宿日直許可書

初めて原文を読んだのですがおもしろいですね。どこのものかと明示しない約束ですので、原本そのものをお見せできないのですが、ご紹介と言う形にさせて頂きます。ちなみに形式としては定型文らしく、病院であればどこも似たり寄ったりではないかの情報も頂いています。ただし似たり寄ったりと言っても平成13年以前のものとの注釈は付けておきます。まず許可書をできるだけ原文に近い内容で書き写してみます。

断続的な宿直勤務許可書
○○基署収第○○○号
平成13年○月○日
 平成13年6月26日付けをもって申請のあった断続的な宿直の勤務については、下記の附款を附して許可する。なお、この附款に反した場合には、許可を取り消すことがある。

事業の名称 ○○○
所在地 ○○○
代表者職氏名 ○○○


  1. 1回の勤務に従事する者の人数は次のとおりとすること。
      宿直3人以内
      日直3人以内
  2. 1人の従事回数は次の回数を超えないこと。
      宿直1週1回
      日直1月1回
  3. 勤務の開始及び終了の時刻はそれぞれ次のとおりとすること。
宿直 開始 午後 5時15分より前に勤務に就かせないこと。
終了 午前 8時30分より後に勤務に就かせないこと。
日直 開始 午前 8時30分より前に勤務に就かせないこと。
終了 午後 5時15分より後に勤務に就かせないこと。
  1. 1回の手当額は、宿直及び日直について医師20,000円、看護婦6,400円以上とすること。
    なお、この額については、将来においても宿直の勤務に就く労働者に対して支払われる賃金の1人1日平均額の3分の1を下らないようにすること。
  2. 通常の勤務に従事させる等許可した勤務の態様と異なる勤務に従事させないこと。
  3. 宿直の勤務に就かせる場合には、就寝のための設備を設けること。
(備考)
 この処分に不服がある場合には、この処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に○○労働局長に対して審査請求することが出来る。

ここの当直人数の許可がこういう書類を初めて読むので分かり難いのですが、申請書の方にはこうあります。

今回は1回の宿直、日直当たり医師2名、看護婦1名の人員追加であり、業務態様、時間帯等の変更はなし。過去2回の許可及び今回の申請により、1回の宿直、日直の人員は、医師5名、看護婦3名、放射線技師1名、検査技師1名、薬剤師1名の体勢となる。

当直人数は全部で11人になる事がわかります。従来は8人の許可であったのが今回の3人を加えて11人になったと考えるのが妥当ですが、足し算が若干合わない部分があります。当直許可は平成13年のほかに、平成6年、昭和49年の計3回行なわれています。当直許可人数を確認すると、

    昭和49年:2〜5人
    平成6年:2人
    平成13年:3人
最大足しても10人しか許可されていないように思うのですが、整合性がよく分かりません。些細な事ですが、こういう所はお役所的にはウルサイところかと思うのですが、如何でしょうか。

当直料の表現も興味深いのですが、

    医師20,000円、看護婦6,400円以上とすること。
注意して読んで欲しいのですが「以上」という表現で許可されています。つづく但し書きで、
    将来においても宿直の勤務に就く労働者に対して支払われる賃金の1人1日平均額の3分の1を下らないようにすること。
この部分の解釈が微妙です。当直料は当直に従事する平均日給の平均額の1/3以上と定められています。実は申請書類でもキッチリ計算されているのですが、金額は当然の事ながら申請時のものとなります。この病院の当直許可も上記したように平成13年(2001)、平成6年(1994)、昭和49年(1974)の3回に渡り出されていますが、1回目と2回目の許可間隔は20年、2回目と3回目で7年です。その間に物価賃金水準は変ります。

ですから私は「以上」のニュアンスにこれを最低額とし、物価賃金水準が変り医師なら2万円が平均日給の1/3以下になれば、これを引き上げるようにの条件をつけていると考えます。つまり当直料を2万円以下にすればそれだけで当直許可条件に反するのではないかと考えます。滋賀の成人病センターの当直料の遡及減額はどうなんでしょうね。


それとこれは申請書にあるのですが、

業務態様、時間帯等の変更はなし。

業務態様は許可書には、

通常の勤務に従事させる等許可した勤務の態様と異なる勤務に従事させないこと。

これもまた微妙な表現で、許可条件は二本立てになっています。

  1. 通常の勤務に従事させる事は禁止とする
  2. 許可した勤務の態様のみが許可される
ここで業務態様については変更がないという事は、平成6年の許可条件に基づいていると考えられます。これについては平成6年分の復命書なるものがあり、この内容が該当すると考えられます。ここには時間外診療の範囲として「時間外診療は次の場合行う」と明記されています。この病院は救急指定病院ではないようですが、

  1. 入院患者の病状が急変した時
  2. 通院中の患者の病状が急変し、診察の依頼があった時
  3. 他の医療機関及び救急隊から依頼があり、救命救急的な患者で緊急に治療が必要な時

