思考ダダモレ型人間

 (午後1時、野党四党が提出した不信任決議案を採決するため衆議院本会議が開催される。)

 民主党鳩山由紀夫です。国民の皆様の声を代表して、内閣に対する不信任決議案の提案の趣旨を申し上げます。

 あなたが総理に就任してから日本の政治はまさに空白その物でありました。日本の政治・経済や国民生活はまさに目を覆うばかりの状態になってしまいました。選挙対策のためとしか思えない、大増税必至のバラマキを繰り返すばかりで、経済に対する効果は乏しく、これでは国民の暮らしは一向に良くなるはずがありません。

 経済もダメ、年金や医療、教育や子育て、公務員改革もすべてダメ、外交も成果があがらず政権にしがみついているばかりです。政策的成果などどこにも見当りません。総理に唯一残されている道は、直ちに本院を解散し、国民に信を問う事であります。それが出来ないのであれば、憲政の常道に従って即刻総辞職し、野党に政権を明け渡すべきであります。

 選挙目当てのバラマキと言う下手な政治、下手で無責任な政治の犠牲者は国民なのであります。無駄遣いのオンパレードによって莫大な借金を積み上げてしまった言う事であります。あなたの権力を維持するために、税金が無駄遣いされ、借金が残され、消費税の増税で国民に更なる負担を押し付ける、こんな事を国民は絶対に許しません。

 外交に目を転じても、まともな成果をあげる事は出来ませんでした。他国の首脳は、あなたの政治基盤が脆弱で、とても長くは続かないだろうと言う事を、とっくに見抜いており、残念ながら本気で交渉する相手と認識されませんでした。あのオバマ大統領との会談もどきは、日本の総理がまともに相手にされなかった典型例ではありませんか。

 道路問題について申し述べます。我が党は道路財源の暫定税率の撤廃を主張していますが、政権は手を変え品を変え道路財源を死守して参りました。私たちも必要な道路は作るべきだと考えております。しかし道路が必要だから作るのではなく、道路利権を守りたいから作っているようにしか思えないのであります。

 総理、あなたはもう逃げられません。姑息な事はやめ、今こそ衆議院は解散され民意が問われるべき時であります。直ちに解散総選挙を実施をするか、総辞職して野党に政権を明け渡すか、以上が内閣を信任せずの理由でございます。御静聴ありがとうございました。

いやぁ、実に良く出来ているのに感動して、思わず文字まで起してしまいましたが、この程度の事はたいした事ではございません。自民党政権が余りに長かったので、野党と与党の立場が入れ替わる事を政治家も国民もほぼ初体験であるぐらいのお話です。そのうえ、動画の切り貼りが自由に行なえ、さらにこれをネットと言う巨大装置に掲示される時代になったと言う事でしょう。

それより問題なのは総理の発言が非常にお軽い事です。簡単に言えば発言がコロコロ変わることです。これについて総理は、

    物質の本質は揺らぎ。多くの意見を聞いて大事にする過程で、揺らぎの中で本質を見極めていくのが宇宙の真理ではないか。
ソース元が見つからないのですが、党大会でこう主張されたとも伝えられます。「揺らぎの中で本質を見極めていく」と言う事自体は間違っていませんし、歴代総理もそうであったに違いありません。難問であればあるほど、あれこれ取りうる手段のメリット・デメリットを熟慮する事自体は主張される通りです。相談相手の意見にも左右される事もあるでしょうし、その時の心理状態でも変わる事もありうると思います。

総理は自分もそうであると主張したいのだと思いますが、なぜに批判が渦巻くかを未だに御理解されていないのだけは嘆息するほど良くわかります。理由は簡単明瞭で、一国の総理たるものは揺らぐたびに結果めいたことを妄りに口にしないという事です。総理が発言する時は、決断するまでにいかに悩み苦しもうが「決定」であると言う事です。

自分の考えが揺らぐたびに発言がコロコロ変わるのは、故中島らも氏が提唱した思考ダダモレ型人間であると定義されます。「中島らものもっと明るい悩み相談室」の「すれ違いざまの暴言にショック」の一節を引用します。

 ガラ空きの電車に五十がらみのわりとインテリっぽい酔っ払いが乗ってきて僕の横に座りました。

 前の席には髪の長い、モデルさんみたいな感じのお嬢さんが座っていました。酔っ払いはその人を見るなり、「ウーム。きれいだ。美人だ」と大声で叫びました。

 女の人はいたたまれなくなったのでしょう。少しすると電車を降りてしまいました。酔っ払いの目は、ずーっと前の座席をなめていって、次に座っていた六十くらいのおばさんにあたると、ピタッと止まりました。僕は、まさかとは思ったのですが、酔っ払いは大声で言い始めました。

