医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会で判りやすい展開があったようなので典型例として紹介したいと思います。会議は厚労省HPで確認する限り全部で7回行なわれているようです。そして事件は第5回に起こっています。この事件が起こるまでの経緯を手短に説明するのが難儀なんですが、cnet Japan「改正薬事法の完全施行は土壇場で厚労省がどんでん返し--委員の不信感も募り混沌」を参考にまとめてみます。
元の議題は薬事法の改正です。これにより対面販売の原則が強化され、
省令案が公表された2008年9月17日以降、医薬品をインターネットで販売している事業者や長年伝統薬や漢方薬を郵送販売していた事業者らが、解熱鎮痛剤や風邪薬、胃腸薬、水虫薬、妊娠検査薬、および漢方薬など大半の医薬品は今後一切購入が出来なくなるのは消費者の利便性を損なうなどとして、一斉に異論を唱え始まった。そして、直接厚労省や舛添要一厚生労働大臣に対して反対意見を送ろうとする運動や、署名活動が盛んに展開された。
死活問題の業者を中心にこういう動きが起こったわけです。このため当時の舛添大臣はさらなる検討が必要として医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会が開催される経緯になります。それでもって第4回までは、
第4回までは、これまでの経緯説明や各委員の意見などが出され、利害関係が相反するメンバーがいることもあって、委員同士で議論が白熱することはあったが、それでも各委員はなんらかの方向付けをしようと真摯に検討会と向き合ってきた
なんちゅうか問題点の抽出の作業が行なわれてきたと解釈して良さそうです。第5回は第4回までに出た論点の整理と確認作業が行なわれたようで、
4回までで出てきた意見を論点ごとに整理することが議題とされ、1つ1つ確認がなされるかたちで当初予定されていた2時間はほぼこれに費やされた。
ここまでの展開は、
- 第1回〜第4回は利害関係者(委員)からの論点の抽出作業
- 第5回はそれまで出た論点の整理
私が何を言いたいかといいますと、意見がちゃんと出ていますので、この意見を全部汲んでいただいて、これに対してどういう措置をとるかは行政の責任だと思いますので、これについてこれから先は行政に考えてもらいたいという気がします。これは少し厳しい言い方かもしれませんが、どうしても行政にやっていただかなければならないことだと思いますので、どういう措置を考えるかわかりませんが、とにかくそれを1度考えていただきたい。今日はこれで検討会を完全に終わらせてしまうわけではありませんので考えていただいた上で、また何か議論をする機会があれば、それはそれでよろしいかと思います。その辺でこの検討会をやったことの意味があるという結果になれば、非常にありがたいのです。
ちょっと驚かされるような提案ですが、検討会は問題点を列記したので、後は行政すなわち厚労省にやってもらおうとの発言です。つまり検討会で結論を出すのはあきらめたとの発言です。ここも面白いのですが、
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どういう措置を考えるかわかりませんが、とにかくそれを1度考えていただきたい
どうもありがとうございます。我々もギリギリの段階にきておりますので、いろいろ考えていることがありますので、あとで総務課長から説明させますが、私のほうで皆さん方から多くの意見をいただいておりますし、これ以外からもご意見を多くいただいておりますので、その中で我々として本当にやらなければけないと、この時点で思っていることをまとめて、時間はありませんが、各方面の意見を伺いたいと思っています。それを皆様方にお諮りることなくやるのは大変失礼だと思いますが、時間的な制約もありますし、座長から予定外の意見をいただきましたので、私どもの意見を早急にまとめて世に問いたいと思っておりますので、総務課長の説明を聞いていただければと思います。
ここも額面通りに受け取ると、