宿日直業務として許可されている内容自体は通常の医師ならもちろん「当たり前」なんですが、これが労基法上の「許可した勤務」に該当するかどうかの観点に立てば少し話が変ります。この病院への宿日直許可はこの業務態様で認められているのですが、これは宿日直業務で本来認められる「許可した勤務の態様」とは言えないと考えられます。一応平成14年3月19日付け基発第0319007号「医療機関における 休日及び夜間勤務の適正化について」以前の許可なので通達に縛られないと言えばそれまでなんですが、許可された業務態様は宿日直業務には該当しません。例の通達での業務の態様ですが、まず、

 夜間に従事する業務は、一般の宿直業務以外には、病室の定時巡回、異常患者の医師への報告あるいは少数の要注意患者の定時検脈、検温等特殊の措置を要しない軽度の、又は短時間の業務に限ること。従って下記(5)に掲げるような昼間と同態様の業務は含まれないこと。

宿日直業務に含まれない下記(5)とは

 上記によって宿直の許可が与えられた場合、宿直中に、突発的な事故による応急患者の診療又は入院、急患の死亡、出産等があり、あるいは医師が看護師等に予め命じた処置を行わしめる等昼間と同態様の労働に従事することが稀にあっても、一般的にみて睡眠が充分にとりうるものである限り宿直の許可を取り消すことなく、その時間について法第33条又は36条第一項による時間外労働の手続きをとらしめ、法第37条の割増賃金を支払わしめる取扱いをすること。

 従って、宿直のために泊り込む医師、看護師等の数を宿直する際に担当する患者数との関係あるいは当該病院等に夜間来院する急病患者の発生率との関係等からみて、上記の如き昼間と同態様の労働に従事することが常態であるようなものについては、宿直の許可を与える限りではない。例えば大病院等において行われる二交代制、三交代制等による夜間勤務者の如きは少人数を以て上記勤務のすべてを受け持つものであるから宿直の許可を与えることはできないものである。

つまりこの病院が許可を受けている宿日直の業務態様は、現在の通達下では通常業務となり時間外手当が発生するということです。ここで許可書は通常業務自体を行う事を基本的に否定しています。また許可書が認めた宿日直の勤務の態様は現在の通達下では通常勤務と見なされます。当然ですが例の通達は「適正化」のための通達ですから、それ以前は認められとしても、通達後に表沙汰になれば労基法違法状態になります。

ちょっと話が煩雑になりましたが整理すると

  1. 許可書は通常業務を宿日直で行う事を禁止している。


      通常の勤務に従事させる等・・・(中略)・・・に従事させないこと。


  2. 許可書の「許可した勤務」は通常業務に該当する。


      平成14年通達に基づく
ここの解釈ですが、この許可書では通常の業務を行う事をまず否定し、時間外診察を宿日直の許可された業務としています。ところが許可後に宿日直での時間外診察は宿日直業務に含まれない事が通達されており、時間外診察を宿日直時間帯に行なう根拠はその時点で消失します(あくまでも表沙汰になればですが)。その上で通常業務としての時間外診察も許可されていないとなれば、宿日直時間帯で時間外診察を行う事自体が認められないことになります。

この解釈はあくまでも杓子定規の解釈で、平成14年通達でも当直時間内で通常業務が発生したときには、当直業務でなく時間外業務として対応する事を求めています。滋賀県立成人病センターのケースを考えてみると、労基局の是正勧告は当直業務の中に含ませていた通常業務(時間外診察など)は時間外労働と認定し、当直時間内に通常業務が発生するという解釈を行なっています。

あくまでも素人の考えですが、平成14年通達に準拠するなら業務態様の規定のうち、通常勤務を行なう時の規定を盛り込んだ宿日直許可書を新たに申請許可するのが手続き上必要な様な気がします。また最低限、当直時間内に許可していた通常業務を否定するのなら、そのような業務態様を許可している業務態様の是正も必要かと思われます。

もっとも業務態様としての当直時間帯での時間外診察の規定を、当直時間内で「通常業務として許可されている業務」と見なし、平成14年通達と整合させ、時間外勤務発生時の賃金問題に矮小化したとの考えも可能かもしれません。宿日直許可書の取消は、

    なお、この附款に反した場合には、許可を取り消すことがある。
こうとは書かれていますが、実務上はかなり煩雑な手続きを要するとの指摘もあり、「許可取消」みたいな面倒な事を避け、運用解釈の変更で穏便に処理していると考えても良いかもしれません。そうそう、あくまでもこの話は滋賀県立成人病センターが定型文に副って同内容の宿日直許可を受けていたとしたらの話です。

それと宿日直許可は一度許可されると以後はノーチェックであるとされていますから、許可書に違法性があってもこれを労働者自身が異議申し立てない限り有効性を保ち、事実上再審査はないものとされます。労働者サイドが問題視しなければ未来永劫続くという事です。この病院のように宿日直人数の増員申請があっても同様と考えてよいでしょう。ちなみにですがこの病院の平成13年の申請から許可までの審査期間は3日間です。

原文を紹介できないのが残念ですが、サラッと読む限りでの御紹介でした。