棚橋 vs 長妻のオマケ

数字問答があった衆議院厚生労働委員会「棚橋 vs 長妻」の前半部分を文字起ししてみます。なかなかおもしろい質疑応答です。

委員長

棚橋委員
    自由民主党棚橋泰文でございます。まずは長妻大臣、近い年齢のものとして、大臣就任を心からお祝い申し上げます。と同時に長妻さんが野党の議員だった時に、私は長妻さんの言う中味に、政党を超えて共感する部分が率直に言ってございました。ですから、是非大臣なんですからそれを実現して頂きたい。大臣は就任されて2ヶ月経ち、野党の議員ではありません。もうあなたの仕事は何かを指摘したり、何かを発言したりする事ではなく、何を実行するかであります。そういう意味で、厚生労働行政を中心に、本質的な点について、具体的な例を挙げながら、お尋ねしたいと思います。

    第一に社会保険庁、新たな機構に移りますね、大臣。移りませんか? じゃ、社会保険庁は新たな機構に移るのかどうか教えて下さい、新たな形態に変わるのかどうか。
長妻大臣棚橋委員
    それでは、その機構には、懲戒処分を受けたかつての今いる社保庁の職員は1人も雇用されない。当然の事だと思いますが、そのように理解してよろしいでしょうか。イエス、ノーでお願いいたします。
長妻大臣
    これは既に閣議決定されておられるところでありますので、イエスです。
棚橋委員
    では次に、懲戒処分を受けた社保庁の職員は、厚生労働省等に雇用される、あるいは国家公務員の身分のまま、機構が発足した後に残るという事はございますか。それとも、そういう方々には簡単にお辞めいただくと言う事で間違いありませんか。
長妻大臣
    まあ、この、閣議決定と言うのは御存知のように、日本年金機構には懲戒処分を受けた職員は行かないと言う閣議決定でございまして、それは私どもとしても、遵守をすると言う事を申し上げました。まあこの職員の方々については、新しい組織が出来るに伴って、行き場が無い場合は、分限処分という事につながるわけでもございます。その一方で、私は任命権者、厚生労働大臣には分限処分回避努力義務と言う義務も一方では課せられていますので、こういう方々を、どう再就職をするのか、という事は私供も、あらゆる手段、あらゆる方策を検討しているところでございます。

    前政権におきましても、社保庁で懲戒処分を受けれた方、数百人が厚生労働省の正職員として、内定をされ、既に働いておられる方もいると、と言う風に聞いております。我々としては、分限処分回避努力をしていくということで取り組んでおります。
棚橋委員
    大臣、それは少しおかしくないですか。あなたが今までやってきた、年金記録問題に対する追及、これはもともと社保庁の職員の一部でしょうが、いい加減な事をしたが故に国民の大きな不安を呼んだんでしょう。そして、それを、その社保庁にいた、懲戒処分を受けてる。そういう職員をですね、会社で言うなら企業が倒産して再生するにあたって、生活のために、守るわけですか。今民主党席からヤジが飛びましたが、懲戒された職員の生活が大事なのか、一生懸命頑張っているけれども、雇用をまだ保証されなくて、就職口を捜している普通の国民が大事なのか。

    大臣は今、分限回避義務があると言いましたが、あなたの職責は、懲戒処分を受けた社会保険庁の職員の職を守る事なのか、それとも失業率がこれだけ高い中で、少しでも多くの方に真面目に働く国民に職を守る事かどちらなんです。
長妻大臣
    まあこの閣議決定の趣旨というのはですね、私が考えますのは、年金記録問題と言うのは、これは50年前に内部文書がございました。50年間、ある意味では表に出ずに、ずっと、ここまでひどい状態になるまでほったらかしにされてきた重大問題であって、国家の威信が傷つき、信頼も地に落ちるような問題であった。その中で、懲戒処分を受けられた方が、記録問題の回復の作業に携わるのは、如何なものかという趣旨で、懲戒処分の方々に対する日本年金機構への移行は認めない。という事は私も同感でございます。