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座長から予定外の意見をいただきましたので、私どもの意見を早急にまとめて世に問いたいと思っております
厚労省が出した提案は、厚労省が省令案を作り、作った省令案をそのままパブコメにかけ、パブコメも含めて出来上がった省令案の内容を検討会が事後承認すると提案です。これだけでは会議の展開が判り難いと思うので背景を私が理解した範囲でまとめておくと、
検討会の焦点は救済措置の範囲を広くするか、狭くするかに絞られていたと思われます。当然の様に可能な限り広くしたい業界と、逆に狭くしたい業界の対立があるわけで、議論が紛糾しています。両者にとって死活問題の側面もありますから、そう簡単に譲れないと言えばよいでしょうか。でもって厚労省が会議前に設定していた救済措置の範囲が発表されます。- 継続的に漢方薬を内服している方
- 離島で薬局とか、店舗がない場合
- 期限付で経過措置を設けること
○三木谷委員
もし、そういう案があるのだったら、その案を今日の会議の冒頭に出してもらって議論すべきだったのではないですか。何か官僚主義のひどい話で、最後にまとめて「みんないろいろ聞いたけど、俺たちは勝手にこうやって決めるよ。漢方と伝統薬は救うけれども、ほかについては離島だけだ」という議論ですよね。これは無茶苦茶ですよ、本当に。
○足高委員
私もそう思う。
○三木谷委員
本当ですよね。何ですか、これは。あり得ないです。
○足高委員
いまの話があるのでしたら、最初からしなければしょうがない。それから、いまパブリックコメントということですが、その省令案をいつ出されるのか。パブリックコメントはいつ出されるのか。それは時制の問題があるよね。どちらが先に出てくるのか。
○三木谷委員
だって、いまの話は今日の頭ぐらいにあったのですよ。だったら、それは出して議論したらいいではないですか。
○足高委員
委員としてここに並んでいるのは、案山子ですか。
○三木谷委員
ふざけないでほしいという話です。私はこれは憤りを感じます。いままで議論しけど、我々だけで勝手に決めて、パブコメに出しちゃって決めて、あと最後やってくださいねということです。最後はやらなくたっていいじゃないですか。一応御墨付をもらいましたみたいな話ですよね。そんなのはおかしいです。
○井村座長
そんなふうにはならない。
○三木谷委員
やりますよ。絶対そうですよ。
○井村座長
それは言いすぎではないですか。
○三木谷委員
言いすぎじゃないです。だって最初から案があったのに、頭に出したらいいじゃないですか。なぜ出さなかったのですか、総務課長。
○井村座長
案はできていないのでしょ。
○三木谷委員
案がなくて骨子があるわけですから、骨子について議論すればいいじゃないですか。おかしいですよ。
○総務課長
私どもは、まず今日のご議論ですべての論点を尽くし・・・
○三木谷委員
だったら、もう1回出す前に検討会で承認させてくださいよ。あるいは事前に、各委員に確認を取ってくださいよ。それじゃないと、何のために5回も6回もやってきているんですか。
○総務課長
1つだけ説明しますと、今日のご議論を踏まえて経過措置的なものをご提案するかどうかというのは。
○三木谷委員
勝手に決めて、勝手に出すという話ですよね。あなた方が。
○総務課長
そういうことを言っているわけではありません。
○三木谷委員
そういうことを言っていますよ。
○足高委員
ちょっと喋らせようよ。
○総務課長
今日のご議論を全部踏まえた上で、そして経過措置のご提案をさせていただくかどうかということも含めて、いろいろな可能性を・・・。
○三木谷委員
そしたら、これは検討会にかけてくださいよ。少なくとも、それは説明してから出すべきだと思いますよ。
○足高委員
少なくとも、省令案をパブリックコメントに晒す前に、ここの検討会でもう一度されて、そこでこういうのを出すよというのが普通は礼儀でしょ。そういうふうにされる気はないですか。
○医薬食品局長
先ほど申し上げましたように、時間的なことがあるので、出す前に委員の方にお知らせしたいと思いますが、並行してパブコメの意見を掛けて、5月中旬の検討会でまたご意見をいただきたいなと思っています。
○足高委員
