昨日の元法学部様のコメントです。
同じ日に棚橋議員の次に質問に立った、稲田議員が質問していますが、千葉法務大臣には、これ以前にも最高裁が
特別在留不許可強制退去処分取消を求める行政訴訟を却下した後に、法務大臣の権限である特別在留許可を出した中国人姉妹の例があるようです。特別在留許可というのは、出入国管理及び難民認定法上の退去強制対象者にあたる人物が異議を申し出た場合で、異議に法的根拠がなくても、法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めたときは許可する権限があるというものですね。
ざっくりいって、法務大臣は法的には強制退去処分を下すべき人物に、政治的な判断で在留資格を与えることが出来ると。
その政治的判断を妥当とした根拠が気になるところです。「だって可哀想だから」といったレベルの判断ではないと期待したいですが…。
本当は鬼門筋の法律ネタなんですが、妙に気になったので調べてみます。まずは12/1付Asahi.comより、
不法滞在で国外退去を命じられていた東京都足立区のインド人一家5人に、千葉景子法相は30日、在留特別許可(在特)を出した。一家は最高裁で退去処分の取り消し請求訴訟の敗訴が確定していたが、異例の決定となった。
次に11/6付時事ドットコムより、
不法滞在による強制退去処分を受けたフィリピン人の小学生ら一家5人について、法務省は6日までに、滞在を認める在留特別許可を出した。重病で治療中などの例を除くと、小学生とその家族に特別許可が出されるのは異例という。
さらに11/2付NIKKEI NETより、
不法滞在で摘発され、強制退去処分の取り消しを求めた訴訟でも敗れた中国人一家4人が、10月に法相から在留を認められたことが、2日分かった。
もう一つ、ついでに、10/9付NHK大阪より、
中国残留孤児の親族として来日したものの、親族であるかどうか疑わしくなったとして国外退去を求められていた奈良市の姉妹2人に対し、大阪入国管理局は、2人の国外退去を命じた最高裁判所の決定をくつがえし異例の在留許可をきょう、出しました。
似たよう記事なのですが、まとめてみます。
報道日時 | 対象者 | 処分取り消し訴訟 | 適用法令 |
10/9 | 奈良市の姉妹2人 | 最高裁にて原告敗訴 | 在留特別許可 |
11/2 | 東京都内に住む中国人一家4人 | 高裁にて原告敗訴 | 在留特別許可 |
11/6 | 神奈川県平塚市のフィリピン人の小学生ら一家5人 | 処分取り消し係争中 | 在留特別許可 |
12/1 | 東京都足立区のインド人一家5人 | 最高裁にて原告敗訴 | 在留特別許可 |
日本滞在の様子ですが、
事例 | 様子 |
奈良市の中国人 | 平成9年に来日しましたが、帰国の手続きをした人物に不正があり、孤児の親族かどうか疑わしくなったとして、6年前に一家5人がそろって国外退去を求められました。 |
東京都内に住む中国人 | 不明 |
平塚市のフィリピン人 | 1990年に短期滞在で入国し、そのまま残留。昨年8月に逮捕され、同10月に5人に強制退去処分が出された |
足立区のインド人 | 1993年、妻(46)と観光ビザで入国し、期限切れ後も日本に滞在。建設作業員などとして働いていた。3人の子どもが日本で生まれた。アマルさんは90年に兄名義の旅券で入国し、92年に強制退去処分になったこともある。 2003年に入国管理局に自主的に出頭し、在特を求めた。しかし、3年後に「不許可」 |
さてと、とりあえずどの事例も不法滞在にて国外退去処分を受けていた事がわかります。それに対し訴訟を起し、2件は最高裁まで争って原告敗訴、1件は高裁で原告敗訴、もう1件はとりあえず係争中である事がわかります。言うまでもありませんが、国外退去処分を下したのは法務省の内部部局である入国管理局であり、取り消し訴訟の被告も入国管理局だと考えられます。
この辺もよく分からないのですが、入国管理局を訴えた時には被告は名目上、最高責任者である法務大臣の様な気もするのですが、それについては知見が無いので保留にしておきます。法務大臣が名目上の被告でなくとも、法務省としては、この訴訟に対して協力しているかと考えます。つまり法務省は、入庫管理局の下した国外追放の処分を訴訟でも一貫して主張し、司法の場の判断を得たという事です。
さてさてと、司法判断が下れば国外退去は決定になるほか無いと思ってしまうのですが、ここに
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在留特別許可
(法務大臣の裁決の特例)
第50条
法務大臣は,前条第3項の裁決に当たって,異議の申出が理由がないと認める場合でも,当該容疑者が次の各号のいずれかに該当するときは,その者の在留を特別に許可することができる。
1〜3号は具体的なんですが、問題は4号の運用になるかと思われます。この条文だけでは本当に法務大臣の胸先三寸だけで特例が実施されるからです。そのためガイドラインが設けられ、これは平成21年7月に改正ともなっています。これが引用するには少々長いのですが、一番わりやすいところとしてモデルケースみたいなところを引用します。
<「在留特別許可方向」で検討する例>
<「退去方向」で検討する例>
- 当該外国人が,日本人又は特別永住者の子で,他の法令違反がないなど在留の状況に特段の問題がないと認められること
- 当該外国人が,日本人又は特別永住者と婚姻し,他の法令違反がないなど在留の状況に特段の問題がないと認められること
- 当該外国人が,本邦に長期間在住していて,退去強制事由に該当する旨を地方入国管理官署に自ら申告し,かつ,他の法令違反がないなど在留の状況に特段の問題がないと認められること
- 当該外国人が,本邦で出生し10年以上にわたって本邦に在住している小中学校に在学している実子を同居した上で監護及び養育していて,不法残留である旨を地方入国管理官署に自ら申告し,かつ当該外国人親子が他の法令違反がないなどの在留の状況に特段の問題がないと認められること
インド人一家のケースをモデルにして考えたいのですが、
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90年に兄名義の旅券で入国し、92年に強制退去処分
