単なる興味です。
まずは厚労省の定期の予防接種実施者数から接種率の経年データをピックアップします。なんつうても元がドデカイ表なので2004年以降の接種率だけ表にしています。
年度 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | ||
DPT | 1期 | 1回 | 94.3 | 102.1 | 101.4 | 103.1 | 103.6 | 102.5 | 105.1 |
2回 | 93.8 | 100.6 | 100.8 | 102.9 | 102.9 | 102.3 | 103.9 | ||
3回 | 91.4 | 98.2 | 98.3 | 102.4 | 102.7 | 101.9 | 102.7 | ||
追加 | 90.0 | 91.7 | 91.7 | 94.0 | 98.8 | 99.0 | 106.3 | ||
2期 | 63.9 | 62.1 | 64.8 | 66.1 | 75.4 | 75.0 | 77.5 | ||
OPV | 1回 | 94.4 | 95.6 | 96.9 | 96.0 | 97.9 | 96.0 | 98.7 | |
2回 | 94.7 | 95.2 | 94.7 | 93.8 | 96.5 | 90.4 | 99.3 | ||
麻疹 | 1期 | 93.7 | 97.8 | 97.4 | 100.2 | 94.3 | 93.6 | 95.7 | |
2期 | - | - | 77.9 | 89.2 | 91.8 | 92.3 | 92.2 | ||
3期 | - | - | - | - | 85.1 | 85.9 | 87.3 | ||
4期 | - | - | - | - | 77.3 | 77.0 | 78.9 | ||
風疹 | 1期 | 98.1 | 143.6 | 100.8 | 100.3 | 94.3 | 93.6 | 95.7 | |
2期 | - | - | 79.1 | 89.6 | 91.9 | 92.3 | 100.0 | ||
3期 | - | - | - | - | 85.2 | 86.0 | 87.3 | ||
4期 | - | - | - | - | 77.3 | 77.1 | 79.0 | ||
日本脳炎 | 1期 | 1回 | 83.0 | 22.1 | 4.0 | 13.7 | 22.1 | 61.2 | 171.6 |
2回 | 81.1 | 16.7 | 3.6 | 13.3 | 21.7 | 54.6 | 161.9 | ||
追加 | 70.8 | 15.6 | 3.3 | 6.9 | 11.3 | 16.0 | 48.5 | ||
2期 | 65.6 | 15.8 | 1.4 | 3.9 | 7.0 | 10.6 | 23.7 | ||
BCG | - | 94.1 | 90.2 | 99.6 | 97.0 | 93.9 | 94.6 | ||
インフルエンザ | 47.6 | 48.8 | 48.3 | 52.8 | 55.9 | 49.5 | 53.0 |
表で「?」と思われそうなところとして、接種率が100%を超えているところはあると思います。この接種率の定義は、
-
実施人口 / 対象人口
もっとも、それでもわかりにくいのは2010年度の風疹の2期の接種率です。麻疹・風疹と分けられていても実際は2期ならほぼMRのはずで、その傍証として1期・3期・4期はほぼ麻疹も風疹も接種率は連動しています。しかし2期だけ風疹が100%となっています。それも2009年度までは麻疹と接種率は同じぐらいであるのに2010年度だけそうなっているのは・・・誰か御存知の方は宜しくお願いします。
蛇足ですがインフルエンザ接種率は高齢者の物として良いでしょう。そもそも全人口の半分以上もカバーするようなインフルエンザワクチンは生産されておりません。
2011年度データを提示したいのですが、これがまだ集計が終わっていないようなので断片的なものになります。まずOPVの昨年秋のデータが厚労省のプレスリリース「平成23年度秋 急性灰白髄炎(ポリオ)予防接種率の調査結果まとめ(速報)」にあります。
対象者82.5万人中、接種者62.4万人=接種率75.6%
(平成23年度春シーズンの接種率83.5%から7.9ポイント減)
おそらく平成24年度春シーズンはもっと減っていると思います。私も出務の当番だったので行きましたがヒマでした。保健師に聞いても「少ない」と言っていました。
