悪循環の助長の可能性

現在の医療崩壊の直接の引き金の一つである新研修医制度ですが、この制度がもたらした影響のうち、新研修医制度のために指導医が大学により多数必要になったと言うのがあります。簡単に構図を描けば、

    新研修医制度 → 大学からの派遣医師引き上げ → 地方医療の崩壊
私もそんなに詳しくないのですが、新研修医制度のためには従来より指導医が多数必要だそうです。それと研修制度切り替えにより、下支えの戦力としての研修医が2年間入ってこなくなり、研修医が支えていた大学病院の戦力の基礎部分が弱体化し、弱体化した部分を派遣医引き上げで補わざるを得なくなり、派遣医師の引き上げに拍車がかかったと言われています。

それでも当時は2年経ったら「やっぱり医局」の流れになるとの観測も多かったのですが、これも予想が大きく外れて研修医の進路として医局を選択する事より他の進路の比重が非常に大きくなってしまいました。その比率の増加は10倍程度じゃすまないと考えられます。研修制度切り替えの2年間の我慢と考えていた大学勤務医師は「このまま」が状態として固定しそうである事がわかり、「もうやってられない」と中堅医師を中心に逃散現象が出現する事になります。なんで「やってられない」の説明は省略します。

大学勤務医師も「やってられない」が出たのですが、派遣医師を減らされて苦しくなっていた派遣病院に残っていた医師も、補充の目途が立たないことがわかり「やってられない」の気持ちが広がります。そこに大学勤務医が抜けた分の更なる引き上げが五月雨式に行われ、苦しさの限界を越えた医師がさらに逃散するの悪循環が、

    新研修医制度 → 大学からの派遣医師引き上げ → 地方医療の弱体化 → さらなる医師の逃散 → さらなる派遣医師引き上げ → 地方医療は崩壊
もちろんこれは大学医局によって濃淡のコントラストは著しく、一部「勝ち組」医局はさほどの影響も無かったとされますが、地方を中心とした「負け組」医局では惨憺たる状態になったところが続出します。この負のループは弱いところほどさらに弱体化する性質をもっており、一旦坂を転げ始めると瞬く間に壊滅的な状態に陥ってしまう事も多々あるようです。それと一旦転落すると、現状では再建が非常に困難な物になるとされています。

とくにこの現象は研修医が集まらない事に妙に注目が集まっていますが、研修医が集まらない事による中堅層の逃散が深刻で、これが負のスパイラルに止めを刺すものとなっているとされます。中堅層の弱体化は派遣病院の数の減少になります。これも最初はトンデモってぐらいの僻地病院、次に非常に勤務条件の悪い病院の派遣中止ぐらいであって、その程度の被害で終わったところはむしろ「整理」ぐらいの感じですが、この線を越えると本来は維持しておきたいそこそこの優良派遣病院まで引き上げ打ち切りが及びます。病院もまた弱いところほど派遣医師引き上げの影響を深刻に受けるというわけです。

ここまでは目新しい話ではないのですが、この悪循環にさらに拍車をかけそうな噂がshy1221様のところで見かけた2ch情報にありました。

今ふと思ったんだが,医師不足解消のために医学部学生枠が増えるのにあわせて,来年から医学部教官が増員されるらしいな。そしたら今までにない規模の大学病院への医師の引き上げがあるんじゃなかろうか。

もちろん,それを上回る規模で大学病院から中堅が抜けて行っていて,それは民間病院あるいは開業に走っている。

つまり,将来の医師の増員のために,ここ数年はさらにおもに国公立系の病院を中心に医師不足が助長されるんじゃないか?

医学部定員増は現在のところ既定路線です。政治の季節に入っていますから、どうなるか微妙な予測はいくらでも立てられますが、かなり有力と考えて良いかと思います。これも予算問題が不透明ですが、医学部定員増に合わせて教官の増員も普通に考えれば必要です。教官とは医師ですから、大学病院にもっと医師が必要という事になります。

これも「勝ち組」と「負け組」でコントラストがはっきり分かれると考えられます。「勝ち組」は余裕がありますから、教官増の影響は内部のやりくりで相当吸収できます。「負け組」は今でもギリギリで維持している派遣病院から強引でも派遣医師を引き剥がさざるを得なくなりますから、引き剥がした分だけそのまま医療現場を直撃します。ごく簡単に言えば1人しか派遣していない病院から引き上げたら、その病院の診療科は消滅するという事です。

実ももう一つ見方があって、大学ポストのうち、公式のポスト以外の非公式のポストを出しているところがあります。教官増すなわちポスト増により、これが非公式から公式に変るだけで影響が少ないとの見方です。これも医局の余裕次第かと考えています。それこそ非公式ポストが今でも十分ある医局と、そうでないところは受け取り方が全然違うだろうという事です。

新研修医制度に伴う派遣医師の引き上げでかなりの被害がありましたが、医学部定員増による教官増も影響もある程度は必ず現れます。それも現在苦しいところほどより深刻に現れるだろうという事です。簡単に影響をまとめると、

    第一波:新研修医制度指導医確保のための派遣医師引き上げ
    第二波:大学医局研修医減にによる派遣医師引き上げ
    第三波:大学病院医師逃散による派遣医師引き上げ
    第四波:派遣医師減少により勤務環境の悪化した病院からの逃散
    第五波:医学部定員増による教官増による派遣医師引き上げ
この現象でキーポイントは弱体化しているところほど、派遣医師を引き上げても、引き上げても、ポロポロと中堅医師が零れ続けるところです。そのために派遣医師の引き上げ悪循環が拡大していきます。

大学医局の魅力の一つに幅広い派遣病院を持つというのがありましたが、その数が余りに減れば魅力は失せます。相当前でしたが、戦力減からすべての出丸である派遣病院から撤収し、本丸の大学病院(北里だったかな)のみになったところのニュースがありました。今はどうなっているかわかりませんが、派遣病院無しの大学病院のみになれば、大学病院の魅力は半減以下になり、さらに中堅医師の逃散が進みます。

私は医学部定員増はそれに見合う医療費増加の条件付で賛成ですが、事態がここまで来ると医学部の定員を増やすだけで悪循環のドツボが促進されるように思えてなりません。なんでもそうですが、理念や理論は正しくても、時期を逸すると高い代償を支払う事になる典型のように感じられます。