厚生労働省「若手プロジェクトチーム報告会」

7/28付m3.comより、

「大臣のビジョンが伝わらず」「驕りを感じる」

 長妻厚労相をはじめ、政務三役について、「厚生労働行政に対する想いやビジョンが伝わってくる」との回答は14.5%にとどまり、「驕りを感じる」と答えたのは、48.0%に上る……。

 政務三役にとっては、ショッキングとも言える調査結果が、7月28日に開催された厚生労働省「若手プロジェクトチーム報告会」で明らかになりました(詳細は、m3.com医療維新『「メタボ厚労省」の改善が必要、政務三役への批判も』を参照)。

 厚労省は今年5月、同省の組織・業務改善を進めるために、省内の若手職員を募ってプロジェクトチームを設置。計34人が6つのチームに分かれ、検討を行い、その結果を報告する場が28日の会議でした。

厚労官僚が何を言う式の評価もできますが、違う点が見える様な気がします。政治主導を表看板に掲げている民主政権に、ここまでの公然たる反旗を翻した点が非常に気になると感じています。この報告を行なったのは若手のプロジェクトチームとなってはいますが、いくら厚労大臣から「自由に」と言われたところで、様々な思惑を考えないはずがありません。

官僚の一つの特性に出世競争とそれに伴うサバイバル・レースの側面が強烈にありますから、従事した仕事の成果が後の出世競争にどれほどの影響をもたらすかを十分に考慮するはずだと言う事です。それとですが、建前上は独立したプロジェクトでしょうが、幹部クラスの意向が反映されていると考えるのが妥当です。若手が出世の階段を登るのに幹部の御機嫌を考慮するのは、厚労省でなくともどこでも同じです。

つまり形の上では若手プロジェクト・チームの報告であっても、調査の性質として厚労官僚の意向が出ていると考えるべきでしょう。その結果が長妻大臣を含む政務三役に「No」の報告を突き出している事になります。官僚人事に詳しくないのですが、幹部クラスの人事となれば大臣の意向は今でもある程度反映されているはずです。

こんな報告を受け取ったら、長妻大臣であっても「これの黒幕は・・・」てな考えを巡らすはずです。直接には若手のプロジェクト・メンバーですが、間接には若手につながりのある幹部にマイナス評価を付けるリスクがあると言う事です。

もう少しわりやすく言えば、こういう報告を行なうのは一般的に直接の若手であっても、間接の幹部であっても評価の上では宜しくないはずです。若手がこれを報告として大臣に提出したのは、やはり幹部クラスが「これでOK」のお墨付を出したからだと考えるのが妥当です。若手にとって大事なのは、遥か上の大臣より目に見える直接の上司なり、それにつながる幹部と考えられるからです。

幹部は見ようによっては、若手を隠れ蓑にして責任を回避しているとも言えますが、しょせん省内の事ですから、間接的影響まで回避し切れません。無難な報告書にする術は幾らでもあったはずなのに、ここまで角を立てるからには、これによるデメリットを補うメリットを計算しているはずだと考えられます。


話としてはこの時期に何故に公然と批判報告書を公開したかのミステリーになります。もう一つ報道記事を上げておきたいのですが、7/28付共同通信(47NEWS版)ですが、

長妻氏ら三役に「おごり」と苦言 厚労省の若手PT

 28日に開かれた厚生労働省の若手職員プロジェクトチーム(PT)による省内改革の報告会で、「おごりを感じる」と政務三役への苦言が飛び出した。若手の斬新な発想で役所文化を変えようと長妻昭厚労相の肝いりで発足したPTが、思わぬ改革案を突き付ける形となった。

 若手PTは、幹部のマネジメント能力などに関し本省職員の4割に当たる約750人の意識調査結果を発表。政務三役について回答した職員の48%が「おごりを感じる」。三役から「納得できる指示があった」と答えたのはわずか3%だった。

 PTは「政治主導を進めるあまり、三役と職員が連携できていない」との意見を紹介。「現場の利便性を考えずに政策が立案されている」とも。

 これに対し、長浜博行副大臣は「政治家は国民意識から離れると選挙で負けるが、公務員にはそういった機能はない」。長妻氏は「三役の考えが職員に伝わる仕組みを考えなければならない。提言した方々の勇気と労力に敬意を表したい」と述べた。

ここのポイントは長妻大臣が予めこの報告書の内容を知っていたかどうかになってきます。記事情報だけではなんとも言えないのですが、幾つかの仮説を立てて楽しんでみたいと思います。