    その一方で、この裁判所の例、判例なども含めて、大臣に分限処分回避義務が課せられているいうのも実態でございます。既に懲戒処分の方でも、民間に再就職が決まっておられる方も何人かいる。いう風にも聞いております。そして前政権においても、懲戒処分の方を数百人内定を出しておられる。いう事も聞いております。今後ですね、方針を決定している訳ではございませんけども、そういう事も総合的に判断して、きちっとした方針を打ち出す。そういう事であります。
棚橋委員
    あのう、大変残念です。長妻議員であれば、そのような答弁は許さなかったと、私は思いますが、前政権だったら、前政権だったらといつまで言い続けるんです。もう2ヶ月ですよ。いつまでも野党のつもりでいないでください。政府なんですからあなたは、国務大臣なんですから。

    ではもう一度聞きますが、年金記録を覗き見した職員もいますね。個人のデータを関係ないのに。まず、こういう職員はどうなるんでしょう。それから、今お話にあったように、年金記録と直接関係無いと言う理由で、懲戒処分を受けた人間は、再雇用ないし機構に移行、どちらかで守られる。国家公務員なのか、機構の一員なのか、そういう事なんですね。その点をお答えください。
長妻大臣
    まあ、今のお話は懲戒処分を受けた社会保険庁の職員、まあ覗き見、年金の記録の不正閲覧、と言う事でございますが、そういう事で懲戒を受けた方も確かにおられます。そして別の案件で、懲戒を受けられた方もおられます。私が申し上げてるのは、どんな案件であれ、社会保険庁で懲戒を受けられた方は、日本年金機構には行けません。そういう事を申し上げています。
棚橋委員
    おかしいじゃないですか。真面目に働いている職員は、民間とも競争しながら年金機構に行くわけでしょう。懲戒処分を受けた人間だけだけが、国家公務員に残れるわけですか。今のお話ですとそう聞こえますが、そういう事はないんですよね、もちろん。
長妻大臣
    私はそういう事は言っておりませんで、なにしろ日本年金機構には今申し上げたような考え方で移行すると言う事でありまして、その方々がですね、そのまま分限処分になるのか、あるいは大臣には分限処分、この分限処分回避努力義務が課せられていますので、どういう再就職先を考えるのか、これについて今、方針を決定するべく、議論をしている、そういうことですございます。
棚橋委員
    だからですね、年金機構には、真面目に働いている職員が行って、懲戒処分を受けた人間が、国家公務員で守られるなら、正直者がバカを見るという事になりませんか。ああ、それならオレも懲戒処分を受けるようなことをしていればよかったになりませんか。そうならないために、懲戒処分を受けた職員は、社保庁自体が事実上機構に移るわけでしょう。そうであれば、そこには機構はもちろんですが、国家公務員としても残って頂く事はできないと、言うべきではありませんか。もう一度、その点、お聞きいたします。
長妻大臣
    繰り返しになりますけれども、もうなにしろ、懲戒処分を受けた方は日本年金機構に行かないと言う事でございまして、そういう方々を今後どういう形で処遇するのかという、と言うことにつきましては、あ〜いま庁内、あ〜、いろいろな方のご意見を聞いてですね、議論している最中であると。言う事で結論がでれば、これを速やかに公表していきたいと考えているわけあります。
棚橋委員
    本当に残念です。長妻さんからもうちょっと歯切れの良い御答弁があるかと思いましたら、官僚答弁そのものでして・・・もう一度言いますが、簡単に言うと、悪い事した人間は国家公務委員に残って、真面目に働いている人間が機構に行く、これはおかしいと思いますよ。残念ながらこの質問、何度質問しても、官僚答弁しか返って来ませんので(次の質問に移る)

少々わかりにくいところがあるのですが、質問の中心は解体される社会保険庁の職員の問題です。社会保険庁厚労省の外局であるため、勤めている職員は国家公務員です。社会保険庁年金問題で解体され日本年金機構に移るのは既定ですが、年金機構は非公務員型の公法人であり、移行すれば国家公務員でなくなると理解してよさそうです。この辺は準公務員待遇なんてのもあり、私も詳しくないところです。

年金問題は大きな問題でしたから、懲戒処分を受けた職員は年金機構に移行させないとの閣議決定が為されています。これについては長妻大臣も遵守すると明言されています。問題として棚橋委員が取り上げたのは、社保庁職員の行方です。社保庁職員は棚橋質問の視点では2つに分かれます。

