5人の勤務助産師の勤務シフトを考える

6/25付山梨日日新聞より、

山梨大指導で分娩再開断念 塩山市民病院/「常勤医1人では緊急時対応不十分」/既に予約、市民に不満

 医師不足産婦人科の分娩ぶんべんを中止していた甲州市塩山市民病院(沢田芳昭院長)が、助産師による正常分娩を始めようとしたところ、同病院に医師を派遣している山梨大から指導を受け、断念していたことが、24日分かった。市民の要望に応えようと早期再開を目指した同病院だが、同大は「常勤医が1人しかおらず、緊急時の対応が不十分」と待ったをかけた。医療関係者は「多くの医師派遣を受ける山梨大の方針に従わざるを得なかったのではないか」と病院側対応に同情するが、市民からは不満の声が上がっている。

 同病院によると、産婦人科は当初、山梨大からの派遣医が3人いたが、同大が「小児科医と麻酔科医が確保できない」として全員を引き揚げたため、2007年10月に分娩を中止した。昨年8月、新たに1人が派遣された。

 同病院は、分娩を求めた市民ら7万7千人の署名が提出されたことを重視、早期の分娩再開を模索。正常分娩に限り助産師5人が主体的に措置する仕組みをつくり、緊急時は山梨市内の診療所の産婦人科医と、系列の山梨厚生病院の麻酔科医に協力してもらうことが決まった。

 今年1月、同病院で検診を受ける妊婦のうち、6月以降の出産予定者を対象に分娩の受け付けを始めた。しかし同大から指導を受けたため、4月に取りやめることを決め、予約者に通知した。

 同病院は「診療所は医師1人でお産を扱う。助産師や看護師は多く、正常分娩なら安全と判断した。ただ山梨厚生病院を含め、同大から多くの医師の派遣を受けていて、再開に慎重にならざるを得ない」と説明する。

 同大は、同病院を指導したことについて「院内助産でも母体や胎児に異常があった場合、助産師から医師にバトンタッチする。分娩再開には少なくとも常勤医3人が必要」などと説明。常勤の小児科医、すぐに駆け付けられる麻酔科医がいないことも理由に挙げている。

 同大が地方病院から医師を引き揚げ、拠点病院に医師の集約を図る背景には医療事故が起きた際の訴訟リスクがあり、「お産に百パーセントの安全を求められる時代。万全な体制で分娩を再開したいが、医師不足で難しい」(同大)という。

 ある医療関係者は、県内の多くの病院が、県内で唯一、医師の派遣機能を持つ山梨大に頼っている現状を指摘。「大学の方針に従わざるを得ない傾向を解消するには、医師を増やすことはもちろん、国や県が積極的に大学側へ働き掛けてほしい」と注文する。

 分娩を予約した山梨市上之割の村松幸恵さん(36)は「地元で産めると思って喜んだのに残念」と肩を落とす。分娩再開の署名活動を進めた「子育てネットこうしゅう」の坂野さおり代表は「再開してもすぐに中止されては困る。一日でも早くお産ができる環境を整えてほしい」と訴えている。

ストレートな評価はssd様の教育的指導を御参照ください。それ以上は付け加える気もありませんし、あえて絡もうとも思いません。私が気になったのは、

    正常分娩に限り助産師5人が主体的に措置する仕組み
つまり5人の勤務助産師で分娩体制を組もうとした事です。開業助産師なら労働時間の設定は完全に自己責任の世界ですが、勤務助産師は普通の勤め人ですから当然ですが労働基準法の枠内で働いている事になります。医師については極限まで無視されている労基法ですが、勤務助産師が医師みたいな世界に住んでいるとは思えません。

もっとも5人もいるのですからある程度は合法的に組む事は可能なんですが、問題は勤務助産師がどういう勤務条件になっているかです。「主体的に」と書いてありますから助産師外来みたいなものを組んでいるのかどうかも気になるところですが、塩山市民病院のHPには

産婦人科ネットワーク

    平成19年10月より、分娩取り扱いを休止しております。
    現在、再開に向けて鋭意検討中です。

これしか情報がありませんから、何とも判断のしようがありません。情報が無いのと計算が煩雑になるので、助産師外来は行なっていないとします。ただ助産師外来は確認できませんでしたが、看護医療の社会人入試・自宅対策専門の敏塾に、

山梨県甲州市塩山市民病院(沢田芳昭院長)は2009年1月8日から毎週木曜日、助産師による母乳育児に関する相談外来をスタートさせる。産後約2カ月までの母親を対象にしている。 同病院を運営する財団法人山梨厚生会によると、現在の助産師は5人。

