子ども手当への100人トライ国会質疑

ソース元は平成22年3月12日衆議院厚生労働委員会議事録です。この日の委員会は子ども手当法案の審議が行われ、末尾の部分には、

○中根委員

     動議を提出いたします……(発言する者多く、聴取不能)討論を省略して、直ちに採決されることを望みます。
○藤村委員長
     ただいまの中根康浩君の動議に賛成の諸君の起立を願います。

        〔賛成者起立〕
○藤村委員長
     賛成多数。よって、動議を決定いたします。(発言する者あり)

     採決いたします。

     本日提出の修正案について、賛成の諸君の起立を求めます。

        〔賛成者起立〕
○藤村委員長
     起立多数。よって、そのように決しました。

     次に、修正部分を除く原案について採決を求めます。

     賛成の諸君の起立を願います。

        〔賛成者起立〕
○藤村委員長
     起立多数。よって、そのように決しました。

     次に、本件の委員会報告について委員長に御一任いただきますよう採決を求めます。

        〔賛成者起立〕
○藤村委員長
     起立多数。よって、そのように決しました。(発言する者あり)

つまり法案が可決成立した日の委員会質疑です。建前上は真偽が煮詰まった最終段階のもののはずです。ここから100人トライ問題をピックアップしたいのですが、最初の3人の質問者(公明党委員、共産党委員、みんなの党委員)は割愛させて頂きます。全部はとても紹介しきれないからです。後半の自民党委員(6人だったと思う)の中の個人的に目に付いた分だけ拾います。


滞在期間問題

外国人への子ども手当の支給条件は子ども手当について 一問一答にこうあります。

  1. 少なくとも年2回以上子どもと面会が行われていること。
  2. 親と子どもの間で生活費、学資金等の送金が概ね4ヶ月に1度は継続的に行われていること。
  3. 来日前は親と子どもが同居していたことを居住証明書等により確認すること。
  4. これらの支給要件への適合性を判断するために、提出を求める証明書類について統一化。
  5. 日本国内に居住している翻訳者による日本語の翻訳書の添付を求め、その者の署名、押印及び連絡先の記載を求めること。

この条件のさらに前提で滞在期間があります。これは1年以上滞在する事なんですが、1年以上滞在した実績が条件ではなく、1年以上滞在する予定である事が条件になっています。ここで現実問題として1年以上滞在せずに最終帰国してしまう方は少なくないそうです。さらに問題として、帰国でもそれが最終帰国であるか、一時帰国であるかの判断がつかないのが現実だそうです。

一時帰国はOKと言うレベルではなく

    少なくとも年2回以上子どもと面会が行われていること
これを満たすための必要条件なんですが、出入国管理事務所(入管)ではこれを完全には把握できず、自治体事務にも支障を来たしているものだそうです。そうなると最終帰国しているのに子ども手当が支払われるケースさえありうることになります。これについての長妻大臣の答弁は、

  • これ(入管)についても、初めから、一年以上見込みと言っていながら、実は三カ月、四カ月というようなことではならないわけでありまして、例えば、在留資格が観光、保養、スポーツ、親族の訪問、見学、講習、それに類似する目的を持って短期的に滞在しようとする人は、これは幾ら言ってもだめなわけであります。

     それと、これはよく御存じだと思いますけれども、罰則もございまして、三年以下の懲役、三十万円以下の罰金に処するということで、それは厳しく、不正があれば罰則があるということです。


  • (ここはたぶん子ども手当について)不正の場合は、法律の条文で三年以下の懲役または三十万円以下の罰金ということで、もちろん不正は厳しく取り締まられるべきであるということであります。


  • だから、私がお願いをすると申し上げましたのは、入管において、そういううそ、委員が言われたようなうそがそのまま通るようなことにならないようにお願いをしていく、子ども手当もこういう趣旨で始まりますということも入管の方にお願いをしていくということであります。

つまり「罰則があるから大丈夫」「入管にお願いするから大丈夫」で押しきられておられます。


証明書問題

国外の子どもについては、これの存在の証明が必要になります。牧師の50人トライが出てくる質疑応答部分ですが、

○平沢委員

     では、例えば、海外の牧師さんが自分のところの教会で五十人ほどの子供さんを養子縁組して、その牧師さんが日本に来て、また牧師活動をしていた。本国に五十人の養子した子供さんを置いてきた場合はどうなるんですか。
○長妻国務大臣
     慈善というか、そういうような形で、例えば今五十人というふうに言われましたけれども、そういう場合は、監護、あるいは生計を一にするという要件に当たるのかどうか、それは我々としては判断をする必要があると思いますけれども、一般論としては、先ほど申し上げました要件があればということでありますが、厳格に、海外での実態があらわせる書類をいただいて確認していくということであります。
○平沢委員
     海外で、それが間違いないかどうかという実態把握はどうやってやるんですか。書類だけでやるんですか、それとも実際に現地に赴いてやるんですか、どっちでやるんですか。
○長妻国務大臣
     今までは書類でやっていたわけでありますけれども、仮に書類だけで例えば出てきて、今おっしゃられた五十人というような書類が出てきた場合、本当に五十人というのはそうなのかどうなのかというのは、私は、地方自治体としては、例えば現地に問い合わせるなり、そういうアクションを起こすというような可能性があってもいいのではないかと思います。今、五十人と言われましたので、そういう場合については、私はそういうアクションが、地方自治体においてとるということも考えられるのではないかと思います。