  1. 懲戒処分を受けた職員
  2. 懲戒処分を受けていない職員
とりあえず懲戒処分を受けていない職員のうち、wikipediaからですが、

2009年5月19日、年金機構の設立委員会は、社保庁から移行する9,971人の採用を内定

ちなみに2004年4月時点の社保庁職員は、これもwikipediaからですが、

2004年4月現在、地方社会保険事務局及び社会保険事務所の職員15,463人

5000人ほどがどこに行ったか興味深いところですが、社保庁から年金機構に移行した職員でもまたまたwikipediaからですが、

その後の改正案により採用後にも過去の不祥事が発覚した職員は解雇されることとした

なかなか厳しい姿勢です。ここで年金機構移行後でも不祥事が発覚すれば解雇されるは覚えて置いてください。


さて懲戒処分を受けた職員ですが、これがどうなるかですが、年金機構には移れません。これは前政権で閣議決定され、さらに現政権でもこの閣議決定に変更は無いとの姿勢を明確にしています。一般感覚ではクビになりそうな気もするのですが、国家公務員となると扱いが簡単ではないようです。懲戒処分を受けた職員であっても免職にはなっていません。

免職になっていない国家公務員をクビにするには分限処分による免職が必要になるのですが、また手抜きでwikipediaからですが、

公務員については、身分が保証され、国家公務員については国家公務員法又は人事院規則、地方公務員については地方公務員法又は条例に定める事由による場合でなければ、その職員は意に反して、降任、休職、降給、又は免職されることはない。なお、任命権者が分限処分を行う場合は公正でなければならないとされている。

おそらく長妻大臣が何度も繰り返した分限処分回避義務とはこのような内容を指すと考えられます。なんとなく釈然と出来ない面もあるのですが、規則は規則ですから尊重しないといけません。ただ絶対に出来ないわけでなく、

    なお、任命権者が分限処分を行う場合は公正でなければならないとされている。
逆に言えば、公正に分限処分を行なえば可能であるとも言えますが、実際は難しいそうです。長妻大臣が判例があるとしていたのもwikipediaにあり、話が煩雑になって、自分でも整理が付きにくくなっているので強引にまとめてみます。視点は棚橋質問に置いています。

社保庁職員の分類 行き先 身分
懲戒処分を受けていない者 日本年金機構に移行 非公務員
懲戒処分を受けた者 分限処分回避義務により国家が再就職を斡旋 国家公務員に残る事も十分可能


社保庁から年金機構に移るのが職員に取って良いことなのか、悪い事なのかの評価が不明なんですが、国家公務員である事が有利と言う視点から見れば、懲戒処分を受けた者は国家公務員に残れる可能性が大であり、年金機構に移れば公務員ではなくなります。また国家公務員として残れば、長妻大臣が強調した分限処分回避義務にいつまでも守られますが、年金機構では守られないと見ることも可能です。

もう少し言い換えると、懲戒処分を受けた者は国家公務員として残り、そうでない者は年金機構に移ることにより国家公務員としての身分を失うとも言えます。さらに言うと、国家公務員として残れば懲戒免職でも行なわれない限りクビになりませんが、年金機構に移れば容易にクビになるとも言えます。棚橋委員の質問の趣旨は「不公平ではないか」と考えます。


国家公務員であることにどれだけのメリットがあるかの価値観に実感が無いので、その辺のところが隔靴掻痒なんですが、とにかく長妻大臣は懲戒処分を受けた者の国家公務員を含む再就職(用語としてやや不正確ですが)に非常に前向きである事は答弁から推察されます。ここで興味深いのは長妻大臣が前政権の例を持ち出している事です。

    前政権におきましても、社保庁で懲戒処分を受けれた方、数百人が厚生労働省の正職員として、内定をされ、既に働いておられる方もいると、と言う風に聞いております。
つまり前政権時代から懲戒処分を受けた者の分限処分回避義務の遂行は行なわれており、現政権の現在の姿勢を前政権の与党が云々するのはおかしかろうと聞こえます。これも理屈なんですが、wikipediaに趣深い記載があります。

