誹謗中傷と感じます

中間管理職様の■「ずさんの極致だ」 「「怒りさえ感じる」日医が社保会議を批判」に謹んでTBさせて頂きます。焦点は9/10付CB記事ですが、必要部分を引用します。

■厚労行政在り方懇での大熊発言にも異論

 中川常任理事はまた、8日に開かれた「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」に言及し、次のように述べた。

 「大熊由紀子委員(国際医療福祉大大学院教授)が、こんな発言をしているという報道がある。『日本の医療費の多くが診療報酬の水増し請求によるものというのは公然の事実』。もし本当にこんなことを言っているなら大変な問題。地域医療崩壊の現場で疲弊する勤務医や、小児科・産科、救急医療が頑張っている中で、日本の決して高くない医療費が『水増し請求が公然の事実』とは、何を根拠に言っているのか。全国から怒りの声が届いている。本人にはエビデンスを持ったデータを出してほしい。極めて遺憾で残念だ、大熊さんともあろう人が」

一生懸命報道ソースを探したのですが、残念ながらそのものズバリはありませんでした。ただ大熊由紀子氏が近い趣旨の発言をされているのは見つかりました。第2回社会保険庁の在り方に関する有識者会議 議事要旨より、

○大熊委員

 課題の設定について言えば、政管健保の話が出ておらず、年金だけになっている。政管健保も、社会保険庁の重要な業務なので、採り上げる必要がある。

 例えば、政管健保は大幅な赤字だが、赤字をかなり圧縮できる明らかな方法がある。その一つは、本人や遺族から開示請求があれば、医療機関の同意なしにレセプトを無条件に開示する原則を政管健保がまず打ち出すことだ。レセプトの開示のこうした原則を医療関係者に周知し、それが医療保険すべてに波及すれば、水増し請求、架空請求がかなり圧縮され、相当程度赤字の部分も少なくなる効果が期待できるのではないか。このように、政管健保がリーダーとなってやれることがいろいろある。そのようなことが可能となる組織改革、権限改革によって職員の志気を高めることもテーマに考えるべき。

ここで大熊由紀子氏は政管健保について発言しているのですが、政管健保は大幅赤字である事を指摘した上で、

    レセプトの開示のこうした原則を医療関係者に周知し、それが医療保険すべてに波及すれば、水増し請求、架空請求がかなり圧縮され、相当程度赤字の部分も少なくなる効果が期待できるのではないか。
ここは誤解無く素直に読めます、誰がどう読もうとこれ以外に大熊由紀子氏の発言を解釈する方法があるのなら是非コメントください。大熊由紀子氏は公式の議事録の残る発言で、医療機関は巨額の水増し請求、架空請求を行なっていると発言されています。ちなみにこの議事録で大熊由紀子氏の発言はこれ1回きりであり、当然の事として、どういう根拠であるかはもちろんの事、訂正発言も行なっておりません。

ではでは「政管健保の相当程度の赤字額」の根拠になりそうなものは、9/4付CBニュースにあるのはあります。まず赤字額ですが、

医療分は、収入7兆1052億円、支出7兆2442億円で、全体で1390億円の赤字

1390億円の巨額の赤字となっています。それでもって返戻分ですが、

政管健保におけるレセプト点検調査の現状も発表。医療給付金の返還もしくは診療報酬請求額の調整を求めたレセプト件数(一般分)は35万7015件(前年度比3.1%増)、金額は374億3100円(同6.0%増)だった。

返戻分は374億3100万円ですから、これが仮にゼロになれば「相当程度の赤字額」になるというロジックは成立はします。ただそのためには返戻分の大部分が「水増し請求、架空請求」である事の証明が求められます。「過誤請求」と「水増し請求、架空請求」は異なります。過誤と言う言葉がここで適切かどうか自信がないのですが、「故意でない誤った請求」と言うのは多数あります。

ごく簡単には病名漏れです。多種多様の薬剤投与・検査・治療を行なうにあたり、そのすべてに適応病名が必要とされます。これが綺麗にルール化されていれば問題は少ないのですが、現実はそんなに甘いものではありません。薬剤投与・検査・治療に対し網羅的に病名をレセプトに記載すれば「病名が多すぎる」として指導が行なわれます。一方で漏れたものがあれば容赦なく「適応外」の査定が行なわれます。

こういう審査はすべて不文律で行われ、なおかつ不文律は自在に変更されます。これまで認められると考えられていたものが、ある日突然、何の説明もなく駄目となる事など日常茶飯事です。過剰投与もまたしかりで、患者の状態によっては救命のために保険ルールの上限を超える検査・治療を行なわざるを得ないことはいくらでもあります。やらなきゃ死ぬので当然行なうのですが、それでも請求すれば「過剰」として平然と査定されます。

これは保険治療のルールが医療費削減最優先で、現場の患者の容体と全く無関係に机上で決められている事から起こります。非常に有名な事例なら、人工呼吸管理の患者の請求を1ヶ月分行なったら、たしか10日ほどは「過剰」として査定されたケースさえあります。人工呼吸器を外せば死ぬわけですが、そんな事はお構い無しなのが現場の実情です。この手の話はそれこそ「無数」に転がっています。

一方で大熊由紀子氏の主張する「水増し請求、架空請求」は本質的に異なるものです。行なってもいない医療行為を保険請求する事です。これは過誤ではなく犯罪です。返戻分は374億3100万円は故意でない誤りであるからこそ「査定」と言う処置になっているのですが、これが「水増し請求、架空請求」であれば保険医療機関停止の処分などの厳重な処分を食らいます。まったく異なる概念の行為であるという事です。

故意でない誤った請求ではなく「水増し請求、架空請求」となれば犯罪行為になります。そういう犯罪行為を医療機関が大規模に行なっていると指摘することは、医療機関のかなりの部分は犯罪者であると言っているのと等しい行為になります。大熊由紀子氏は相当部分以上の医療機関は犯罪を犯していると公式議事録で間違い無く発言し記録されています。他者を故無く犯罪者と呼ぶことは一般的に誹謗中傷に当たるとされます。政管健保は当院でも扱っており、私も犯罪者の同類と呼ばれた可能性が出てきます。

こういう発言はプライベートなものであれば看過できます。また報道されたものであっても発言場所等によっては許容されます。しかし公式発言となれば問題の質が違います。とくに官邸主催の公式会議での発言は非常に重いかと考えます。誰がどう考えても雑談ではなく、冗談の類でもありません。委員として自らの主張を公式に行ったものと見なされます。つまり発言の責任を取る必要が生じます。

私は根拠に基づいた説明を求めたいと存じます。申し訳ありませんが、100件や200件の実例を示した程度の根拠では納得できません。政管健保を扱っている医療機関事業所及び患者数は、

政管健保に加入している「適用事業所」は、2007年度末時点で158万2047事業所と、前年度比で2.2%の増加。被保険者数も前年度比1.6%増の1980万6788人となった。

他者を犯罪者扱いで呼ぶのなら、具体的に「水増し請求、架空請求」の犯罪行為を行なっている医療機関が幾つあり、レセプト枚数の比率で何%あるかぐらいまでを根拠のある調査結果を示して説明する事が求められます。公式の場で他者を犯罪者扱いすると言うのはそれほど重いものであると考えます。

これだけの公式発言を行い、なおかつ十分な説明が為されない場合には、誹謗中傷の発言を軽々しく行う人物であると当ブログは認定します。