最後は医者が悪いか・・・

8/10付YOMIURI ONLINEより

146国立病院で治療費不払い46億円、9割が生活困窮

 全国の医療機関で患者の医療費滞納が問題化する中、独立行政法人国立病院機構」が経営する全国146の病院でも、患者が支払わない治療費(未収金)の残高が今年1月末で約46億4000万円に上っていることがわかった。

 滞納理由の9割以上が「生活困窮」といい、同機構では「経済格差拡大の影響が大きい」と分析しているが、「払えるのに払わない人もいる」とも指摘している。

 昨年度は約9億円が時効で回収不能になるなど病院経営の圧迫要因となっているため、同機構では、訴訟を起こすなどして回収に努めているが、思うような効果は上がっていない。

 同機構によると、1月末の未収金残高約46億4000万円のうち、1年以上未払いの未収金は約27億1000万円。未収金は3年で支払いの時効を迎えるが、2005年度は8億5700万円、06年度は9億300万円が時効を迎え、回収不能となった。

 滞納の理由を、同機構が昨年4月〜今年1月に発生した未収金について分析したところ、「生活困窮」が92・3%で最も多く、「保険未加入(外国人も含む)」が4・7%、「診療上のトラブル」1・8%と続いた。「生活困窮」の増加が全体の未収金額を押し上げているが、中には払う資力があるのに支払わないケースも含まれているという。

 同機構は昨年2月、未収金回収のためのマニュアルを作成し、支払い能力のある人に対しては、訴訟や裁判所への支払い督促の申し立てなどの法的措置も積極的に活用するよう各病院に指導している。

 こうした状況を受け、今年2月末までに同機構の病院が起こした未収金請求の訴訟(少額訴訟も含む)は30件に達し、計約300万円を回収した。同機構の佐生啓吾・業務指導係長は「出廷しない患者もいるため、(勝訴後に)給与差し押さえなどの強制執行に踏み切ったケースもある。しかし、勤務先などがわからないケースはお手上げ」と話す。勝訴したにもかかわらず回収できない未収金は約180万円に上るという。

 一方、都立病院で滞納が1年以上に及ぶ未収金残高も昨年度は約9億2700万円に上ることがわかった。都でも、未収金となった理由の半数以上が「経済的困窮」としており、中で目立つ事例として〈1〉現在は生活保護を受給しているが、受給開始前の部分が未収になっている〈2〉自己破産を申し立て、免責決定を受けた――などを挙げている。

 未収金増加の要因には、サラリーマン本人が3割負担になるなど医療費の自己負担率が上昇したことや、低所得者層の増加が挙げられている。6割以上の病院が加盟する四病院団体協議会の調査では、加盟5570病院の未収金は04年度までの3年間で、853億円以上と推計されている。

 このため、これまでは医療機関の自助努力に任せていた厚生労働省も、6月から検討会を設置して対策を練り始めた。同省の神田裕二・国民健康保険課長は「経済的な問題、支払えるのに支払いを拒否するモラルの問題、患者を待たせたり、必要のない検査をしたりして患者とトラブルになるなど病院側の運営上の問題と、未収金の原因は様々」とした上で、「それぞれの事情に応じたきめ細かい対策が必要」と話している。

ちょっと長めの記事なんですが、まず記事の根幹です。。

    独立行政法人国立病院機構」が経営する全国146の病院でも、患者が支払わない治療費(未収金)の残高が今年1月末で約46億4000万円に上っている
未収金とは簡単に言うと診療費の自己負担部分の事です。この自己負担分の扱いは保険診療でも厳しく指導され、決して医療機関の自己裁量で減額してはならないと釘を刺されます。もしそんな事をすれば最悪保険診療機関の指定の取り消しもありうるとまで脅されます。私も開業時の長〜い説明会で懇々と聞かされました。それが約46億4000万円もあるということです。また未収金の時効は3年となっていますから、累積となると巨額になるのは言うまでもありません。

未収金が増えた理由としては、、

  • 生活困窮
  • 保険未加入(外国人も含む)
  • 診療上のトラブル
さらに生活困窮の原因として、
  1. 医療費の自己負担率が上昇
  2. 低所得者層の増加
ここまでの記事内容と分析は冷静かと思います。巨額の未収金問題が存在し、原因を探ると「生活困窮」が浮き彫りにされていると素直に理解できますし、また格差社会の歪がこんなところにも出ているとも考えられます。病院の未収金問題から見るワーキングプアーの実態とも思います。

ここでもう一度未収金の原因と比率を表にしてみます。


原因
比率
未集金額
生活困窮92.3%約42億8000万円
保険未加入4.7%約2億1800万円
診療上のトラブル1.8%約8350万円


誰がどう見たって圧倒的に「生活困窮」が比率も金額も占めています。『未収金問題=生活困窮』の結論にしても問題を誤解しているとは思えません。記事の前半の原因分析もその点に終始したのは当然かと考えますし、この比率と金額を考えると他に考えようが無いからです。

ところが最後の結論部分に該当するところでひっくり返ります。厚生労働省 神田裕二・国民健康保険課長の言葉が締めとして引用されています。

    「経済的な問題、支払えるのに支払いを拒否するモラルの問題、患者を待たせたり、必要のない検査をしたりして患者とトラブルになるなど病院側の運営上の問題と、未収金の原因は様々」
厚生労働省 神田裕二・国民健康保険課長の見解では未収金問題の原因は、
    未収金の原因は様々
「様々」とは多種多様な原因があると言う事です。ちなみに国立病院機構が三大原因にしたものを足すと「98.8%」になります。さらにそのうち生活困窮が「92.3%」です。私が数字を見る限り「様々」ではなくて「明瞭」と受け取ります。生活困窮の原因は「様々」でしょうが、未収金問題の原因としては圧倒的に「生活困窮」です。厚生相労働省の感覚と私の感覚のズレの問題でしょうか。

それとこの課長があげた未収金問題の原因を書き出して見ます。

  1. 経済的な問題
  2. 支払えるのに支払いを拒否するモラルの問題
  3. 患者を待たせたり、必要のない検査をしたりして患者とトラブルになるなど病院側の運営上の問題
92.3%の生活困窮と4.7%の保険未加入、あわせて97.0%の問題については「経済的問題」と一言で終わりです。もちろん厚生労働省が経済政策まで言及できないので致し方ないかもしれませんが、97%の問題については「たった一言」です。そのかわり1.8%、約8350万円分の「診療上のトラブル」についてはきわめて雄弁です。全体の8割以上を占めるコメントで、まるで未収金問題のすべてがここにあるかのようなコメントです。

この課長が力説し、YOMIURI ONLINEがわざわざ引用してまで強調した「診療上のトラブル」をすべて解消しても、未収金問題は1.8%、約8350万円分しか解決しません。言ったら悪いですが、生活困窮の原因が解消すれば、「保険未加入」問題や「診療上のトラブル」問題は記事にすらならないと思います。全体に占める問題の大きさを故意的にミスリードしている印象があります。

厚生労働省 神田裕二・国民健康保険課長を少しだけ弁護しておけば、実際にこう語ったかどうかはもちろん不明です。こうであったかもしれませんが、全く違う内容の話が99%以上で、残り1%弱の部分から記者が引っ張り出した可能性も非常に高いと言う事です。その手の操作が日常茶飯事と言うか、通常業務として行なわれているのも、もはや常識になってますからね。