相談外来は木曜日の午後1時半−4時半に実施し、料金は1回500円。事前予約が必要となっている。

助産師外来の存在は確認できませんでしたが「助産師による母乳育児に関する相談外来」はあるようです。毎週木曜日の13:30〜16:30に行なっている事は確認できます。これは考慮に入れる必要はありそうです。もう一つ重要な点は勤務助産師が看護師の夜勤の上限時間、すなわち1ヶ月に64時間に拘束されるかです。医師であっても拘束されたい上限時間ですが、これは労働協定の取り決めになります。とりあえずは外して考えてみます。

次に考えるのはシフトの問題です。分娩は24時間365日ですからこれに応じた体制が必要なんですが、三交代と考えて各シフトに何人の助産師を配置するかになります。この辺は分娩数との兼ね合いになるのですが、まずは1人ずつで考えてみたいと思います。機械的に分けますが、各シフトを8時間とし、そこに30分ずつの休憩時間があるとします。つまり各シフトの労働時間は7時間30分になります。

計算の便宜上4週間で1ヶ月の2月モデルで考えますが、埋めるべきコマの総数は単純計算で84コマですが、毎週木曜日に相談外来を行なっているのでこの日は2人体制とすれば88コマになります。これを5人で割れば17.6コマになります。一つのコマを細分化しにくいので18コマと考えると1ヶ月の労働時間は135時間となります。余裕で労基法の160時間をクリアできます。

クリアは出来ますが、18コマのうち準夜・深夜の夜勤コマが12コマになると考えられ、そうなれば夜勤の労働時間数は90時間になり、さらに日勤の勤務日は月に6日になります。それと5人の勤務助産師が一度に顔を会わせる事が無い体制でもあります。最大でシフト2人ですから必然的にそうなります。


次にシフト1人体制は心細いので全シフト2人体制を考えてみます。今度は168コマになり1人当たり33.6コマ、これも34コマで考えてみます。これは厳しくて1ヶ月の労働時間が255時間となります。1ヶ月の時間外労働の上限である40時間を加えても200時間、滋賀の様に特別協定80時間を組んでも240時間で足りません。全コマ2人体制は労基法上クリアできません。そもそも34コマも仕事したら休みがなくなります。

それであれば準夜・深夜2人体制で日勤は木曜のみ2人すればどうでしょうか。分娩は夜のほうが多いので夜に人手を厚くした体制です。この場合は144コマになり、1人当たり28.8コマ、これも29コマと考えると、1ヶ月で217.5時間になります。時間外労働時間は57.5時間になり、これぐらいなら労働協定次第で可能かもしれません。ただしこれも29コマならおそらく休みはありません。

もう少しありがちな昼2人、夜1人体制ではどうでしょうか。これは112コマになり、1人当たり繰り上げて23コマになり、1ヶ月で172.5時間です。これなら時間外勤務時間は12.5時間になり労基法の枠内になんとか収まります。

計算がわかりにくいと思いますから一覧表にしてみます。

シフト人数 総コマ数 1人当りの1ヶ月の労働
日勤 準夜 深夜 コマ数 労働時間
1人 1人 1人 88 18 135.0時間
2人 1人 1人 112 23 172.5時間
1人 2人 2人 144 29 217.5時間
2人 2人 2人 168 34 255.0時間

※木曜日は相談外来のため2人体制

※1人当りのコマ数は繰り上げ計算

※コマ当りの労働時間は7.5時間

※1ヶ月は4週間28日の2月モデルで計算


もう一度書いておきますが、労基法の労働時間の上限は週に40時間で4週間なら160時間です。時間外労働の上限も一般的には1ヶ月で40時間とされています。その上で較べてみると勤務助産師が比較的無理なく永続的に続きそうなシフトは全シフト1人体制で、後はオンコールで賄うぐらいかと思います。日勤だけ2人体制も机上では成立しますし、日曜祝日の日勤を1人体制にすればもう少し緩和されるので不可能ではないかもしれません。

ただしオンコールの待機時間の扱いが、これまた労基法上では複雑で微妙なのは奈良産科医時間外訴訟で明らかですから、オンコール体制がどれだけ組めるかは何とも言えないところです。いづれにしても5人ではチョット苦しいかなと言うのが実感ですが、塩山市民病院で具体的に考えられていた勤務助産師の勤務体制を知りたいところです。

これはちなみにですが日本産婦人科医会は産科における看護師等の業務についての意見で、

1分娩機関あたり助産師6〜8人が必要

こうしていますから、5人で組もうとすれば必然的にこうなるのかもしれません。ただ病院側の助産師数についての評価は、

診療所は医師1人でお産を扱う。助産師や看護師は多く、正常分娩なら安全と判断した

看護師の数はわかりませんが、助産師の数が多いとはちょっと思いにくいところです。それとここで墨東病院の産科医の実質勤務時間が1ヶ月で300時間を越えているなんて話は、異次元の世界の話なので比較に出さない事にしておきます。