計画停電異聞

平穏な関西からの理解として、計画停電とは地震により電力供給量が大きく減った事が大前提と理解しています。減ったままの供給量で全体に供給し、需要量がこれを上回った場合、大規模な不意の大停電が起こるとされます。それを防ぐために、需要量を監視しながら指定地域を計画的に停電させて大停電を防ぐ措置と考えています。かなり高度な技術が必要だそうです。

ここでのもう一つの前提として、供給側は出来れば計画であっても停電を可能な限り回避したいというのがあるようです。そのため供給側は、その時々の需要を見極めながら、計画通りに停電させたり、させなかったりする状態になっていると見ます。私の知る限り、計画外の地域が突如停電になるなんて事は起こっていなさそうに思えます。

平穏な関西から見れば、停電が計画されていて、それが直前であっても回避されれば素直に嬉しいと感じそうなものですが、なかなかそんな単純なものではないようです。おそらく通常の家庭生活であれば停電しなければ、それに越した事は無いでしょうが、会社となると複雑なのは経営者としてなんとなくわかります。

停電になれば商売あがったりの業種であれば、停電が事前にわかっていれば、休業するなりの対策を取ります。場合によっては、停電で休業する時間の振り替えも行うと考えます。ところが停電しなかったら、無駄な対策になり、なおかつ周囲の非停電地域から仕事が舞い込んでも対応が難しくなります。それこそ「停電するなら、ちゃんとしてくれ」のボヤきの一つぐらい出るかもしれません。

停電と非停電の二重の体制を準備できる業種なら良いですが、そうでなくどちらかを体制として選ばなければならないとしたら、毎日丁半バクチをやっているようなものです。じゃ、計画通りにキッチリ停電した方が良いかと言えば、今度は不要の停電を行ったと必ず文句が出ます。そりゃ、停電するのとしないとだったら、停電しない方が助かるからです。難しいものだと思います。


とある政治ビラ

計画停電の理解はこの程度でも今日の本題を話すのには十分かと思います。話の背景は不規則な計画停電による不満への一つの反応と見ます。住民の不満がたまれば、それに対して議員が動くのは珍しい話ではありません。

見ての通りの政治ビラです。これが本物かどうかですか、松本清治氏のツイートを紹介しておきます。

松本清治です。市政報告レポートの一部の文章が誤解を与えているとすれば申し訳ありません。レポートを読んでいただければ節電や経済活性を含め私の信念、行動がもう少し伝わると思います。決して地益誘導ではありません。全国的にみて、わかりにくい計画停電への問題提起と対案を示したかった。
http://twitter.com/#!/seiji_hero/status/50708657867997185

松本清治の市政報告レポートの一部が皆さんに誤った認識をされています。計画停電スタート時に方針が打ち出されなかったので、私は病院、指揮命令行政施設、商業地域の密集エリアは停電するしないの二転三転状態は回避すべきと経産省東電に話をしました。武蔵野市に限らず。
http://twitter.com/#!/seiji_hero/status/50706278477070336

小さい武蔵野市でも三グループに分かれています。今回はずれた第一グループは吉祥寺地域など一部です。病院、警察署、市役所、研究所がある地域です。23区の渋谷や港、千代田、中央…ほとんどが除外ですよ。ちなみに私の自宅は除外地区ではありません。
http://twitter.com/#!/seiji_hero/status/50571528399618048

これらを見る限り、政治ビラは怪文書ではなく松本清治氏が間違い無く配布したものと判断して良さそうです。


武蔵野市と東電情報

ほいでもって、実際に武蔵野市が停電から除外されているかどうかですが、3/24付共同通信(47NEWS版)より、

武蔵野市は停電対象外 市議が要請か、首相自宅も

 東京電力は24日、東京都武蔵野市全域を計画停電の対象から除外していることを明らかにした。東電は、同市にはJR中央線や京王線西武線が乗り入れているため「管轄する変電所を止めると、鉄道の運行に大きな影響が生じると判断した」と説明している。

 武蔵野市菅直人首相の選挙区で、自宅がある。また、同市の松本清治市議会議員が東電に、計画停電の対象から除外するよう要請していたとされ、批判も出ている。

 東電は共同通信の取材に「(除外は)政治的な圧力があったためではない」と回答した。

 東電が計画停電を開始した14日、鉄道が大幅に運休するなどして混乱したため、鉄道への電力供給を優先するよう運用を見直し、結果として同市全域が15日から対象外になったという。

 一方、同市議は地元住民に配布したビラに「(武蔵野市を除外する)松本清治の要請が実現しました」と記載。インターネット上で「利益誘導」などと非難された。

 ホームページによると、同市議は1994〜99年に菅氏の「随行秘書」を務めたという。

この記事から確認される事実して、

  1. 3月15日から武蔵野市全域が停電地域から解除された
  2. 停電解除の理由は、JR中央線や京王線西武線が乗り入れているため「管轄する変電所を止めると、鉄道の運行に大きな影響が生じると判断した」
そこで東電HPを確認すると武蔵野市3/25現在の時点(魚拓)で以下の地域が掲載されています。

