時代は変わる

かつて国会審議の実際がどうであったかなんて知り様がありませんでした。NHK国会中継をやってはいますが、平日の昼間に熱心に見れる人間は限られています。ビデオに録画して見るという方法が出現しましたが、そこまで熱心な人間はどうしても限られます。お手軽に既製マスコミが編集したダイジェスト版で満足していました。

長い国会審議に全部付き合うのは難しいので、国会審議の内容の要点をダイジェストしたマスコミ報道こそ審議のすべてと思い込んでいたのです。もちろんメディアの本来の役割として、ダイジェストして国民に情報を届けるのは正しい事なんですが、どうも既製マスコミはダイジェストの過程で恣意的な編集が行なわれているんじゃないかの疑念が、最近とみに高まっています。ごく単純に、

    既製マスコミは国会審議の真相を伝えていないのではないか?
昔からそういう疑念を持つ人はいましたが、これを検証しようとすれば、実際に国会の傍聴をしに出かけるか、NHK国会中継を直接見るなり、録画して見る必要があります。議事録を読むという手もありますが、これも長い上に公開速度は国会審議に追いつかないものがどうしてもあります。さらにそれだけの努力を重ねても、わかった事実を広く知らしめる方法が在りませんでした。

ところがネットはこの壁を乗り越え始めたように感じています。国会審議は国民に広く公開されるべきものであり、公開の手法としてネットが利用され始めたのは必然と言えます。ネットに公開されても長い審議に付き合うのは同じなのですが、自分で録画する手間が省け、いつでも自分の時間の都合の良い時に見ることが出来ます。

もう一つ大きいのは興味のあるところだけに集中して見る事が出来ることです。国会審議は多岐に渡りますから、そのすべてに専門的な見解を持つことが出来なくとも、パーツにすれば非常に詳しい分野があるわけです。そこを集中的に解析するのが可能になります。さらに個人ではカバーできる範囲は限られていますが、個人が数になればカバーできる範囲が広くなります。

さらにさらに大きいのはその情報を広い範囲で共有できる事です。共有するに当たって役割分担が自然に出来上がります。国会審議の一次情報を出来るだけ忠実に伝えるパート、その一次情報に基いて評価するパートが出来上がり、評価に対しての意見交換が瞬時に広範囲で可能になっている事です。これは途轍もなく大きな変化だと感じています。


当ブログでも取り上げた参議院予算委員会での「舛添 vs 長妻」にしても、既製マスコミが取り上げたのは

    長妻大臣が「舛添大臣」と呼び間違えて苦笑
これだけです。確かにそういうシーンはありましたが、「舛添 vs 長妻」の本当のキモは、新型ワクチン問題の大きな、大きな問題である10mlバイアルについての新旧大臣の激しいやり取りです。何回もこれをやっているので今日は解説を入れませんが、マスコミのダイジェスト版では伝えなかったところに重要なポイントがテンコモリあります。


これは、あくまでも例と考えて欲しいのですが、これはしなぷす様の「【民主党】長妻昭「インターネットで放送されているこの場では公表できません」にある「棚橋 vs 長妻」の衆議院厚生労働委員会の一部です。元は2chらしいのですが、

棚橋「どういう根拠でそうしたのかその内容を教えろ」
長妻「臨床試験の結果が出たからそれ見てすぐ変更した」
棚橋「だからその結果を教えろよ」
長妻「臨床試験の結果が出たからそれ見てすぐ変更した」
棚橋「だからどういう内容だったか言えよ」
長妻「臨床試験の結果が出たからそれ見てすぐ変更した」
棚橋「委員長、大臣にちゃんと内容について答えさせて」
委員長「政務官代わりに答えてあげて」
棚橋「大臣にしか通告書出してねぇよ。大臣に答えさせろ」
委員長「大臣答えて」
長妻「数字に関する通告無かったから用意してないよ」
棚橋「何を言ってるんだお前は。というか後ろから政務官がメモ出してるぞ」
長妻「数字はこのメモにあるけど隠すわけじゃないよ。臨床試験の結果見て決めたんだよ」
棚橋「手元にあるなら言えよ」
長妻「隠してるわけじゃないよ。ちゃんと臨床試験の結果見て決めたんだよ。 それにこの答弁インターネットで流れてるし。そのうちちゃんとした場で発表するよ」
棚橋「だからその数字発表しろよ。なんで言えないんだよ」
長妻「隠してるわけじゃないよ。隠してるわけじゃないって。ちゃんと臨床試験の結果見て決めたんだよ。そのうちちゃんとした場で発表するよ」
棚橋「委員長、ちゃんと質問に答えさせて」
委員長「しょうがないから手元の数字だけ簡潔に言って」
長妻「数字は手元にありますが、これを隠すわけではありません、隠すわけではありませんが、この場で発表するのは控えさせていただきます」