長妻大臣は審査の厳格化をこの委員会でもしきりに主張されていましたが、具体的にはこれまで書類審査だけであったのが、必要があれば実地調査を行うと言う事のようです。それでもって実地調査に当たるのは「地方自治体」を念頭に置いておられるようです。地方自治体と言っても大小さまざまで、東京都のような巨大なところもありますし、人口数千人の小さな自治体まであります。

基本的に外国人滞在者がどこに居住するかは自由のはずであり、小さな自治体で50人トライをされたら実地調査なんて現実的には不可能です。この問題についてはH22.4.6(火)付長妻大臣閣議後記者会見概要で山井政務官

 本当にいるとは思っておりませんし、繰り返しになりますが、今までから同居しておられないといけないわけですから。かつ、今回の子ども手当の趣旨というのは、そういう方々に出すという趣旨ではありません。御存知のように日本の子どもが外国に行っており、両親が日本にいる時にも過去30年間児童手当が出ているわけです。それで、逆に国内居住要件を子どもに課してしまうと、今すでに海外にいて児童手当を受け取っている子どもも出なくなるということで、今年度は続けております。そういう国籍要件を無くすという相互の条件でやっているわけですから、50人養子がいて云々という方々には児童手当もそうだと思いますが、子ども手当を出す趣旨にはなっておりません。御存知のように児童手当でもそういう問題は起きておりません。

どこかの委員会であった「仮定の問題にはお答えできません」みたいな見解ですが、「あり得ない」から対策を考える必要もないし、もしあればその時に考えると解釈すればよいのでしょうか。牧師の50人トライ問題はまったくの仮定の問題ですが、もう少し仮定でない問題ならどうかになります。自民党菅原一秀委員の指摘に、

 一つ例を申し上げます。ナイジェリアでモハメド・ベロ・アブバカルさんという人がいて、これはイスラム教の伝道師なんです。世界を回っているんです。この方は、実は奥さんが八十六人、子供が百七十人。今年度の案で一万三千円を出すと、年間十五万六千円。このモハメドさんは、ことしだけでも、この百七十人がゼロ歳から十五歳だった場合に、この方が日本に移住した場合、二千六百五十二万もらえるんです。来年からの満額支給だと、五千三百四万円もらえるんですよ。ゼロ歳から十五歳まで十五年受給し続けたら、何と子ども手当だけで八億円もらえるんですよ。こういう現実が考えられる。

確かにイスラムの国々は一夫多妻の制度を取っているので、170人まで行かなくても、10人とか20人ぐらいなら珍しいとは言えないかもしれません。これは牧師の50人トライとは異なり養子でなく実子ですから問題はさらに複雑になります。居住条件で制限を考えるのかもしれませんが、あんまり頑張ると国際問題になりかねません。地方自治体の手に負える問題とは思いにくいところがあります。



かなり長い議事録なので、他にも「なぜに2万6000円なのか」など関心を引く質疑はありましたが、100人トライ問題に絞って2つだけの指摘に留めています。あくまでも私が感じる限り制度の施行の前に問題点として検討しておくものとは思いましたが、長妻大臣の答弁は木で鼻を括った様なもので、実質先送りと言うか、それこそ後で考える以上のものは答えていません。

それと委員会質疑の中で長妻大臣は6月支給の絶対性を強調されていました。これは地方自治体による実地調査も含めたものなのでしょうか。この点についても長妻大臣の答弁は「審査を厳格化するからすべて解決」以上のものはありません。この質疑を踏まえたものが長妻大臣記者会見時の山井政務官の発言に結びついていますが、法案としては細部のツメが甘いような気はします。

なんつうても財政難のところに2.7兆円、来年度に満額支給となれば5.4兆円も投じる法案としてはどんなものかと言う事です。最後に長妻大臣の2万6000円問答の一部を紹介しておきます。

ただ、この積み上げの試算だけではなくて、海外のGDPの比率の中で、子ども手当の、あるいは子供にかける予算を比べる、あるいは財政的な制約など、総合的に判断してこの金額というものを決めさせていただいたところであります。

GDP比率ねぇ、たしか去年の総選挙のマニュフェストで医療費についてもGDP比率云々の話が出ていましたが、扱いは別な事だけはよくわかります。