2009年4月27日、全日本自治団体労働組合民主党仙谷由人衆院議員とともに、問題のあった社保庁職員の分限免職回避や雇用の確保を厚生労働大臣に要請した。

2009年5月19日、年金機構の設立委員会は、社保庁から移行する9,971人の採用を内定し、28名が不採用となった。このうち約2割の2,116人は、年金記録ののぞき見や国民年金保険料の不正免除などで訓告や厳重注意などの処分を受けた職員である。不採用になった28名については、過去に懲戒処分を受けた職員約850人とともに、退職勧奨、厚生労働省への配置転換、官民人材交流センターの活用など、分限免職の回避に向けて、できる限りの努力を行うことが決定されている。

確かに前政権時代に分限処分回避義務を前向きに推進するとの決定が行なわれたようですが、その決定に対して当時野党議員であった仙谷由人政刷新担当相が深く関与していた事が窺われます。この関与は高い確率で仙谷氏の個人行動ではなく、民主党としての行動と考えられます。仙石氏が行なった要請は、分限処分回避義務の強力な再確認であったと推察します。

日時の確認が出来なかったのですが、仙谷氏の要請の後に前政権が懲戒処分を受けた者の厚労省への再就職を行ったのであれば、これは民主党の要請を受けた前政権の行動とも受け取る事が可能です。見ようによっては同じ穴のムジナみたいな関係です。社保庁年金問題による懲戒処分を受けた者に対する扱いは、裏を返せば民主党が前政権に要請して認められ、さらにそれを現政権が受け継いでいるとも言えます。なんの事はなく、与野党ともに懲戒処分を受けた者に対する手厚い処遇を約束している事になります。

流れをまとめると、

  1. 年金問題に関連して大量の懲戒処分者が出た
  2. また社保庁厚労省の外局から非公務員の年金機構に変わる事になった
  3. 懲戒処分者を年金機構に横滑りさせるのは政治的に宜しくなく、閣議決定が行なわれた
  4. 官公労、連合が懲戒処分者の分限免職阻止のために動き、仙谷氏も全面協力した
  5. 総選挙を目前とする時期に厚労省は「分限処分回避義務」の確認に合意した
ここまで考えると棚橋質問に別の角度が見えてきます。ここもまとめると、年金問題と密接にリンクさせて、
    懲戒処分者問題を前政権時代のままで踏襲するのか?
こういう質問であったと考えます。医療問題と違い年金問題は長妻大臣の得意分野です。当然ですが、懲戒処分者問題の経緯についても熟知しているはずです。年金問題に取り組むに当たって、懲戒処分者問題はデリケートな性質があります。「分限処分回避義務」の建前だけでゴリゴリ押すのは長妻大臣の評価を落とし、世論の支持を失う怖れがあります。

とは言え、方針転換を今の時点で行なえば、「官公労−連合−仙谷大臣(民主党首脳も含むかも)」のラインを敵に回す危険性があります。おそらく長妻大臣の真の意向としては、懲戒処分者の何人かを血祭りに挙げて「断固たる姿勢」を示す政治的パフォーマンスをやりたいと考えていると思っています。問題は有効なパフォーマンスとして、どの時期にどの程度の規模のパフォーマンスが必要かだと考えられます。

もちろんパフォーマンスを行なうに当たっては、「官公労−連合−仙谷大臣」ラインに対する根回しは欠かせません。この調整は容易じゃありませんから、現時点では現在行なわれている原則に終始した官僚的答弁に徹したと考えられます。まだ公式にどこにも言質を取られたくないからと考えるのが妥当でしょう。

長妻大臣の懲戒処分者問題の落としどころとしては、

  1. どこかの時点で強硬姿勢を打ち出す
  2. それに対する反対勢力を表にあぶりだす
  3. さらに裏からの圧力も可能な限りあぶりだす
  4. ある程度政治問題化させ、大臣レベルから内閣レベルに問題を上げる
  5. 上からの指示に屈した形にする
これなら長妻大臣はそれほど傷つきません。「官公労−連合−仙谷大臣」ラインも名を少し落としますが、実はかなり確保できますから、鉾を収めやすくなります。ただこのパフォーマンスをあんまり派手にやると政権与党全体の評判が悪くなりますから、時期と規模を「ミスター検討中」と言うことのように思います。そういう意味で現時点で余り話題になって欲しくないのは本音かと思います。

マスコミ対策は順調である事はよくわかります。