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旅券等の不正受交付等の罪
これだけではやはり不十分なので、もうちょっとガイドラインの消極要素を引用しておくと、
1.特に考慮する消極要素
2.その他の消極要素
- 重大犯罪等により刑に処せられたことがあること
- 出入国管理行政の根幹にかかわる違反又は反社会性の高い違反をしていること
- 船舶による密航,若しくは偽造旅券等又は在留資格を偽装して不正に入国したこと
- 過去に退去強制手続を受けたことがあること
- その他の刑罰法令違反又はこれに準ずる素行不良が認められること
- その他在留状況に問題があること
これを見る限り「兄名義の旅券で入国」は「その他の消極要素」に該当しそうです。ただ「92年に強制退去処分」は「過去に退去強制手続を受けたことがあること」に該当し、「その他」ではありますが2項目の消極要素を満たす事になります。それでは積極要素はどうかといえば、
1.特に考慮する積極要素
2.その他の積極要素
- 当該外国人が,日本人の子又は特別永住者の子であること
- 当該外国人が,日本人又は特別永住者との間に出生した実子(嫡出子又は父から認知を受けた非嫡出子)を扶養している場合であって,次のいずれにも該当すること
- 当該外国人が,日本人又は特別永住者と婚姻が法的に成立している場合(退去強制を免れるために,婚姻を仮装し,又は形式的な婚姻届を提出した場合を除く。)であって,次のいずれにも該当すること
- 夫婦として相当期間共同生活をし,相互に協力して扶助していること
- 夫婦の間に子がいるなど,婚姻が安定かつ成熟していること
- 当該外国人が,本邦の初等・中等教育機関(母国語による教育を行っている教育機関を除く。)に在学し相当期間本邦に在住している実子と同居し,当該実子を監護及び養育していること
- 当該外国人が,難病等により本邦での治療を必要としていること,又はこのような治療を要する親族を看護することが必要と認められる者であること
- 当該外国人が,不法滞在者であることを申告するため,自ら地方入国管理官署に出頭したこと
- 当該外国人が,別表第二に掲げる在留資格(注参照)で在留している者と婚姻が法的に成立している場合であって,前記1の(3)のア及びイに該当すること
- 当該外国人が,別表第二に掲げる在留資格で在留している実子(嫡出子又は父から認知を受けた非嫡出子)を扶養している場合であって,前記1の(2)のアないしウのいずれにも該当すること
- 当該外国人が,別表第二に掲げる在留資格で在留している者の扶養を受けている未成年・未婚の実子であること
- 当該外国人が,本邦での滞在期間が長期間に及び,本邦への定着性が認められること
- その他人道的配慮を必要とするなど特別な事情があること
結局ガイドラインをほとんど引用してしまいましたが、「特に考慮する」1.〜3.はインド人一家のケースの場合はあてはまりません。5.もあてはまらないと考えて良さそうです。4.は日本で生まれた3人の子供がおられるとなっており、これは1993年以降に誕生したと考えてよいので、もっとも年長でも16歳程度になり、さらに第2子以降は確実に義務教育の年齢なので、
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本邦の初等・中等教育機関に在学し相当期間本邦に在住している実子と同居
インド人一家のケースを記事情報だけですがまとめると。
* | 積極要素 | 消極要素 |
特に考慮 |
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その他 |
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積極要素の方が多いのは確かですが、判断の大前提として不法滞在と言う犯罪を行なっているというのがあります。犯罪に対し法務省の入国管理局が処分を下し、さらにその処分の法的正当性を最高裁が証明した事案でもあります。大臣特例は、この確定した犯罪を帳消しにするものですから、その運用は本当の意味の「特例」であるべきものと考えます。少なくとも乱発は好ましくないと思われます。
積極要素と消極要素をどう勘案するかまでガイドラインに書いてないように思いますが、そういう特例ですから消極要素の存在は常識的に重そうに感じます。特例を発令するぐらいですから、積極要素を満たしているだけではなく、消極要素は無いぐらいの厳しさはあってもよさそうに考えてしまいます。もちろん消極要素とした2件についても、斟酌に値する何かがあったのかもしれませんが、それについては残念ながら情報がありません。
別にインド人一家に恨みも何もありませんし、長い間苦労されて大臣特例を獲得された事を取り消せと要求するつもりは毛頭ありません。インド人一家に晴れて正式に在留許可が下りた事は祝福しておきたいとは思います。問題はあくまでもインド人一家ではなく、在留特別許可の大臣特例を下した千葉大臣の判断基準です。こういうものは先例になりますから、判断理由の説明が欲しいところです。
あくまでも記事情報だけである事をもう一度お断りしておきますが、判断理由の説明が無いと、こういう声が出てくる懸念があります。
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夫婦で不法滞在を行い、子供を作り、10年経過したらすべて特例
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個別の案件についての答弁は差し控えさせて頂きます。
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仮定の問題についての答弁は差し控えさせて頂きます。
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それぞれが適切に判断されていると認識しているところでございます。
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個別の案件についての答弁は差し控えさせて頂きます。