NICU事情

都道府県別にみた分娩を実施した施設の状況・新生児特定集中治療室病床数と言うのがあり、2005年9月の全国の分娩施設での分娩数と、NICUの病床数のデータが載せられています。NICUは産科と較べると2年間で改善された可能性も十分ありますが、公式統計なのでこれをベースにNICU事情を考えてみます。

まずNICU1床がどれだけの運用能力があるかです。、日産婦誌56巻9号に3.ディベート 2)成育限界を考える(2)我が国の現状から考える―新生児医療の視点で―にこうあります。

    1床あたりがカバーする出生数が300〜500
これより1床当りの年間出生数を500上限を目安にして考えてみたいと思います。実際の運用はもっと条件が過酷かと思いますが、とりあえずこれで話を進めます。NICUのベッド数はわかりましたので、都道府県別の年間出生数を2005年の人口動態調査から引用し、出生数500を基準にして、都道府県ごとの病床あたりの出生数と、県全体で受け入れられる余地を算出してみます。全部表にすると長いので、500を越えている分だけ抜粋して、余力の少ない県を挙げてみます。


県名 年間出生数 NICU病床数 病床当り出生数 病床当り出生数500を上限としての余力
病床当り 都道府県当り
愛知 67110 98 685 -185 -18110
埼玉 59731 97 616 -116 -11231
広島 24740 30 825 -325 -9740
千葉 50588 87 581 -81 -7088
栃木 17363 21 827 -327 -6863
佐賀 7508 3 2503 -2003 -6008
石川 8973 6 1496 -996 -5973
滋賀 12899 15 860 -1360 -5399
宮城 19326 30 644 -144 -4326
熊本 15645 24 652 -152 -3645
福井 7148 9 794 -294 -2648
山形 9357 14 668 -168 -2357
東京 96542 189 511 -11 -2042
秋田 7697 13 592 -92 -1197
群馬 17134 32 535 -35 -1134
鳥取 5012 8 627 -127 -1012


500を越えた県のNICU運営がどうなっているかですが、9/22の埼玉情報を参考にしてもらえればと思うのですが、埼玉県南東部に位置する川口市立医療センターでは、2005年度に搬送依頼105件に対し52件が受け入れ不能となっています。また受け入れが不能だったもののうち、県内他施設依頼が14、東京に5、他の施設で手配が11、不明が10名です。埼玉の1床あたりの出生数が616ですから、その程度になるとこれほどの状態が展開される事になります。これを全国マップにすると、




産科危機マップに較べると遥かにマイルドな印象なんですが、ここで首都圏に注目してみたいと思います。首都圏は産科危機マップを作ったときにも厳しい状態でしたから、NICU事情がどうなのかのチェックです。




ここで出生数とは平成17年人口動態統計調査に依っていますから、当然の事ですが届出場所は病院住所ではなく両親の住所です。通常、どこで生まれようが両親の住所で出生届を出します。そうなると問題は東京になります。東京のNICU病床当りの余力は-11ですが、しかしこれには他県からの搬送のNICU入院者は含まれません。

NICU入院ルートは

  1. 出生後、子供にトラブルがあり入院となる。
  2. 出生前から母体搬送され、出生後入院となる。
東京周辺の産科事情は厳しく、超弩級の埼玉を始め、全国有数の千葉、神奈川が取り囲んでいます。また取り囲む県のさらに外縁の茨城、静岡も産科事情は厳しく、山梨、長野も悪化が推測されます。そうなるとそれらの県で母体搬送が賄えない妊婦は東京に流入している可能性が高くなります。これらの数はこの統計に現れていません。それらの数が抜きでも、病床あたり-11、東京都で-2042ですから実情はもっと厳しい事が推測されます。

2年で改善されているのかどうかはわかりません。

最後に御注意ですが、ここで展開されている数字はNICU病床あたりの出生数であって、NICU入院数ではありません。出産数から一定の頻度でNICU入院患者が発生する事からの推測であり、たとえば東京の-11もNICU病床あたり11人の患者が負担になっているわけではなく、出生数で11人過剰と言う意味です。くれぐれも誤解無い様にしてください。それとNICU病床の数え方は認可病床とそれ以外があり、厚生労働省の統計ではどこまで数えているかは不明ですが、おそらく認可分だけと考えています。