よく読めばよ〜わからん制度

今朝は手頃なネタが幾つも転がっているんですが、私が取り上げたいのは観測気球クラスの小ネタです。見つけたのはphysician先生のところで、そこにコメントを入れさせてもらいながら考えていると、興味が掻き立てられました。そういう訳でまずphysician先生のエントリーに謹んでTBします。

元ネタは8/24付NHKニュースです。

医師不足対策で補助金見直し

医師免許を取ったばかりの医師に2年間の研修を義務づける「臨床研修制度」が3年前に始まりましたが、勤務条件のよい東京や大阪など都市部の病院に研修医が集中し、地方の医師不足に拍車をかけています。このため、厚生労働省は来年度から、研修医を受け入れている全国2000余りの「臨床研修病院」への補助金の配分を見直す方向で検討を始めました。現在は、受け入れている研修医の数などを基準に補助金を出していますが、新しい制度では、研修を終えた医師を医師の足りない地域に派遣する病院に補助金を増やす一方、派遣数の少ない病院は補助金を減らし、医師不足の対策への貢献度に応じて補助金を配分する方針です。厚生労働省は、新しい制度が医師不足の解消に一定の効果があると説明していますが、現場の病院や研修医からは反発が出ることも予想されます。厚生労働省は今後、補助金を配分するための具体的な基準作りを進めることにしています。

どうやら記事を書いた記者も不消化のままの鵜呑み記事のようなので、その点は割り引いて考える必要があります。physician先生は

勤務条件のよい東京や大阪など都市部の病院に研修医が集中し、地方の医師不足に拍車をかけています。

この部分に強い違和感を感じられていますし、私も目に付く部分の一つです。その点についてはphysician先生の解説に譲るとして、ここでは、その後のコメント欄で取り上げさして頂いた問題点にスポットを照てたいと思います。

この記事で書かれている医師不足対策は「臨床研修病院」への補助金の匙加減を行うというものです。具体的に、

  1. 補助金分配の指標は前期研修終了後の医師の動向である。
  2. 前期研修終了後の医師を医師の足りない地域に派遣する病院に補助金を増やす。
  3. 前期研修終了後の医師を医師の足りない地域に派遣するのが少ない病院は補助金を減らす。
文字通りのアメとムチなんですが、基本的に分からないところがあります。このわからない点を是非アドバイスして頂きたいのですが、前期研修医の身分はどうなっているのでしょうか。physician先生もそんなに詳しくないと仰られていて、今の研修制度では病院群で研修する制度ぐらいしか言われていません。

病院群という言葉も若干戸惑ったのですが、一つの病院では必ずしも研修に必要な全診療科を賄う事ができないので、それを補完する意味でグループを組んでいると理解しました。「群」と言っても一つの病院でOKのところもあるでしょうし、そうでないところもあるぐらいで解釈しています。

要するに一つないし複数の病院で前期研修に必要なカリキュラムを研修しているんでしょうが、正式の所属はやはり一つの病院ではないかと考えています。どこかの研修病院と雇用契約みたいなものを正式に交わしている形態です。ここも知識が無いので、ひょっとしたら正式身分は厚生労働省にあり、委託先として研修病院という考え方もありますが、そうであればもっと強力に人事権を発動しそうなものですから、やはり病院と正式に契約を交わしていると考えるのが妥当と思っています。

2年間の前期研修ですが、終了後の身分はまずどうなるのでしょう。これもあやふやな知識なので間違っていれば訂正お願いしたいのですが、研修医の契約は基本的に研修期間の時限契約であったように記憶しています。2年間の前期研修を終えれば自動的に研修病院の正式職員に採用されるような契約形態でなかったかと思っています。事実上とかの問題は置いておいて、正式には公式の研修期間だけの契約だったはずです。

これも聞いただけの知識で申し訳ないのですが、新研修医制度発足時には今で言う前期研修制度しかなく、1期生の研修が終わるころに後期研修なる言葉が出てきたと記憶しています。後期研修についてもコメントを頂いた事があるのですが、後期研修は前期研修と異なり、公費の給与が出る公式なものではなく、従来の研修医制度に近い形態と聞いています。これも私の誤解があれば訂正頂きたいのですが、後期研修は「した方が望ましい」の位置づけで、各病院が独自のカリキュラムを用意して行なっていると考えています。