並行してというのはどういうことですか。
○三木谷委員
結論ありきみたいな感じですよね。
○足高委員
並行してというのは、我々のほうに例えば足高の所に1日前に来て、次の日にパブコメでインターネットに載るということですか。
○医薬食品局長
日程はあれですが、お知らせをして、5月中旬のときにご意見をいただければと思っています。
○後藤委員
先ほどのような省令案でしたら、先ほど座長がおっしゃられたので言いたくなかったのですが、まだ憲法違反といったものに該当するものだと思います。どのような方だけに販売できるということは、それ以外の方には販売できないことになると思いますので、そのような形で規制するというのは、行きすぎた過度の規制ではないかなと考えています。今回それがないようにするためには、誰々だけにしか売ってはいけないとかではなくて、インターネットで安全に販売するためにはどのようにしないといけないのか。それを省令で定めないといけないと思いますが、誰々に売ってはいけないというのはおかしいことだと思います。
○三木谷委員
いずれにせよ、おかしいですよ。あなたもグルなのではないか、本当に。
○井村座長
ちょっと待ってください。あなたにはまたちゃんと発言のチャンスを与えますから、ちょっと待ってください。いまのお話ですが、あなたが言われたように、どういうふうにやったらインターネットの販売ができるかということを決めろというお話ですが、6月1日という期限を考えると、どう考えても無理なのではないですか。ですから、それまでに経過措置というのを決めようというアイデアなのかなと思いましたが、あえてグルだと言われましたが。
○後藤委員
先ほどのは今日初めて聞きましたので、そのようなことで宣言するのであれば、それはおかしいと思いますということです。
○三木谷委員
もし、そういうプロセスであったのだったら、最初からそう説明すべきです。2.5時間×5倍ですから、正確に言うと12時間半議論して、「どうもありがとうございました。あとは、私たちだけで決めて最後皆さんにご報告します」はおかしくて、それだったらこういう省令案について皆さんどう思いますかと聞くべきです。それについて、たぶん意見がまとまらないにしても、1回ぐらいは検討会でその議論をしてから出さないとおかしいですよ、絶対に。そう思いませんか、座長。
○井村座長
思います。
○三木谷委員
そうしてくださいよ。
○井村座長
座長がするわけにはいかないですが。
○三木谷委員
座長は、そのためにいらっしゃるのですから。
○井村座長
そんなことはないです。
○三木谷委員
皆さん、そう思いませんか。これだけやってきたわけですから。最後は皆さん違うと思いますよ。荒れるかもしれない。でも、そこも含めて議論した上でパブリックコメントを集めるとか、そういうことではないですか。
○足高委員
三木谷さん、逆の立場だけれども、そのポイントに関してはそのとおりですよ。ちょっと失礼や。
○井村座長
わかりました。ちょっと待ってください。勝手に発言しないでください。私は座長として発言しますから、独り言が大きすぎるのです。
○三木谷委員
顔もでかいし口も悪くて申し訳ないですね。
広いか狭いかの是非を論じるのが今日の趣旨ではありませんから、その点の見解は置いておきます。とにかくここまで積み重ねられた会議の意見は割れて激しい議論が交わされたのは確かです。委員の中にも狭いほうにメリットを見出す者もいれば、広い方にメリットを見出す者もいて簡単には譲れないからです。
そういう中で会議の結論は会議の前からいつものように決められています。そちらの方に誘導するのが座長と御用委員のお仕事ですが、非御用委員も商売がかかってますから、そう簡単には引き下がりません。この辺が学者との違いでしょうか、どうやら逆に御用委員も煽られて検討会の結論があらぬ方向に動く傾向を明らかに示していたと考えます。「あらぬ方向」とは会議前の決められた結論とは別の方向です。
そこで厚労省サイドとしては荒技を使わざるを得なくなります。本当は議論が少々紛糾しても、座長が一任を取り付ける形式が常套手段なんですが、この検討会ではそういう方向性に持っていけそうにないとの判断と思われます。
