研修医とはなんだろう

昨日は天気も良かったので今年初めて山に登ったのですが、運動不足が露呈して今日(いや昨日から)筋肉痛がバリバリで歩行困難を来たしています。例年、シーズン始めはこんなものですが、年々痛み方がひどくなっているのに歳を感じています。こればっかりは本当に歳は取りたくないものと痛感します。本当に階段を下りるのがが苦痛です。たとえ一段でもです。

そういう訳でもないのですが、なるべく静かな話題(下調べが少なくて)にしたいと思います。それが今日のお題です。インターンの時代はさすがに知らないのですが、4年前に研修医制度が変わったのは知っています。また2010年度から研修医制度が手直しされるのも既定路線になっています。研修医制度の変更は、医局制度を破壊するものみたいな隠れた目的もありますが、あくまでも真の目的は

    より良い医師を育成するため
であるはずです。ついでの目的はともかくそれだけのはずです。さらに研修医とはどれだけの技量があるかと言えば、医学生を卵とすれば雛状態です。これが若鳥になり一人で飛び立てるようにするのが研修医制度の目的のはずです。もう少し具体的に言えば、医学部教育を経て医師免許を取得する事により、医師としての最低限の基礎知識を取得した段階に過ぎず、これから実戦の知識、技量を取得する段階の医師です。

あえて自動車免許で喩えれば、若葉マークと言うより仮免許の状態のほうが近いと考えます。個人的には2年間の前期研修が終わってようやく若葉マークと言う感じでしょうか。そういう事は研修医の方がより自覚するというか、現場に飛び込めば嫌でも自覚させられます。自覚するだけに、一刻も早く実力を身につけようと張り切りまくるのが研修医時代としてもよいかと懐かしんでいます。

研修医の実力は病院に居るだけでつく物ではありません。研修医の武器は「やる気」だけですから、受け持った患者の病気を不十分な知識と経験で全力でぶつかり、不十分なところを指導医の指導と自らの勉強で必死に埋めながら日々を過ごします。こういう実戦の勉強は一度で覚えます。実戦経験はやる気の塊で習得しますから、乾いた布に水が沁み込むように身につき、次の患者の治療に役立ちます。

実地の患者を受け持つというのは、その患者の病気の診断、治療を覚えるだけではなく、細々とした周辺知識も同時に身につけて行きます。基礎知識はありますから、それが見る見る骨になり、身になるのが研修医時代です。指導医は研修医の実力の向上に伴い、少しづつレベルの高い患者を経験させ、研修医もまたあらたな高い壁にぶち当たりながら、それを突破しながら実力を蓄える事になります。

私の研修医時代と今ではシステムは違うでしょうが、大元の基本はそうは変わらないと考えています。学生時代と研修医時代では学ぶ速度と身につく速度が桁違いであった事だけはよく覚えています。教科書や文献を百回読むより、1人の患者を経験する方が遥かに貴重な経験になります。それぐらい実戦の緊張感は違うと考えています。


私はあくまでも研修医はまだ修行中の医師だと考えています。見習いと言う表現が相応しい時期です。この見習いを一人前にするのが研修期間です。さらに言えば、現在なら前期後期で4年の研修期間があるようですが、これを終えても危なっかしいところが多分に残る若手です。医師が医師を一人前として認めるのは目安として経験10年です。そこまでは完全に一人前として認めないところがあります。

10年で一人前の世界の研修医の扱いは決して戦力ではありません。戦力でないと言うのは語弊があるとしたら、1人では戦力として認められない半人前どころか1/3人前、1/4人前以前の状態です。経験により少しづつ実力は向上して行っても、信用できる部分と信用できない部分がカオスのように混在している状態です。信用できない状態を解消するにはひたすら経験と勉強であり、それには嫌でも時間が必要です。

時代が変わったと言っても研修医のそんな意識の基本は変わっていないと思います。だからより良い研修が出来そうな病院が研修病院としての人気が高まります。それが都市部にあろうが、地方にあろうがです。細かい例外例を言い出せばキリがありませんが、大勢はそうです。私はそういう気風が好ましいものに見えます。昔もそうではあったのですが、情報不足と医局制度の縛りが強く、自分の意思でどうにかできた部分が少なかったからです。


ここで研修医を戦力と見なす考え方があります。昔もそうでしたが、今とはニュアンスが変わっている気がします。昔は研修医を看護師の仕事の補助のような分野に戦力として使っていました。今でもそういうところは多いかもしれませんが、研修医の戦力としての利用として多かったと考えています。ところが今は医師戦力として利用しようとしているように感じます。

昔の利用法も間違いですが、今の利用法も間違っている上に危険と考えます。研修医とは研修中の見習い医師に過ぎず、決して戦力として勘定してはならないものだと考えています。研修医を戦力として計算に入れてしまうリスクの恐ろしさは医師なら分かるはずです。経験能力に応じて補助戦力として計算に入れていくのは現場的にはありですが、基本的には計算外のものとして扱うべきではないかと考えます。

とくに新研修医制度以降に2年の前期研修医が終了すれば「一人前」みたいに見なす会議室の論調がありますが、これがどれだけ危険な事を論じているか「有識者」は分かっているのでしょうか。ましてや前期研修医を地方の医師不足の解消の切り札に利用する動きの危うさは、正気かと思うところがあります。

直面している医師不足の問題は長年の判断ミスの結果です。ここで判断ミスの責任者の追及をしても始まりませんが、医師の養成数は短期ではどうしようもなく、長年の判断ミスはどうしても時間をかけて是正する必要があります。こういう時こそ、腰をすえて中長期の施策が必要と考えますが、人事権を左右しやすい研修医の頭数合わせで急場を凌ごうとする対応策は、よく考えておく必要があると思っています。