たしかにアンビリーバボーなミステリー

検察審査会の審査員は11人の審査員と同数の補充員が選ばれます。補充員の役割は、審査員が途中で辞めたり、出席できない事が起こったときに審査に参加するそうです。検察審査会の規定として常に11人の審査員の出席が必要とされるためのようです。

その審査員・補充員がどうやって選出されるかですが、裁判所HPの【検察審査員・補充員に選ばれるまで】より、

(1)市町村の選挙管理委員会が選挙人名簿からそれぞれ割り当てられた人数をくじにより選びます。
(2)(1)で選ばれた方々の名簿を検察審査会事務局に集めて,各検察審査会の群ごとの検察審査員候補者名簿を作成します。

書いてあるままなんですが、選挙人名簿から「くじ」で候補者をまず選出するとなっています。「各検察審査会の群」と言うのは後で説明しますが、一つの検察審査会で400人、群ごとに100人の候補者をまず選ぶとなっています。こうやって選ばれた候補者から【検察審査員・補充員に選ばれるまで】によりますと、

各群の任期開始の約1か月前までに検察審査員候補者名簿から検察審査員及び補充員をくじで選びます。

どうも二段選出になっているようで、

    第一段階:選挙人名簿から候補者をくじで選ぶ
    第二段階:候補者から審査員・補充員をくじで選ぶ
二段とは言え、両段階とも選出は「くじ」ですから無作為抽出になるはずです。審査員の資格は【検察審査員の資格,辞退方法】に、

必要な資格としては選挙権を有していること(選挙人名簿に記載されていること)のみです。

ただ制限と言うのがあり、

(1)欠格事由(一般的に検察審査員になることができない人)

  • 義務教育を終了していない人(義務教育を終了した人と同等以上の学識を有する場合は除きます。)
  • 1年の懲役又は禁錮以上の刑に処せられた人
(2)就職禁止事由(検察審査員の職務に就くことができない人)(3)事件に関連する不適格事由(その事件について検察審査員になることができない人)
  • 審査する事件の被疑者又は被害者本人,その親族,同居人 など
(4)職務執行停止事由(検察審査員の職務を停止される人)
  • 禁錮以上の刑に当たる罪につき起訴され,その被告事件の終結に至らない人,逮捕又は勾留されている人

まあこの辺は制限されても不思議はありません。この制限以外に辞退と言うのもあります。

  1. 70歳以上の人
  2. 国会又は地方公共団体の議会の議員(ただし会期中に限ります)
  3. 国又は地方公共団体の職員及び教員
  4. 学生,生徒
  5. 5年以内に裁判員や検察審査員などの職務に従事した人及び1年以内に裁判員候補者として裁判員選定手続きの期日に出頭した人
  6. 3年以内に選任予定裁判員に選ばれた人
  7. 一定の「やむを得ない理由」があって,検察審査員の職務を行うことや検察審査会に行くことが困難であると検察審査会が認めた人

ちょっと面白いと思ったのは国務大臣は制限されても国会議員はOKである事です。一定の「やむを得ない理由」は色々に使われるのでしょうが、とりあえず裁判員と似たようなものぐらいで理解しても良いと思います。これらを読む限り審査員及び補充員の選出に意図的なものが入り込む余地はないはずです。



さてここでなんですが、一つのミステリーが噂されています。小沢氏問題の検察審査員が1回目の起訴決議も2回目の起訴決議も同じメンバーでないかの疑惑です。とりあえず制度上はありえません。【検察審査会の構成】によれば、

任期は全員同じで6か月ですが,検察審査会は任期の開始時期が3か月ずつずれている2つの群の審査員で構成されていますので,約半数が3か月周期で入れ替わることになります。

ここに書かれている「群」は上述した通り選挙人名簿から作成された100人の候補者であり、さらに【検察審査員・補充員に選ばれるまで】には、

選挙人名簿から,前年の10月15日までに選ばれます。

要するに10月に候補者名簿が作成され、この時に4つの群が作られます。私の理解が誤っていれば御助言頂きたいのですが、どうやら群と任期の関係はこうなっていると考えられます。便宜上各群をA、B、C、Dとしていますが、

10月
候補者選出
11月 2月 4月 5月 8月 10月
A群 6人選出 第1回
起訴議決
任期終了 第2回
起訴議決
B群 5人選出 任期終了
C群 6人選出
D群 5人選出


小沢氏の起訴決議は4月と10月に行なわれているため、昨年の10月に作られた候補者名簿から審査員が選出されている事になります。当然ですが4つの群に重複者はいないはずで、なおかつ候補者名簿にも変更はありませんから、同じ人物が1回目と2回目の審査員になった可能性は制度上ゼロのはずです。


どう考えても制度上ありえない可能性が囁かれる根拠は検察審査員の平均年齢にあるとされています。上述した様に検察審査員は選挙人名簿からくじでランダムに選ばれるため、おおよそ母集団(選挙人名簿)に近い構成になるはずです。選挙人名簿の平均年齢は50歳ぐらいとされていますから、常識的にはその前後になる可能性が高いはずです。