そうなると前期研修を修了した医師は、そこからの進路選択は、大きく2つに分かれると考えます。

  1. 前期研修病院で引き続き後期研修を行なう。
  2. 他の病院(大学医局も含む)で後期研修を行なう。
その他にも細かい進路はあるでしょうが、この二つが大部分ではないでしょうか。何を言いたいかですが、前期研修を修了した医師は、基本的に自らが希望した後期研修病院を選択できる制度だったはずです。前期の研修病院が後期の研修も充実していればそこで研修するのもよし、自分の専門指向の診療科が充実していなければ、より相応しい病院を選択して良いはずです。ここまでの私の新研修医制度についての理解が間違っていれば陳謝します。

研修医の身分がそうであるならば、報道記事では理解できない事が出てきます。記事では前期研修を終えた医師を研修病院がどう扱うかを、補助金分配の指標にすると書いてあります。扱い方は、その医師を医師不足地域に派遣するかしないかであるとも書いてあります。派遣という言葉の解釈が微妙なんですが、通常で解釈すれば本籍を元の研修病院において、そこから医師不足の病院へ出向みたいな形態で働かせると取れます。

話が前後するのですが、研修医は前期研修が終わった時点で研修期間の契約は終わったはずです。杓子定規な解釈ですが、そこから研修医は後期研修のための新たな契約を選択するはずです。研修病院にすれば前期研修が終わった時点で、強制的に雇用契約を結ばせる権限はなかったはずと考えます。あくまでも研修を行なった医師の自由意志のはずです。

そうなれば補助金増減の指標である「医師の足りない地域に派遣」を行なうには、前期研修を修了した医師が同じ研修病院に後期研修を希望し契約し、そうやって確保した医師を研修病院が「医師の足りない地域に派遣」して初めて成立します。

前期修了研修医は研修病院と後期研修契約を結ぶ強制力はないはずですから、前期修了研修医が元の研修病院以外を希望したら派遣は不可能になります。地方病院ではありえる事と聞きますが、せっかく確保した前期研修医が後期に誰も残らなかった場合には、派遣は「ゼロ」になります。

そうなれば研修病院が補助金を減らされない、もしくは増額を求めるなら、前期研修医が後期も引き続き研修してくれるように慰留し、残ってくれた後期研修医を「医師の足りない地域に派遣」しなければなりません。そういう後期研修医が多ければ多いほど補助金が増えるシステムですから、根こそぎ「医師の足りない地域に派遣」すればもっとも効率よく補助金を増額できます。

では研修病院が前期修了研修医が後期研修も同じ病院で行なうように慰留する努力が、この制度の鍵かといえばそうとも言えません。前期修了研修医は下手に慰留されて残れば、補助金獲得のために「医師の足りない地域に派遣」の重圧を受け続ける事になります。「医師の足りない地域」の医療に情熱を燃やす医師はそれで文句は無いかもしれませんが、そんな医師は多数とは思えません。そうなれば前期修了研修医は後期研修を元の研修病院で行なうのを忌避する事が大原則になります。

もちろんこういう制度を考えるぐらいですから、前期研修医の進路の縛りも打ち出されたり、前期研修修了研修医が自らの医師で選んだ進路が「医師の足りない地域」に行ったかどうかで評価するかもしれませんが、とくに後者なら地方病院はさらに苦境に陥る可能性があります。

一般に地方病院で研修を行なった研修は、後期研修を他の病院、とくに都市部の病院で行なおうとする傾向が強いと聞きます。理由として考えられるのは、地方もあきたので都会に憧れるもあるでしょうし、都市部の病院の方が自分の専門のスキルアップに相応しい経験が出来るもあると思います。逆に都市部の人気病院では、残りたくともポストが無く、押し出されて地方に向かう研修医も出てくるかと考えます。

誰しも喜んで「医師の足りない地域」である僻地病院での研修には行きませんが、地方の病院では積極的に都市部に流出する圧力がかかるのに対し、都市部の人気病院では消極的に地方に押し出される医師が物理的に出てくる可能性が強くなるということです。

消化不良の短い記事ですが、physician先生のコメントを最後に引用させて頂きます。

最悪のシナリオは補助金(どれぐらい貰っているのか知りませんが)を減らすだけ、かもですね。