 「やっ、おばはんだ! ブサイクなおばはんがいるぞっ!」

 おばさんも気の毒に逃げ出してしまいました。

中島らも氏提唱の思考ダダモレ人間は設定として「酔っ払い」です。酔っ払いだからと言ってすべてが免責されるわけではありませんが、この程度の行為は通常「酔っ払いはかなわん」ぐらいで見逃され、せいぜい見聞したものの後日の笑い話にされるぐらいです。ただ酔っ払いであっても、これを会社なりでの忘年会でやらかせばタダでは済みません。

総理はこれを素面で「総理の発言」として日常的に行なわれているわけであり、さらにその行為を自分で弁護為されているわけです。総理が批判されているのは、発言が間違っている事でも、決断が遅い事でもありません。そういう事も無いとは言いませんが、考えが揺らぐたびに思考ダダモレで発言することを批判されているのです。総理が決断を下すまでに内心で考えが揺らぐ事は問題ないのですが、それを他人、ましてや国民向けのメッセージとして発する事にあきれられていると言う事です。

怖ろしいもので総理がそういう人間ですから閣僚も

    上行なえば、下これにならう
まさにこの言葉通りになっています。閣僚であってもその発言は軽いものではありません。閣僚の発言の後に総理がこれを打ち消す発言をしただけでも問題であり、ましてや総理の発言を閣僚が打ち消そうものなら「内閣不一致」とされて罷免問題まで発展する大問題になります。ところが思考ダダモレ型人間を総理に戴く内閣は、日常茶飯事のように思考ダダモレ発言が閣僚から相次ぐ有様です。


現在の大きな政治課題に普天間問題があります。これも総理が思考ダダモレ発言を繰り返した挙句「5月期限にて決着」なんて話になっています。もっとも総理自身は普天間問題を非常に軽くお考えになられているのは4/16付読売新聞からも窺えます。

 沖縄の普天間飛行場移設問題についても触れ、「普天間なんて皆さん、知らなかったでしょう。それが国民の一番の関心事になること自体、メディアが動きすぎていると思っている。必ず5月末までに結論を出すから、心配なさらないでほしい」と語り、「負けないでやります。信じてください」と締めくくった。

総理の現在の思考では「たいした問題ではない」と片付けられておりますが、総理の思惑とは別に大きな、大きな問題に成長しています。長くなるので説明は省略しますが、5月決着は総理がウルトラDなりEを繰り出すか、トリプルアクセルの連続ジャンプを演じない限り不可能です。そいでもって5月に決着しなければどうなるかの問題に話は突き進んでいます。

「どうなるか」は5月が済まないと誰にもわからないのですが、シミュレーションだけは可能です。シミュレーションの前提は、

この前提の上でさらなる民主党お家芸が加わります。失政で総理が交代したときには「国民の信を問え」を自民政権末期に延々と繰り返し主張されています。総理だけ交代して解散総選挙を行なわなければブーメランが突き刺さる事になります。ここで前提を参議院選惨敗にしていますから、ブーメランを避けて民主が政権を担当すのは限られた条件になります。

総理を交代するだけで解散総選挙のブーメランが突き刺さります。ブーメラン回避のためには総理交代は不可と言う事になります。ほいじゃ、総理を交代せずに参議院選挙で惨敗したらどうなるかです。これは安倍元総理のシチュエーションになります。この時の民主の主張は微妙なんですが、参議院選挙で負けたから解散総選挙をせよとは強く言ってなかったかと思われます。

言ったかもしれませんが、大々的に主張する前に安倍元総理は電撃辞職してしまったからです。批判の鉾先は参議院選挙で負けたのに、総理交代でお茶を濁した状態に向けられたと記憶しています。つまり現総理が参議院選挙で惨敗してからも引き続き政権を担当しても、その事に対する批判は渦巻くとしても、ブーメランだけは回避できることになります。


アレレレ、そうなると普天間問題が解決せず、参議院選挙で惨敗しても、ブーメランを回避しながら政権を担当するには現総理が続投する以外の選択肢はない事になります。ねじれ国会の重圧は凄まじく、自民政権末期では1年しか総理の神経はもちませんでした(麻生元総理は微妙)。ただ現総理は自称するように「宇宙人」ですから平気で政権を平然と後3年担当するかもしれません。

う〜ん、そうなると国民はまるまる4年間、思考ダダモレ型人間を総理に戴いて暮らす必要があります。つくづく総選挙の投票は慎重に行なわなければならない事がよくわかります。まあ、本当にそうなるかは、これから体験できますし、少なくとも新たな動画を楽しめる事だけは間違いありません。