その1 与党陰謀説

これは基本的に長妻大臣がこの報告を報告会で初めて聞いたという前提になります。厚労官僚がここまでの動きに出るからには、この動きがマイナスにならない材料が必要です。政権交代まで見越してはさすがにですから、9月の代表選挙の後に長妻大臣を交替させる気運が与党内に出ているとの観測です。ただ長妻大臣は民主政権の看板大臣の1人ですから、交替させるそれらしい理由を作っておく必要があります。

マスコミ報道が伴う公開の場で、長妻大臣の指導力の無さを露呈させ、9月に交替させても「やむなし」の気運作りです。与党サイドの思惑の実行ですから、厚労官僚は何をしてもマイナス点はつかないわけです。この仮説の焦点は与党サイドの意向が一部の有力者によるものなのか、菅総理までつながっているかになりますが、そんな事は仮説の上の憶測ですから、興味はあってもわからないになります。


その2 厚労官僚陰謀説

これも長妻大臣がこの報告を報告会で初めて聞いた前提になるのですが、長妻大臣と厚労官僚の軋轢は周知の事です。簡単に言えば、厚労官僚からすれば「代わって欲しい」大臣です。しかし長妻大臣は民主政権の看板大臣ですし、致命的な失策をやらかしている訳でもありません。そういう状態の大臣を交替させるチャンスは内閣改造ぐらいしかありません。

ここで長妻大臣は看板大臣ではありますが、正直なところ目立つ業績を残しているわけではありません。プラスでもなければマイナスでもないと言ったところでしょうか。交替の気運を起すには、マイナス要因のアピールが必要と厚労官僚が判断した可能性です。あえて少々の向こう傷を受けても、長妻大臣に赤っ恥をかかせておこうのパフォーマンスの可能性です。

9月の改造内閣であれ、新内閣であれ、厳しい国会運用に曝されますから、マイナスポイントが目立つ大臣をあえて留任させないの読みです。


その3 長妻大臣陰謀説

これは長妻大臣が予め報告書の内容を知っていた前提になります。マスコミに報道させる公開の場で厚労官僚にあえて批判的な報告をさせ、これを逆手にとって厚労官僚批判に世論を向けさせようの意図です。厚労官僚の抵抗を押しのけるには、世論の追い風が必要であり、この報告書で「がんばれ、長妻大臣」の声をあげさせ、それを省内改革の原動力にしようとする目論見といえばよいでしょうか。


その4 長妻派形成説

これは「その3」に似ていますが、若手のプロジェクト・チームにあえて批判させて、これをテコに厚労省内の膿を搾ろうとの意図です。「その3」との違いは、長妻大臣と若手との間に連携があるところです。若手との連携により幹部クラスを押さえ込む省内政治の一環と言う考え方です。長妻大臣も、厚労官僚すべてと敵対するのは無理があると実感し、省内に長妻派を作ろうとする戦術としても良いかもしれません。



どの説も一長一短で、ありえると言えば、どれもありえると言ったところです。あえて言えるのは、やはり9月の民主党代表選が影響しているぐらいでしょうか。外野から見れば留任の可能性が強そうな長妻大臣ですが、よく考えてみればさしたる業績を残しているわけではありません。予算的には子ども手当は大きいですが、あれも長妻大臣の功績と感じている人間は少ない様に思っています。

医療問題にしろ、年金を含む社会保障問題にしろ、導火線に火のついた爆弾のような難題になっています。ここが炸裂し始めると、民主政権自体が吹っ飛ぶ可能性があります。看板大臣として長妻氏は入閣していますが、ひょっとして実績から「荷が重い」の評価ぐらいが与党内に出ている可能性はあります。そういう評価がないと厚労官僚も動く必要はありませんし、長妻大臣も動く必要がありません。

いろいろと考えて見ましたが、長妻大臣を応援する気にもなりませんし、ましてや厚労官僚を応援する気にはもっとなりません。真夏のミステリーぐらいで、納涼気分に浸るぐらいが適当なお話と思っています。そうだ、そうだ、もう一つ信憑性の高い仮説があるのを忘れそうになっていました。


その5 若手厚労官僚暴走説

誰もが長妻大臣の意向に副うような無難な報告書になると予想していたのに、プロジェクト・チームの中を妙な空気が支配し、結果として爆弾報告書になってしまった可能性です。ですからこれを聞いた長妻大臣も困惑し、幹部連中も「これは拙いなぁ」と顔を見合わせる構図です。つまり誰もそんな混乱を望んでいないのに、勝手に暴走されて起こった椿事と言うわけです。

世の中案外その程度のものかも知れません。