それが2回とも30歳代前半になっているのは既報の通りです。これだけでも統計学的に非常に珍しいケースとされますが、もっと珍しい「偶然の一致」が審査員の平均年齢にあるとなっています。かなり煩雑なお話なんですが、横須賀歩き様の小沢氏強制起訴 その9 検察審査会の審査員平均年齢の謎 審査員は1回目と同じではないのか!?の情報から検証して見ます。

まず4月の1回目の起訴議決の時は既に34.27歳と発表されているようです。この数字を十分に念頭において欲しいのですが、10月の2回目の時には当初30.9歳と発表されています。この30.9歳は誤りだったとして訂正されています。この訂正理由が、

平均年齢を計算する際、担当職員が37歳の審査員の年齢を足し忘れ、10人の合計年齢を11で割るなどしていた

計算方法に二重の誤りがあったとなっています。つまり、

  1. 37歳審査員を足し忘れた
  2. 足し忘れた上で11人として割り算した
ここから導かれる事は30.9歳の11人分の合計年齢は37歳審査員を除いた残り10人の合計年齢になると言う事です。そうなれば10人の合計年齢は340歳になる事になり、本当の11人の合計年齢は377歳になり、さらに本当の平均年齢は34.27歳になるはずです。これは偶然にも第1回の起訴議決の審査員の平均年齢に一致します。

では間違った理由を正して34.27歳になったかと言えばそうなりません。訂正された平均年齢は33.91歳となっています。あれれれ、計算が合わない事になります。さらになんですが、33.91歳もさらに訂正され34.55歳が最終的に正しいと発表されます。ここの訂正・再訂正に関する検察審査会事務局の説明は、10/14付Asahi.comより、

 小沢一郎民主党元代表政治資金規正法違反の罪で「起訴すべきだ」と議決した東京第五検察審査会の審査員11人の平均年齢について、審査会事務局は13日、議決日の9月14日の時点で計算すると「34.55歳」になると改めて発表した。

 計算ミスを理由に12日に平均年齢を「30.90歳」から「33.91歳」に訂正したばかり。報道機関から「どの時点の年齢か」との問い合わせを受け確認したところ、任期6カ月の審査員の「就任日」で計算していたという。

 審査員は5〜6人ずつ3カ月ごとに入れ替わる。これまで公表した別事件の平均年齢も、異なる就任日を起点にしていたといい、「不適切だった」と判断。今後は議決時の年齢で統一するという。

つまり

    33.91歳・・・2回目の審査員就任時点(5月 or 8月)の平均年齢
    34.55歳・・・2回目の議決時点(10月)の平均年齢
こうであるとなっています。審査員の合計年齢で考えると判りやすいのですが、33.31歳なら373歳、34.55歳なら380歳になり、その差は3歳です。つまり5月ないし8月から10月の間に3人の審査員が誕生日を迎えた事になります。これはありえることです。


ではでは当初発表の30.9歳(修正計算34.27歳)はどこから算出されたかになります。この当初発表の30.9歳(修正計算34.27歳)について突っ込んで調査された方がいます。フリーランスライター畠山理仁のブログ様の「割り算」どころか「足し算」も間違える検察審査会事務局のテキトーさ。からなんですが、調査法は

疑問に思った筆者は、東京第五検察審査会に電話で問い合わせてみた。対応したのは東京第五検察審査会の報道対応を担当する東京第一検察審査会の手嶋健総務課長。

手法としては検察審査会の事務局に直接問い合わせたようです。問題の30.9歳(修正計算34.27歳)についての部分ですが、

手嶋:単純に計算していくと、(筆者・畠山の)ご指摘の通りなんですよ。足し忘れていた人を加えて11で割れば正しい数字になるんではないかというところなんですけれども、あのー、その経過でですね、単純に10人(分)を11人(分)という足し上げの数字が間違っていたというところだけでなくて、そもそもの計上した数字自体に誤りがあって、結果としてこのようになってしまったというところなんです。

畠山:ということは、最初に発表された30.9歳というのも、30.9歳ではなかったと。今回検算をした際に漏れていた人の数字を…。

手嶋:加えて11で除しても、まあ、間違っていたということになりますですね。

畠山:最初の数字は「30.54歳」になるということですよね?