次に麻疹と風疹ですが平成23年度12月末中間評価 都道府県別麻しん・風しん含有ワクチン接種率 接種対象群別結果一覧(平成22年4月〜12月)があります。このデータは期間が示すように1年ではなく9か月分のものなので、平成22年度12月末中間評価 都道府県別麻しん・風しん含有ワクチン接種率 接種対象群別結果一覧(平成22年4月〜12月)も並べて表にして見ます。
年度 | 種別 | 2期 | 3期 | 4期 | |||
4〜12月 | 年度通算 | 4〜12月 | 年度通算 | 4〜12月 | 年度通算 | ||
2010 | 麻疹 | 70.9 | 92.2 | 68.9 | 87.8 | 58.8 | 78.9 |
風疹 | 70.9 | 100.0 | 69.0 | 87.3 | 58.9 | 79.0 | |
2011 | 麻疹 | 72.3 | 未発表 | 71.9 | 未発表 | 62.5 | 未発表 |
風疹 | 72.3 | 未発表 | 71.9 | 未発表 | 62.6 | 未発表 |
2010年度より12月時点の接種率は向上しており、2010年度と同じぐらいの接種数が1〜3月に行われれば、2011年度は2期なら麻疹も95%(なんつても風疹は100%)、3期は90%以上、4期でも80%以上の結果が予想されます。
さてなんですが定期接種ではありませんがHib、PCV7、HPVはどうなっているかです。これがどうにもわかりにくく、とりあえずHibについて2つの参考資料を示します。
- IASR(Vol. 31 p. 101-102: 2010年4月号)千葉県におけるインフルエンザ菌全身感染症の現況とHibワクチン接種状況
- IASR(Vol. 31 p. 95-96: 2010年4月号)小児における侵襲性細菌感染症の全国サーベイランス調査
2009年度時点で10%ないしはそれ以下と考えても良さそうです。公費助成が2010年1月からですから自費時代になり、そんなものかもしれません。それと千葉の10.8%は2009年度のデータです。それと2010年1月から公費助成は始まっていますが、1月時点から助成が始まったところもあれば、4月の年度変わりからのところもあります。もう少し遅れたところも「あるらしい」です。その点の千葉の情報は持っておりません。
では公費助成が始まった2010年度はどうであったかですが、これがサッパリわかりません。とりあえず4/11付産経には、
厚生労働省によると、23年11月末までにヒブは195万人、肺炎球菌は202万人が接種した。同省では年齢別での接種率は出していないが、「0〜1歳児の接種率は6〜7割」としており、全体での接種率は4割程度だ。
厚労省の観測による「0〜1歳児の接種率は6〜7割」はチト過大な気がします。厚労省が接種人数とした195万人も、202万人も接種延べ人数であると見ます。理由はこの後を読めばわかります。HibもPCV7も複数回接種を必要とし、接種開始月齢、年齢により1〜4回に分かれます。「接種人数 = 接種ワクチン本数」ですから、全員がフルの4回接種なら50万人程度が上限となります。
現場感覚で言えば、フル4回接種の比率は高かったですが、一方で3回接種、さらには1〜2回接種もかなり目立つ印象でした。正確なデータがないので平均3回接種とすれば実数として70万人弱ぐらいになるのですが、これは0〜5歳の接種可能年齢人口のトータルです。つまり「6〜7割」よりかなり下がるのではないかです。
たとえばキャッシュしか残っていませんが、小児細菌性髄膜炎の疫学研究(鹿児島スタディ)には、
任意接種であるため正確な接種率はわかりませんが、鹿児島市の公費助成利用率(3歳以下)は、2010年12月時点で、平成20年度対象者63.1%、平成21年度対象者67.4%、平成22年度対象者57.2%でした。任意接種で半額補助としては、比較的高い利用率ではないかと考えます。平成23年3月には一時接種見合わせがありましたが、4月以降の接種は順調に進んでいます。平成23年度の接種対象者の利用率は、61.4%です。肺炎球菌ワクチンも59.6%となっています。
鹿児島の調査の結果は厚労省データに近いものにはなっていますが、延べと実数をどれだけ区別したかがよく判りませんでした。仮に鹿児島の接種率が高かったとしても、2012年4月6日付熊本日日新聞には、
昨年4〜12月の5歳未満のワクチン接種率はヒブが21%、肺炎球菌が24%と苦戦している。
熊本の接種率はかなり低そうな感じです。鹿児島も熊本も延べと実数の違いが判然としませんが、もう少し具体的に数字が確認できるものとして岐阜のデータとして、平成23年度ヒブワクチン接種者数(平成23年4月〜平成24年3月)があります。これには0〜4歳児の延べ接種回数(61180回)、延べ接種者数(29241人)が記録されています。岐阜県の5歳未満人口のデータが無いのですが、15歳未満が約29万人ですから単純計算では5歳未満が9万5000人ぐらいになるはずです。これもまた単純計算すれば接種率は30%になります。