第1グループ 第2グループ 第3グループ
吉祥寺北町1丁目 境南町1丁目 吉祥寺北町4丁目
吉祥寺北町2丁目 境南町2丁目 境1丁目
吉祥寺北町3丁目 境南町3丁目 境2丁目
吉祥寺北町5丁目 境南町4丁目 境3丁目
吉祥寺東町1丁目 境南町5丁目 境4丁目
吉祥寺東町2丁目 境1丁目  桜堤1丁目
吉祥寺東町3丁目 境2丁目 桜堤3丁目
吉祥寺東町4丁目 境4丁目 関前1丁目
吉祥寺本町1丁目 境5丁目 関前2丁目
吉祥寺本町2丁目 桜堤1丁目 関前3丁目
吉祥寺本町3丁目 桜堤2丁目 関前4丁目
吉祥寺本町4丁目 桜堤3丁目 関前5丁目
吉祥寺南町1丁目 関前4丁目 西久保1丁目
吉祥寺南町2丁目 西久保2丁目
吉祥寺南町3丁目 西久保3丁目
吉祥寺南町4丁目 緑町1丁目
吉祥寺南町5丁目 緑町2丁目
御殿山1丁目 緑町3丁目
御殿山2丁目 八幡町1丁目
桜堤2丁目 八幡町2丁目
関前2丁目 八幡町3丁目
関前5丁目 八幡町4丁目
中町2丁目
中町3丁目
西久保1丁目
緑町2丁目


武蔵野市は住んだことはもちろんの事、行った事もないので、これらの町名で全域かどうか確認出来ないのですが武蔵野市の郵便番号検索を参考にすると、ほぼ含まれていそうです。それにしても停電地域は複雑なのが改めてよくわかりました。同じ町の同じ丁目でもグループが別のことがありますから、見るからに大変そうです。

ここで興味を引くのは松本氏のビラと、共同通信記事の相違です。松本氏のビラの主要部分を引用しておきます。

わかりにくい計画停電

東電より「○時〜○時まで○グループは停電です」と市が連絡を受けて広報に努めても急遽中止になるなど二転三転する傾向が続いています。

松本清治の要請が実現しました。
東京電力武蔵野支社から
3月16日21時30分に、
武蔵野市内地域、病院等と<第1グループ>は当面(3/17 9時20分実施分より)、計画停電の計画地域から除外するとの連絡がありました。
なお、今後、電力需要によっては再度停電対象地域になることもありますのご注意ください。

共同通信記事との相違は、

松本氏ビラ 共同通信記事
連絡(決定)時期 3月16日21時30分に東電より連絡あり 14日、鉄道が大幅に運休するなどして混乱したため
停電除外時期 3月17日9時20分実施分より 15日から対象外
停電除外地域 武蔵野市全域 武蔵野市内地域、病院等と<第1グループ>


共同通信も日時は信用してよいでしょうから、3/14の計画停電の報告を受けて、3/15から武蔵野市を除外地域にしたと東電が発表したのは間違いなさそうです。この決定はどうやら3/24まで大きく公表されていなかったようですが、松本氏はえらく細かい時刻まであげて東電からの連絡が3/16にあったとしています。仮に一連のものとして考えると、

月日 事柄
3/14 東電が計画停電を実施
3/15 武蔵野市を停電除外地域にする事を決定
3/16 21時30分に東電から松本氏に連絡


表にするほどではありませんが、こういう動きであったとも推測されます。


東電が武蔵野市を除外地域にした理由の検証

さて東電が除外した理由の停電による交通の影響ですが3/14付スポニチから引用してみます。

 JR線と京王井の頭線が乗り入れる東京都武蔵野市吉祥寺駅。午前8時には駅前に約4000人があふれた。男性1人が改札を出る際に転び救急車で運ばれたほか、体調不良を訴える人も。

武蔵野市で混乱が起こっていたことが確認できます。ただ混乱は武蔵野市だけではなく、

 1日の平均乗客数が8万人近いJR浦和駅。西口のタクシー乗り場は午前7時半ごろ、100人近い行列ができた。仕事で新潟県に向かうという男性は「地震でガソリンも手に入りにくくなっている。エネルギーを節約しないと」と言い残し、他の客らと1時間40分後にようやく乗り込んだ。

 千葉県浦安市では、JR京葉線の終日運休を受け、新浦安駅から約2キロ離れた地下鉄東西線浦安駅を目指して歩く人の列ができた。

 JR東海道線などの運転が見合わされたJR横浜駅の構内は、私鉄に乗り換える通勤客らで大混雑し、運転中止を知らせるアナウンスと、警察官の声が響き続けた。

浦和や浦安、横浜でも混乱があった事が確認できます。こういう混乱を回避するために武蔵野市を除外したのは理由としては成立するかと思います。ただそうなると他の駅でも混乱を回避するために同様の処置になっていると思われます。これも現在の首都圏の電車事情が良くわかりませんので、たぶん「そうだろう」にさせて頂きます。