http://www.shugiintv.go.jp/jp/wmpdyna.asx?deli_id=40008&media_type=wb&lang=j&spkid=19649&time=04:14:35.7

実際の答弁(発言)の様子は、27分30秒あたりから10分ほどワクチン論議はありますから御確認下さい。実際はもっと長くてかなり白熱しているのですが、引用文はよく実際の答弁をよく反映してると思います。興味のある方は動画を一度ご覧下さい。話題になった部分を出来るだけ正確に文字起しすると、

長妻大臣

    これはですね、私どももきちっとしたペーパーをですね、委員会に提出してですね(ここで棚橋委員から「数字を教えてくれ」との不規則発言)。今数字と言うのは先ほど申し上げましたように、第1回目成人のとき、第1回目打ったときに、抗体がですね、それが効果があるまで上った方(棚橋委員より「それが何パーセントか」の不規則発言)、この数字はあります。そして2回目打ってどこまで抗体があがったかの数字はあります。

    それについて、今持ち合わせておりませんので、突然のお尋ねですので(ここでメモが回される)・・・まあ、これですね、委員ですね、(棚橋委員より「なぜ隠すんですか」の不規則発言)隠してないですよ、委員ですね、この国会のの場でですね、責任ある私は通常、別に隠している訳ではなく資料ありますよ、あります。もしそうであれば事前に、それを聞くという事を行って頂ければ、私もきちっとその数字を頭に入れて、答弁をする予定にしておりますけど、今ここに数字はここにございますが、これが棚橋委員が言われた数字を適切に反映しているもなのかどうかについて、私もきちっと見ますので、数字を別に隠している訳ではございません。

    これについて、きちっと出しますので、しばらくお待ちいただきたい。
棚橋委員
    私が言っているものか別にして、今お手持ちの数字だけを教えてください。今お手持ちの数字を教えてください。
委員長
    時間が過ぎていますので、手短に今の質問にのみ答えてください。・・・ハイ、長妻大臣、短く答えてください。
長妻大臣
    まあここに今、数字は確かにございますけど、こりゃ別に隠している訳じゃないんですよ、棚橋委員。これ責任ある数字を、この質疑というのは、インターネットの中継でも流れていて、国民の皆様方もご覧になっておられます。この数字についてですね、きちっとしたペーパーを、お出しをすると、いう風に申し上げておりますので、是非それをご覧頂きたいと思います。

実際に聞いたニュアンスを補足しておきますと、1回接種の決定に対する根拠を棚橋氏は質問しています。それに対して長妻大臣は200人の医療従事者の2回目の接種の治験の結果が出たから「即日決定」したと答弁されております。ここで誰でも感じるのは「即日決定」するぐらいですから、余ほど明確なデータが出ているんだろうと感じます。

新型ワクチンを1回接種にするか2回接種にするかは新型インフルエンザ対策上で大きなポイントです。1回か2回の本質的な医学的論議は長くなるので控えますが、治験を基に「即日決定」し、当然の事ですが厚労大臣もその治験結果からの根拠に納得同意しているはずです。答弁の席上で細かい数字を覚えていないのは責められませんが、数字がわかれば答えられると考えるのが妥当です。

