救急車有料化私案

救急需要の増大により救急車の有料化論議は断続的に行なわれています。これは救急車へのトリアージも含めて同じ壁が立ち塞がります。救急搬送問題で常に課題になるのは、

    不要な救急の抑制
そのため不要な救急要請に対し、ある基準を設け、その基準に達しないものを有料化するなり、トリアージするなりの議論が続いています。ただしこれは大問題を含んでおり、「不要」と判断しても実は重症であったときの責任問題がネックとなって動けなくなります。救急隊がトリアージをやって結果的にミスであったら巨額の賠償金と訴訟、さらには社会的バッシングがセットでプレゼントされます。

つまり救急隊が搬送現場でトリアージをやり判断が結果的でもミスであれば、救急隊員にとって割に合わない重大責任が発生する事になります。

有料化論議でよく論点に挙がるのは、搬送先病院での判断ですが、これも医師がうっかり「軽症、有料」として、後日重症である事が判明すれば、それこそ袋叩きの目に合わされます。そもそも有料の判断をしただけで、相手によってはウンザリするほどの対応を要求される事も想像に難くないところです。単なる勤め人の勤務医がそこまで角を立てるには、これも割に合わないです。

とにかく後出しジャンケンの正当性が強い世界ですから、限られた時間での判断は、現場の担当者にとってはリスクとデメリットばかりで実効性に乏しいと考えています。やはりポイントは後出しジャンケン対策をどう考えるかに焦点をあてる必要があると思われます。


後出しジャンケン対策としては、発想を転換して後出しジャンケンで対応すればどうかと考えます。まず救急車の運用も、救急医療機関の対応も基本的に従来どおりです。ここからは医師に負担がかかるのが心苦しいのですが、救急隊の搬送を受け入れ、一連の治療の目途がついた時点で、所定の様式に従って記入した報告書を審査機関に送ります。

審査機関では、この報告書を審査し、「救急は不要であった」と判断すれば、患者に対し料金の請求を行なう手順です。まとめておくと、

  1. 救急車は原則有料化する
  2. 救急業務が行なわれた一定の後日(1ヶ月なり)に所定の様式の報告書を提出する
  3. 審査機関は報告書を一定の基準で審査した後、費用免除か否かの決定を下す
  4. 費用の請求は審査機関の責任でもって行なう
これなら現場の判断は不要となります。また料金請求に伴うトラブルは救急隊や医療機関ではなく審査機関が負う事になります。後出しジャンケンでの審査ですから、後出しジャンケンによる訴訟トラブルは回避できますし、料金請求のトラブルもまた救急隊や医療機関とは別の世界で行なわれる事になります。

有料化の料金を高めに設定しておけば、トンデモ軽症救急の抑止につながりますし、本当に必要であった救急は費用免除されますから公平です。もう一つ言えば、現場での料金の支払いはありませんから、当座は十分な費用の持ち合わせが無くとも救急搬送は行われます。

ネックは医師の報告書提出の手間と、審査機関の運用費になります。書類は様式を出来るだけ工夫する事によりある程度の軽減は出来るでしょうし、審査機関の運用費は料金収入と、新たな救急隊増設の費用を考えればペイするんじゃないでしょうか。

一方で救急車利用者は、正しく利用すれば従来通り無料ですし、タクシー代わりに安易に利用すれば費用が請求されるだけですから、世論的にも反発が少ないんじゃないかとも考えます。もちろん正しい救急車の利用方法についての広報は、念入りに繰り返し行なう必要があるのは言うまでも無い前提です。



これではあまりにラフスケッチなのでもう少し細かく詰めてみます。まず第一に救急車の有料化を宣言します。これは有料化になる心理的効果と、マスコミが大々的に取り上げるだろう宣伝効果の二つの狙いがあります。周知のためにはマスコミが競って取り上げてもらうのが現在では一番効果的です。それでもって有料化はそれなりに思い切った値段を設定しておけばより効果的だと考えます。

もうひとつ有料化は罰金的なものではありません。あくまでも原則有料化であって、不正利用のための罰金でないと言うのも重要な点です。それでも有料化だけでは世論の猛反撃を受けますから、幅広い免除制度をセットで設けます。根本の趣旨は、

    有料化されるが、「正しい救急車利用」であれば料金免除とする
「正しい救急車利用」と言うのがまずミソの一つです。現在のネックはこの正しい救急車利用を現場の短い判断で行なおうとする事です。これが現場の負担・トラブルの種になるので、次の工夫は免除審査を後日にユックリ行なうことです。これで後出しジャンケンの予防対策になります。どれぐらいユックリかですが、そうですね、医療機関からの報告書を翌々月提出にすればどうでしょうか。

翌々月なら救急搬送から最低1ヶ月の経過を見ていますから、その搬送が「正しい救急車利用」であったかどうかを後出しジャンケンで判定できます。ここも救急搬送すべてに詳細な報告書となれば医療機関負担は余りに大きくなるので、無条件の免除規定を明確化しておきます。ある条件を満たせばそれだけで免除となり、逆に満たせないものは要審査になるという寸法です。

それと料金の支払いは免除が審査されてからにします。免除であれば料金請求は来ず、免除でなければ初めて請求書が舞い込む方式です。こうしておく事で「カネが無いから救急車を呼べなかった」の批判をかわせます。

報告書は内容は大きく2種類になり、免除規定を満たしているから簡便に記載した審査不要なものと、満たしていないから、それなりに記載が必要な要審査のものになります。これは審査機関の負担軽減にもつながり、審査不要のものは報告だけで事務処理終了です。

要審査案件にも、これは明確していない内部規定の判断基準を設けておけばさらに有効です。レセプトの審査方式みたいなものです。そうなれば審査機関に回る案件は、

  1. 明文化した免除規定で要審査とされたもの
  2. 要審査のうち内部規定を満たさなかったもの
この2段階のフィルターをクリアしたものだけになります。ここもミソがあって、医療機関が要審査かどうかを判断するのは、明文化規定だけである事です。ここは明文化規定ですから、患者とのトラブルをかなり軽減化できると思います。免除は不可の責任は審査機関に委ねられると言うわけです。

審査機関の所轄官庁は消防庁かさらにその上の総務省あたりは如何でしょうか。個人的には財務省ぐらいが一番適任とも思うのですが、厚労省管轄にしない方が「なぜか」妥当な様な気がします。ここでは間違っても医療機関が審査してはいけません。医療機関が審査すると「病院 vs 患者」の構図になり余計なトラブルを現場で処理する必要が出るからです。そのうえ「儲け主義」に批判がすぐに出ます。

後は免除不可にするにも手をかけておいた方が良いと考えます。何回かは警告を送るシステムです。最初は指導、2回目は注意、3回目は警告で4回目から免除不可でも良いと思います。その代わり、毎回、免除不可の理由と、「正しい救急車の利用」を訴える丁寧なパンフレットを送っておきます。ここまでしても不正利用を続けたのなら、料金を徴収しても世論の反発は少ないだろうと考えます。


実際の仕組みとしては、そうそう有料利用が発生しにくいシステムですが、肝心なのは有料になるかもしれないの心理的効果です。それも安からぬ料金であれば、かなり効果はあるんじゃないかと考えます。問題はタダでも忙しい勤務医の方々の負担が増える事ですが、この点は私では何とも言えません。