もっとも「座長一任」も予定としてあったと思います。会議を結論の方向に修正させるべき厚労省作成のパブコメは、出せば異論反論はある程度渦巻くと予想はしていたと思います。そこでわざと会議の終わり際に突然提出させ、そこそこ意見が出た頃を見計らって、
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今日は時間が相当押しています。委員の皆様の意見は良く承りましたので、それを確実に反映させたパブコメを出し、その結果を次の会で検討するにさせて頂きます。パブコメの内容につきましては、座長が確認すると言う事で了解よろしくお願いします。
つくづく思うのはやはりこの手の検討会はお儀式です。ここで紹介しておきたいのは、結論が出た第7回の会議です。
○三木谷委員
我々サイドの意見で言うと、郵便等販売の規制をするべきではないという意見が8,333件、84.9%寄せられたけれども、それについては全く意味のないことであるということですか。
○井村座長
お答えになりますか。
○総務課長
今回、パブリック・コメントを掲げたのは、経過措置の案をお示して、それについてどう考えられるかということでお聞きしました。そういう意味で言いますと、直接的に関係のなかったその他の部分については、当然私どもも見ておりますが、経過措置の案を変えるかどうかということには反映する必要はないと考えたということです。
もう一つ
○阿南委員
わからないけれども、経過措置のところだけを見ると、そもそも「不要である」が700件近くあるわけですよね。内容に反対されている方もいらっしゃるわけですが、経過措置そのものに賛成という方は42件なのです。それがなぜ、この経過措置を認めるという結論になるのか理解できないのですが。
○総務課長
パブリック・コメントというのは結局、「意見のある人は手を挙げて言ってください」ということですので、ほとんどのパブリック・コメントがそうだと思いますけれども、原案でいいという方が手を挙げられる確率は非常に低いということです。そういう意味で、無作為抽出で賛成、反対と聞いているわけではありませんので、先ほどご説明したように数よりも中身を見て、気づかなかったところがあればそういうことももう1回よく勘案をして、案を固めていくという作業を、すべてのパブリック・コメントについてやっているところでございます。
さらにもう一つこれは後藤委員ですが、
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今回7回の検討会で、こちらの委員がみんな反対と言っても省令が強行されるようです。あるいは、パブリックコメントで99.5%が賛成と言わなくても強行されるということのようなので一言申し上げたいのです。
- ありき結論に賛成の御用委員を多数派として構成させる
- 当初は非御用委員も含めてある程度自由に発言させる
- 意見としては御用委員の「ありき結論」派が自然に優勢となる
- 優勢になったところで座長なりの提案で、事務局にありき結論に従った原案を作らせる
- 非御用委員の意見を面子が立つ程度には取り入れて最終答申を承認させる
- 最終的には非御用委員の「面子が立つ程度の意見」は書いてあるだけになり、ありき結論が粛々と実行される
通常なら御用委員の意見が多数であるとの空気を察したら、非御用委員は「はめられた」とホゾをかみながらも大勢に従うのでしょうし、そうする事が今後の保身にもつながる部分としてバーターあるんだと思われます。ところが一歩も引かずに戦ったので、座長も事務局の厚労省も段取りが狂ったかと推測します。井村座長は北里大の名誉教授ですが、さぞ辟易したと考えています。
ただですが、これだけ会議が荒れても結論は変わりません。机を叩いて抗議したとも伝えられる三木谷委員でしたが、結局のところパブコメ提出は押しきられ、後は決まった事として「ありき結論」が粛々と押し付けられているのがよく判るかと思います。つまりこれだけ議事録(それまでの会議を含めて)に残る激論を展開しても結論は変らないと言う事です。
御用会議の勝負は会議室の中でもなく、会議の前でもなく、会議が開かれる事が決定した時点で既に終っています。