ところが長妻大臣は執拗に答弁を拒まれます。メモが回っても拒まれます。拒んだ理由は「事前の質問になく、質問の趣旨に合致しているかどうか責任がもてない」です。ここで疑問として、「即日決定」されるほど明確な根拠であるはずなのに、どうして長妻大臣は答えないのであろうです。厚生行政のトップとして1回接種の根拠の説明に合意納得したはずなのには出てくるところです。

あくまでも因みにですが「棚橋 vs 長妻」で数値問答があったのは国産ワクチン臨床試験の中間報告(第2報)と思われますが、長妻大臣が答弁を拒否した部分はおそらく、

  • 抗体保有率(接種後≧40倍):15μg 1回接種後では、HI抗体価40倍以上の人が 98人中77人(78.6%)、30μg 1回接種後では、HI抗体価40倍以上の人が100人中88人(88.0%)。15μg 2回接種後では、HI抗体価40倍以上の人が 98人中76人(77.6%)、30μg 2回接種後では、HI抗体価40倍以上の人が100人中88人(88.0%)でほぼ変わりがなかった。
  • 抗体陽転率:抗体価4倍以上上昇し かつHI抗体価が40倍以上の方の割合は、15μg 1回接種後では 98人中72人(73.5%)、30μg 1回接種後では100 人中 87 人(87.0%)。15μg2 回接種後では 98人中 70人(71.4%)、30μg2 回接種後では100人中 88人(88.0%)であった。
  • 接種前の抗体価を基準とした抗体価変化率は、15μg 1回接種後は9.28倍、30μg 1回接種群後20.97倍。15μg 2回接種後は8.65 倍、30μg 2回接種群後17.75倍であった。
  • 抗体有意上昇率:「HI抗体価の変化率が 4倍以上の割合」は、15μg1 回接種後は 80.6%(98 人中 79 人)、30μg 1回接種群 92.0%(100人中 92人)。15μg 2回接種後は 80.6%(98人中 79人)、30μg 2回接種群 96.0%(100人中 96人)であった。
  • 1回接種後中和抗体もHI 抗体価同様、15μg 接種群より30μg 接種群が高い抗体価を示した。

ごく簡単に要約すると2回接種しても抗体の上昇率は変わらなかったと言う事です。長妻大臣の手許にどんなメモが来たかは知る由も在りませんが、抗体保有率であれば、

    1回接種で78.6%、2回接種で77.6%
この治験結果を基に「即日決定」した事の医学的是非とか、足立政務官の接種回数騒動の時との発言(ヒアリング)の矛盾とかは長くなるので控えさせて頂きます。これをやり始めると百家争鳴に状態になるからです。



もちろんこんな事はマスコミは全く報じないところです。ちょっと注意なんですが、上に挙げた例は長妻大臣への批判ではなく、そういう答弁があった事さえ既製マスコミは一切報じていない事です。従来なら既製マスコミが報じなければ「無かったこと」も同然の質疑応答です。ところがネット時代になれば掘り起こされ、論評の対象になります。

そういう行為が出来るようになった事が大きな変化だと感じています。さらにこれまで既製マスコミが「これは重要、これは報じる必要なし」と判断していた基準が、国民が本当に知りたい部分とかなり乖離している可能性を強く示唆していると考えています。それに対して既製マスコミが報じなかった部分を掘り起こし補完するツールが自然発生的に出来上がりつつあると考えています。

国会の最終決定は多数決です。これは民主主義のルールではありますが、過半数を握っているからと言って、国会審議は不要と言うことではありません。一つの法案を決定するにあたっても、政府与党の原案に対し、疑問点、改良点があればこれを取り入れてより良い案にしようとするのが国会審議であり、これも民主主義の原則の一つである少数意見の尊重と考えています。

少数意見が尊重されるためには、少数意見を知る必要があります。たとえ無所属議員1人の意見であっても、国民がその意見に賛成し、支持し、世論になれば尊重される意見になります。従来はマスコミのみの判断で、国民が知るか知らないかは決定されていましたが、ネット時代はマスコミが報じなくとも誰かが掘り起こして情報とする時代になっています。

時代は確実に変わっていると感じます。