先週ぐらいだったか、ツイッターでこの話題がちょこっと出ていました。ツイッターとそこに紹介されているリンク先を読むと、かなり肺腑を抉る質問をして政府側が立ち往生した印象だったのですが、どうにも質問側(森委員側)の意見と見解ばかりで「ホンマかいな」と思わないでもありませんでした。さらにこのバトルが行われたのが前の国会(つまり去年)だった割にはそんなに話題になっていないのも「???」です。
ここはオリジナルを読まないと冷静な評価を下せないと考え、掘り出してみました。肩書きは2010年11月26日現在のもので、バトルの場は参議院予算委員会です。さすがに去年の11月の委員会質疑ですから、議事録から引用させて頂きます。現場の雰囲気を知りたい方はYouTubeをどうぞ。
森委員
仙石大臣行政権の行使であると考えられます。
森委員しかし、行政機関としての法律上の位置付けはありません。すべての行政機関は、法律上、行政機関としての位置付けがございます。そして、所轄が決まっております。検察審査会はどの法律に行政機関として位置付けられ、どこが所轄なのでしょうか。
仙石大臣森委員独立して業務を行う。例えば公正取引委員会は、独禁法でそのように、独禁法二十八条で、公取委員会の委員長及び委員は独立してその職権を行う。検察審査会と同じような規定がございますが、その一方、二十七条、内閣府設置法第四十九条第三項の規定に基づいて、第一条の目的を達成することを任務とする公正取引委員会を置く、その第二項において、公正取引委員会は内閣総理大臣の所轄に属する。しっかりと所轄の大臣がここで指定をされております。つまり、内閣総理大臣の責任において公正取引委員会は行政権を行使する、このようになっておりますが、検察審査会はどこにもございません。どこが所轄なのでしょうか。
仙石大臣森委員仙石大臣
ここまでが前半戦です。先に断っておきますが、森委員がどんな方かは全く存じません。また議論の中心は法律論議であるために、専門家的な批評を加えるのは私の手に余ります。あくまでも質疑に出てきた言葉から考えてみます。これも読めばわかるように検察審議会の位置づけについての質問が展開されています。背景に小沢氏の問題があるのでしょうが、私は興味が無いので基本的にパスです。私が興味があるのは検察審議会の位置付けに疑義ありとした森委員の主張にどれだけの理があるかです。
森委員は冒頭で検察審査会が三権のどこに属するかの質問を行っています。これに対し仙石大臣は行政権の範疇にあるとしています。まあ検察も行政に属しますから、検察審査会も行政に属しても無理は無いように思います。続いての森委員の切り口は、検察審査会が行政に属するのなら、行政のどこに属するのかの質問を行っています。つまり行政権の行使を行うのなら、当然のように所轄官庁があって当然の理屈です。ところが検察審査会はいかなる行政府にも属していないと仙石大臣は答弁しています。
この辺までは森委員の想定の答弁だったでしょうが、そうなれば検察審査会はどこが責任を負うかに追及は移ります。仙石大臣の答弁は難解なんですが、
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内閣がその責任を負えないとすれば、それはどのようにチェックするのかということでございまして、それは刑事司法手続の中でチェックがされる
個人的には気にはなったのですが森委員の質問は別の方面に展開したため、仙石大臣の検察審査会に対する刑事司法手続が具体的に何を指すのか、私には理解できませんでした。まあ、お二人(さらに法律に詳しい方々も)にとっては自明の表現なんでしょうが、知識不足は悲しいものです。
森委員
憲法第六十六条第三項、「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。」、すべての行政はその内閣が責任を負うんです。最終的な責任を負うんです。この検察審査会については、どこが行政権行使のその責任を負うんですか。
仙石大臣この起訴、不起訴の問題は、この検察審査会の起訴相当議決によって言わば検察官が起訴したのと同じような効果を持つと、こういうある意味で新しい枠組みがつくられたわけでありますが、それ以前には、つまり我々が若いころにはと言うと語弊がございますが、付審判請求、準起訴手続というのがございました。これは、公務員の暴行陵虐罪等限られた犯罪については、告訴、告発が行われて、これについて検察官が起訴しないというふうにした場合に、その案件について付審判請求、裁判所にこの事案は起訴すべきだと、こういう申立てをすることができることになっておりまして、現に、余り数は多くないと思いますけれども、そういうことで、裁判所が言わばその付審判請求を認めて起訴という効果、つまり、本来は検察官でしかあり得ない起訴という効果をもたらすことができると。
森委員
つまり、そうなってきますと、この起訴行為、公判請求という行為自身は行政権の行使でありますから、これは裁判所が、つまり司法の立場にある裁判所がそういうことを行ったと。これ、だれが責任を持つのかという話になってきますと、これは刑事司法裁判の過程で、プロセスの中でその当否が問われなければならないということになるわけであります。