停電除外地域の検証

東電発表(共同通信記事)と松本氏のどちらも嘘をついていないとすれば、東電が松本氏に連絡した時点では停電除外地域が「武蔵野市内地域、病院等と<第1グループ>」であった事になります。武蔵野市はともかくとして、武蔵野市以外の第1グループの停電状況はどうなのでしょうか。これについては3/24付読売新聞より、

東京電力は24日、地域ごとに停電する計画停電について、同日午後3時20分に始まる第5グループの実施は見送るが、午後6時20分から始まる第1グループは予定通り行うと発表した。

この3月24日の第1グループの停電に関して東電のプレスリリースとして3月24日 第1グループ 計画停電のお知らせがあります。そこには、

○停電対象地域 千葉県、栃木県、埼玉県、群馬県、神奈川県、静岡県

武蔵野市はもちろんの事、東京都も含まれていません。現在の第1グループに含まれる東京都の分を確認しておくと、清瀬市小平市西東京市三鷹市東久留米市東村山市(いずれも一部)がありますが、これらも第1グループであっても停電は行われなかったようです。気になったので3月22日のプレスリリースも確認してみると、停電対象地域は、

○停電対象地域 千葉県、栃木県、埼玉県、群馬県、神奈川県、静岡県

やはり東京都は入っていません。3月17日も同様です。ついでですから3月16日

○停電対象地域 埼玉県、千葉県、群馬県、神奈川県

ここまでくればですが、混乱が生じたとされる3月14日ですが、確認すると

【東京都】武蔵野市三鷹市西東京市東久留米市小平市小金井市東村山市清瀬市,杉並区,東大和市練馬区

第2回目以降は武蔵野市だけではなく、東京都全体が第1グループから除外されていると考えても良さそうです。でもって武蔵野市ですが、プレスリリースで確認できる限りですが、停電と除外の関係を表にしておきます。

Date 第1グループ 第2グループ 第3グループ
3/14
3/15 * 除外 *
3/16 除外
3/17 除外 *
3/18 * *
3/22 除外 除外
3/24 除外 * *
3/25 * 除外 *


実際に停電したかどうかは不明ですが、計画では第1グループは3/15以降は停電から除外されています。一方で第2グループや第3グループは停電があったりなかったり状態になっています。ここで松本氏の
    武蔵野市内地域、病院等と<第1グループ>は当面(3/17 9時20分実施分より)、計画停電の計画地域から除外するとの連絡がありました。
これを、武蔵野市内のうち病院等が含まれる第1グループの地域の停電が除外されるなら話は合います。むしろ合わないのは、共同通信記事の東電発表とされる武蔵野市全域で、実情はわかりませんが、プレスリリースに書いてあっても第2・第3グループの武蔵野市内の停電は実際には行われなかったのでしょうか。検証する限りでは、共同通信の東電情報である「武蔵野市全域」より、松本氏の「武蔵野市内地域、病院等と<第1グループ>」の方が正確性は高そうに感じられます。


東電情報が市会議員にもたらされた謎

ここもまずなんですが、

    松本清治の要請が実現しました。
これもよくよく考えれば間違いではありません。松本氏「も」要請したのは事実でしょうし、結果として武蔵野市の第1グループの地域は停電を除外されています。もちろん松本氏以外も要請が多数あったと考えますが、松本氏が要請を行い、要請が実現したのは事実であり間違っていません。そのソースとして東電から松本氏に直接情報がもたらされ、その情報の精度は検証する限り非常に高いものです。

ただなんですが、何故に東電がわざわざ市会議員に連絡したのかがあります。これは3/14付時事通信からですが、

「どういうことだ。俺を誰だと思っているんだ」。民主党仙谷由人代表代行は13日夜、計画停電が病院や交通機関に与える影響を東電側に問い合わせた。しかし、明確な回答はなく、「ご不明な点はカスタマーセンターまで」と書かれた紙がファクスで送られてきたため、仙谷氏は担当者を怒鳴りつけた。

3/13時点の話ですが、与党の衆議院議員のそれも有力者の問い合わせにも、この程度の対応です。ましてや市会議員と感じないでもありません。ただ憶測として松本氏の要請は東電に直接行われただけではなく、松本氏の政治的人脈にも行なわれたは考えても良い範囲ですし、そういう行為自体は政治活動として認められる事です。これは松本氏が政治ビラに「松本清治の要請が実現しました」と書かせただけの自信の背景と考える事も出来ないでもありません。

松本氏が政治ビラに書いた東電情報の精度の高さは、検証する限り共同記事以上のように感じられます。たいした憶測ではありませんが、松本氏が政治的人脈を駆使して要請を行ない動いた人物は、東電が市会議員に過ぎない松本氏に連絡を入れざるを得ない程の大物であると考えても良いかもしれません。その大物度合いは前官房長官以上であるのも付け加えられるかと思われます。


色んな事が起きるのが震災と言えば震災ですが、こぼれ話としては楽しめる程度のレベルはあるようです。