々がおられるのも思い出して欲しいところです。物資が届くまで1ヶ月も2ヶ月もかかるものではありません。今週中にもある程度の物資が届くはずだと考えています。今日まででも相当消耗している上に、後数日とか、1週間と言われたら暗い気持ちになるとは思いますが、誰も漫然と放置している訳ではありません。


これだけの被害になると復旧にどうしても時間がかかります。日本中から復旧のための援助は確実に行われています。まだ見えないかもしれませんが、一歩一歩近づいているのは間違いありません。直接にはなにも出来ない人々も、間接であっても何かをしている真っ最中です。

被災地で待つ間は本当の意味でのサバイバルであり、中にいると永遠に援助の手が伸びない様に感じてしまうものですが、そんな事は決してありません。耐えるのは本当に大変なのは実感できますが、誰もが出来る範囲で懸命の作業を続けています。

たいした経験談ではありませんが、ほんの少しでも参考にして頂ければ幸いです。