危機認識落差

昨日のお話の蒸し返しなんですが、まず近所のヤブに困るから、話がヤブ排除自浄機能論に進んだところで、産科医サイドから衝撃的な発言があり、

    ヤブを排除したら周囲の産科は共倒れになる
複数産科医、それも日本屈指の大都市のバリバリの現役産科医(ソースは明かせませんが身許は保証します)からの発言に絶句しました。さらに昨日頂いたコメントにも、

子持ちししゃも様

ヤブを排除したら周囲の産科は共倒れになる 。

まさにその通りです。

あの先生から、依頼の電話があれば断るな!
といわれる診療所はあります。

スタッフは、一斉にオペ室や小児科連絡や検査室連絡に走り回り、救急車をまっすぐにオペ室に運ぶ準備をしなければいけない大先輩がいらっしゃいます。

それでも、年に400件の正常のお産を取ってくれるだけで、もう十分という気分です。(月に1件搬送されるくらいなら、許容するしかない!状況です)

政令指定市の当地区でも、ここ5年で40%の分娩施設が消え去りました。すでに1500を超えるお産難民をぎゅうぎゅうに診ています。
まだ、分娩している10数件の診療所の先生は、2件を除いて60歳以上、70歳以上も片手あります。
やぶもいますが、すでに現在の治療指針と隔絶しているかたも多いのです。
昔は、『はやく引退してほしいよねぇ。』といっていましたが、
正常だけでもお願いします!!という事態です。

僻地の産科医様

カルトでも、あとでちゃんと納得させられるのであれば、許します。。。。
でも宣伝はやめてほしいけど。日本全国からカルトな人を集めないでください(;;)。
あと、もうちょっと早く送ってきてください。お願いします。お願いはそれくらいです。

山口(産婦人科)様

ヤブだろうがカルトだろうが、最後の最後まで(転送されても)文句を言わないようにしつけてくださるのなら、許容いたします!

ハーフドロッポ様

僻地で「何でも屋」という名の「何も出来ない医師」をやっていますので、ヤブの立場からも一言。

自分の領分はわきまえているつもりでも、当自治体では唯一の医師なので多少無理することがあります。慢性疾患のコントロールが不良で照会先の先生にご迷惑をかけることも多々あります。最新の知見を有しているわけではないので専門医から見れば「無謀な治療方針を強行、暴走して患者に被害をもたらし、その尻拭いを周囲の医療機関に押し付ける常習犯」と思われているかもしれません。

しかしながら、自分が廃業して後任が来る当てはありません。外来患者は1日僅か30名ほどですが、他院にも肩代わりしていただける余力は既にありませんし、住民も往復1時間以上かけての通院が難しい方も多々おられます。特養もありますし乳幼児健診や学校医など外来以外にも仕事はありますし「ヤブでもいないよりはまし」というのは過疎地においては産科医だけではないと思います。

ヤブ医を排除するよりは「正しい治療方法の啓蒙」を積極的に行っていただければありがたく存じます。うまくおだててご利用ください。
「ヤブでも戦力」は既に現実です。

内科医様

総合病院内科勤務医です。一般再来があふれかえり、落ち着いている患者さんをどんどん開業医に紹介しています。爺医も多いのですが、院外処方ですし、処方を変えないでくれと祈りながら診療情報提供書を書いている毎日です。医療崩壊していると言われる当地では内科ヤブ医も「お薬外来」として大事な戦力です。

産科はもちろんの事、内科だって実情は「ヤブでも不可欠な戦力」はもう確実に到来しているという事です。私も一生懸命アンテナを伸ばしているつもりですが、やはり町医者、勤務医の本当の実態には届いていなかったと深く反省した次第です。

「ヤブでも不可欠な戦力」時代になれば、ヤブで無い普通の医師の貴重さはさらに高まると考えるのが常識です。そこで気になったのがssd様のところで取り上げられていた記事です。ssd様の分析もいつものようにシュールですから是非御一読ください。

医師確保へ2億9200万 待遇改善に向け奈良県
2008年2月20日 11時02分

 奈良県橿原市で昨年8月、妊婦の搬送先が決まらず死産した問題を受け、同県は20日、県立病院の医師の待遇改善に向け2008年度当初予算案に2億9200万円を計上した。。
 奈良県の医師の給与月額は05年度、全国ワースト3位の約107万円(40歳平均)。
妊婦死産問題の再発防止を目指す検討委員会は、医師不足が根本的な原因と指摘、待遇改善を求めていた。
 県によると、特に確保が難しい産科、小児科、麻酔科の医師に、給与に上乗せする「初任給調整手当」を今後10年間、2万円アップする。
 地域手当はすべての医師について現在の給与の12%から国の基準の15%に上げ、初任給も約1万円増やす

奈良の県立病院の医師の給与が全国ワースト3位なので、待遇改善のために引き上げるという内容です。狙いは、

    給与を引き上げ、離職を防ぎ医師希望者を増やすのが狙い
ssd様は引き上げ額を「奈良県の県立病院の給料を全国平均」と書かれていますが、記事中にはそこまで書かれていないようです。ただ感触としてはその程度じゃないかと思わせる内容ではあります。

医師がその地で働く理由、モチベーションは様々で、必ずしも給与が決め手になっているわけではありません。もちろん給料を上げてくれるなら素直に嬉しいですが、とんでもなく高額になるのならともかく、最低レベルが並レベルになったぐらいではさして意識が変わるわけではありません。

変わるとは「並レベル」になったから奈良県に骨を埋めて医療に尽くそうとか、奈良県の医療のために出向こうとする気がどれだけアップするかです。もともと奈良のために医師人生を捧げようと決意している者には朗報かもしれませんが、それ以外の医師にとっては「低かったのがマシになっただけ」以上の受け取り方をするかどうか大いに疑問です。

ましてやこの給与アップで

    給料を上げてやったのだから、感謝して「もっと働け!」
こういう態度に出られたら、給与を上げた分の倍ぐらいモチベーションは下がるんじゃ無いかと思います。疲弊した医師心理は最早そういうレベルです。そうなれば今度はどうなるか、「ヤブでも不可欠な戦力」時代に突入しつつありますから、ヤブでない医師の招聘と言うか強奪に動く医療機関が出てきてもおかしくありません。

奈良県は給与の改善も当然の事ですが、その前に大きな宿題を背負っています。ssd様も御指摘の通り

    いやまあ、まじめな話、産科医の時間外を払ってからやれよと(www。
この件で奈良県は裁判を起されても徹底抗戦している事は日本中のネット医師が知っています。「絶対払わん!!」と頑張る姿勢を皆様熟知しています。もっともマトモに払えば、
    2億9200万
こんな金額じゃ到底おさまりません。たしか産科医たった二人分で8000万ぐらいの請求だったと記憶しています。そちらを頬かむりして待遇改善と言われても「ヤブでも不可欠な戦力」時代への有効策とはならず、最悪奈良県が医師の草刈り場になる可能性さえ出てきます。医療危機の進行とはそういうレベルですし、情報は速やかに広がり、なおかつ医師は商売柄ですが執念深く過去の事を忘れません。

事態の推移を見守りたいと思います。