手嶋:えーと、まあ、そもそもの数字が間違っているので、この数字についてはお忘れいただいたほうが。

畠山:30.9歳になるための「340」という数字がそもそも間違っていると。

手嶋:はい、はい。

完全な計算間違いで、37歳の審査員を足し忘れた云々以前の間違いであると事務局は説明しています。これはこれで一つの説明なんですが、あれだけ詳しく間違った理由を説明していたのですから、単純な計算ミスと言うより、計算の根拠とした検察審査員の名簿の確認ミスではなかったかの推理が展開されています。

どういう仮説かと言えば、

  1. 30.9歳(34.27歳)は4月の議決時の審査員の年齢で計算し、さらに単純ミスで間違って発表
  2. 33.91歳は慌てて修正したときに1回目の審査員の就任時(11月 or 2月)の平均年齢で発表
  3. 34.55歳は10月の議決時の平均年齢が必要である事としてさらに修正
最初に4月時点の審査員の平均年齢を発表した原因として、1回目と2回目の審査員のメンバーが同じであった可能性を指摘しています。平均年齢を計算するときに事務局が取り寄せた資料が、1回目の議決の時の審査員の年齢付のものではなかったかと言う事です。1回目と2回目の審査員のメンバーが同じであるために事務局が混同し、さらに御丁寧に計算間違いまで起したと言う推理です。

ではこの年齢仮説にどれだけ根拠があるかですが、

事柄 平均年齢 11人の合計年齢
2月 1回目の審査員就任 33.91歳 373歳
4月 1回目の議決 34.27歳 377歳
10月 2回目の議決 34.55歳 380歳


2月の審査員就任時から4月の1回目の議決までに4人が誕生日を迎え、さらに10月の2回目の議決までに3人が誕生日を迎えたと考えれば辻褄が合うとしています。8ヶ月の間に11人中7人が誕生日を迎えてもおかしくはないだろうとの考え方です。

色々不審な点はあるのですが、まず不思議なのは最初の30.90歳を何故に訂正したかです。言ったら悪いですが検察審査員の身許なんて確かめようがないですから、間違っていても何が正しいかなんて内部のもの以外は確認しようがありません。それでも訂正したのは姿勢としての誠実さと評価はしておきましょう。

ただ訂正の内容が不可解です。間違った理由を具体的に挙げながら、その理由に基いた計算法ではたどり着けない訂正年齢を発表します。たかが11人の平均年齢ですから、誰だってそのおかしさの指摘は可能です。指摘があるとさらにの訂正を行います。この数字も就任時と議決時の差と説明はしています。しかしこれまでどれだけ平均年齢が発表されたか存じませんが、どういう基準で計算していたかなんて、そもそも誰も知らなかったわけです。

それと2回に渡る訂正でも初回の30.90歳がなぜ出てきたかは不明です。取材により「完全なミス」と釈明している事は確認できますが、何をどう「完全にミス」したかが不明ですし、完全なミスに対しあれだけ具体的なミスの理由を発表したのかも意図不明です。どうにも不明な事が多いので、これまでは就任時の年齢を基に計算していたかどうかも疑え出せば疑える事になり、4月の議決時点の平均年齢の計算も本当に就任時の年齢に基いたものであるかも疑わしいんじゃないかと言うのが、年齢仮説の立脚点にもなっています。

ここでなんですが事務局が就任時の平均年齢を4月の時点でも本当に用いていたら、どうなるかです。

就任時 平均年齢 合計年齢 議決時の
在任月数
議決時
平均年齢
合計年齢
A 11月 34.27歳 377歳 5ヶ月 不明 不明
B 2月 2ヶ月
C 5月 33.91歳 373歳 5ヶ月 34.55歳 380歳
D 8月 2ヶ月


この表は事務局が認めている「事実」になります。



年齢仮説はある程度辻褄は合いますが信憑性については正直なところ疑問です。否定する根拠としては単純ですが「制度上ありえない」からです。陰謀説が展開すれば、何者かが検察審査会に影響を及ぼし、1回目の起訴議決の審査員を再任させたの妄想を膨らませやすいところです。ただそこまで影響力があるのなら、個々の審査員に直接働きかける事も可能なわけで、制度を捻じ曲げて再任させる必然性は乏しい事になります。

むしろ陰謀であるなら、公式書類に審査員の名前が残る再任よりも、密かに審査員の身許情報を入手しての水面下運動の方が証拠が残り難いと考えます。まあ、それ以前に日本のこういう制度の運用に、私はまだまだ信頼を置いています。その先の話はキリがないので置いておきます。


再任説は個人的には否定しますが、起こった事は「奇跡的」の言葉が大げさとは思えません。まとめておくと、

  1. 平均年齢が50歳程度される選挙人名簿から無作為に選出した審査員の平均年齢が2回続けて30歳代前半になり、なおかつ11人の合計年齢で4歳しか差がないほど近い(おそらく2回目の議決と思われますが、明石の歩道橋は平均年齢42歳、JR西日本が53歳であったとの情報があります)


  2. 最初の平均年齢の計算を誤った理由から再計算された平均年齢が、1回目の議決時の平均年齢にピタリと合致する

世の中には人智で計り知れないアンビリーバボーな出来事が起こり得ますが、小沢氏問題の検察審査員の年齢構成でそれが起こったようです。それこそ「事実は小説より奇なり」ぐらいしか言い様がありません。