問題は人数が「延べ」である点です。岐阜のデータはかなり詳しいのですが、果たして1期と追加の人数の重複分であるとか、年度を跨いでの接種の実数まで分けきれていないと見ます。ですから実数なら30%は切り、20%台の前半から中盤ぐらいのような気がします。
もう一つデータを示しておきます。これは当地の医師会経由のデータです。Faxで送られてきたもので、残念ながらどこのデータであるかが不明です。原文を転写引用しますが、
1.平成23年度各予防接種実施状況(速報値:4月末現在)
- 麻しん・風しん:3期87% 4期78%
- 日本脳炎:1期初回・追加とも200%超
- ヒブ:平均19%
- 小児用肺炎球菌:平均約22%
- 子宮がん予防:平均59%
このデータですが、麻疹・風疹で見ると、どうも2010年度全国データとほぼ同じになります。2011年12月時点の中間データは上で示しましたが、1〜3月で思ったほど増えなかったのか、それとも2010年度データを示しているのか判断に悩むところです。と言うのも日本脳炎のデータは明らかに2010年度データと異なるからです。
ここの解釈ですが、全国調査が行なわれていないはずのHib、PCV7、HPVのデータがある点を注目すべきかもしれません。とくにFaxを読んだ時には謎の言葉であった「平均」です。まず具体的な接種率が出ているので厚労省による全国データではなく神戸市の統計であろうは出てきます。でもって「平均」ですが、これは1回目とか、2回目とか、追加とかの平均と考えます。
だから1回接種である麻疹、風疹、日本脳炎(これは具体的にどの回の接種か明示してある)には平均の記載がなく、Hib、PCV7、HPVには「平均」となっているです。これは神戸市の予防接種券のシステムから集計可能なものです。おかげでメンドクサイのですが、バーコードまで貼りますから自動集計も可能だと考えます。
そうなると非常に粗い推測なのはお断りしておきますが、HibもPCV7も接種率は20%程度じゃなかろうかです。やはり厚労省の接種率推測は過大であろうです。
私の推測としてHib、PCV7の接種率はやはり20%ぐらいであると見ます。この20%は別のデータによりそれなりに裏付けられそうな気がします。IASR(Vol. 33 p. 71-72: 2012年3月号)インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンおよび7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)導入が侵襲性細菌感染症に及ぼす効果についてには、
IPDの調査では、2008〜2010年までの3年間の肺炎球菌髄膜炎の罹患率は、2.6〜3.1(平均2.8)であったが、2011年には2.1と25%減少し、髄膜炎以外のIPDは、3年間の罹患率21.2〜23.5(平均22.0)から2011年には14.9と32.3%減少していた。
私もしらない略語だったので注釈を入れておきますと、IPDとは侵襲性肺炎球菌感染症の事で、平たく言えば肺炎球菌感染症のうち重症のものを指すぐらいの理解で宜しいかと思います。ここでHibとPCV7の髄膜炎予防効率は、
HibワクチンおよびPCV7には集団免疫効果がある。Hibワクチンを定期接種している国ではHib髄膜炎が99%、PCV7を定期接種している国ではすべての血清型の肺炎球菌髄膜炎が75%減少している。また、PCV7では40%の接種率で乳幼児のIPDが80%低下している。
微妙なところですし、諸外国と日本をストレートに比較するのも大雑把過ぎるのですが、あくまでも傍証ですからその程度でお受け取り下さい。HibにもPCV7にも接種者個人の免疫効果の他に、集団での接種率が上昇する事による集団免疫効果があります。これは他のワクチンでももちろんあります。この集団免疫効果ですが、接種率が高くなるほどその効果が加速度的に上昇します。
逆に言えば集団での接種率が低いと集団免疫効果はかなり低くなるです。IASRは2011年のIPDの調査結果として、
ここで髄膜炎の発生年齢は0〜1歳児が大部分です。この減少分はPCV7の効果によるものとして良いと考えますが、接種率が20%なら
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個人免疫効果(20%)+ 集団免疫効果(5%)= 25%