斜め上か明後日か

2/15付CBより、まず冒頭部です。

 分娩に関連して重度脳性まひを発症した新生児に対し、一定の条件下で補償金を支払う「産科医療補償制度」について、日本医療機能評価機構の運営委員会(委員長=小林廉毅・東大大学院教授)は15日、制度見直しに向けた議論を始めた。同機構では、2014年1月の新制度導入を目指して、2か月に1回のペースで議論を重ね、13年2月にも報告書を取りまとめたい考えだ。

私の記憶が杜撰なのか、産科無過失補償制度の設立の趣旨は、たしか脳性麻痺児に対する補償になっていたと思っていましたが、

    分娩に関連して重度脳性まひを発症した新生児
制度が出来上がると重症限定になっているのが改めて確認できます。おかしいなぁ、設立議論では脳性麻痺児の発生率(発生数)と費用の問題が盛んに議論されていましたが、できあがると限定支給制度になったと言うわけです。

 現行の制度で補償対象になるのは、身体障害者障害等級1級か2級に相当する重度脳性まひ児で、▽在胎33週以上、かつ出生体重2000グラム以上▽先天性や新生児期の要因によるまひではない▽生後6か月未満に死亡していない―などの条件を満たす場合。

もうちょっと詳しく補足しておけば、

  1. 出生体重が2,000g以上であり、かつ、在胎週数が33週以上であること
  2. 在胎週数が28週以上であり、かつ、次の(1)または(2)に該当すること


    1. 低酸素状態が持続して臍帯動脈血中の代謝性アシドーシス(酸性血症)の所見が認められる場合(pH値が7.1未満)
    2. 胎児心拍モニターにおいて特に異常のなかった症例で、通常、前兆となるような低酸素状況が前置胎盤、常位胎盤早期剥離、子宮破裂、子癇、臍帯脱出等によって起こり、引き続き、次のイからハまでのいずれかの胎児心拍数パターンが認められ、かつ、心拍数基線細変動の消失が認められる場合


      イ.突発性で持続する徐脈
      ロ.子宮収縮の50%以上に出現する遅発一過性徐脈
      ハ.子宮収縮の50%以上に出現する変動一過性徐脈
こういう必要条件を満たし、さらに、

等級 肢体不自由
(乳幼児期以前の非進行性の脳病変による運動機能障害)
上肢機能 移動機能
1級 不随意運動・失調等により上肢を使用する日常生活動作がほとんど不可能なもの 不随意運動・失調等により歩行が不可能なもの
2級 不随意運動・失調等により上肢を使用する日常生活動作が極度に制限されるもの 不随意運動・失調等により歩行が極度に制限されるもの
3級 不随意運動・失調等により上肢を使用する日常生活動作が著しく制限されるもの 不随意運動・失調等により歩行が家庭内での日常生活活動に制限されるもの
4級 不随意運動・失調等による上肢の機能障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの 不随意運動・失調等により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの
5級 不随意運動・失調等による上肢の機能障害により社会での日常生活活動に支障のあるもの 不随意運動・失調等により社会での日常生活活動に支障のあるもの
6級 不随意運動・失調等により上肢の機能の劣るもの 不随意運動・失調等により移動機能の劣るもの
7級 上肢に不随意運動・失調等を有するもの 下肢に不随意運動・失調等を有するもの


こういう十分条件を満たした者のみに支給される制度です。

補償金は一律3000万円で、準備一時金として600万円、その後は児の生死にかかわらず20歳になる年まで毎年120万円が支払われる。
 同機構によると、制度が始まった09年から11年12月までに、252人が補償対象として認定されているという。

補償金額・支払方法についてはこれで良いかと思います。気になったのは、

    09年から11年12月までに、252人が補償対象として認定されているという
この252人がどの程度の数かになります。平成22年度事業報告から見てみますが、報告書にある時点で、

児の生年 審査件数 補償対象 補償金額合計
平成21年 138 128 38億4000万円
平成22年 22 22 6億6000万円
合計 160 150 45億円


平成21年生まれの子供に対し160人審査して138人の支給となっています。平成22年生まれの審査と支給が決まった分と合わせて現在252人と言う事になります。平成21年分が変わっていないとすれば平成22年分は現在114人、まだ平成22年分の申請や審査が行われるかもしれませんが、どう考えても合計で300人行きそうな気配がありません。

つまり年間150人弱程度の補償しか行われていないという事です。仮に300人として90億円の支給です。そいでもって90億円の支給のためにかき集めた保険料ですが、これは表にしておきます。

保険料(平成21年、22年合計) 639億781万2千円
支給開始決定額(300人分) 90億円


保険料に対する支払い率は13%程度の目覚しい実績を残されております。もともとどれぐらいの人数を厚労省が想定していたかですが、発生率は2000人に1人としています。厚労省見積もりも過少の声が大きかったのですが、制度上は500人の補償に対し300億円の財源を必要とするです。財源はしっかり集められていますが、見事な制度運用により補償対象者を想定の3割程度に押さえ込むと言う手腕を発揮されたわけです。

少し順番が前後しますが、補償対象者が少なかった意味について、

 この日の会合では、原因分析委員会の岡井崇委員長(日本産科婦人科学会副理事長)からヒアリングを行った。岡井委員長は、医学的な観点から重度脳性まひの事例を分析したことで「発生頻度を減少させ得る感触を得た」と述べ、原因分析の意義を強調した。

 岡井委員長は、脳性まひの原因分析が進まなかった背景には、医学的に防ぐことが難しいと判断される例でも訴訟に発展するケースがあり、「医療提供者側が自分たちを守るために解析を避けている」ことがあると指摘。「これを制度で打ち破ることができるとすれば、とても良い結果につながるだろう」と述べた。

へぇ、分析委員会の基本方針は「脳性麻痺児が減った」で新たな結論を導いていかれるようです。でもまあ、そういう結論にしないと拙いでしょうねぇ。予定より補償対象者が少ない原因が、機構の払い渋りなんて事になれば大変です。あくまでも「払いたいのにいなかった」にならないと困るからです。


どういう結論を出されるのも自からの名誉に賭けて行われれば良いのですが、

制度の見直しに向けては、補償対象、補償金の額や支払い方法などについて、変更が必要かどうかも含めて検討する。課題を整理するため、補償を申請した分娩機関や、患児の保護者などからも意見を聞く方針だ。

さらに補償対象者が減る、ないしは現在の規模で移行するのなら常識的には、

  1. 補償額を少なくとも3倍以上に引き上げる
  2. 補償対象者を拡大する
  3. 保険料を引き下げる
つまり集めた保険料が趣旨に則って支給される方針にすべきはずです。なんつうも病院機能評価機構は公益社団法人であり、営利事業会社ではないからです・・・きっとそのはずです。たぶん建前上はそうなっているはずです。それでも期待は実績に比例しますから、楽しみな結果が出てきそうな悪寒がしています。