したがって、いわゆる刑事司法という言い方が、これは行政権の行為であるけれども司法という言葉が入ってきておりますように、これは司法権の範囲と行政権の範囲が、まあ言わばせめぎ合うといいましょうか、あるいは混じり合いながらそれぞれが独立して行われなければならないというその要請に従って、この種の、ある種そういう、あれかこれかというふうに言われれば分かりにくいことになっておるんですが、これは制度をどうつくるかという割り切り方の問題だと私は思っております。これは憲法違反じゃないですか。三権分立の中に入っていない。今の御答弁はどこも責任を負わないと自ら宣言しているようなものですよ。検察だって行政が最後は責任を負うんです。三権分立の外にある第四権力ではないですか。
仙石大臣例えば会計検査院もそういう意味で憲法上のこれは機関でございまして、そういう意味で、これは行政権の行使なのか、あるいは会計監査、検査という権限が別途行政権の行使のほかにあるのかと、こういうふうに問われますとなかなか、何というんですか、あれかこれかという分け方は難しいのかも分かりません。
森委員
今、憲法違反じゃないかというお話がございましたが、憲法が許容されるそういう制度的な設計だということで、多分、多分じゃなくて、設計だということで、内閣法制局がこれは吟味してこの法案が通ったということでありますが、当然、この刑事司法の過程で憲法違反を理由にして争うことはできるだろうと思います。憲法違反ということで争うということになるということですが、今の指摘、皆さん是非考えていただきたいと思います。
後半戦です。森委員の追及は、検察審査会の行政権の行使であるなら、それはどこかの行政府が責任を負って然るべしではないかの論旨です。もう少し言えば、行政の長たる内閣から独立した行政権の行使であるなら、これは内閣からも独立した新たな権力になるのではないかと質問しています。
これに対する仙石大臣の答弁が非常に難解なんですが、二つの類似組織と言うか類似例を出して答弁しています。
- 付審判請求、準起訴手続
- 会計検査院
どちらも検察庁は起訴しない判断としたが、それでも起訴するに値すると判断した人がいるわけです。その人が付審判請求では裁判所に、検察審査会では、検察審査会に判断を請求するわけです。また起訴が認められれば、指定の検察以外の弁護士が起訴業務に当たります。似てるところは確かにあるのですが、最大の相違は判断する組織です。
付審判請求では国の三権に属する裁判所が責任をもって判断します。一方で検察審査会は内閣にも所属しない行政権を行使します。まさか検察審査員が直接責任を負う事はないでしょうから、森委員の「誰が?」の質問に答えていないような気がします。
もう一つの会計検査院ですが、よくわかりません。会計検査院HPの会計検査院の地位に、
日本国憲法 第90条
会計検査院法 第1条会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する。
会計検査院法 第20条
ここもよく分からないところですが、会計検査院の存在根拠の大元は憲法にあるのがわかります。憲法で「会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める」とした上で、憲法に従った会計検査院法で「内閣に対し独立の地位を有する」となっています。これが森委員の主張する
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憲法第六十六条第三項、「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。」、すべての行政はその内閣が責任を負うんです。最終的な責任を負うんです。
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当然、この刑事司法の過程で憲法違反を理由にして争うことはできるだろうと思います。
法律論の細かい解釈はともかく、この質疑答弁のバトルの判定はスコアレス・ドローと感じています。森委員は仙石大臣から憲法違反の可能性が否定できない答弁を引き出しています。ただこれは法律論として「否定できない」だけで「検察審査会は憲法違反である」と言ったわけではありません。本当に憲法違反かどうかは司法の判断が必要としています。
言ったら悪いですが重箱の隅の法学論争レベルでは可能性を否定できないの答弁であって、見方を変えれば「アンタがどうしてもそう考えるのであれば、法廷で立証してみたらいかが」と突き放して終止符を打っているようにも感じます。答弁で森委員に少しだけ花を持たしたような格好にしていますが、実質としてゼロ答弁との解釈も可能だと考えられます。
時間の関係も有るでしょうが、森委員がもう一歩踏み込むためには、類似の例で憲法違反になった先例ぐらいを示さないとパンチが足りないように感じます。実際に司法判断の場で争っても、仙石大臣が答弁した行政の運用の範囲内の主張を突き崩さないと勝てないわけであり、さらに時間はタップリかかります。喩えは悪いかもしれませんが、一票の格差の訴訟と較べても分が悪そうに思います。